古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

新しいギター ③ ローズウッドを使ったことについて

新しいギターについて書かせていただいていますが、うっかりすると、
こんな良い楽器ができました、と言う自慢みたいになりかねないので、
そうならないように気をつけないといけないと思っています。
あくまで、このブログに書かせていただいたような事柄をもとに、ギターを実際に作った結果は
こうなりました、と言う客観的な報告にしないといけないと感じています。

14日の、札幌での催しについては、私のブログのリンク先に書かせていただいています。
今回のギターの依頼主の田中さんのブログ「やわらかな音と過ごす」に14日のブログに
詳しく書いていただいていますので(たくさんの写真もアップされています)この田中さんのブログも
ご覧ください。

ということで、裏板、横板のローズウッドについてですが、今まで私が作ってきたギターは、
19世紀ギターを使ってられるギタリストの方が、19世紀ギターでは、弾きにくい、音楽を
作りにくい、近代、現代の曲を弾くために注文されることが多かったのです。
それで、19世紀ギターの延長線上にある、楓のギターを選んでくださいました。

でも、今回注文してくださった、ギタリストの田中さんは、モダンスペインギターの数々の名器を
弾いてこられて、伝統的なモダンスペインギターではない方向の、モダンギターとして私のギターを
選んでくださいました。
そこで、メールで何回もやり取りして、ローズを使わせていただきました。それは、
音の密度、音の輪郭、音の響き等が演奏される目的に合っていると考えたのです。

あくまで、私の感想、感覚ですが、楓で作ると、ピアノ的、ハープ的な一般音楽に合った、
楽器が出来る。楽器本体は良く鳴ります。粘りのある音も出来ます。
一方、ローズだとギター音楽にあった楽器が出来るように感じていました。

モダンスペインギターの一番不思議なところが、横板だと以前にも書かせていただきましたが、
「Master Making Guitars]でも他のギター製作の本を見ても横板は2ミリと書かれています。
友人のブログを読ませていただくと、有名なギター製作家のロマニロスさんの講習会で
「横板は2ミリの指定」と書かれていました。
私なら、「なぜ2ミリにするのか?」と聞いたと思うのですが、他の部分のぺネオス(独立した
ライニング)についても、大小組み合わせなさい、という指示なのですが、その理由は説明されて
いないようです。

人には絶対に教えてもらわない、という考えの私ですから、講習会などにも参加はしないのですが、
もし参加をすれば、万が一参加すれば、なぜそうするのか?いちいち理由を聞いて、
それに対する自分の意見を言って、うるさがられる、嫌われる。そうして、それなら、講習会に
参加する意味がないから、と追い出される。
ということになりそうです。

でも、同じ音楽の土俵ですが、演奏の場合だと、(私の友人たちはそうですが)
レッスンを受ける音楽家が自分の意見、考えを持たず、先生の言うことだけを、学んで
帰るということは、ありえないと思うのですが。

少し話が横道にそれましたが、今回のギターは横板は約1.2ミリです。
楓のギターは、横板が1.5ミリ程度でしたから、比重の差と、硬さから1.2ミリにしました。
1.4ミリ、1.3ミリと削っていって、木の硬さとか、叩いて音の反応等を見ましたが、
1.3ミリでも少し厚く、楽器にすると鳴らない感じでした。

ましてや、2ミリというのは、考えられない数字です。

現代のギター製作家が神のように尊敬している、トーレスさんは材質の違いは無視して、
すべて横板は1.0ミリであったと、ロマニさんの本では書かれています。

では、いつ頃から2ミリの横板になったのでしょうか?
手元に、詳しく計測された、セゴビアさんが使っていた、マニエル・ラミレスさんとハウザー
さんの楽器の図面があります。それによると、ラミレスさんは 1.68ミリから2.00ミリ
ハウザーさんは1.8ミリから2.0ミリとなっています。
2ミリの横板を曲げて、波打ったところを削れば、このような数字になります。

それぞれ、1912年と1937年の楽器です。これ以前の楽器はどうだったのでしょう?
時代的には、トーレスさんより遅い、フランシスコ・ゴンザレスさんはトーレスさんとは違う
マドリッド派の作り方ですから、ビセンテ・アリアスさんの楽器の横板の厚みがわかれば
少しは、2ミリになったいきさつが分かるかもしれません。

