古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

構造、設計 ⑦ ネックの厚さ、指板の厚さなど


ネックの厚さ、形状はモダンギターの音色を決めている大きな要素だと思います。

ギター製作家に聞くと、ネックの厚さ、質量は弾き易さというより、音色の点で、決めているようです。

薄くしたり、質量を落とすとモダンスペインギターらしい音色が薄れると言う事を聞きました。
確かに、モダンギターの音色は分厚いネックから来ている要素が大きいかもしれません。

逆に私の求めているギターの音は、ネックが薄く、質量が少ないほうが出しやすいように考えています。

ここでまた、ギターから離れますが、ガンバのネックの話です。

数年前、画題としてガンバを手に入れたいと言う、日展系の画家の方がいらっしゃいました。
私が一から作ると高いものについて、画材用としては無理がありますので、
コントラバスやチェロを作っている会社に本体を作ってもらって、
こちらで仕上げることにしました。
指板やテルピースに象牙で、インレイで装飾したりもしますので。

このメーカーの楽器はもともと少しネックが厚く、大きいので、
薄く作ってもらうようお願いしていたのですが、やはり少し厚かったのです。
少し薄くして(普通に、充分楽器として使える状態です)お渡ししました。

そうすると、楽器としても良い楽器だったので、この絵描きさんが自分でも、
ガンバを弾きたいと連絡がありました。

それなら、「以前少し、おはなしさせていただきましたが、ネックをもう少し削ったほうが、
私の好きな音になるのですが。」とお話しました。
そうすると、「そのほうが、平山さんの作りたい楽器の音になるのなら、削ってください。
どう変わるのかも見たいし」と言うことでしたので、画家さんのアトリエに行き、
少しづつ削っていきました。

それまでも、普通に鳴っていた楽器なのですが、削るたびに少しづつ、音がクリアーになり、
基音が少ししっかりしてきました。そして、楽器が鳴ってきたのです。
音楽家ではない画家の方ですが、仕事しているときは、いつも音楽を聴きながら絵を描かれています。
音楽家より音楽を聴いている時間は長い方かもしれません。
その絵描きさんが、音が変わっていくのに驚かれていました。確実に音は変わりました。
(それなら、始めからそうしろ、と言われそうですが、あくまで画材用ということと、
最初にもう少しネックを削ることがあるかもしれないということは、伝えていましたので。
それに、こんな機会で無ければ試すことの出来ませんので)

ギターでも、同じようなことがありました。
2010年8月に作った10弦ギターがそうです。初めての10弦ということもあって、
ネックを少し厚く作りました。削るのはいつでも出来ますので、念のため、厚めにしたのです。
ネックも楓で作っています。個体差が大きい楓を使ったことも、安全側に考える要素でした。

実際に弦を張って、音が落ち着くのを待って、弾いてみました。
楽器は鳴っているのですが、音が丸く、よく言えば柔らかい、悪く言えばぼけている音。
弦鳴りの感じも少ししました。
もう少し薄いネックのほうが良いかもしれないと考えていましたが、念のため厚くしたので、
始めに考えている程度にネックを削りました。

そうすると、基音がはっきりし、楽器本体が鳴ってきました。
私の作りたいギターの音に近くなりました。

ギターの本体、ボディが鳴らない、モダンギターでは大きな差は無いかも知れませんが、
軽く作られていて、楽器本体が鳴るように作られている楽器では、ネックを少し薄くしてやると、
立ち上がりも良くなり、響きも基音も付いてくるようです。

削ると言っても、2ミリ3ミリです。
私の作る楽器は、ほとんど普通の体格の日本人の方が弾いてくださる楽器だと思っています。
普通の長さの指と、力の方が弾かれて、弾きやすい楽器を作りたいと思っています。

調べると、イギリスの楽器にネックの厚い楽器が多いようです。
日本で作られた楽器でも、日本人が弾くことの多い楽器でも、ネックが厚い楽器を良く見かけます。
製作家がその音を出したいために、厚くしている場合もありますので、一概に言えませんが、
ネックを薄くすると、とても左手が楽になり、押さえ易くなります。

最初から2ミリ3ミリ削らなくても、0.5ミリ、1.0ミリづつ削っていって、
音が良いところ、弾きやすいところで止めれば良いのです。
そんなに高い楽器でなければ、自分でやってみるのも、面白いかもしれません。

