古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

構造、設計 ⑨-2 ブリッジについての追加です 

構造、設計 ⑨ ブリッジのところで、少し書き忘れていることがありますので、
ここで書かせていただきます。

それは、ブリッジの弦を留めている中央部でなく、よくウイングと呼ばれている
薄い部分です。

  img676.jpg

   この図で,B の部分です。

この場所は、音を伝える役目はほとんど無く、ブリッジが持ち上がるのを少し防ぐ役目が
あるかな?と思っている部分です。

ですから、デザイン上で必要な所以外はなるべく小さいほうが良いと思っています。

では、一般的にモダンスペインギターはどの程度の大きさなのでしょうか?

比較的この部分が小さい ロマニさんで A=87ミリ B=51.5ミリでBはAの59%
トーレスさんは A=82ミリ B=51.5ミリ 63.8%
ブーシェさんは A=81.5ミリ B=53.8ミリ 66%

ブーシェさんだと、両側のウイング部分を足すと,Aの107.5%になります。

それに対して、私の楽器は

        img672.jpg

のように、弦を留めている直線部分では A=86ミリ B=42ミリで 48.8%ですが
<>で書いている数字のように、弦の力を受け止めている、音を広げている部分で考えると
A=110ミリ B=30ミリですが、曲線になっているので、実際は27ミリと考えられます。
そうすると、このウイング部分は24.5%になります。そして、この部分の私の楽器は
ほとんどのモダンスペインギターが厚みを、4㎜にとっていますが、私は3ミリ程度です。
音を伝える部分は大きく、必要の無い部分は少なく、薄くしています。

これについては、ホセ・ラミレス 3世が作った10弦ギターでも、
同じような事を考えられているようです。

イエペスさんと一緒に作ったと言われる10弦ギターですが、
初期の頃はこのウイング部分が大きかったのが、
後になると、小さくなっているそうです。(私が直接測ったわけではありませんが、
調べた人いますので)

ただでさえ大きな、10弦ギターのブリッジですから、ウイング部分は小さいほうが
楽器は鳴ると思います。

でも、イエペスさんが考案した、この10弦ギターはネックがあまりにも大きく
まだモダンスペインギターの構造ですから、低音は鳴りません。
よく10弦が鳴らないという話を聞きますが、私が見た楽器では、8.9.10弦
が鳴っていない楽器が多く、よく鳴っている楽器でも、9,10弦が鳴っていませんでした。
これだけ、低音が鳴っていない楽器を作って、そしてそれを売って、またその鳴らない楽器を
使っている人がいるということを、不思議に思います。
でも、これはギターに限らず、チェンバロでも低音が全然鳴っていない楽器を使っている人も
沢山いますので、不思議な事ではないかもしれません。

話がそれましたが、では19世紀ギターではどのようなブリッジのスタイルだったのでしょう。

   img673.jpg
私の好きなパノルモさんのブリッジです。

   img675.jpg
   次は、ラコートさん

    img674.jpg
 
そして、ファブリカトーレさんです。
(出典は The Century That Shaped The Guitar James  Westbrook 著 です) 

それぞれデザインは違いますが、弦を留めている、音を伝えている部分以外は小さく作られています。

私もこの考えで作っています。デザインはモダンですが。

  1. 2012/06/05(火) 11:06:37|
  2. ギター
  3. | コメント:6
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コメント

ボディの横幅との関係も気になりますね。
  1. URL |
  2. 2012/06/06(水) 08:31:23 |
  3. すけろく #-
  4. [ 編集 ]

すけろくさん

コメントありがとうございます。
ボディとの横幅との関係ということですが、
表板のブリッジが載っている場所での、表板との関係でしょうか?
確かに、表板の幅が同じで、ブリッジだけ狭く(小さく)なれば、
楽器にどういう影響があるか?と言う事でしょうか。

トーレスさんを引き合いにだすと、全ての楽器の大きさが違いますし、
前期と後期でかなり大きさが違っていますので、セゴビアさんが使っていた
ハウザーやブーシェさんで比べてみます。

ハウザーさんの一番広い所で、357ミリそれに対してブリッジは186ミリ
ブリッジの横の広さは、約85ミリ。(52%)

ブーシェさんは366ミリに対して189ミリ 横の広さは 約88ミリです。(52%)

私の楽器は 表板330ミリに対して、170ミリ 横の広さは 80ミリ(52%)

私の楽器は幅が狭いので、当然ブリッジも小さくしないとバランスが
取れませんが、割合としては、ほぼ同じです。

その割合のなかで、弦の振動を伝える部分を大きくしています。
というか、不要な部分を小さくしています。

19世紀ギターでは、このブリッジから表板の端までの、横の広さは
ブリッジ本体からだと、ほぼ100ミリあります。
いろんなデザインがありますが、表板の振動を妨げる、ウイングと呼ばれる部分
が無いので、(装飾的に少し付いていますが)表板の鳴る面積は大きいようです。