あるいは、ロマニさんの本では木の密度に関係なく、トーレスさんの楽器はおよそ
1.0ミリとあるのが、当然すべての楽器の横板を測ったわけでもなく、
また、後期の大きくなった楽器の横板すべてがそうであったかどうかは、
疑問に思っても良いかもしれません。
ロマニさんの楽器の横板の厚みがどのくらいなのかも知らないので、わからないところ
なのですが、ロマニさんの楽器の横板の厚みが、1.0ミリだと、面白いのですが。

ネットで色んな、ギター製作に関するHPを見せていただくと、アマチュアの方なのですが、
ブーシェタイプのギターを作られた、製作記がありました。
とても、文章も面白いHPでした。
横板を曲げるところで、熱を加えて曲げても、「ばびょーん」
と板が戻ってしまうので、大変で、上下のブロックを付けて、少しは落ち着くが、
まだ、安心はできない、裏板、表板を付けてやっと、暴れるのを押さえ込んだような
文章でした。

他のアマチュアの方のブログを見せていただいても、かなり大規模な横板曲げ機や
曲げたあとの型枠等を作られているのを、不思議に見ていましたが、厚み2ミリだと
このような物が必要だろうな、と理解しました。

楽器でなく、丈夫な箱を作るのなら、2ミリでも良いと思いますが、楽器ですので
楽器が箱として鳴ってくれなくては、困ると考えると薄いほうが良いと思われませんか?

1.2ミリ、1.3ミリだと、簡単に曲がります。ということは、振動もしてくれると
言うことに繋がると思います。

ここで、また私の専門分野のガンバの話です。
ヴィオラ・ダ・ガンバのガンバはサッカーで有名になりましたが、「ガンバ大阪」のガンバと同じで
イタリア語の足、膝という意味です。小さな楽器でも足で挟んで(膝で挟んで)弾きます。

そうすると、良く鳴っている楽器は足に楽器の振動が伝わります。
あまり鳴っていない楽器は、当然横板は振動していないので、足には振動は
伝わってきません。
表板だけでなく、裏板も、横板も鳴っているガンバは良い楽器です。

(たまたま、4月22日に、アンサンブル・シュシュの演奏会がありました。メンバーの
ひとり、久保田さんが、リュートもガンバも作られているのですが、ギターの横板が
2ミリもあると話すと、1.6ミリほどのトレブルガンバの横板でも曲げるときに折れるから
2ミリもあったら、曲げるのは大変だな、と話されていました。ギター以外の製作家の
普通の反応だと思います。)


同じように、横板を1,2,1.3ミリで作ってるギターは、横板も振動しています。
今回の楽器もそうです。表板も、横板も、裏板も鳴ってくれています。

それは、私が作ったギターだからというのでなく、横板が1.2ミリ程度にすると
どんな楽器でも鳴ると思います。(ライニングやバスバーの問題はありますが)

逆に私の楽器を、他は同じ条件にして、横板だけを2ミリにすると、びっくりするほど
鳴らない楽器になると考えています。

裏板については、本に書かれたことから、考えるしかないのですが、あのハウザーさんの
楽器でも、2.4ミリから2.7ミリ。
アグアドさんで2.0ミリ、ブーシェさんで2.1ミリ、ロマニさんで2.0から2.3ミリ
と、ちょっと薄いかな?という程度で、これなら,鳴りそうな厚みに思えるのですが。

横板の2ミリ、面積も小さく、曲げて物凄く強度の出ている、横板に比べて、いくらアンダーバー
を付けても、裏板は薄すぎて、弱いように思います。それは、他の楽器、例えば、ヴァイオリンとかチェロ
ヴァイオラ・ダ・ガンバ等の楽器を作っているとそう感じます。

この他の楽器から見ると、アンバランスなところが、
モダンスペインギターの音を作っているのでしょうか?

