古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

構造、設計 ⑥ トルナボス

Dolphy さんからのコメントで、トルナボスについてどう思っているか?
とのことで、ここで書かせていただきます。

ギターに詳しい方ならご存知だと思うのですが、サウンドホールの中に、トルナボス
と呼ばれる、円錐形の筒を付けて、低音を出そうとした物です。

このトルナボスは、トーレスさんの発明ということになっているようです。
私はこのトルナボスをそのまま使うことには、抵抗があります。

オリジナルのトーレスさんの楽器は弾いた事がありませんが、コピー楽器で何度か弾きました。
弾いた感想は、反応が鈍く、低音というか、中低音の特定の音が、大きくなり不自然な響きで
良くはありませんでした。少なくとも、私は作りたくない音でした。

その原因は、トルナボスの形状にあると思います。
トルナボスは、スピーカーで言う、バスレフそのものです。
スピーカーと、ギターは違うようですが、バスレフの考えでいくと、
単純なコーン紙の振動ではありませんが、響板の表から音が出て行き、
裏側にも、響板が振動するので、当然音は出ます。
ちょうど、スピーカーのように。

バスレフはスピーカーの設計の中でも、スピーカーの性能、能力に関係なく
使える方式です。ギターに置き換えても、良さそうです。

実は、25年ほど前にスピーカー作りに凝った時期がありました。
私のHPにスピーカーが20台ほど写った写真があります。
この写真以降もさらに数が増え、最後にムクの楓でホーンスピーカーを
作って終わりにしました。
もちろん、教科書は 長岡鉄男さんの本です。

その長岡さんの本の中に、バスレフの計算式がたくさんあるのですが、
最も分かりやすくて、使いやすい式が下の式です。
この式は、ネットで調べると、実際にスピーカーを作って、長さ形の
違うダクトを作り、実測したデータも出てきますが、ほぼ公式どおりの
結果が出ています。

img574.jpg

fと言うのが、バスレフで最も強く出る、周波数と思ってください。
この実証済みの公式にトーレスさんのトルナボスを当てはめてみましょう。

img575.jpg


結果、134.4hzという周波数が出てきます。汚い字で書いていますが、
これは、ドとド#の音の中間です。つまり、ギターの5弦の3フレットと4フレット
の間の音になります。

これは、トルナボス付きのトーレスコピーを弾いた時の感触に似ています。
鳴って欲しい低音の6弦でなく、5弦当たりにピークが来て、変な感じなのです。
モダンギターでも5弦くらいの低音は出ています。その5弦にさらにピークが来ると、
6弦が物足らなくなります。

この計算は、トルナボスに格子の穴が開いているので、格子の穴が開いている、部分は
バスレフのポートとして働いていませんので、長さ4.3センチとしました。
こんな少しの穴なら、無視できるのではないか?と言われそうですが、ここでオルガンの話しです。

オルガンのパイプは、大きく分けると、開管と閉管、リード管に分かれますが、開管は字のとおり、
リコーダーや、フルートのように端が開いている管です。
この開管の調律は、金属パイプだと、パイプの端、をハンマーで叩いたり、専用の金具で広げて
調律します。
とても大変です。そこで、良く使われるのが、パイプの端にスリットを入れ、そのスリットにスライド
する板を取り付け、その板を上下させると、調律が出来ます。
パイプ全体の長さを変えなくても、スリットの長さで調律できるのです。
このスリットと同じような、事がこの格子の穴によって起こると考えたのです。

もし、コピー楽器で、同じ大きさで、スリットが入っていないとどうなるでしょうか?

img576.jpg


少しは下がりますが、あまり変わりません。
これは、下に広がっているトルナボスの形状に問題があります。
バスレフは、円錐形や出口と入り口で大きさの変わっているポートでは、入り口の大きさが周波数
を決めてしまうので、トーレスさんの形だと、低音が出にくいのです。

ここで、少しギターの音域というか、最低音の確認です。
ギターはピアノの楽譜のように、2段譜にはなっていません。
その関係で、記譜はオクターブ上げて書いています。
ギターを弾いている人はご存知の事なのですが。
5線譜で見てみましょう。

           img573.jpg


実音で書くと、一段譜だと、物凄い下線が必要です。
2段譜でもかなり低い音です。
ちなみに、ギターの最低音 ミ の周波数は 82.40hz。
チェロは65.4hzの ド です。

この低い音を出すために、トルナボスはどうしたら良いのでしょう?

ポートを長くする(トルナボスを長くする)、トルナボスを細くする。
どちらも、現実的には大変です。そこで、スピーカーの下図のような構造の
トルナボスを作ればよいのです。

img578.jpg


つまり、トーレスさんと逆の形のトルナボスに。

img577.jpg


6弦1フレットのファとファ#の間です。
ピークがここの音ですから、その付近は良く出るようになるので、
最低音の ミ や 6弦 3フレットの ソ くらいまで、バスレフ効果が期待できそうです。

長岡さんの本によると、材質はつるっとしたほうが、バスレフは良く働くが、
ピークの山がきついのだそうです。

これでは、楽器としてまずいので、表面はあまりきれいに仕上げないほうが良さそうです。

そして、私の考えている、トルナボスの形は、サウンドホールの補強用のバスバーを延ばして
、またハーモニックバーに付ける四角い形です。
底の部分は直径6センチの穴をあけることを考えています。
変形のポートは、ピークが少し上がるので、ちょうど良いし、
ピークがなだらかになりそうで、ギターには良いとおもいます。


もちろん、スピーカーとギターは違いますから、実際に作って付けてみて、
いろいろ試す事が必要です。

トーレスさんが生きていた頃は、まだスピーカーが存在していなかったので、
理論的なことは分からなかったと思いますが、21世紀の私達は、スピーカーの理論
を応用しても良いと思っています。昔の製作家のコピーだけが全てでないように思います。


  1. 2012/02/24(金) 02:03:18|
  2. ギター
  3. | コメント:2
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コメント

Kogakkiさま、予定を変更させてしまったようで申しわけありません。とても論理的な説明でよくわかりました。どうもありがとうございます。
  1. URL |
  2. 2012/02/24(金) 08:03:57 |
  3. Dolphy #02YxnuwU
  4. [ 編集 ]

こちらこそ、コメントを頂いて、気になっていることを教えていただければ、
書くことも決まってきますので、助かります。
分かりにくいことや、もっと掘り下げて欲しいとかの、要望もありましたら、
どうぞ、よろしくお願いします。
トルナボスについての、おまけです。

書かせていただいたこと、理論的なことは、あくまで楽器が、
6弦が鳴っている事が前提です。

ほとんどの楽器が、6弦本来の基音がでていなくて、
倍音に逃げていると思いますので、6弦のファやファ#にピークを
持ってきても意味が無いのかもしれません。

10センチや13センチの小さなスピーカーで、いくら計算上のバスレフ
を作っても、実際にはそんなに低音が出ないのと同じでしょうか。

少なくても、チェロの2音上という非常に低い音を出せるギターを作って、
トルナボスでさらに、低音を補充する、強化するということを考えないと
トルナボスを付けても、効果は無いと思います。

でも、こんな事を考えている製作家は私くらいでしょうね。




  1. URL |
  2. 2012/02/25(土) 01:58:11 |
  3. kogakki #-
  4. [ 編集 ]

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プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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