コメントしていただいた事と違う事を書いているかもしれませんが、
見た目はモダンスペインギターと同じ割合です。

  1. URL |
  2. 2012/06/06(水) 12:28:27 |
  3. kogakki #-
  4. [ 編集 ]

返信頂き嬉しいです。ありがとうございます。
質問は言葉足らずですみません。

ボディの横幅との兼ね合いで、ブリッジの横幅を決めているのかなと思ったのです。
小さい物には小さいブリッジなどと

それと平山さんが360ミリ幅のボディを作る場合、
ブリッジの大きさや形はどうなるんだろう?と思ったからです。

  1. URL |
  2. 2012/06/06(水) 21:01:43 |
  3. すけろく #-
  4. [ 編集 ]

こちらこそありがとうございます。

ブリッジの大きさは、横幅との兼ね合いでは決めていません。

ブリッジでの弦幅は、基本的には 57.5ミリです。
(弦間隔 11.5ミリx5=57.5ミリ)
ハウザーさん、アグアドさん、フレータさん、ロマニさんは59ミリですね。
狭い人では、トーレスさん 56ミリ、ブーシェさん56.5ミリ
あたりが狭いようです。

私が弾いて、57.5ミリが最も弾きやすかったので、57.5ミリにしています。
これも、リクエストがあれば、幅を変えていますが、よほど、大きな手の人でなければ 59ミリにはしませんが。  

ということで、この57.5ミリに左右の余裕を取って、見た目でバランスの取れる
大きさにしています。結果的に、ボディの幅の約52%の大きさになってしまいました。

それから、ボディ幅 360ミリの楽器のことですが、私は今作っている以上の大きなボディのギターは作りません。
まず、自分が大きなギターは弾けないのです。
自分が弾きにくい楽器を作るつもりはありませんので。
そして、ギターを弾いている、沢山の写真を見ても、ど
う見てもギターが大きすぎる、
不自然に大きすぎると思っています。

そして、一番大事なことですが、大きなボディのギターでは、私の作りたい音が
作れないということです。

私は弦長を640ミリ、または630ミリにしています。
そして、私の作るギターの大きさは、結果的にですが、
トーレスさんの前期の楽器で最も沢山作られた大きさのギターとほぼ同じです。

もし、トーレスさんが、弦長を640ミリか630ミリでギターつくりを始めていたら、
前期の大きさで、それ以上大きなギターにはならなかったかも知れないと、私は考えています。でも、こんな事を考えるのは、私くらいでしょう。でも、楽器のバランスを考えると、650ミリの弦長を前提にすると、後期の大きさにたどり着くのかもしれません。

650ミリの弦長で、さらに大きいモダンスペインギターは、不必要に大きいと、私は感じてしまいます。
  1. URL |
  2. 2012/06/06(水) 22:30:08 |
  3. kogakki #-
  4. [ 編集 ]

深いお話で非常に面白いです。
ありがとうございます。

読み返していて、なるほどっと言う数字を発見しました。
52%という数字です。

ハウザーさん、ブーシェさん、平山さんとボディの横幅はそれぞれでも”ブリッジ全体の横幅”との比率としては、
だいたい52%と結果としては似通っているんですね!?

設計思想は違うはずなのに、とても不思議な気がします。
黄金比らしき物が共通してあるのでしょうか?

先人達がなぜその大きさや長さを選択したのか、本人に直接聞けないので真実はわかりませんが
”感性を優先させる”とそうなるのかな?と思いました。
  1. URL |
  2. 2012/06/08(金) 01:39:57 |
  3. すけろく #-
  4. [ 編集 ]

コメントをいただいて、いろんな事を書かせていただくのは、
とてもありがたいです。最初は、私の考えをまとめて本のようなものに
しようと考えていました。
でもブログにすると、いろんな考えを持った方の意見が聞けるので、
ブログにしようと思いました。これからもよろしくお願いします。

ということで、コメントです。

楽器だけではないのでしょうが、人間が見て美しい形、比率というのはあるように
思います。コメントの所でも書かせていただきましたが、650ミリの弦長をとると、
モダンスペインギターの大きさになる様に思います。

以前、知り合いのギタリストが、これも知り合いのギター製作家に、ファブリカトーレのコピー楽器を注文しました。
普段、モダンギターを弾いているので、弦長650ミリで作ってもらいました。
結果は、見た目も、ネックが長くて、バランスが悪いのです。音も、よくありませんでした。弦長が長くなった分、細いゲージの弦を張れば、テンション的には合うはずなのですが、よくありません。ほんの少しネックが長いだけなのですが。

やはりボディにあった、ネックや弦長というのはあるようです。

逆に、バランスの悪い楽器が、当たり前になっていて、誰もおかしいと思わないのが、ヴァイオリンです。

ストラッドさんたちが作っていた頃の楽器は、バランスも取れていて美しいと感じます。ところが、今作られているヴァイオリン、使われているヴァイオリンは、ネックが長く、角度が付いて、指板も異様に長いです。

必要があって指板が長くなっているのですが、世界中の誰もが、この長い指板、全てを使って演奏はしていないと思うので、もっと短い指板のヴァイオリンもあって良いように思います。その方が、はるかに美しいのですから。

話は、ギターに戻ると、やはりバランスから、大きなボディにすると、ヘッドも
大きくしないと、駄目なようです。
また、表面板の面積が増えると、胴の厚みも厚くしないといけない、とか
すべて、私の作りたい音から離れてしまいます。
ネックの厚みとかも、厚くしないとバランスが取れないように思います。

こんな事を考えて、私の楽器の大きさは決まっています。

私のギター製作は、名器のコピー楽器で始まっていないので、
すべて自分で決めていかないといけません。
そんな時、バランスというのはとても大切な事だと感じました。

  1. URL |
  2. 2012/06/08(金) 18:49:56 |
  3. kogakki #-
  4. [ 編集 ]

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kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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