また 長くなってしまいましたが、もう少し今回のギターについて書かせていただきますので
よろしくお願いします。 





  1. 2012/04/26(木) 02:30:53|
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コメント

ネックの話・・とか 横板の話・・・いろいろと感じることが
おおいのですが、自分はその専門ではないので 的確には
話せません。
ネックのかたさ・・というか振動の癖 が楽器の個性にかなりふかく
関わっている、、黒檀?で巻いてあるネックの楽器の独特の響きもあるような気がします。
横板裏板、原則的には楓が好みなのですが、私のパノルモは
ハカランダなのに ハカランダの音がしない・・しかしハカランダでないと
出ないなにかはあるような気がする、、その正反対がすこしはやっている ワッフルギターかもですね。
とても率直にいって あの音を聞くと ほんとうに薄汚いひどい音色。。それ以前の楽器ともいえない音だと感じるのです。

あの音は聞きたくないな・・

妖艶な音色・・これは偏に 演奏家の責任です。
自分ができないことは楽器の責任にしてしまう、、演奏家の性ですね。
  1. URL |
  2. 2012/04/29(日) 01:49:04 |
  3. CBOTIN #ArGM.iJY
  4. [ 編集 ]

CABOTIN さんコメントありがとうございます。

私なんかよりはるかに、長い時間ギターに携わってこられて、
沢山の楽器を弾いてこられたので、
貴重な意見として聞かせていただいています。

ネックについては、19世紀ギターの製作家に比べると、
モダンギターの製作家はあまり、選択肢もなく、考えていないように
思えます。

何度かクリスマスコンサートで使っていただいた、ルネサンスリュートは
普通使わない、比重の重い国産の楓をネックに使っています。
その当時は(20年前?)ネックの支えが、音の立ち上がり、延達性
に影響があると思って、楽器が重くなるかもしれないけど、重いしっかりした
ネックにしました。リュートは一般的には、軽い松でネックを作り、それに
楓などの木を薄くして巻いています。強度と軽くするためです。
でも、私は弦の振動をしっかり支えるほうが良いと思って
国産楓のネックにしました。

それは、私がリュートを作り始めた頃、10コースのリュートが、
大は小を兼ねるとばかりに、沢山作られていました。
その低音弦は、少しでも弦長を長くしようと、
ベースライダー方式や、テオルボ式の
デザインが多かったのです。

でも、結局弦長を延ばすより、しっかり支えたほうが、低音らしい音がすると、
イエペス氏考案の10弦のように、
10コースが指板に載る形が一般的になりました。

ネックも松で作ったネックに楓等の薄い板を巻く方式だけでなく、
松のネックの芯に楓を入れたり、逆に楓のネックに、
芯を松にするとかの方法も取られていました。
軽くて、丈夫なネックにする工夫だったのですが、当然音も違います。
リュート製作家は、自分が考える音にするためにも、いろんなネックの構造にしていたと思います。(もちろん、音のことは考えていない製作家もいましたが)

19世紀ギターでも、松に黒檀の薄い板を張ったネックは、松のネックの
音がするように思います。でも、これは好みの問題の範囲でしょうか。

あと、ハカランダでなければ出ない音があるから、ハカランダを使っているのが、普通でしょうが、どうも最近はハカランダで作ると、値段が高く設定できるから
使っているように思えるときがあります。あくまで、私の感想ですが。

大阪のヴァイオリン屋さんが持っている、100年ほど前のスペインギターも
ハカランダを使っているのですが、色も薄くなって、雰囲気はハカランダの音なのですが、楓のようなと言えば言いすぎでしょうが、不思議な音がしているギターがあります。
楓でも経年変化は50年がピークという人もいますので、ハカランダは経年変化は何年くらいで来るのでしょうか?19世紀ギターに比べて、薄く軽く作っているギターなので、経年変化のピークを過ぎ、板としての寿命が終わりに近づいているような感じの音でもあるのです。特に低音はピークを過ぎた音です。

パノルモは200年近く経ちますから、どうなんでしょう?
ハカランダも含水率が下がり、セルロースの結晶化が進むと、違う木のような音がするのでしょうか?
  1. URL |
  2. 2012/04/30(月) 00:23:39 |
  3. kogakki #-
  4. [ 編集 ]

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プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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