古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

構造、設計 ⑤ 横板、裏板

もっと早く、この横板について書こうと思っていたのですが、やっと書く順番が来ました。

モダンスペインギターの不思議な、最も不思議なところが横板です。

まず、その厚みです。また、チェロやガンバの話を持ち出しますが、
あのテンションの大きいモダンチェロでさえ、一般的な教科書で1.6ミリが標準となっています。

標準と書いたのは、実際にたくさんのチェロを修理していると、
カーブのゆるいところは,1.6ミリ程度でしたが、
カーブのきついところは1.3ミリくらいのものが多かったのです。

もちろん、カーブのゆるいところでも、1.4ミリ、1.5ミリの楽器も多かったのです。
それに比べて、モダンギターはどうでしょうか?

もう、ギター製作のバイブルのようになってしまった、「Making Master Guitars」では、
2.0ミリと書かれています。そして、ほかの本でも2.0ミリと書かれています。

実際に作られた楽器でも、2ミリくらいが多いようです。

ギターでは、ローズウッドや中にはハカランダも使われています。
これらの比重は0.9くらいでしょうか?なかには、1.0に近いものもあります。

楓は、まざに個体差が多いのですが、0.65から0.7くらいでしょう。
単位面積当たりの質量を出して見ましょう。

ギターの場合、2.0x0.9=1.8(軽いローズだと2.0x0.8=1.6)

チェロは 1.6x0.65=1.04 大きく(0.7)とっても 1.12 です。

あのテンションの大きいチェロの1.5倍以上の質量です。
いかに、ギターの横板が厚すぎるか分かる数字です。

また、ここでガンバの実際のデータです。
実際に経験したことを書くのが最も分かっていただけると思っていますので。

私がガンバを作り始めたころ、参考になるようなデータもありませんので、
感覚的に厚みを自分で決めて、実際に作ってみて決めていきました。

バスガンバですから、3/4 のチェロと同じくらいの楽器で、
1.7ミリ1.8ミリの横板を試したことがあります。
1.7ミリに削ってアイロンで曲げました。
そうすると、硬くて、硬くて曲がりません。

アイロンの温度を上げ、無理やり曲げました。曲げた横板を持って、硬さを確かめました。
とても、楽器にして、鳴るような硬さではありません。

せっかく削って、曲げた横板ですが、1.6ミリの板に作り替えました。

もちろん個体差がありますから、1.7ミリでも、1.8ミリでも、
比重の軽い板を選べば、もっと柔らかくて、楽器に使えそうなのですが、
質量が落ちても、板の厚みから、しなやかさは求められません。

しなやかで、振動しなければ私の作りたい楽器は出来ないのです。横板でも。

最近、横板をもっと厚く作る作家もいます。中には4ミリとか5ミリとか。

さらに、スピーカーのように横板を鳴らさないように、横桟が入っているギターもあります。

でも、私は楓で1.4ミリ、1.5ミリ程度で作っています。
そうすると、「そんなに薄くすると、割れやすいのでは?250年も持たないのでは」
との、声が聞こえそうです。

以前にも書かせていただきましたが、私の楽器はなぜか壊れません。
その理由は、一見軽くて、薄い楽器は華奢な感じですが、
落としたり、ショックを与えても、ショックを吸収してくれて、壊れにくいのです。

あの薄くて、軽いルネサンスリュートや、ルネサンスギターは400年以上壊れずに、
素晴らしい音がしているのがその証明でしょうか?

逆に頑丈に作りすぎると、少しのショックで、そのショックを吸収できずに、
また、温度変化、湿度変化についていけず、壊れるようです。

さらに、壊れる大きな原因が他にもあります。それは、強度差です。
丈夫なところと、弱いところがあると、弱いところが壊れるのでなく、その境が壊れるのです。
当たり前のことですが、楽器は大きなテンションがかかっています。

ですから、ショックを与えるとか、温度差、湿度差がなくても、
丈夫過ぎるところと弱いところを作ってはいけないと思います。
その点でも、モダンギターの横板は厚すぎると思っています。


楽器ではありませんが、最近の建築物でも同じようなことを感じることがあります。
超高層のビルや、特に最近、気になった建築物は、シンガポール空港の、
第3ターミナルに見られる、巨大なガラス壁です。
こんな巨大なガラス壁は今までありませんでしたから、今までのデータや経験でなく、
しっかりと設計し、実験し検証して作られています。

この壁は、少しの風でも変形します。でも、どんな強風にも耐えるのだそうです。
 もっと、ポピュラーな建物では、東京スカイツリーでも同じように、
しなやかな強さが見られます。
このスカイツリーでは、この高さでの、気象条件も分からず、
気象ゾンデをあげるところからはじめたそうです。
そして、構造の参考になったのは、日本の木造の塔だったそうです。

親柱をセンターに持っていく構造です。


ここで厚みだけを比較するのはおかしいのでは?との声が聞こえそうです。
(そんな声は聞こえてこないと言う人も、もう少し読み進めてください)

ヴィオラ・ダ・ガンバやチェロは、コーナーブロックがあって、
構造的に丈夫になっているので、板厚だけで比べるのはおかしいと。

ガンバのコーナーブロックの構造を、書いて見ました。実寸です。

               img568.jpg


外からは分からないのですが、私の楽器はなるべくコーナーを固めないように、
削れるだけ削っています。
これは私だけの考えでなく、古い楽器を見るとほとんどの楽器はそうしています。

その進化系がコーナーブロックを使わず、羊皮紙のパーチメントを使っている楽器です。
これは、コーナーブロックだけでなく、裏板と横板の接着部分にも、
ライニングを使わず羊皮紙のパーチメントで補強しているのです。

この構造だと、コーナーがあっても、ほとんどギターと同じくらいの強度になると思いませんか?
その結果、チェロと同じくらいの厚みでも良いのでは?と。

ここで、もうひとつの計算です。

チェロと同じくらいの厚みでも良いのでは?と考えると、
ギターでよく使われるローズウッドでは、どのような厚みになるのでしょうか?

本当に木材は個体差があって、比重が決めにくいのですが、
ローズウッドを0.8、楓を0.65とすると、

1.6ミリx0.65÷0.8=1.3ミリ

となります。1.2ミリでも良いかもしれません。

そんなに薄くしても大丈夫?との声が何処からともなく聞こえそうです。

そのうち、読み物「神様はつらいよ」で書かせていただこうと思っているのですが、
トーレスさんは1.0ミリで横板を作っています。
それは、ローズでも比重のとても軽い、サイプレス(糸杉)でも同じ厚みです。

この厚みだと、ハーモニックバーの端が大きいままでも、ライニングが大きくても、
楽器が鳴るかもしれません。でもそれでは、横板が不自然に振動してしまうことになりそうで、
私の方法ではありません。

トーレスさんを神様に祭り上げているのですが、彼がやっていることのうち、
自分に都合の良いことだけを、取り入れている製作家が多いように私は思います。


話は長くなりますが、次はトーレスさんと違う私の設計です。

それは、横板のカーブです。

実際のカーブを比べて見ます。それは、ウエスト部分のカーブです。


               img570.jpg

モダンギターの代表として、手元にあった田村満さんのギターを使わせていただきます。
モダンギターはウエスト部分のカーブがきつく、そこから比較的直線に近い横板が続いています。
A の部分が短く、カーブがきついです。B も直線に近いのが分かります。

それに比べて、私の楽器はA の部分が少し広く、カーブが緩やかで、B の部分は少しカーブしています。
カーブがきついと、その部分は丈夫になります。でも、それに続く直線に近い長い部分は、
とても弱いのです。それは、厚くなればなるほど、強い部分と弱い部分に別れるのです。

それに比べて、私の楽器は、ウエスト部分のカーブが緩やかで、
それに続く部分も、緩やかなカーブで形成されています。

このことによって、横板の強度の差がなくなるよう考えているのです。
そして、私は私の楽器のカーブが美しいと思っています。
私の楽器を使ってくださっているギタリストも美しいカーブだと言ってくれました。
それを聞いたときは嬉しかったです。

トーレスモデルで作るとか、ブーシェモデルで作るとかを、
考えずに自分でベストのものを作ることを考えたいと私は思っています。

裏板に行くまでに時間がかかってしまいましたが、裏板については、
極端に厚くする必要も、薄くする必要もないと思います。

「アントニオ・デ・トーレス」によると(83p)トーレスさんは2.5ミリから3.0ミリ。
しかし 「Making master guitars」35pを見ると、1.2ミリから2.2ミリとなっています。

モダンスペインギターのアグアドさんは2.0ミリ、ブーシェさんは2.1ミリ
サントス エルナンデスさんは2.1ミリと全体に薄いようです。

厚さが問題でなく、問題はそのカーブです。
アンダーバーの項でも触れていますが、裏板を真っ直ぐに作ると、
人の目には凹んで見えるので、膨らませています。

ですが、カーブをつけすぎると,強度が付きすぎて、裏板が振動しません。
私の楽器はそういう理由で、沢山のカーブ、膨らみは付けていません。

厚みは、材質、同じ材質でもその比重、また、柾目か板目かなどによって厚みは変わってきますので、
厚みはいくらにしているかと聞かれると、返事が難しいところですが、
およそ2.0ミリから2.5ミリです。面積が大きいだけに材料の資質の差が大きいのです。

トーレスさんは横板は材質の違いによって厚みを変えていませんが、
裏板は材質によって厚みを0.5ミリほど変えているようです。
  1. 2012/02/21(火) 00:11:38|
  2. ギター
  3. | コメント:4
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コメント

初心者にも話がすごくスリリングでおもしろいです!
今苦労しながら作っている第一作にも随処にアイディアをとりいれさせていただいています。従来型の経験もなしにそうするのは本当のよさがわからなくなるのでよくないかもしれませんが。
  1. URL |
  2. 2012/02/21(火) 09:56:45 |
  3. Dolphy #02YxnuwU
  4. [ 編集 ]

コメントありがとうございます

Dolphy 様
コメントありがとうございます。ギターを作ってられるとの事、
このブログは、ギターを演奏する人にも、読んで欲しいと書き始めましたが、
本当はギターを作っている人に読んで欲しくて、書いていることが多いです。

一度、一般的なスペインギターの製作法で作ってみても、良いかもしれませんが、結局、今、良く見るスペインギターと同じ楽器が出来るだけで、Dolphyさんが作らなくても、結果は同じだと思います。
いろんなアマチュアの方の、一作目や、何台も作られた方の楽器を見せていただきました。失礼な言い方ですが、モダンスペインギターのプロが作る楽器に近づきたい、少し出来の悪い楽器。という印象の楽器がほとんどでした。

中には、人柄も面白く、ユニークな考えで作られている楽器で良い楽器はありました。分からないから、プロの作っている楽器の真似をしておこう、と作っている人でなく、自分なりに考えている人の楽器は良い楽器が多かったです。楽器屋さんで売ることは考えていない楽器が良かったです。楽器屋さんで売られているようなギターはそれこそ、山ほどあるわけですから。

後は、うっかり削りすぎた楽器とか、ライニングが邪魔くさいと、小さな物にしている、ギターも鳴っていましたね。とにかく、重くて、肝心の表板の大事な所は薄い楽器が多かったです。

Dolphyさんのように、自分で考えられて作ると、次に繫がってきます。
どうぞ、良い楽器を作ってください。
  1. URL |
  2. 2012/02/22(水) 18:32:19 |
  3. kogakki #-
  4. [ 編集 ]

ありがとうございます。
ところで、Kogakkiさんへのリクエストがひとつあります。トップの関連で、トルナボスについてどのようにお考えか、ご教示ねがえませんか。トーレスの発明?ということですが、現代製作家でも脱着式のものをつける方もいらっしゃるようです。
  1. URL |
  2. 2012/02/23(木) 12:49:07 |
  3. Dolphy #02YxnuwU
  4. [ 編集 ]

Dolphyさん コメントありがとうございます。

トルナボスについては、大きい問題なので、
ブログで書かせていただきます。

後で、書かせていただこうかと思っていたのですが。
  1. URL |
  2. 2012/02/24(金) 00:28:04 |
  3. kogakki #-
  4. [ 編集 ]

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プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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