古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

構造設計 ⑧ ヘッドの大きさ、形、角度など


ヘッドデザインはギター製作家のこだわりの箇所のひとつだと思います。
形については、好みもあって、音にも関係があまり無いので問題は無いと思います。
ここで問題にしたいのは、その大きさです。(と言いながら、少しは関係があるようです。
三味線はヘッドの部分から多くの音が出ると言われていますが、実感はあまり無く、
むしろ形によって音色が違うほうが実感できます。
ギターではスペインギターでよく見かけるとがったデザインはとがった音がするように感じます。
ブーシェさんのデザインだと、とがった音は出ないように思います。
ブーシェさんは音色を考えてあのデザインにしたのかな?と思うことがありました)

特に私の作る楽器はほとんど、1050グラムから1100グラムで作っています。
(一般的なモダンスペインギターは1500グラム程度です)
ヘッドを大きくするとバランスが悪くなって持ちにくいだけでなく、楽器本体も鳴りません。

19世紀ギターのパノルモのヘッドデザインは、余分な部分が無く、好きなデザインです。
でも、このデザインをモダンギターに使うと、イメージが合わないので
(19世紀ギター、それもパノルモのイメージになってしまいます)
私はなるべく小さく出来るデザインで作っています。そして、全体のバランスを取るようにしています。

私のことはさておいて、ここでまた、ギター以外の楽器、ガンバの話をさせていただきます。
ガンバは一般的にスクロール(ヘッドの渦巻き部分です)をオープンスクロールと言って、
渦巻き部分をくり抜いています。

                img621.jpg


一方、ヴァイオリン属の楽器はクローズドスクロールと言って、くり抜いてはいません。
ガンバのほうが軽く、響きのある音を出したいので、オープンスクロールにしています。
どの程度、オープンとクローズとの差があるかというと、そんなには無いのですが、
音色、響きはオープンのほうがガンバには合っているようです。

ガンバも、ヘッド部分もライオンヘッド(ライオンの頭を彫っています)とか人物の頭
(女性が多いです)を彫ったものがあります。これはスクロールに比べて
マッシブなので、音質はしっかりします。
製作依頼された方の好みで頭を彫ることもありますが、
大きさによって音色をコントロールすることあります。
(軽く響きのある楽器には小さめの、しっかりした音で作りたいときは大きめにします)

ギターも本来の設計、製作法にあった大きさのヘッドにするのが良いと考えます。
デザインを重視して、楽器本体とヘッドが合っていないような楽器も見かけます。
(音の面からです)

また、私の場合ですが、私の楽器は本体がとても軽いために、ヘッドもなるべく質量を落として、
見た目も貧弱にならない様にデザインを考えています。
そのために、下図のように外側のラインが曲線なので、ペグの入る、内側は直線にしています。
この方が、質量的に落とせて、デザイン的にも納まるのです。

               img620.jpg

ここでも、モダンギターの不思議のひとつですが、この内側が直線の楽器はほとんどありません。
ギター製作の本で、まずドリルでこの部分をくり抜くことが、書いてあるのが、
そうさせているのでしょうか?
私の知る限りではジョン・ギルバートさんの楽器だけくらいです。

次に、ヘッドの角度です。

ギターはもともと、ルネサンスギター、バロックギター、そして19世紀ギターの初期までは、
機械式のギアーでなく、ヴァイオリンや、フラメンコギターのようにペグが使われていました。
このペグ方式だと、ヘッドの上の部分に弦が載ります。今使われている、機械式の糸巻きに比べて、
弦が折れ曲がる角度が緩やかです。そして、ほとんどの弦の角度が同じです
多くのギターを比べてみると、この19世紀ギターまでのヘッドの角度とそんなに違いがなく、
モダンギターでもほぼ同じ角度のようです。(トーレスさんが同じ15度です)
ということで、私がここで問題にしたいのは、1弦の弦の角度と,3弦の角度の違いです。
弦の張りのきつい1弦が最も角度がきつく、張りのゆるい3弦の角度がゆるいのです。
            img633.jpg



なぜ、ここでこれを問題にするかと言うと、チェンバロで同じようなことがあるからです。
下図の様な、2種類のようなことが、3弦と1弦で起こっています。
               img618.jpg



ブリッジでなく、ただ、単に弦を留めているナット部分なのですが、
A のように、弦の角度が付いていない状態で、音がはっきりしていない、
なんとなく鳴っていない場合は、B のように角度を付けると、音に張りが出て、少しはっきりします。

同じようなことがギターでも、言えると思います。
もともと、ギターの弦はどのメーカーの弦でも、1弦のテンションがきつく、
3弦がゆるく作られているようです。

参考にダダリオの弦のテンションを書いておきます。(プロアルテ コンポジット ハード)
1弦 7.8kg
2弦 6.0kg
3弦 6.2kg
4弦 8.1kg
5弦 7.6kg
6弦 7.5kg

そして、私のギターの弦の角度は上の図で書いたように
1弦、6弦 25度
3弦、4弦 16度
です。

その結果、どの楽器を弾いても、1弦の張りがきつく、音もきつく、
3弦の張りが弱くてて音にも張りが無いように思います。
(楽器が鳴っている、とか鳴ってないの問題でなく)
特に3弦の7フレットから上のハイポジションではっきりした音で鳴っている楽器、
1弦、2弦と音色のあまり違わない楽器はあまり見たことが見たことがありません。

