古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

野村隆哉先生と燻煙熱処理


しばらく、ブログの更新が出来ていませんでした。
相変わらず、忙しくしていて、雑用が山のようにありました。

(私は楽器を作ることが仕事と思っていて、それ以外の楽器の修理とか
演奏会の裏方などは、雑用と思っています。
でも、雑用だからと言って、手は抜いていません。修理も私しか出来ない修理とか、
私がすれば、他の人よりよりその楽器には良い修理が出来ると考えています。
修理で預かった楽器は、預かる前より何倍も良い楽器にして返すことを心掛けて今まで
やってきました。ある大学の、ガンバの修理は大変でしたが、修理前よりはるかに良い楽器に
なったので、壊した学生が「こんなに良い楽器になったのだから、壊して良かったでしょ」
と皆に言っているほどでした。でも、こんな事をしているから、雑用が増えるのでしょうね。
でも、何かの縁で私の所に来たのだから、少しでも良い状態にして返してあげたいのです。)

また、さっそく、横道にそれてすみません。


今回は、ここの所しばらく続いている、新しいギターのことについてではなく、
ギターだけではなく、楽器製作において、革命的なことになりそうな、楽器材料の
処理についてとそのシステムを開発された野村先生のことです。

よい楽器を製作するためには、

① 良い材料 
② 良い設計
③ 良い製作技術
④ 良い感性
⑤ 良く音楽を知る事
⑥ 良く楽器を演奏できること
⑦ 良い演奏家と知り合う事
⑧ 良い演奏家に弾いてもらう事

などが考えられます。

良い楽器を作ろうと思えば、まず最初に良い材料を手に入れようと思います。
これが、一番大変なことかもしれません。
でも、野村先生の燻煙熱処理を使えば、そんなに良い材料でなくても、良い楽器が
作ることが可能なのです。
燻煙熱処理については、野村先生のHP http://homepage2.nifty.com/nsdswood/            

である程度のとこは理解していただけると思います。

野村先生からお聞きした事や、HP、また発表された文章などを読ませていただいて、
私なりの理解した事を書かせていただきますので、思い違いなどあるかもしれませんが、
燻煙熱処理はこのようなものかと思っています。

まず、この燻煙熱処理技術を開発されたのは、地球規模での森林伐採など、資源の枯渇化
によって、今まで、使われる事の無かった、成長の早いオイルパームなどの木を建築材その他に
使えるようにするためだと聞いています。ご存知のように、建材屋さん、ホームセンターにいくらでも
あった、ラワン合板なども、原材料のラワン材が無くなって来ています。
今まで、強度もなくて使われていなかったような、ファルカタ(桐に似た柔らかい南洋材です)
ですら、現地ではなくなりつつあるそうです。

オイルパームは油椰子ともいわれ、パームオイルをとるために、マレーシア、インドネシアなどの
東南アジアでプランテーションで大規模に栽培されています。そして、パームオイルを取るのは
果肉からで、木本体はスポンジのような、柔らかい木なので、廃棄されているそうです。

この、オイルパームの木を建築用材に使えないか?ということで、
野村先生の私費を投じて研究されたそうです。

その結果を見せていただきましたが、当然 燻煙熱処理されたあとでは、非常に安定した、
木肌も美しい、独特の模様があるしっかりした木でした。
そのまま内装材に使っても面白い木目です。

野村先生は東南アジアだけでなく、アマゾンでも今までは、使われる事のなかった木を
使えることによって、建築用材として森林伐採が進まないような活動もされています。

世界の森林だけでなく、もっと大きな視点からも、世界を見ていらして、「共鳴磁場の創設に向けて」
という本を1995年に書かれています。
古くからの友人で、ギター製作家の田中清人さんの HP 
http://kiyond.blogspot.jp/2012/02/blog-post_17.html でも、内容はご覧になれます。
田中さんも一緒に野村先生の所に行きましたので。

この、柔らかくて強度の無いオイルパームを使える木材とするために、燻煙熱処理を研究されたとのことです。

最初に簡単に分かりやすく原理を説明されたのですが、科学的な知識が無いため、
ほとんど理解できませんでした。
ただ、今までの、人工乾燥は酸化方式で、燻煙熱処理は還元であるということ。
今までの、人工乾燥は熱効率が悪く、エネルギーの一部しか利用していないことに比べて、
ほぼ100パーセントエネルギーを使う事、また燻煙熱処理中に一度軟化する事から、
内部応力がなくなること、そして含水率が下がること、その他から処理後の割れ、歪み、
変形が無いことなど、そして強度が3割4割上がる事など、を説明していただきました。

何故そうなるのかも、説明されましたがセルロースのことなど、専門外のことなので、
はっきり分かりません。

見難いのですが、作業場にあった、薄い板目に切った杉板です。

        UNI_0904.jpg

   普通この程度の厚みの、板目の杉板なら絶対に反っているのが普通です。それが、反らずに
また杉とは思えない密度なのです。いろんな説明をしていただきましたが、この板1枚を見て燻煙熱処理
の素晴らしさが分かりました。

     次はもっと分厚い杉板です。
    UNI_0902.jpg

   分厚くても、板目の杉板です。年輪が真っすぐになる方向に反らずに、真っすぐな板でした。

これ以外でも、下のような試験片を作られて、いろんな実験、試験をされていました。

       UNI_0903.jpg

ここで楽器用材についてです。

燻煙熱処理をすると、含水率が下がって、比重が小さくなる。
処理後は変形や、割れ、反りなどがなくなる。
そして、処理中に一度軟化するので、内部応力が無くなる。
これは、実際楽器を作っていると、楽器用として高い材木を買っても、
部材用に切り出すと、内部応力のため、(内部歪みのため)曲がったり,捩じれたりします。
特に、スネークウッドで弓を作るときなど、弓の部材が細いため、切っていく端から曲がるときがあります。
そして、一番大きなことは、樹種によっても違うのですが、強度が3割4割上がるということです。
ドイツ松だと250年、日本の桧で200年から300年で経年変化のピークが来ますが、
この長い年数かけて起こることと同じようなことが、燻煙熱処理では短期間で出来るのです。

表板を探す時は、軽くて強度のある材料を選びます。
これが、燻煙熱処理をすると、あまり良い材料でなくても、
軽くて強度のある材料に変わるのです。
もともと、軽い材料はさらに、そうでない材料はそれなりにですが。

これは、私のイメージですが、ボクシングの選手が減量しても、骨格、筋肉は
変わらないので、強いパンチが打てる。このことに似ているような気がします。

私は この燻煙熱処理を知るまでは、私のこのブログ 1月10日の材料①表板
の所でも、書かせていただきましたが、何年も太陽に干していました。

そして、松下さんという、日本のエレキギターの技術は彼がほとんど考え出した人が、
燻煙処理をしている事を知り、彼に楽器材料を燻煙処理をしてもらう事にしていたのです。
松下さんは、ストラッドの材料が暖炉の近くや、上に置かれていた事から、日本の
煤竹のように燻煙すれば、良い楽器が出来るのではないかと考えたそうです。
25年ほど試行錯誤して、温度や時間など割り出したそうです。
彼は、含水率の低下とセルロースの硬化ということで、経年変化の促進を図ったようです。

ということで、最初に伺った時には、東京、名古屋、九州からも楽器製作家の方々が
来られていました。広く、この燻煙熱処理の技術を使って、良い楽器を作ってもらいたい。
楽器製作のレベルアップが図れれば、ということだったようです。

他の方々は、すぐに楽器材料を燻煙熱処理してもらおうと、材料を送ったそうですが、
私は材料を送りつけて、お願いします。というのは出来なかったので、
(いろんな楽器を作っていますし、4年日に当てた材料、10年前に削りだし
日に干していたガンバの表板なども、見ていただいて相談したいと思ったこと。
そして、燻煙熱処理を効果的に行う為の、桟木や固定方法など、自分でやってみたかったこと。
忙しい先生の手間をかけたくなかったということもありましたので)
今月19日に、野村先生の所に行かせていただき、燻煙熱処理の準備をさせていただきました。

     UNI_0964.jpg

    このように、桟木を組んで、重さなど書き込んでいますので、それが消えないように
新聞紙で来るんでいます。桟木もドイツ松で、バスバー材を使っています。楽器作りで大切な
バスバーが大量に燻煙熱処理出来るので、ありがたいです。

今回 燻煙熱処理していただいた材料は、主にギター用ですが、夏までに
ネック、表板(40年寝かした物)裏板、横板とも燻煙熱処理の材料で1台。
表板だけ4年日に干した物。裏、横、ネックは2ヶ月ほど日に干した物で1台。
そして、お弟子さんに、40年寝かした材料で、日に干していない物で
1台作ってもらおうと思っています。
もちろん、同じ設計で。

ギター以外では、チェンバロの表板も今回お願いしました。
チェンバロは1台作るのに、3ヶ月かかりますし、大きい楽器なので、
表板以外の要素も大きくなるので、ポータブルスピネットを3台作る予定です。
出来れば、秋までに。(ギターは8月までに作る予定です)

もちろん、出来上がればこのブログに書かせていただきます。

長くなりましたが、野村先生の素晴らしい絵のことや、木工家としての野村先生のことも
書かせていただこうと思っていたのですが、スケールの大きい、実行力のある先生です。
又次の機会に書かせていただこうと思います。




  1. 2012/05/23(水) 00:29:32|
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kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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