古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

読み物 < 神様はつらいよ > その① ヴァイオリンの神様

 このブログを読んでいただいているのは、ギター関係の方が多いと思います。

ヴァイオリンのことについてご存知のことも多いとは思いますが、
あまり知られていないヴァイオリンのことについて書かせていただきます。
それは、ヴァイオリンの神様とされている、ストラディバリさんのことです。

現在、私たちがストラディバリが作ったとされるヴァイオリンは
彼が作ったヴァイオリンとはかなり違っているのです。

(よくストラディバリウスと言われますが、これはラテン語読みで、
本名は アントニオ・ストラディバリです。
当時ラテン語で読むのがはやっていたようで、ストラディバリもそうしたようです。
そのほうがかっこ良かったのでしょう。)

彼が作っていたヴァイオリンは今で言う、バロックヴァイオリンです。
時代からいって、20世紀風のモダンヴァイオリンを作ったとは考えないほうが自然でしょう。

彼が作ったバロックヴァイオリンをどのようにして、
今彼が作ったとされるヴァイオリンに改造されたか、少し簡単に書いてみましょう。

まず、ストラッドさんが(ヴァイオリン関係者はストラディバリ、
ストラディバリウスと呼ぶのは、少し長いので よくストラッドと呼んでいますので、
これからはストラッドと呼ばせていただきます)作ったヴァイオリンをまず、
ネックをペグボックスの下で切って、新しく作った少し長いネックを取り付けます。
もちろんストラッドさんが作ったものではありません。
ネックを長くして、テンションを上げるためです。

さらにこれだけでは、足らずにネックの角度をつけて、
(そのためには、当然一度ネックを本体から外して、もう一度ネックを作り替えます)
表板にかかる圧力を増やしました。

そのために、駒は高くしないといけないので、当然ストラッドさんの作った駒は外して、
違う人が作った駒をつけます。

こうすると、表板にかかる圧力は大きくなり、表板が割れる恐れもあります。
そこで、バスバーを大きいものに替えます。ストラッドのものは、高さ6,7ミリです。
現在のバスバーは15ミリ程度とかなり高くなっています。
そして、幅も長さも大きくなっています。

そして、私もやっている、いも継ぎをやめ、ほぞを組んでネックを取り付けます。
そのためには、ストラッドさんが作った、ヴァイオリン本体にほぞを組むために、
ストラッドさんオリジナルのボディを切ってほぞの加工をします。

この状態でも、かなり楽器はストラッドさんが作った姿とは変わっています。

さらに、大きな見た目の変化があります。それは、指板が長くなったのです。
バロック時代はそんなにハイポジションは使いませんでしたが、時代が進むにつれて、
ヴァイオリンのテクニックも進んで、ハイポジションを使うようになると,
指板が短いと音が足りないので、長くなりました。

そして、弦が20世紀半ばに弦がガットから、スティールに代わったことから、
指板が軽いものから、ムクの黒檀になりました。
これは、見た目は変わらないのですが、楽器に与える影響はとても大きいものでした。
特にテンションはものすごく上がりました。

また、スティール弦を支えるために、テルピース(弦を留めている、
三味線の撥のような形をしたものです)が黒檀に、また形も変わり、
スティール弦は調整が微妙なので、アジャスターが付けられました。
また、もうひとつ、見た目にとても変わる大きなものがヴァイオリンに付きます。
それは、顎当て、そして肩当です。

肩当は使っていない人もいると思いますが、
顎当てはモダンヴァイオリンだと使っていない人はいません。

改造、修理のたびに何度も塗装は塗り替えられたり、上から塗り足したりされています。
現在、ストラッド、ガルネリクラスの楽器で、オリジナルの塗装が残っている楽器は、
大阪音大音楽博物館のガルネリが作ったピッコロヴァイオリンだけです。
(ピッコロヴァイオリンは後の時代には使われなかったので、そのまま残りました。
同じ大阪音大楽器博物館のストラッドのピッコロヴァイオリンは
モダン分数ヴァイオリンに改造されています。もちろんニスはオリジナルではありません。

今ヴァイオリンを作っている人は、ストラッド本人が作った楽器を散々、
後の時代に改造された慣れの果ての楽器を、ストラッドが作った楽器として、
その形で作っているのです。

最近だと、バロック音楽の演奏会も多く開かれます。
当時のオリジナルの楽器を使った演奏会、またそれのコピー楽器を使った演奏会も多くなりました。
ストラッドさんが作ったヴァイオリンを見ようと思えば、そんな演奏会に行くと見ることが出来ます。


長々と書いてしまって、分かりにくくなってしまいました。
ギターに置き換えると、分かりやすいかな?と思って、ギターに置き換えて書いてみました。

貴重な トーレスさんの楽器をまず音を大きくするために、ネックを切って、
新しく作ったネックで、弦長を伸ばします。
さらに、ネックの角度を付け音を大きくするために、駒も高くします。
当然トーレスさんが作った駒は、取り外します。

こうすると、表板がもたないので、バスバーを大きく長いものに取り替えます。
そして、指板を長くします。

極めつけは、弦をガット弦から(ナイロン弦から)スティール弦に替えられていることです。
さらに、演奏しやすくするために、ギターレストのようなものをギター本体に取り付けます。
このギターレストのようなものが取り付いた状態の楽器を、
トーレスさんが作ったギターだと言っているようなものです。
もちろん、何度も塗装は塗り替えられています。 

実際のストラッドさんのヴァイオリンはもっと改造されていますが。
なぜ、このように改造されまくって、形も変えられた楽器が神様ストラッドさんが
作った楽器と世間では言われているのでしょうか?

それは、狭いヴァイオリンの世界、それもモダンヴァイオリンしかないと思っている
ヴァイオリン専門家が多いからでしょうか。

ヴァイオリンに付いては本当に沢山の本が出版されています。
これらの本のほとんどが、改造された現在の形のヴァイオリンを
ストラッドが作ったヴァイオリンとして書かれています。

少しは後の時代に改造されたと書かれてはいますが、あまり改造については触れていないようです。
そして、300年ほど前にヴァイオリンが生まれてから、
その姿を変えていない唯一の楽器だと説明されています。

現存している最古のヴァイオリンは1564年に作られた、ニコロ・アマティのものです。
450年ほど前のものです。

そして、ヴァイオリンはそれまで無かった姿の楽器が突如完璧な姿で現れたと表現されています。
でも、それまでにリラ・ダ・ブラチォやフイーデルなど、ヴァイオリンに繋がるデザインの楽器はありました。

これらの楽器が少しずつ形を変え、ヴァイオリンの形になったと思います。
モダンヴァイオリンの専門家は、中世、ルネサンスの時代の楽器は興味がないのでしょう。
私にはこのヴァイオリンが生まれた頃の楽器、またストラッドが作ったオリジナルの形のほうが
はるかに美しく見えます。今のモダンヴァイオリンはどう見ても美しく見えません。

神様と奉って、本当は大事にされていないので、
「神様はつらいよ」とタイトルを付けさせていただきました。
次は、ギターの神様トーレスさんの話です。


  1. 2012/04/04(水) 22:57:59|
  2. ギター
  3. | コメント:2
<<楽器の経年変化、弾きこみについて | ホーム | やっと、ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラが出来ました。>>

コメント

ストラッドの場合、オリジナルを別物といえるほど改造してでも使い続けるメリットがあったと考えるべきなのでしょうね。それは音質なのか、骨董的価値なのかはわかりませんが、前者と考えるのが妥当でしょう。後者なら改造の必要はないですから。所有者の一生を超え、何代も使いこまれた名器は妙なる音がさらに素晴らしくなる???

常々思うのは、管楽器も含め、楽器は使いこむほど音がよくなる、もしくは「鳴り」がよくなる、というのはほんとうだろうか、ということです。使いこめば分子構造が変わってくるという話を読んだこともありますけれど、なんとなくほんとかなあ、と思います。感覚的にはありそうな話だけれども、じゃあ、「音のよさ」「鳴る」というのをどう定義して、どうはかるのか。寿命の問題もあります。

翻って、トーレスのギターは「改造」されようもないでしょうから(するとしても修理?)、こちらははたして経年的に音がよくなってきているものでしょうか。次回以降が楽しみです。

  1. URL |
  2. 2012/04/05(木) 07:49:21 |
  3. #Z08OeOVg
  4. [ 編集 ]

コメントありがとうございます。

楽器の経年変化、弾き込みについては、
いろんな考えがあると思いますが、
私の考え、あくまで私の考えですが、
ブログに書かせていただきます。
少し大きい問題なので。
  1. URL |
  2. 2012/04/06(金) 20:51:18 |
  3. kogakki #-
  4. [ 編集 ]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

最新記事

最新コメント

月別の記事です

カテゴリ

ギター (329)
演奏会 (10)
その他 (20)

私へのメールはこちらから

名前:
メール:
件名:
本文:

訪れてくださった方々

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR