古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

構造、設計 ④ バスバー (ハーモニックバー)


しばらくブログの更新が出来ていませんでした。
ここの所 夜中の12時か1時に帰って、
それから仕事という日が続きましたのですみません。

せっかく読んでいただいて、記事が新しくなければ申し訳ないので、
このあたりで本題の、ギター作りで書かせていただきます。

今回は、少しマニアックなハーモニックバーについてです。

ハーモニックバーは下図の中のサウンドホールの上下についている比較的大きな
バスバーのことです。


img557.jpg
「アントニオ・デ・トーレス」ホセ・ロマニリョス著 より

常々書かせていただいているように、楽器のコーナーは固めると、
楽器全体を振動させにくくするだけでなく、表面板や横板、裏板も鳴りにくくなります。
このコーナーを固めるのに、一番大きな要素はライニングですが、
このハーモニックバーの影響も大きいと思います。

ここで、ギターに近しい関係のリュートのバスバーについて書かせていただきます。

リュートのバスバーは、2月2日のブログ 「構造、設計 ③ 表板」の最後のほうに
リュートのバスバーの配置の図面があります。
この図のように、ギターのたこ足バスバーは、バロックリュートなどのような、
後期の楽器には小さな物が見られますが、ほとんどギターのハーモニックバーのような、
平行バーがほとんどです。

このリュートの平行バーは一般的なリュートでは、横板に接着されていません。
横板に突き合わせているだけです。作るときに、うっかり膠が回ってしまって、
横板とバスバーが接着されてしまうと、楽器があまり鳴りません。鳴りが悪くなるのです。

もちろん、接着しても鳴る楽器もあるかもしれませんが、比べると接着しないほうが鳴ります。
(ギターのブログなのに、リュートの事を書かれても、
と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、ここが私のブログの特徴です。
ギター以外の楽器のことで、ギターに関係するような事を知っていただいて、
ギターを見直していただくきっかけになればとこのブログを作っていますので)

もちろん形はほとんど下図のような形です。


img553.jpg


中には、リュート、ヴィオラ・ダ・ガンバ、ヴァイオリンその他沢山の楽器を作った、ヨアヒム・ティールケさんのジャーマンテオルボのバスバーで下図のような形の物があります。

img554.jpg


私の同じ形のバスバーを考えていて、使っていたことがあり、
ティールケさんの図面を見て、同じ事を考えている製作家がいた。と思いました。

低音側は、通常の形にして、低音が出やすく、(エッジが振動して広い面積が鳴るように)
そして、高音側は音が延びるように、バスバーを使っているのです。

次に大きな楽器、チェンバロ、スピネットではどうでしょうか。
大きな表面板を持つ、チェンバロでもバスバーは、横板やライニング
(チェンバロではライナーと言ってます)に届かない形で作られています。

img555.jpg


でも、この形だと、図に示した、箇所でせん断が起こり、響板が割れることがあります。
普通に考えると分かる事ですが、このライナーと木目の方向が同じ方向なので、
割れやすいのです。

これを解消しようと考えられたのが、下図の様な形です。(上から見ています)


img556.jpg


同じような構造は、もっと弦の数も増え、テンションももっと大きな1850年
くらいまでのフォルテピアノでも見られます。
実際に友人でフォルテピアノ、リュート製作家の家で、見ました。

ピアノですから、ギターやリュートなどに比べてはるかに大きな響板です。
響板の接着は作業も早く行う必要があります。
そうなると、ついうっかり、バスバーとライナーを接着してしまう可能性があります。
これを防止するため、もし、膠が回っても接着出来ないよう、
沢山の油を塗っているのです。ライナーのバスバーが当たる箇所に。

このような、処置をしているということは、あの大きなピアノでさえ、
響板の周りはなるべくフリーにしておきたいと昔の人は考えたのでしょう。

これまで書かせていただいた、チェンバロやフォルテピアノと比べて、ギターはどうでしょうか?

私がギターの製作写真や、図面を見て驚いたのは、
横板とバスバーが接着されている事は、想像していましたが、
下図のような、長方形の断面のままの、ハーモニックバーが使われていたことです。
他の楽器ではまず見ることが出来ない形です。コーナーを固めてしまうだけでなく、
横板も固めて、鳴らなくしてしまいます。

                img559.jpg
                Making Master Guitars より

このハーモニックバーの役割は何でしょう?

響板の中で大きな面積を占める、サウンドホールの補強が一番の役割だと思います。

同じような役割の物を探すと、チェンバロの4フィートヒッチピンレールや
カットオフバー(4フィートヒッチピンレールが無いチェンバロ。
つまり、4フィートを呼ばれる、オクターブ上の弦が無いチェンバロの場合は、
4フィートヒッチピンレールの代わりに大きなカットオフバーが付いています)
が近いと思います。

                   img562.jpg

                   img563.jpg
                  Three Centuries of Harpsichord Making より  

カットオフバーは名前から想像できるように、ブリッジが付いている部分と、
そうでない部分を分けて、鳴る場所と鳴らない場所を分けている部材だと考えられます。

楽器というか、響板は全体が鳴ったほうが良さそうですが、
大きな響板が同じ動きで振動する事は、ありえないし、そうなると、高音も低音も出ません。
振動の節、振動しない箇所を作って、様々な音が出ると思います。

このカットオフバーや4フィートヒッチピンレールでも、
大きなチェンバロ全体から比べると小さな物です。

そして、この4フィートヒッチピンレールで、
非常にユニークで素晴らしい構造のものがあります。
1728年に作られた、クリスチャン・ツェルのチェンバロです。
下図のように、4フィートヒッチピンレールが横板というか、
ライナーに達していないのです。これだけではせん断が起こるので、
小さなバスバーをライナーを切り欠いて付けています。

低音の響板を大きな面積で鳴らすための工夫です。実際作ってみると、
非常にゆったりとした、低音が出ます。
これも、響板をフリーに、特に響板の端はフリーにしたいという考えの現れだと思います。

              img566.jpg
                Jerome Prager より

普段、このような、楽器を作っているので、ギターのハーモニックバーの大きさ、
また横板への接着を考えると、楽器を固めすぎているのでは?と思ってしまいます。

そして、さらにモダンスペインギターの不思議な所が、このハーモニックバーにあります。
スペインギター製作の神様、トーレスさんがやっていなければ、
あまり使われることがなかったかもしれない構造です。

それは、下の写真と図面のように、ハーモニックバーがトンネルになっている事です。

                   img560.jpg
                   Making Master Guitars より     

                    img558.jpg
                  
              「アントニオ・デ・トーレス」ホセロマニロス著より
 



大きなチェンバロでも、端はツェルの楽器のように、
フリーな状態にしている楽器もありますが、カットオフバー的な、
ヒッチピンレールは中央部はしっかりした構造です。

モダンギターで良く見られる、ハーモニックバーのトンネルでは問題がもうひとつあります。
このトンネルにバスバーが延びてきている事です。

ヴァイオリンやガンバのように、駒の下の音を伝えているバスバーが、
延びてきているのなら、音を広げる意味で理解出来ますが、
駒からかなり離れたバスバーが延びてきているのです。
音を広げる意味合い、効果が無ければ、逆に楽器の振動を抑えていると考えても良いと思います。

ハーモニックバーは、サウンドホールの大きな穴の構造的な補強が一番大事な目的だと思います。
表板に使われている針葉樹は、年輪方向には強度がありますが、
直角方向にはほとんど強度がありません。これをカバーしているのが、
ハーモニックバーだと私は考えています。また、そう考えるのが一般的でしょう。

そのハーモニックバーが表板に接着されていない、トンネル部分があるということは、
接着されている箇所は固定され、接着されていないトンネル部分は表板の木が自由に動くということです。
針葉樹では一般的に、年輪方向に比べて、直角方向には約20倍の伸縮があると言われています。
固定されている箇所と、固定されていない箇所の境目でかなりのストレスが起こると考えられます。

最低250年は使える楽器を作りたい私は、
このような構造のハーモニックバーは使いたくありません。
音的にも、構造的にも問題があると考えるからです。

  1. 2012/02/18(土) 00:49:24|
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プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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