古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

弦について

前回のブログで、弦についてはまた書かせていただきます。
と書きましたので、気になっている方もいらっしゃると思います。
(気にしていない方のほうが圧倒的に多いとは思いますが)

と言うか、私自身が気になっているようです。
と言うことで、ここで書かせていただきます。

また、文章ばかりで分かりにくい話かもしれませんが、
よろしくお付き合いください。

モダンヴァイオリン、モダンチェロの 魂柱と駒の調整ですが、最近特に
魂柱と駒の距離が近くなって、倍音ばかりで楽器が鳴っていない調整を良く見ます。
と言うか、ほとんどそうなっています。

バロック時代から何百年もそうだと思うのですが、駒と魂柱の間の距離は
魂柱の直径分か駒の脚の幅くらい離すというのが、常識だったと思います。

そうすると、楽器が最も、良く鳴ってくれて、基音と倍音とのバランスも良いのです。
昔からそういわれているだけでなく、実際そうすると最も良い結果になりました。

ただ、表板が厚くて、鳴りにくい楽器は 少し距離を離さないと、表板が鳴らないまま
魂柱に音を伝えますので、少し離します。

逆に、表板が薄い楽器は近づけます。そうしないと、音もぼけるし、
楽器が(表板が)壊れる恐れもあります。

それが何故、駒と魂柱が近く調整されるようになったのでしょう?

その原因のひとつが、弦にあると、この夏分かりました。

それは、私が斡旋した1815年くらいにドイツで作られた、軽くて
良い材料を使った、良いチェロを久しぶりに見せていただきました。
この楽器も私の手を離れてかなり長い時間が経ちますので、東京の方が調整されています。
やはり、最近の調整なので、駒と魂柱が近く調整されていました。

当然楽器は鳴っていませんし、倍音ばかりです。
そこで、早速 魂柱と駒を離しました。

すると、どうでしょう!

音はぼけるし、音程すら分かりにくい、分厚い音になります。
楽器は鳴っているのですが。

最近、作られた時のコンディションに近いほうが、この楽器らしい音になるかも?
ということで、1弦2弦(A線 D線)はガットでしたが、3,4弦はモダンチェロの
巻き線でした。モダンチェロ用の弦の中では比較的しなやかな弦なのですが。

このモダンの弦を使っていると、駒と魂柱を近づけないと、音の輪郭もなくなり
音程すら分からないという音になってしまいます。逆に考えると、少々音程が外れても
分からないというメリットもあるのでしょうか。

モダンの弦はご存知のようにスチール弦がほとんどです。
巻き線も見た目は同じなのですが、芯線がスチールで、硬いのです。
しなやかでないのです。
もちろん、テンションもきついですし、しなやかでないので音程もはっきりしない
のです。

よく、ヴァイオリンの本を読むと、今使われているモダンヴァイオリンの状態で
ヴァイオリンが発明された、作られたと勘違いしているような本があります。
(最近もヴァイオリンドクターと称する方が書かれた本を読みましたが、
どのような形でヴァイオリンが生まれたか、ご存じないような感じでした)
戦前(第2次世界大戦です)までは一般的に、ヴァイオリン族もギターも
弦はガット弦でした。1930年くらいからぼちぼちスチール弦も使われ始めましたが。
(昔読んだ、カール・フレッシュさんのヴァイオリン奏法の本だったと思うのですが、
1920年代から1930年代にかけて 1弦 <E線> はスチールでも
良いかな? と言う記述があったように記憶しています。)

戦争で負傷した人の手術用にガットが沢山必要になり、ヴァイオリン族は
スチール弦にギターはナイロン弦になったという話を聞いたことがあります。
原因の全てではないかもしれませんが、大きな1因になったと思います。 

話が横道に逸れたかもしれませんが、スチール弦はテンションが大きいので
(チェロで トータル 70キロくらい)楽器が鳴らないコンデションでも、
(魂柱と駒が近くても)鳴るのでしょうが、ガンバやバロックヴァイオリン
、バロックチェロは ガット弦を使っているので、何百年と伝わっている
駒と魂柱との関係がもっとも、よく鳴って、音のバランスも良いのです。

スチール弦を使っている,ヴァイオリン族の楽器では、倍音だらけの
楽器が鳴っていない、他の楽器の音と溶け合わないし、硬い音に
なってしまうが、魂柱と駒を近づけないと、音程もはっきりしない、
ぼけた音になってしまう、ことになるようです。


また、話が逸れてしまいますが、3月に作った、ヴィオロン・チェロ・ダ・スパラ
の5弦(最低音の C線 ドの音です。)弦長41センチでチェロと同じ音の高さ
で鳴る楽器にしないといけないのです。
いろんな弦を試しましたが、一番鳴らなかったというか、全然鳴らなかったのが、
モダンチェロの分数サイズ用でした。スチールで芯線も硬いスチールなので、
短い弦長だと、振動してくれません。
次にガンバ用の7弦を使いました。弦長 69センチ、70センチで
チェロの C より低い A の音の弦です。
でも、この弦でも芯線が太いガット弦なので、鳴りませんでした。
(試した弦は、短く切ってしまったので、他には使えませんでした。
もったいないですが)
そこで、やっと探したガンバ用ですが、芯線がギターのようにナイロンの
細い弦がしなやかで、短い弦長でも鳴ってくれました。
巻き線だと、芯線のしなやかさがとても大事だと、この時とても感じました。


