古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

構造、設計 ⑨ ブリッジの形状

ブリッジもトーレスさんが決定してから、ほとんど同じ形のものが使われています。

ギルバートさんが少し構造の違ったものを考えられた程度だと思います。
(ギルバートさんもブリッジに伝わった振動をより大きな面積に広げようと、
あの形になったのだと思います。特別変わった形には私には思えません)

一般的なブリッジの形です。

   img668.jpg

    トーレスさんのブリッジです。

  次はブーシェさんのブリッジです。

   img669.jpg
  いずれも Making Master Guitars より

同じような形です。
そしてこの形だと、弦が張られている厚み8ミリの部分(トーレスさんだと82ミリの部分)
が弦のテンションによって持ち上がりますが、外側4ミリの厚みの部分はそれを、
防ぐほどの強度は無いので、弦が張られている82ミリの部分だけ持ち上がっている
と言う楽器を良く見かけます。そこで、

         img662.jpg


のような私が作っているブリッジの形にすると、
ブリッジの大きな面で弦のテンションを受けますので、
表面版の変形も少なく、弦の振動をより多く表面版に伝えることが出来ます。

この形は19世紀ギターや20世紀初頭に良く使われた、
パーラーギターでも見ることが出来ます。
19世紀ギターやパーラーギターの伝統を受け継いでいる、
フォークギターではよくある形ですね。


そして、もうひとつ私が気をつけていることがあります。それは、弦が留められている、
穴があけられている部分の外側の大きさです。(私の楽器の図面で14ミリとなっている部分です)

特に、低音側はこの部分が大きいほど、音がしっかりします。私はそうしています。

1弦と6弦以外は両方の弦に挟まれて、弦を受け止めている面積が広いのですが、
端の1弦、6弦はその受け止められている面積が狭いのです。

これは、チェンバロなどで一番端の弦がどうしても鳴りにくく、
少しブリッジを広く作れば(長く)作れば解消することがあったことからヒントを得ています。

難しい事を考えなくても、一番低音の弦が端の小さい面積で受け止められていると
しっかりした低音は出ないと感覚的にも分かると思います。

「Master Making Guitars」の図面から調べさせていただくと、
同じようなことをロマニロスさんは考えてられるようで、私と同じくらい、
この部分を広く取ってられます。
(偉大な製作家のロマニロスさんと同じことを考えているとは、おこがましい。
ロマニさんのまねをしたのではないかと、どこかから声が聞こえてきそうですが、
最近この本を見ていて気が付いたことですので。
そして、それはトーレスさんがやっていたことで、
ロマニさんはトーレスさんからヒントを得たのだと思います。
トーレスさんも広いのです)

私は2台目の楽器で低音側だけ広げ、3台目以降は1弦側も広げています。
(1台目の楽器は19世紀ギターでブリッジの形がモダンとは違っていますので、
1台目から広げていた、いうことですか) 

そして、このブリッジを上から見ると、

       img663.jpg


のように、Aの部分は一般的なスペインギターでは直線がほとんどですが、
私は図のように、曲線にしています。これは、デザイン的に、丸い本体と合うことも、
採用している理由のひとつですが、この A の部分が直線だと、
この部分でせん断が起こることと、音の伝わりを考えると、
曲線のほうが有利だと考えています。


この、デザインはモダンギターでも、初期の頃は採用している製作家もいましたが、
一般的なデザインが演奏する人に受け入れられると言うことで、この部分が
直線のブリッジが多くなったのでしょうか。

ここで横道にそれますが、ブリッジの部分なので、少し書かせていただきます。
それは、ピンブリッジのことです。

有名なギター製作家が採用しているので、(知っている人は知っているので、
名前を出してもいいのですが有名な製作家ということにしておきます)これについて、
私がどうのこうのと言うのも、おかしいかもしれませんが、私は採用したくない構造です。

それは、ブリッジの骨棒に、弦の移動、ずれが無いように、少しだけ、
溝をつけると楽器が鳴らないからです。

知り合いのギタリストが、ハウザーの楽器を持っているのですが、楽器の調整を出した後、
どうも楽器の鳴りが悪いと相談されました。
見てみると、骨棒に少し溝を切っていました。ほんの少しだけです。
でも、この溝によって、弦が固定され、自由な振動を阻害していたようです。
所有者のギタリストに断りはありませんでしたが、調整した人は、
溝を切ったほうが良いと判断して、溝を切ったのでしょう。

