古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

楽器の経年変化、弾きこみについて

コメントで、楽器の経年変化や、弾きこみについていただいたので、
少しだけ、私の考えを書かせていただきます。

楽器の経年変化ですが、私の若い頃から、ヴァイオリンや、ギターの表板に使われる、
ドイツ松は切ってから250年が最高の強度になり、その後250年かかって、
切ったときの強度に戻ると言われていました。

ちょうどそれは、ヴァイオリンの最も輝く年代とほぼ一致します。
今は、ストラッド、デル・ジュスが最高とされますが、19世紀の頃は
好みも違うのでしょうが、むしろシュタイナーのほうが高値だったようです。
そして、アマティもストラッド以上に人気があったようです。

それは、その楽器がちょうど250年を迎える頃に、もっとも評価が高くなるということで、
経年変化で表面板の木の強度がMAXになる時期に合っています。

40年ほど前ですが、大阪の楽器屋さんで、楽器関係の人間が集まって話していたことがあります。
その当時、ストラッドは1億を越えていましたが、デル・ジュスは2000万円から3000万円
だったと思います。
その時、一人の楽器屋さんが「もしお金があって、いまデル・ジュスを買っていたら、40年50年経つと
250年のピークが来るから、ストラッドよりもっと高く売れるかもしれない」という話が出ました。
確かに、今ではデル・ジュスは7億くらいはしているようです。

何故、このようなことを書くかといいますと、
前回のブログでさんざんストラッドの楽器が改造されたと書きました。
それは、弦長が伸びて、弦高が上がり、楽器に圧力がどんどん増えていったことになります。

ストラッドの楽器のひとつの幸運は、ドイツ松の経年変化によって木に強度が上がるにつれ、
楽器に対する圧力、が増えていったということです。

ですから、今ストラッドモデルで作っている人でも、ストラッドと同じ厚みで作ると、
木の経年変化による強度が出ていないので、壊れる事を心配して、
分厚い、重い楽器を作っているのだと思います。

ですから、これから何年、何百年持つ楽器を作るということでなければ、
古い家具とか、建具を探して、200年くらい経った、ドイツ松を探せば、
ストラッドを同じ厚みで楽器を作れるかもしれません。

特に、ストラッドは、冬目のしっかりした表板を好んで使っていました。
このことも、すでに250年は過ぎている、彼の楽器がまだ、充分
現役で使われる要素かもしれません。
アマティはストラッドと違って、細かい表板を好んだようです。

ちなみに、同じ楽器に使われる、楓は経年変化のピークが50年だという話を聞いたことがあります。
某有名ヴァイオリニストの持っている、ストラッドは表板がオリジナルで、横板は違うという話を
聞いたことがありますが、無理して経年変化のピークをはるかに過ぎた楓なら、オリジナルでなくても
良いのでは?と思ったことがあります。

経年変化といえば、日本の桧は世界的に見ても、脅威の木です。
日本の楓は、学者によって差はありますが、一般的に切ってから、200年から300年で強度の
ピークを迎えます。それは、切った時の強度の1.3倍から1.4倍の曲げ強度、圧縮強度になるそうです。
そして、1000年経って、切った時の強度に戻ると言われています。

ですから、法隆寺の五重の塔が存在するのです。
逆に欅は、切った時の強度は桧の2倍くらいあるのですが、200年から300年経つと
桧のほうが強度は上がるそうです。

次に弾きこみについてですが、私は弾きこみによって音は良くなると思っています。
それは、わずか1時間でも起きます。

40年以上も前の話ですが、私が習っていた植木先生はとても耳が良い先生で、
もちろん音も綺麗でした。
レッスンの時に、先生が使っているハウザー2世を私が借りて弾いて、
私の楽器を先生が弾くのです。
レッスンのわずか1時間で私の楽器の音はどんどん良くなっていくのです。
その代わり、私が弾いたハウザーは音がどんどん悪くなっていくのです。
それは、多分誰の耳にでも、その差が分かるほどだったと思います。

ストラッドのもうひとつの幸運は、名人が作った名器だったので、名手がストラッドの
楽器を弾き続けた事だと思います。

でも、たまにオークションでストラッドが売りに出て、落札後そんなに日が経たずに
その楽器が売りに出たことがあります。
それは、ストラッドでもあまり弾かれず、弾いてもそんなに上手な人が弾かなかった楽器
だったと思います。

管楽器でも、今から30年ほど前だったと思うのですが、フランスのお城でトラベルソの名器が
発見されたというニュースがありました。
でも、それらの楽器は全然使われた形跡がなかったそうです。そして、その音はつい最近作った楽器の音、
今作られている、コピー楽器の音と同じだったという話を聞きました。

ついでに、もうひとつフルートの話です。
よく、楽器の修理を頼まれる、(フルートの修理までしているのか!と言われそうですが、
木で作られたフルートの象牙部分の修理です)
オーケストラのフルート奏者で、19世紀初頭の 木管のフルートの名器
「ルイ・リオット」をモダンオケでも使っていて(1820年頃に A = 442.3 
のピッチも使われていて、当時の楽器そのままでオケで使えるのです)、
梅雨などでコンディションが悪い時は、
中学生が使うような、真鍮の安いフルートを使っているのです。
テクニックも音楽性も日本ではトップの人なので、横で純金のフルートとか使っていても、
安物フルートで充分勝っているのです。
これも、彼がこの安いフルートを吹き込んできたからだと思います。

ついでに、ギターの話です。

私が古いピアノの響板を使ったギターを、トーレスやらハウザーやロマニと言った名器を山ほど持っている
コレクターが弾いた時、「これだったら、トーレスはいらないな」と彼が言いました。

私は、皆さんがトーレスの音と思っている音は、半分以上経年変化で出来た音だと思っています。
作られた時は、今のような音は絶対していないはずです。
それは、150年経ったモダンギターはトーレスしかないので、それがトーレスの音なのか、
経年変化で引き込まれた音なのか分からないのです。ギターしか見ていない人にとっては。
でも、ヴァイオリンや数は少ないですが、ガンバなどで古い楽器を見ていると、
その音が、その楽器の音なのか、経年変化プラス弾き込まれた音なのか分かります。

ロマニさんがトーレスの本に書いている、ゴメス・ラミレスが古いピアノの響板を使った
数台のギター云々という話がありますが、日本にあるゴメス・ラミレスの楽器で明らかに、
この古いピアノ響板を使ったと思われる楽器があります。

弾いてみると、20世紀の音はしていませんでした。明らかに200年は経っている音でした。
(私はトーレスさんの本を読む以前から、古いピアノの響板でギターを作っていましたが。)

チェンバロという楽器は、演奏者に音が返ってこない構造の楽器なので、タッチの悪い
演奏者がいらっしゃいます。(ここだけの話ですが)
出来たときは、こんな音ではなかっただろうと行く楽器も良く見かけます。

良い音で、大きな音で楽器を弾いてください。
楽器を作る立場の人間としては、高く楽器を買ってくれる人より、
よく楽器を弾いてくれる人がうれしいのです。

ギターを作らないと、とあせっているので、思いつくままに書かせていただきました。
また時間を見つけて、この問題は書かせていただこうかな?と思っています。







  1. 2012/04/06(金) 22:05:26|
  2. ギター
  3. | コメント:0
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kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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