と言うことで、ギターに戻って。
まだギターは、ナイロン弦なのでヴァイオリン族のようなことはないのですが、
(もっとも、ヴァイオリン族のように、駒と魂柱を離すと言うような調整が
出来ませんので)
やはり、ガット弦を張ると、音の立ち上がりも良く、音の芯もあって、
輪郭もはっきりする。和音を弾いても濁らない。というメリットが沢山あります。

これらは、私が作りたい方向の音ですので、最近はガット弦をよく使っています。
でも、高くて寿命が短いから、実用的には大変だから、使えない。と言われそうです。

私は ハープ用のしっかりコーティングされた弦を使っています。
2ヶ月以上張りっぱなしですが、まだまだ持ちそうです。

日本だと、青山ハープの弦が手に入りやすいですし、通販で簡単に買えて、
値段も安く、品質も良いのが 銀座 十字屋で扱っている、イギリスの
「ボー・ブランド」と言うメーカーです。1弦用の 1オクターブの弦で682円
2弦用の2オクターブで892円、3弦用で1207円です。

あと、4,5,6弦用の巻き線ですが、茅ヶ崎のムジカ・アンティカ・湘南さんで、
最近扱ってくれるようになった、イタリア トロ社の弦があります。

ギターの弦は、ご存知のように巻き線の芯線は、細いナイロンの繊維で作られています。
それに、銀メッキされた銅線を巻いています。

それが、トロ社の弦は芯線が シルクに巻き線が 純銀になります。
芯線がシルクに、巻き線が純銀になるだけで、巻き線の金属音がなくなり、
深いところで鳴るようになります。
細い、細い芯線がシルクに変わるだけで、劇的に変わるのです。

これは、9月21日の 野村先生のところで、ギター製作家の丸山さんと
一緒に弦を張り替えた時に、丸山さんも同じような感想を言ってられました。
6弦をシルク芯に変えると、5弦4弦が金属音に聞こえてきて、「今まで、こんな音を
聞いていたのか!」と叫ぶほど、違っていました。
5弦も変えると、4弦がとても汚く、表面的に鳴っているように思いました。
4弦も張り替えると、とてもそれが自然な音に聞こえました。
本当に雑音も無く、純粋にギターの音だけが鳴っているのです。弦の音でなく。

これも私が理想としている音に近い音になりますので、使っていきたいのですが、
寿命がどの程度なのかが、まだ分かっていませんので、コストパフォーマンスも
考えないといけませんし。

でも、このシルク芯の純銀巻きの 弦をとても良心的な値段でムジカ・アンティカ・湘南さんで
扱ってくれています。興味のある方は、問い合わせてみてください。


また長い文章になってしまいましたが、弦に関して日頃思っていることや、
最近気が付いたことの、一部を書かせていただきました。

お付き合いありがとうございます。







 




  1. 2012/10/04(木) 01:08:09|
  2. ギター
  3. | コメント:2
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コメント

はじめまして!アマチュアでコントラバスとガンバを弾いている者です。
とても興味深い記事ばかりで、とても勉強になります。

質問があって書き込ませて頂きます。

>バロック時代から何百年もそうだと思うのですが、駒と魂柱の間の距離は
>魂柱の直径分か駒の脚の幅くらい離すというのが、常識だったと思います。

と書かれていますが、書物的な出典などはありますでしょうか?
僕のガンバは、古楽器も制作している東京の工房で調整していただいたのですが、駒と魂柱の距離は、魂柱の半径ほどしかありません。
その工房も膨大な資料を集めているお店で、時代考証等はしっかりしていると思うのですが、このような違いがあることが面白く思われました。
  1. URL |
  2. 2013/06/23(日) 20:27:01 |
  3. ぐんま #GpEwlVdw
  4. [ 編集 ]

駒と魂柱とガット弦

チェリストです。
最近疑問があって、弦を全部ガットに変えました。
自分がチェロを弾きだした頃からスチール弦全盛。
スチールはもともと楽器の響きはその金属音によって響きが多いのですが、大きな舞台で弾くと音が通らない。
よって、魂柱を駒にどんどん近づけて無理させている。でも板はどんどん動かなくなる。
本来の距離感にその二つを戻す場合は、弦をガットに変えなければならない。
響きは減るが、音の到達力はまったく伸びる。
ガットはやっぱり素晴らしいと思いました。

いまの、自分はずーっとガット弦でチェロを弾いています。
  1. URL |
  2. 2013/11/22(金) 11:19:15 |
  3. カペラ #-
  4. [ 編集 ]

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プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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