これを解決する方法のヒントがチェンバロでの場合にあります。
(もちろん、完全に解決するわけではありませんが)

それは、下図のように1弦と3弦を張り替えることです
お金もかからず、少しの手間で結果が分かります。
            
                  img623.jpg
   

楽器にもよりますが、私が試した楽器では、1弦の張りが緩やかになり、
音が延びるように感じました。そして、3弦の音が少しはっきりします。
そして弾いた手ごたえが増えるように感じます。今まで、試した楽器では全て良い結果でした。

でも、あまり良い楽器ではなく、3弦はかなり使い物にならない楽器が
良くなると言うことではないのかな?
とも思っていましたが、今回、九州でとても良い楽器で試させていただきました。
1弦は少し硬めで、3弦は少しボリュームは小さいのですが、比較的音色はしっかりした、
ドイツの名器です。この楽器の1弦、3弦を張り替えると、明らかに1弦の硬さが取れ、
音が延びて歌うようになり、3弦は音がはっきりして、ボリュームもアップしました。
何より、1弦、2弦、3弦の音色の違いがかなり無くなったのです。
良くない楽器も、良い楽器も良い結果が出ることが分かりました。

慣れるのに時間がかかるかもしれませんが、4,5,6弦と同じ配置なので、
慣れれば、使い勝手は良いと思います。
4,5,6弦は弦のテンションと角度がよい方向なので通常の張り方で良いわけです。

(試していただいた楽器にはなれるまで、つまみの部分に1弦、3弦と
書いたこと紙を貼ったこともありました。)

そして、今、九州にオペラの仕事で来ていますが、福岡にギターの専門店があり、
沢山のギターを見せていただきました。百万とか、うん百万とかの楽器も。
でもそのほとんどの楽器が、1弦と2弦3弦の音色の違い、響きの違うものでした。
ギターはそんなもの、と言うことで作っているのでしょうか?と思うほど。

でも、これでは、例えば1弦の開放弦のミから2弦6フレットのファに移ったときに音色の違いから、
音楽が繋がりません。まして、3弦の10フレットなどに移ると、もう不可能です。
(今までも幾つかの楽器はそこを考えて作っている楽器も見ました。
一台は岡本一郎先生のブーシェさんのギターです。1弦の開放弦のミも、
2弦5フレットのミも3弦9フレットのミもほとんど同じ音です。
岡本先生はどのポジション同じ音が出るから、とても音楽を作りやすいと話されていました。
残念ながら私が見たほかのブーシェさんの楽器はそうではありませんでしたが。)

笑い話のようですが、今まで同じようなことを山ほど経験してきました。
それは、「何を考えてこうしているの?作っているの?」と聞くと、
「何も考えていません」いう答えが返ってきたことを。
また、話がそれたようです。すみません。

今まで、1弦と3弦を逆に張っている楽器は見たことがありませんが、費用もかかりませんし、
一度試していただいても良いのでは?と思っています。

でも、私の楽器はそうしてはいません。
私の楽器は、そうしなくても、1弦2弦3弦の音色、響きが違わないように作っているから、
と言うこともあるのですが、1弦3弦を逆に張っていると、
「逆に張っているから、そんな音がする」と言われないように、同じ条件にしています。

同じようなことが、以前作った10弦ギターでもありました。
7弦まで、指板の上に載せて、8,9,10弦は番外線にしています。
その番外弦の糸巻きは重い機械式にしています。

これをバンジョーやウクレレのネジで調整の出来るペグや、
ヴァイオリンのペグのような軽いものにすれば、私の楽器は本体がかなり軽いので、
さらに鳴ることは分かっていました。
でも、条件の悪い重い機械式にしても楽器が鳴ることを見てもらいたいと考えたのです。

本体だと、およそ500グラムの違いがあります。
(一般的な楽器は1500グラム。私の楽器は1000グラム)
この軽いボディだと、普通のギターに比べて重い機械式のギアーを付けるとかなり不利になります。

そんなことをせずに、軽いペグをつけて鳴るように作ったほうが、楽で普通なのですが。
でも、わざわざそんな不利な条件で作っていると、思ってくれる方はなかなかいないだろうな、
と思いながら作ってました。



  1. 2012/03/19(月) 01:06:10|
  2. ギター
  3. | コメント:2
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コメント

おお!

やはり木ペグでお願いして良かった!と思いました。
楽しみにしてます・・!
  1. URL |
  2. 2012/03/19(月) 02:51:12 |
  3. たなか #-
  4. [ 編集 ]

たなかさん

木ペグは、バランス、楽器の鳴りを考えると、ベストなのですが、
取り扱いが難しいのが欠点です。
でも、リュートでは、バロックになると最大26弦の楽器もありますし、
ペグで特別問題は起こっていないようです。
木ペグの選択は大正解だと思います。

あと、ペグの木の種類ですが、とても馴染みが良く、スムーズに
動くのが、柘植のペグなので、重さも含めて、最も良いようにおもいます。
フラメンコや、19世紀ギターでは黒檀やローズのペグが良く用いられていますが
ガンバやリュートで使ってみて、柘植が一番かなと思います。
軸径も細くすれば、とても使いやすいと思います。

モダンギターで、木ペグという楽器はまずないでしょうから、
話題になるかもしれませんね。(一部では?)
  1. URL |
  2. 2012/03/28(水) 22:33:57 |
  3. kogakki #-
  4. [ 編集 ]

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プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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