古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

新しいギター ⑤ ブリッジ フレットその他

新しいギターの、説明のようなブログもそろそろ終わりです。
前回の文章を読んでいて、分かっている人には分かっているが、
分かっていない人には、分からない話かな?と思えるところがありました。

バスバーの軸という話です。
ロマニさんのトーレスさんの本では、日本語訳版 112ページに
パノルモの力木は共通の軸を持っていないので、対称性を保持していない、
というような文章があります。
トーレスさんの力木の軸というのは下記のような、バスバーが収束する点を持っている
ということです。

       img640.jpg


この、収束する点があるということ、そしてその場所が問題なのだそうです。
当然、この考えでいくと、3弦4弦の下の中央のバスバーは、真っすぐでなくではいけません。
この考えが、バスバー設計の基本と考えると、私のようなバスバーは発想として出てこないわけです。

ということで、本題に戻りましょうか。

最初に、新しいギターが出来ましたのところで、
5番目にブリッジの形が、必要な部分以外はそぎ落としました。
と書きました。以前の楽器は、少しは普通の楽器に見せようという
気がありましたので、端の部分だけカーブを付けました。
今回は、そんな気遣いはいらないので、厚みがあって、振動を伝える部分以外は
無くしてしまいました。

       UNI_0942.jpg


モダンスペインギターを見慣れていると、少し違和感があるかもしれません。

そして、もっと違和感がありそうなのが、ブリッジ骨棒のギザギザです。
これは、フレッチングをナイトハルトの音律にしたからです。

バロック音楽に詳しい方でも、ナイトハルトの音律というのは、あまり聞かない音律だと思います。
西垣さんの、パノルモなどは、かなり以前から、ヤングという方の調律で、フレッチングされていました。
でも、このヤングさんのフレッチングでは、かなりフレットが曲がってしまうというか、
グニャグニャなのです。
演奏会のたびに、「何故フレットは曲がっているのですか?」と質問をされるので、
真っすぐになる音律はないだろうかと、いうことでナイトハルトの音律を提案しました。

古典調律の話は、話せばいくらでも長くなってしまいますが、平均律は1オクターブで約24セント
(1セントは百分の一半音)ずれてくるのを、12半音に振り分けた物。
ヤングさんの調律は 6個の音に24セントのずれを、割り振って残りの
6個を純正にした物です。
平均律に比べて、一番大きい差はドで6セント高く、ド#で4セント低い物です。

ナイトハルトさんの音律は、ほとんど平均律なのですが、24セントのずれを、同じように
配分せず、多い少ないを付けたのです。不等分平均律という感じです。
平均律に近いけど、響きはきれいということで、西垣さんがコンピュータを使って、計算していただいた
物を、使わせていただいてフレットの位置を決めました。本当は、少しフレットにカーブをつけたほうが、
本来のナイトハルトの調律に近いのですが、なんとか直線にしました。
下の写真など、平均律との違いがよく分かると思います。

      UNI_0939.jpg

フレットを真っすぐにするため、ブリッジの骨棒とナットが、ジグザクになっています。

     UNI_0936.jpg


そして、骨棒がナットはスネークウッドです。
開放弦で、樹脂フレットで押さえた音との違いを無くするため、象牙や牛骨を使っていません。


今回のギターは、今まで楓のギターが多かったのですが、ローズウッドということで、今までと少し
違う事をしています。
接着のところで話しましたが、ローズウッドは濡れが悪く、接着性があまり良くない材です。
そこで、下の写真のように、裏板センターの接ぎに小さなパッチを当てました。
そして、センター部分をセラックニスで塗装しています。

         UNI_0933.jpg


一般的な、接ぎ部の補強用の木は、付けたくないし、付けていても、役に立っていない事が
多いのを見てきていますので。
接ぎ部分が、剥がれるのは、接着不良もあるのですが、長年の使用によって、木が乾燥収縮することが
原因のひとつだと考えられます。
内部全体に、塗装してしまうと、乾燥しても収縮がすくないのですが、
楽器が出来てから弾き込んでも、弾きこみによって音がよくなるのが、
遅くなるように思います。そこで、接ぎの部分だけ塗装したのです。

沖縄とか、東南アジアで使われる楽器を頼まれたら、内部全体に塗装するかもしれませんが。

内部を全塗装したく無いのは、リコーダーのメーカーで内部に塗装しているメーカーの物は
長い年数吹き込んでも、音が良くない、良くならない経験があるためです。

次に、私の楽器は、裏板横板のバインディングやパフリングはありません。
楽器のため、音のため、そして修理に為には無いほうが良いと考えているからです。
デザイン的にも、無いほうが私は好きです。楽器らしくて。

そして、今回 修理のためだけではないのですが、裏板の接着はテープだけでしました。
カッチカッチに固めたくないというのもあるのですが、裏板を開けて修理する機会の多い
ギターですので、少し接着力の弱いテープにしました。
でも修理の必要が出てくるのは、100年以上先のことだと思っているのですが。

   UNI_0934.jpg


以上が今回の楽器の大体の説明です。
書いていけば、塗装の事、ネックのヒールの事、パフリングの事もっともっと、
沢山のことがありますが、これで一応終わります。
わずか、2週間ほどで作りましたが、考える時間は山のようにありましたから。
どうしても、これだけは、ということを思い出したら、また書かせていただくかもしれません。
その時は、よろしくお願いします。

すみません、早速思い出しました。
私は短い期間で楽器を作っても、1台づつしか作りません。
2週間で1台作るより、1ヶ月で2台作るほうが作業的には楽なのですが、
私は平行して2台は作れないのです。(修理なんかは平行して出来ます)
とにかく、今作っている楽器のことだけを考えて、朝から晩まで、寝ていても
その楽器のことだけを考えて作るのが好きなのです。
少しでも、良い楽器を作りたいと考えたら、1台だけを作るほうが、全部の頭、
体をその楽器に集中出来ますので。







  1. 2012/05/09(水) 00:21:46|
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kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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