少し骨棒をずらして、溝の無いところに弦を持ってくると、がぜん楽器が鳴ってきました。
やはり溝はギターの場合、無いほうが良いようです。

ピンブリッジだと、溝を付けないと弦が滑って落ちてしまいますので、
その結果、鳴らない楽器になってしまうのだと思います。
私が見た、この有名な製作家の作ったギターは、低音弦が鳴っていませんでした。
特に、6弦は全然鳴っていないのです。
ブリッジを普通の骨棒で受けるだけで鳴ってくるのでは、と思ったことがあります。

ヴァイオリン属や、ガンバ属では駒に弦を留めるための、溝が切られています。
でも、この溝は、深さや幅など、とても微妙な調整が必要です。
ガンバの場合は、1弦は弦の半分以下の深さでないと、弦の振動は楽器に伝わらず、
弦の振動が駒の溝によって邪魔されます。
逆に6弦などは弦の直径の3分の2以上の深さでないと、低音の基音がしっかり出ません。
もし溝を付けたいのなら、いろいろ試してからだと、良い結果が出るかもしれませんが。

そして、駒で私は最も大きい問題と考えている、骨棒にかかる圧力、骨棒での弦の角度です。

         img664.jpg

相変わらず、汚い図面ですみません。
一般的な駒での、弦の角度はこのくらいだと思います。<角度 A >

         img665.jpg
 
 私が作っている駒です。弦を留めている部分が、骨棒側に傾斜して、低くなっています。
そして、弦を通す穴を低くしています。<角度 B >

そうすると、弦をブリッジに巻きつけるとき、弦を持ち上げる量が少なくなるのです。
その結果、骨棒での角度が少しきつくなります。骨棒にかかる圧力が増えるのです。

 次にスーパーチップとか言われている、小さな象牙などで作ったもので、端を固定する方法です。
        img666.jpg

 この方法だとさらに、角度がきつくなり、骨棒への圧力はもっと増えます。
ということはブリッジにより大きな圧力が伝わり、当然音も大きくなります。
これはスーパーチップで音がよく鳴るようになったというより、骨棒への圧力が増えたことによって、
音が大きくなったと考えるほうが普通だと思います。ですから、ハープのように、弦の端を結んで
玉を作って、ブリッジに留めてもそう変わらない音になると思います。

ヴァイオリンやヴィオラ・ダ・ガンバ、のように大きな駒で、弦を受けている楽器は、
駒の高さ、そして駒の部分での弦の角度がとても重要です。(材質、厚み、形状も大切ですが)

当然駒を高くすれば、大きな音で鳴ります。表板が厚くて、楽器全体が重い楽器だと、
駒を高くすれば、さらに鳴って来て、その楽器本来の響きが出ます。
でも軽い楽器では、音がきつくなり、音楽的な表現が難しくなります。
駒を高くすると、立ち上がりは良くなり、音も大きくなりますが、減衰が短くなります。
逆に低いと、音は小さくなりますが、減衰が長くなり、音楽的な表現が付けやすくなります。
細かな、操作がし易いのです。

私もガンバを作り始めた頃は、駒は高めでした、でも、段々と低い駒でも鳴るような楽器が
作れるようになると、低い駒になって行きました。

ギターの場合でも、同じような事が言えます。
ギターは作ってはいませんでしたが、沢山のギターを調整してきて、その楽器に合った、骨棒での
弦の角度が分かってきました。

このことからも、軽くて反応の良い、基音がしっかりした楽器だと、そんなに駒を高くしなくても、
楽器が鳴るので、いろんな表現が出来るし、減衰も長くなる、ということが分かってきます。
ということで、私の楽器は軽いのです。

軽い楽器は音も軽くなりそうですが、基音をしっかり出す
、しっかり作ることで、音は逆に重く、密度の高い音が作れます。
これは、モダンスペインギターとは、目指している物、目指している音楽が違いますが、
私が作りたいギターなのです。

駒 ひとつをとっても、名器と呼ばれる楽器のコピーで始めると、考える事、
考えないといけない事が、出来ないようになってしまうような、気がするのですが
どうでしょうか?






  1. 2012/05/31(木) 02:14:13|
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プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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