ただ、2ミリ3ミリ削ると、ネックが起きてきたり、曲がってくるかもしれません。
(良い材料の楽器とか、乾燥が充分な楽器では問題ないと思います)
削って、ネックが起きてきたから責任を取れと言われても、困りますし。
ということで、弦高の低い楽器やブリッジの骨棒が高い楽器では、もし万が一ネックが起きても、
対処できるので、対処できる楽器で試してみてください。と逃げておきましょうか。


次に指板の問題です。モダンスペインギターを見ると、低いポジションで、
つまりネックに近いところでものすごく、黒檀の指板が分厚い楽器を見かけます。

ネックのマホガニー系統の木でも、少し削れば音が変わってくるのですから、
質量の大きい黒檀では、楽器のバランス、音に大きな影響があると思いませんか?

ここで、また、ギター以外の話です。それは、バロックチェロ、バロックヴァイオリンの場合です。
最近、持っている古いヴァイオリン、チェロをバロックに改造したいけど大きな改造は無理なので、
とりあえずガット弦を張ってみたのだけれど、あまり鳴らないのです。と言う話をよく聞きます。
(つい、先日もありました)
そして、私のところに持って来られます。

それで、一番最初に楽器に手を入れるのは、バロックではハイポジションはあまり使いませんので、
と言うかモダンほど、指板は長くなくて良いので、ヴァイオリンで2,3センチ、
チェロで4,5センチ短くすると、びっくりするほど鳴ってくる楽器があります。
びっくりしなくても、普通に鳴ってきます。
以前指板、ネックの材料のところでかかせていただきましたが、
ガット弦が使われていた頃のヴァイオリンでは、もともと今見られるような黒檀の塊の指板は
ありませんでした。もっと軽い構造の指板でした。

指板を丸ごと軽いものに変えなくても、余分な黒檀を切って、
質量を小さくすることで鳴ってくるのです。

ギターでも同じことが起こると考えられます。
ギターでは、ヴァイオリンやチェロのように、余分な指板を切ってしまうわけにはいきませんので、
最初から指板の厚さを考えて作る必要があります。


なぜ、糸倉に近いほうが分厚い指板が作られたのでしょうか?

それは、リュート属の、アーチリュートやテオルボと呼ばれる、
ペグボックスが折れ曲がっていない楽器では、ネックが必ず起きてくるのです。
そして、起きてくれば、製作家のところに持って行って、削ってもらうのです。
3度ほど製作家のところに持って行きなさい、と昔の本には書いてあるそうです。
フレットがガットフレットで巻いているだけですから、簡単に外して削ることが出来るのです。
この、アーチリュート属の考えがギターに伝わっているのでしょうか?

ネックが起きてくれば、ギターはフレットが打ち込んであるし,そんなに簡単には削れませんし、
ネックが起きてくるのは材料が悪いから?あるいは、仕事が悪いからと言う理由のほうが大きいと思います。

起きてくる心配をして、楽器が鳴らない状態、ネック側が重くてバランスが悪い楽器、
(バランスが悪いと弾きにくいものです)
ネックが分厚くて、押さえにくい楽器を作るほうが、私は問題だと思います。

と言う事で、私の楽器は指板も、ネックも弾きやすい厚み、形になっています。
  1. 2012/02/29(水) 08:40:31|
  2. ギター
  3. | コメント:2
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コメント

ネックの厚みと強度の問題は、音質が優先されて、たしかに起きてきたら矯正する、というのもありだと思いました。しかしながら、初心者としてはそのへんはやはり気になるところで、音質と強度のバランスはどのへんでとれるのか興味があります。木材をどうするかにもよるでしょうが、もしかして計算式等である程度めやすをつけることは可能なのでしょうか。
  1. URL |
  2. 2012/03/01(木) 10:51:17 |
  3. Dolphy #02YxnuwU
  4. [ 編集 ]

前回のブログで、紛らわしい事を言ったようですみません。

ネックをどの程度薄くすれば、曲がってくるか?計算式のようなものが
在れば、確かに便利ですが、これも大きな問題だと思いますので、
ブログで書かせていただきます。

構造力学とか物理の専門の方にもお知恵を拝借したい問題です。
  1. URL |
  2. 2012/03/03(土) 22:21:08 |
  3. kogakki #-
  4. [ 編集 ]

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プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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