古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

ネックの厚み、ネックの反りについて

前回のネックの話で、コメントをいただきました。

少し紛らわしいことを書いてしまったかな?と思っています。

今、ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラの仕上げで、そっちの方に頭が行っているのですが、
ブログも書いて置かないと、と思って急いでいたようです。

ネックの厚みについて、ネックがどこまで薄くなると曲がってきたり、反ってくるか?
方程式のような物があれば、と言う事でしたが、このような公式は多分無いと思いますし、
あっても、構造力学とか、応用力学、物理学といった専門家に考えていただかないと、私には分かりません。

私は、ネックの反り、曲がりの一番大きな原因は、指板とネック材の収縮率の違いによる事と考えています。
バイメタルの原理です。

ネックが起きて来る、つまり弦高が高くなるという故障だけが、(順反り)存在するのなら、
弦のテンションによる原因と考えてもいいいかもしれません。

でも、現実には逆反りも多く起きています。
クラシックギターだと、逆反りが起きても修理は大変ですが、アコーステックギターやエレキギター
だと、グラスロッドが入っていて、比較的簡単に修理というか調整が出来るので、楽器屋さん
リペアマンの所に持ち込むようです。

そして、リペアマンのお話しでは、逆反りは冬が多いと聞きます。
バイメタルの原理のネック側の材料が乾燥して、逆反りするのでしょうか?



いろんな要素を今回も考えますが、とりあえず弦のテンションを調べてみましょう。

沢山メーカーがありますが、ダダリオというメーカーはゲージだけでなくテンションも
出してくれていますので、ダダリオの弦で考えてみましょう。

まず、最も大きい アコースティックギターです。

エキストラライト 61.23キロ
ライト 75.3キロ
メディウム 85.63キロ
ヘヴィー 98,87キロ

とへヴィーになると100キロ近いテンションです。

これに比べると、エレキギターは

ライト 35,4キロ
メディウム 37.92キロ
ヘヴィー 39,41キロ
エキストラ へヴィー 40.68キロ

とアコースティックギターの半分以下です。

このエレキギターでも、ネックの反りの故障が起きているのです。

クラッシクギターでは、ダダリオのプロアルテ コンポジット ハードで 43.2キロです。

では、どの程度のネックを曲げる、起こす力が働いてるのでしょうか?

昔習ったベクトルとか力の合成ということなので、仮定や考え方がおかしい所があると思います、
気が付いた方は、どうぞ指摘してください。

ギターのテンション全てがネックを曲げる力になっていないのは、考えてみなくても分かる事ですが、
では、ギターのテンションのうちどのくらいの力が曲げる力になっているのでしょうか?ギターの弦と指板の
関係は簡単にすれば下図のように(汚い図面ですみません)なるでしょうか?
ナットや、1フレットではほとんど弦とフレットのクリアランスはゼロで、
12フレットで3ミリから4ミリくらいでしょう。

         img580.jpg


力関係の図面にしたのが3番目の図面です。(ネックが曲がるのはネックの直線部分でしょうから
図面に描いてあるように、1フレットから10フレットくらいでしょが、分かりやすいように
ナットから12フレットで考えています)

12フレットつまり弦長の半分では、一般的なギターでは325ミリです。
それに対して、12フレットで4ミリ上がっていますので、数式のように、43,2キロの弦の張力のうち
ネックを起こす力は、0.53キロつまり、500ミリリットルのペットボトルくらいでしょうか。
でも、これはナットのところで弦を留めているという仮定です。
弦の溝がぴったりで、弦のテンションをナットの所で全て受けている、という状況もあるでしょうが、
現実的には、調弦もするわけですから、ほとんど無視して良い数字だと思います。

では、弦のテンションが、ペグボックスの糸巻きを伝って、ネックを圧縮している力はどうなのでしょうか?
これは、ほとんど43.2キロそのもので考えてもいいと思います。
それに対して、ギターのネックの強度はどんな物でしょうか?

ネックの断面も、メーカーによってかなり違います。
たとえば、比較的細いネックの、ハウザーは
ネック厚 20ミリから25ミリ ネック幅 51ミリから62ミリ

ブーシェは ネック厚 23.4ミリから25,2ミリ 幅 52.5から62.5ミリ

ロマニロスはネック厚 21.5ミリから25.8ミリ 幅 52.から63.5ミリです。

ハウザーで考えて、ネックの中央部分の幅 56.5ミリ 厚さ 22.5ミリとすると
断面積は ほぼ 9.5平方センチです。マホガニーの圧縮強度は 490キロ/平方センチ
なので、9.5x490=4630キロになります。

それに、指板の黒檀もフレットで溝とフレットが合っていない場合もあるので、7ミリ程度の
指板部分が圧縮に対抗するとして、 56.5x790=3124キロ(黒檀の圧縮強度は 790キロ/平方センチ)両方足すと7750キロくらいですが、これは破壊される寸前の強度なので、実用的にはもう少し低いですが、43.2キロくらい圧縮する力が働いても全然問題はなさそうです。

念のため、ネックの曲げ強度を出してみましょう。

ネック部分マホガニー 9.5x1100=10450キロ
(マホガニーの曲げ強度は 1100キロ/平方センチ)
黒檀 曲げに対してはフレットの足で切られている部分は除いて、
5.65x0.35x1800=3600キロ (黒檀の曲げ強度は 1800キロ/平方センチ)
両方あわせると、曲がって折れてしまう時の強度ですが 14000キロにもなります。

これら強度計算の元になった数字は、『原色木材大図鑑』と35年ほど前に当時28000円もしたのですが、
木材の事を知ろうと手に入れた「木材工学辞典」から取っています。

それよりも大きな数字が考えられるのは、ネックではなくペグボックスのようです。
下図のように、43,2キロの力が 水平方向に 41.63キロ垂直方向、ペグボックスを
起こす力は11.56キロにもなります。(計算、考え方は合っていますか?)
古いギターでペグボックスが起きてきている楽器の修理を何度かした事がありますが、故障するのも
分かりますね。

img582.jpg




次に良く引き合いに出す、チェロの話しです。
チェロは70キロくらいのテンションです。そのネックの断面は下図のようです。
     
       img581.jpg

平均的な断面、ネックの中央部分の断面です。
楓のネックの部分が計算すると、5.37平方センチ、黒檀の指板部分が 3.12平方センチ です。
これも、ギターのネックと同じように計算すると曲げ強度は

楓 5.37x1100=5907キロ 黒檀 3.12x1800=5616キロ です。

それに対して、チェロのネックを曲げる力は?


img583.jpg

相変わらずの汚い図面ですが、チェロの製作の教科書で指板と駒との関係がこのように書かれています。
計算用の図面にすると、



img584.jpg

弦長が一般的なチェロで69.5センチから70センチなので、テンションの70キロと同じです。
そうすると、ネックを曲げる力は
1.9キロとギターよりかなり大きな数字です。
この数字も、ナットで弦が固定されているという前提、
仮定ですので実際はかなり小さな数字と思われます。
でも、チェロでも普通に作っていればネックは曲がってきません。



曲がってくる大きな原因と考えられているバイメタルの原理を数字的に表そうとしたのですが、
私の持っている本とか、ネットで調べても、黒檀の収縮率が出てきません。

ほとんど、収縮しそうに無い木なので、データがないのでしょうか?
比べる黒檀の、収縮率が無いと、マホガニーとの収縮率の差が出てきません。

どなたか、ご存知の方がいらっしゃったら、お教え願えませんでしょうか?

でも、ネックが楓で作られているエレキギターや、アコースティックギターが
冬場に逆反りが多いという話を聞くと、また、感覚的にマホガニー系統の木と
黒檀の収縮率は違うと感じるので、両方の木の収縮率の差が反りの原因と考えるのは
自然な事ではないでしょうか?

では、それを防ぐ方法は?また、予防する方法は?ないのでしょうか?

それは、ガンバやリュートでは考えられているのです。

ガンバは私も沢山作っていますが、一見するとネックの楓で弦のテンションを支えているようですが、
指板を外すと、ネックは非常に頼りないのです。楽器によっては(私の楽器でない場合もあります)
指で簡単に曲がる楽器もあるほどです。もちろん、大きなバスガンバの話しです。

指板とネックが両方強いと、どちらも押し合って結果的に反るようです。
それに対して、ガンバはネックは指板より弱く、指板の収縮に付いて行っているようです。

チェロもその傾向があります。そして、リュートは逆に指板が薄くて、
ネックのほうが主導権を握っていて反らないようです。

ということで、私のギターは指板が薄いのです。

古いギター、(特に19世紀終わり、20世紀始めのパーラーギターがスティール弦
を張っていたこともあって)を見ると、確かにネックの反りもありますが、
どちらかというと、ネックの付け根で起きてきている楽器や、ネックのかかとの接着不良によって、
故障している楽器も良く見かけます。

パーラーギターなどは、ネックが非常に細いので、曲がりやすいのですが、ネックの反りより
ネックの付け根のトラブルが多いと言うことは、良く乾燥された材料を使うと、少々薄くしても大丈夫
ということになるのでしょうか。

でも木の事ですから、個体差がありますので、良い材料を選ぶ必要はあるようです。


いつも、字だらけのブログに汚い絵ですので、ここら辺で美しい絵を。
    前回のネックを削ったガンバを描いた絵です。作者は日展審査員の
    永田英右さんです。
    2010年の日展出品作品。  
    タイトルは「ミル・ルグレ-千々の悲しみ -」です。

          img588.jpg
     
本当は、もの凄く細かい所まで描かれている、美しい絵なのですが、
      スキャンして 500KB まで落とすと、画質が荒れてしまいます。
      永田さん、ご覧の皆様申し訳ありません。



<参考>

木材工学辞典に載っている材質の平均値に対する変動幅

比重 針葉樹  19% 広葉樹 20%

半径収縮率 針葉樹  38% 広葉樹 37%

縦圧縮強さ 針葉樹  27% 広葉樹 24%

曲げ強さ 針葉樹  25% 広葉樹 31%

それぞれ プラス、マイナスです。




  1. 2012/03/04(日) 01:41:58|
  2. ギター
  3. | コメント:1
<<ネックについて、その3 そしてその他 | ホーム | 構造、設計 ⑦ ネックの厚さ、指板の厚さなど>>

コメント

どうもありがとうございます。今回も非常によくわかりました。学生のときチェロを弾いていましたし、今もコントラバス(ジャズベース)を扱いますので、これらの楽器のネックが反りにくいのは承知しています。

ところでタカミネの量産ギターでクラシックなのにトラスロッドの入っている楽器もありますし、いつぞや廃棄のために分解した木曽スズキのクラシックギターにはネックにアルミの「芯」が入っていました。こうした「芯」がはいることによっても音は変化すると思われますが、どのように変化するのでしょうね。たぶんいい方とは思われませんが。
  1. URL |
  2. 2012/03/05(月) 12:05:37 |
  3. Dolphy #02YxnuwU
  4. [ 編集 ]

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プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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