古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

新しいギター ② 表板について

今回の楽器の表板は、35年以上寝かした材料(ドイツの佐藤さんから譲ってもらった物で、
実際はそれ以上寝かしていると思います)を使っています。

表板については、むしろこれが一般的だと思います。

今まで私が作ったギターは、普通ではない事なのですが、100年以上弾きこまれた
名器のピアノの響板を使っていることが多かったのです。
120年ほど前に作られたベヒシュタイインとか、ドイツで一番古いメーカーとされている
シードマイヤーの100年以上弾きこまれたピアノの響板とか。

これは、私が作ったギターは、一台目からいつも出来てすぐ、私が尊敬するギタリストの西垣正信さん
が演奏会で使ってくださいました。そして、その感想は「出来たばかりなのに、何十年か弾いているような
感じ。とても弾きやすい」と言ってくださいました。(表板は普通に30年ほど寝かした材料で、
この頃はまだ日に干していません)

使えるギターだから、プロが仕事として演奏する場で使っていただいたと思っています。

そして、西垣さんは私が沢山見てきた、オリジナルのパノルモのなかでも、
最高の(私は奇跡のパノルモと呼んでいます)パノルモや、ギターだけでなく楽器の中でも
最高の楽器と思っています、コッフのギターなどを使われています。

その西垣さんが「とても良く出来ている楽器です。でも、後、オリジナル楽器にあるような
妖艶さ というものが加われば、さらに良いのですが」と言われるのです。

でも、この妖艶さというのは、いくら頑張っても作れません。唯一、作る方法は100年以上
それも、上手な人に弾きこまれた、名器のピアノ響板を使うしかないと考えました。
名器でなければ、下手な人が使っていた可能性があります。また、年数がたっていても
使われていなかった可能性もあります。
その点、名器のピアノだと、物凄く値段も高い楽器ですし、下手な素人が弾いていないと考えたのです。

これは、ヴァイオリンの神様のところで書かせていただいたと思うのですが、
ストラッドが良い楽器になったのは、ストラッド自身の素晴らしい楽器とその楽器を弾き込んで来た、
ヴァイオリニストの両方の力だと思っています。

同じように、ピアノでも良いコンデション(湿度とかも)で弾きこんだ楽器の響板を使わせていただく
しか方法は無いと考えました。
トーレスさんの本を読んで、ゴメス・ラミレスさんが同じように、使い込まれたピアノの響板を
使っていたのを知る、3年ほど前の事です。

その結果は、出来たばかりで、100年以上弾きこんだ音がしましたし、妖艶さというものも出ました。

でも、今回はピアノの名器とそれらを弾き込んで来たピアニストの力を借りずに、作りました。
35年以上、日本の気候に慣らして、3年以上日に干したので、太陽の力は借りましたが。

ここで同じような、経験がありましたので、書かせていただきます。

10年近く前の事ですが、長く付き合せていただいている、プロのガンバ奏者からトレブルガンバ
の製作依頼がありました。最高の楽器を作ろうと、最高の材料を使って楽器を作りました。
その材料とは、35年ほど前に、「150年以上寝かせている、ヴァイオリンの表板があるが
買わないか?」という話があったのです。材質自体はそんなに良くは無いのですが、
鋸で切っていなくて、割った材料で100年以上は経っていると思い、かなり高かったのですが、
買いました。

その材料を使ったのです。

たまたま出来てすぐに、市の文化祭のような催しで、大きなホールで演奏をされました。
同じ頃、オリジナルのバスガンバを手に入れられたので、バスガンバはオリジナル、
トレブルガンバは私の新作でした。
私のガンバは、大きなホールの最後列でもとても大きな音で聞こえました。
やはり、150年以上は経っていたようです。

でも、この楽器でも出来てすぐに良く鳴っていましたが、弾きこまれた音はしていません。
150年は経っている音の立ち上がり、延達性はあるのですが。

こんな経験があって、古い名器のピアノ響板を使うことを考え付いたのです。
こんなことを考えるギター製作家はいないだろうと思っていたら、私の一番好きな
製作家のゴメス・ラミレスさんが同じ事を考えていたようです。

ゴメス・ラミレスさんはスペイン人ですが、パリでギターを作れらていて、20世紀はじめの
フランスの香りがする楽器を作られていました。
彼の楽器を好きになったのは、最も好きなギタリスト、イダ・プレスティさんが使っていたから
。そして、彼女の演奏も好きですが、LPで聞く彼女の音が好きだったのです。

彼女はご主人のラゴヤさんと同じように、ブーシェさんの楽器を使っていたと言われますが、
録音の音を聞くと、違うように感じます。私にはプレスティさんの音は、ゴメスさんの音のように
感じるのです。そして、その音が好きでした。芯のある、骨のあるというか、骨太い音で、
骨太い音楽、決してスペインの音でないその音、音楽が好きでした。

こんなことを感じたり、思ったりするのは、ギターと少し距離を置いて、そして仕事で
次々ギターを作らないといけない環境になかったからかもしれません。

古くからの、友人で有名なギター製作家は、何十年と材料を寝かせているのですが、
箪笥の中で、もちろん日にも当てず、工房の中で一番温度湿度の変化の無い所で、
室内の外気にも当てずに保管されていました。表板の変色などが無いように
考慮されていたようです。

私は、夏は暑く、梅雨は湿度が高く、冬は寒くて隙間風のあるような、日本の気候
そのものの場所に30年以上寝かせています。ヨーロッパの木が日本の気候に慣れる事が
一番大事だと考えていました。

今回の楽器は、ギターとして初めて北海道に行きます。
古いピアノの響板を使って、何かトラブルがあってもいけない、と考えたことも
考えのひとつですが、このブログで今までの考えをまとめさせていただいて、
自分の考え、設計で作るほうが、今の段階でベストではないかと思ったのです。

音のまろやかさ、音の霧のようなきめ細かさ、特に1弦開放弦の、音の丸さ、全弦全音が
きちっと鳴ってくれること等。そして、どんな小さな力で弾いても鳴ってくれること。
今回の紀伊国屋さんでの演奏も、田中さんは普段の3割程度の力で弾かれていたそうです。
そんなに大きなな会場ではないとは言え、大きな本屋さんの一角です。
結構雑音もするところで後ろで聞いていた人には充分音が届いていたようです。
むしろ、横で弾いている私には少し小さく感じました。

このギターは、私の考えが間違っていなかったことを実際の楽器で示してくれました。

でも、弾きこまれた音はしていません。これも、普通の楽器よりかなり早いスピードで
弾きこまれた音は、表板の質量、楽器の軽さ、反応の良さなどからしてくれると思っています。

表板についても、色々書かせていただきましたが、つくづく、私が今までギターだけを作って
来ていたら、こんなことは分からなかっただろうな?と思いました。

いろんな楽器を作ってきて、いろんな音楽を聴いてきて、沢山の音楽家と付き合せて頂いた
おかげだと思っています。

このブログを読んで下さっている、皆様のおかげでいろんな考えをまとめさせていただいています。
これからも、よろしくお願いします。











  1. 2012/04/19(木) 11:16:55|
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プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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