古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

新しいギター ① 木ペグについて

今回のギターで、一見して分かる、一般的なギターとの違う箇所です。

製作を依頼された、札幌のプロギタリスト 田中薫さんから、「軽く楽器が鳴るように
そして、楽器が鳴っているという感触が伝わるので、糸巻きを木ペグにして欲しい」と依頼がありました。

楽器として、木ペグのほうが優れていることは、明らかなので、一番の問題点、操作性さえ
解決できれば、採用したい方式と私も考えていました。後は、一般的でないので使っている人が、
何故「木ペグ使っているのですか?」とよく聞かれると思うので、
そのたびに答える必要があるということくらいが問題でしょうか?

操作性の問題もあって、田中さんには手元にあった、初心者用のリュートを使っていただいて、
実際に木ペグを使っていただきました。そして、その結果は調弦に問題はありません、ということでした
ので、いよいよ、木ペグ採用となりました。

よく調整された木ペグは、バロックリュートでは24本あっても問題なく調弦出来ています。
リュートの調弦が難しいといわれるのは、昔はガット弦で、少しの温度、湿度の変化に
影響を受けるので、難しかったのです。今は、普通にナイロン弦、フロロカーボン弦、
アキュラ社のナイルガットなどが使われているので、湿度の影響はほとんどありませんので、
調弦は楽になりました。

お勧めできない、私の実例ですが、リュートの演奏を頼まれて、練習する時間がなく
本番、ステージに立ってケースからリュートを取り出して、調弦も狂っていなかったので、
そのまま演奏したことが何度かありました。もちろん、何ヶ月もケースに入ったままです。
そういえば、今までほとんどステージ上で調弦したことがなかったですね。
今回の札幌でもそうでしたが。

あと問題となるのは、リュートに比べて弦のテンションが大きいので、どうかということですが、
もっとテンションの大きいバスガンバでも、何の問題もありません。
私自身、ガンバを沢山作っていますので、木ペグの調整は沢山やっています。
ギターのテンションだと、どの程度の摩擦にすれば良いのか分かっていますから、
問題はなさそうです。

もし、ギターがスチール弦を張っていれば、ギヤーの細かい調弦が出来るペグでないと、
難しいと思いますが、クラッシクギターなのでナイロン弦ですので、問題はありません。

話は変わりますが、今回 札幌でもう一人たずねたい方がいました。

かなり以前、アルペジオーネを弾きたいので
作りたいという方が、札幌にいらっしゃいました。
その作られた楽器を見せていただくのも、楽しみにしていました。

見せていただくと、とても良い楽器でした。
ですが、ガット弦はすぐに切れると言う事で、スチール弦を張ってられたのです。
実際に調弦すると、もちろん木ペグですので微調整が大変でした。
やはり、アジャスターが必要だな、と感じました。
なかなか、スチール弦のアルペジオーネを調弦する機会はないので、良い経験をさせていただきました。
(解決法として、ヴァイオリン用のアジャスターとか、代用弦の話はさせていただいていますので。)

ヴァイオリン属、ガンバ属と違って、片持ちの構造なので、最初は馴染みのよい柘植を考えていたのですが、
弦の支え、強度の点からローズウッドのペグにしました。本体もローズウッドなので、見た目にも合います。
(実はフラメンコ用の黒檀のペグも取り寄せていて、試したのですが、固くてもろい黒檀のペグでは、
しなやかで、バネのある私の楽器には合いませんでした)

ペグの直径も、かなり考えました。
細くすれば、微調整が可能なのですが、弦の支えが弱くなり、音も弱くなります。
約7ミリとしましたが、例えばこれを6ミリとすると(音的には限界だと思います)
6ミリだと、円周は18.84ミリ、7ミリだと21.98ミリ
沢山ですが、30分の一を回すと(角度にして12度)6ミリで0.628ミリ
7ミリで0.733ミリ その差、0.105ミリです。

この程度の差なら、音の事を考えて7ミリ程度が良いのでは?と考えました。


次に今でも、フラメンコギターなどは木ペグが使われますし、19世紀初頭の19世紀ギターでも
木ペグは使われていました。もちろん、ルネサンスギター、バロックギターは木ペグです。

そしてこれらの、配置を見ると例外なく下図の A のようになっています。

           img634.jpg

1弦、6弦は逆の方向に巻くか、無理やり同じ方向に巻いているのが、一般的です。

それを、C のように、1,6弦のペグを1ミリだけ外に、3,4弦のペグを1ミリだけ
内側にすると、同じ方向に回す事が出来、演奏会本番で間違う事が少なくなるのです。
そして、上から見た弦の角度もあまり変わりません。
もちろん、機械式の糸巻きに比べて、横から見た角度が変わらないのは、
以前のブログで書かせていただいたとおりです。

この事も、今回の楽器は1弦の開放弦から6弦の12フレットまでの、ほとんどの弦が同じように
鳴ることのひとつの原因ではないかと思います。

   UNI_0937.jpg

デザイン的な処理として、ネックに近いペグボックスは、かなり角を取って
上の部分が大きく見えるようにしています。

それとこれは、田中さんにお伝えしていなかったのですが、
ペグも、かなり改造しています。

  img637.jpg


左側の図のように、取り寄せたペグは、つまみの部分が狭く、厚いのでしっかり
つまむ事が出来ませんでした。
既製品のペグではよくある事なのですが、これでは調弦が大変です。
そこで、つまむ部分のアールを大きくして、つまむ場所を広げ、挟む部分も
薄くして、力が入るようにしました。
そして、角も取りすぎると、力が入らないので、残しているのですが、残り過ぎていると
手が痛いので、私の感触ですが、ちょうど良いように仕上げています。
また表面も、あまり磨くと、指がすべるので、すこし粗く仕上げています。
さらに、塗装も厚くすると、本番で汗をかいた時にすべるので、ほんの少しだけ
セラックニスで塗装しています。

このペグに関しては、普段ガンバやリュートでペグの調整している私でなければ
出来ないことだと思って、今までの経験を生かして、調整しました。

音がいいけど、弾きにくい楽器。
音はいいけど、壊れやすい楽器。

というのは、使うほうとしては安心して使えない代物です。

木ペグひとつにも、製作期間が短くても手間と時間をかけていますので。


     




  1. 2012/04/18(水) 01:16:42|
  2. ギター
  3. | コメント:1
<<新しいギター ② 表板について | ホーム | 新しいギターが出来ました。>>

コメント

おおっ!

ペグのつまみ形にも細かい工夫があったのですね!!
さすが平山さんですね。
お陰様で、合わせやすいです。
続きの記事を楽しみにしてます・・!
  1. URL |
  2. 2012/04/18(水) 11:00:49 |
  3. tanaka #-
  4. [ 編集 ]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

最新記事

最新コメント

月別の記事です

カテゴリ

ギター (338)
演奏会 (10)
その他 (21)

私へのメールはこちらから

名前:
メール:
件名:
本文:

訪れてくださった方々

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR