古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

読み物 神様はつらいよ ② ギターの神様

ここの所、新しいギターの話や構造、設計の話ばかりが続いていますので、
このあたりで、読み物です。

と言っても、ギターのブログなので今回は、ギターの神様 トーレスさんのことです。
トーレスさんのことについては、もちろんロマニさんの本で、詳しく分かります。
いつ生まれたとか、どこで育ったとかは私のブログでは書きません。
そういうことはネットでも調べることが出来ますので。
主に彼が作ったギターと、現代のトーレスモデル、トーレスコピーと言われる楽器の違いの話しです。

 
トーレスさんは、ストラッドさんに比べると彼の楽器が後の時代に大きく改造されたりはしていませんが、
彼の考えていることを無視して、彼が作ったギターを復元、再現、コピーしたと言われているようです。
いわゆる、トーレスモデルと言われる楽器です。

トーレスモデルと銘うっていなくても、トーレスさんの考えで作っていると言う楽器でも、
トーレスさんの考えていることは守られていないようです。
(これから書かせていただくことは主にロマニロスさんのトーレスさんの本からと、
実際にトーレスさんの楽器を修理した製作家の方の話を基に書かせていただいています)

まず、ギターの表面版についてです

表面版の厚みは、ロマニさんの本によれば、サウンドホールの周りは2.5ミリ程度、
そして響板の周りは1.5ミリ程度だと書かれています。そしてその誤差は10分の数ミリだと。

でも、モダンギターの製作家で、このような表板の削り方をしている製作家はロマニさん
くらいかな?と思っています。
もちろん、全ての製作家のデータが分かっているわけではありませんし、
主に本から調べたものですから。
実際に弾いて見るとどんな削り方をしているかは大体分かりますので。

そして、ギターの表板の設計で、ひとつの考えとして、表板はほぼ厚みを一定にして、
バスバーで音を作っていくという作り方があるそうです。
いろんな考えで作れば良いとおもいますが、もっと先人の考えを取り入れても良いのでは?
と思います。

それと、一番不思議で、彼の考えが守られていないのが、今作られている楽器はほとんど全て、
例外なくブックマッチになっていることです。

ブックマッチとは同じ板から、作られたと言うか、一枚の板を割り開いて、
使っている左右同じ板を使っていることです。

トーレスさんはあまり良い板を手に入れられる環境に無かったから、
そうしなかっただけだと考えられているようです。

彼の楽器はほとんどブックマッチの楽器はありません。
現存している楽器では数台ではないかと思います。
そして、ブックマッチどころか、左右2枚で作られたギターでなく、
3枚4枚の表板を接ぎ合せて使っています。

良い材料が無かったということもあるのでしょうが、
彼は完全に柾目の良いところだけを使ってギターを作っているのです。

4枚接ぎという、現在作られているギターでは考えられないギターを彼は沢山作っています。
私もこの考えは大賛成ですし、今まで作ったギターの半分は、ブックマッチでもなく、4枚接ぎの楽器です。

それは、お前が良い材料を持っていないからだろうと言われそうですが、表板の材料は、
あまりこんなところで発表するものではないのですが、
30年以上乾燥させたとても良い材料を百台分以上は持っています。
でも、音のために4枚接ぎで作っているのです。


そして、次に横板の厚みです。

これもロマニさんの本によれば、材質に関係なくほとんど1ミリの厚さだということです。
これを守っている製作家もいないように思います。
バイブルのようになってしまった、「Making Master Guitars」でも、
245pに2ミリと書いていますし、
ネジメさんの本でも、58pに2ミリから2.2ミリ程度と書かれています。
最近は表板だけを鳴らそうと、もっと分厚い横板の楽器も出てきています。

私が知らないだけで、1ミリの横板で作っている製作家をどなたかご存知の方がいらっしゃったら、
教えていただけませんでしょうか?

では、トーレスさんのギターを基に作っている製作家はどうでしょうか?
古いところでは、元ギター文化館館長の(現アルカンヘル・フェルナンデスギター館館長)
細川鋼一氏の著書「ギターと名工達 1」にマヌエル・ラミレスがトーレスを研究したが、
トーレスのギターを大型化しマヌエル独自のスタイルでトーレスを超えようと、
音に迫力と深みを加えた。とあります。

最近では、現代ギター誌によると、テオドロ・ペレス氏は最初トーレスをコピーしてみたが、
やはり音量不足で設計を変え、音量不足その他を補ったとあります。

私はトーレスさんのコピー楽器は絶対に作りませんが、トーレスさんを神様扱いにするのなら、
トーレスさんの作った楽器をなぜ、そのままコピーしないのか。私には不思議です。

結局トーレスさんオリジナルの楽器は手に入らないから、トーレスモデル、
トーレスコピーとしていると言うと、売れるからでしょうか?と言うとは言い過ぎでしょうか?

トーレスさんの仕事として、大切な事はモダンギターのデザイン、形としてのデザイン、
を決めたことにあると思います。

それ以外は、ほとんどの人が無視している、表板の削りかた(厚みの取り方)
表板の使い方(ブックマッチを大切な事とせず、2枚接ぎにこだわらず、良い所だけを使うこと)
横板の厚み、などはトーレスさんの優れた所だと思います。

逆に ほとんどの人が採用していることですが、私が考える トーレスさんがやっていること、
考案した事で私がやりたくないこと、私は良くないと考えることは。

弦長を650ミリとした事。
ネックの継ぎ方を、スペイン式としたこと。
表板をドーム形状にしたこと。
大きなライニングにしたこと。
下部膨らみ部の2本の斜めバスバーを付けたこと。
ハーモニックバーをトンネル構造にしたこと。
たこ足(ファンブレース)に軸を設けた事。
ウエスト部分のカーブをきつくした事。
パフリング、バインディングを必ず付けたこと。 
ブリッジのウイング部分を大きくしたこと。
大きいエンドブロックを付けたこと。

他にも、裏板のカーブがきつい事や、アンダーバーを重い、大きな物にしていることなど、
小さなことはありますが、大体このようなところだと思います。

でも、これは、あくまで私が考えるギター、作りたいギターにとって良くないことなので、
トーレスさんの考えている事がいけないといっているのではありません
そこの所をよく理解していただきたいのです。

でも、私がトーレスさんの優れている所、見習いたいところは、無視されて、
私が見習いたくないところを、取り入れてモダンギターが作られているのは、
なぜなのでしょうね?


長文で、字ばっかりですみません。


  1. 2012/06/08(金) 00:25:45|
  2. ギター
  3. | コメント:2
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コメント

いつも読んでいますが初書き込みです。
ヴァイオリン製作家というのは、オリジナルの楽器を、経年変化で痩せた板厚(これは普通ですかね?)やキズや塗装の塗りムラまでコピーする人もいるくらいなのに、ギター製作家は真逆なんですね!
作る楽器によってこんなにコピーに対する考え方が違うというのは面白い現象ですが、どちらの考え方もちょっと変に見えます。良いとこ取りの考えで作ればもっと良いものが出来そうに思います。
  1. URL |
  2. 2012/06/09(土) 10:19:28 |
  3. 河内長野市民 #a6AaqmKQ
  4. [ 編集 ]

河内長野市民さん
初コメントありがとうございます。

ヴァイオリンの製作家は、神様はつらいよ ①で書かせていただいたように、
後の時代に、影も形もないほどに、改造された楽器をコピーしているので、
ギターとどっちもどっち、という感じがします。
ネックも、バスバーも、指板も、テルピースも、駒も、もちろん塗装も変えられた、
楽器をコピーしているのですから。
ちょうど、ギターで言えば、ケネス・ヒルが作った、マックス・ストローマが作った
テオドロ・ペレスが作った、トーレスモデルのギターを、コピーしているようなもの
と思います。
ギターはまだ、私にとっては重要でないのですが、トーレスさんがやったことを、
守って作っているので、まだましかな?と思っています。
でも、それが モダンスペインギターの味になっているのでしょう。
そして、音楽でなく、ギター音楽を表現しやすい楽器になっているのかな?
と思ったりしています。

これは、あくまで私の感想です。これが正しいとか何とかは言ってませんので、
よろしくお願いします。

  1. URL |
  2. 2012/06/10(日) 00:08:29 |
  3. kogakki #-
  4. [ 編集 ]

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プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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