古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

構造、設計 ③ 表板ー4 表板の膨らみ、ドームについて

表板についての話もそろそろ終わりです。

以前から、不思議に思っていた、『モダンスペインギター7不思議』のひとつの、
表板のカーブ、と言うか、ドーム、むくり、クラウンと言うか 
とにかく、表板のふくらみについてです。

知っている人は知っているのでしょうが、モダンスペインギターは、
表板が膨らんでいるのです。
また、膨らむように作っているのです。

スペイン式のギター製作の本等を見ると、まず、ソレアという型枠を作ります。
そのソレアに、くぼみを作って、このくぼみを利用して、表板が膨らむように作るのです。

具体的には、以前紹介したHPなどで調べてみてください。

この、膨らみがあることによって、ブリッジの接着など、とても作業が難しくなります。
また、長い間使っていると、問題が出てきそうです。

スペイン式のギター製作法では、ソレアを使って、表板に膨らみを付けることが、
当たり前というか、前提条件のようです。
ソレアを使わないと、スペイン式ではないと言っているみたいです。
でも、この膨らみ、ドームは必要なのでしょうか?

私は必要ないと思っています。必要性を感じないのです。

以前、リュートを作っていた時に、材料の関係で少し変形してしまった事があります。
この変形をそのまま使うとどうなるだろうと、思って仕上げたことがあるのです。

その結果は、自然に脱力して弾くより、力を入れて弾くほうが良い音がする楽器になりました。

あの大きなピアノでさえ、名人は完全に脱力して弾くのです。
自然な力で鳴る楽器を、私は作りたいのです。

そのためには、膨らみ、ドームはないほうが良いと思っています。

それでは、何故、トーレスさんは、ドームを思いついたのでしょうか?
(19世紀ギターでは、ドームという構造はありませんでしたから)

同時代のピアノからヒントを得たのでしょうか?
表板が大きくなったための、強度不足を解消するために考えたのでしょうか?
時期的には、ピアノがむくり、クラウンを採用した時期とほぼ同じです。


少し、ピアノの話しになります。

ピアノも、モーツアルトやベートーベンの初期の頃の楽器は、
フォルテ・ピアノと呼ばれる、鉄骨の入っていない、ピアノでした。

この頃の楽器は、弦のテンションも低く、音域もほぼ5オクターブでした。

モーツアルトの使っていたアントン・ヴァルターのピアノで、
高音部は8キロ、中音部で10キロ、低音部で15キロくらいです。
( A Handbook of Historical Stringing Practice for Keyboard Instrument Malcom Rose and David Low 著 より)

この後、5オクターブ半、6オクターブと楽器が大きくなり、
弦のテンションも上がりますが、今のピアノに比べると、低いものでした。

この頃の楽器は楽器によってかなり弦のテンションが違っていました。
楽器の過渡期でしょうし、10年経てば、楽器の形体もかなり違っていましたので。
高音部で、20キロから30キロ、中音部で25キロから35キロ、
低音部で30キロから45キロ、もっと低いテンションの楽器もありましたし、
高い物もありました。
( A Handbook of Historical Stringing Practice for Keyboard Instrument Malcom Rose and David Low 著 より)

このピアノのテンションが非常に上がるきっかけが出来ました。
それは、19世紀半ばに、鉄骨のフレームが採用されるようになったからです。
(弦も1853年にスチール弦が開発され、弦自体もテンションが上がっても切れなくなりました)

この、鉄骨の採用によって、一気に弦のテンションが上がりました。

――― 現代のピアノでは、約80キロ(70キロから90キロ)のテンションで、
200本ほどの弦です。トータル約20トンになるそうです。
もちろん、ピアノの大きさや、メーカーによってテンションは違います。
有名なスタンウエイ社のピアノはテンションが低く、
ベーゼンドルファー社のピアノはテンションが高い事が知られています。――― 

そうなると、弦の響板を押さえつける、力も大きくなります。
そこで、響板をあらかじめ、ドーム形状にしておく事が考えられました。
この、ドームの事を、日本では、「むくり」英語では、「クラウン」と呼んでいます。

この、ドームによって、上からの力に対抗できるようになったのです。
そして、この「むくり」が無くなると、モダンピアノでは、寿命が来たと考えられています。


                   img549.jpg
              福島琢朗著 「ピアノの構造・調律・修理」より

話はそれますが、この「むくり」はどのようにして作られているのでしょう。
福島琢朗著 「ピアノの構造・調律・修理」によれば、(22ページから23ページ)

はぎ合わせた、響板を24時間80度の熱室に入れ、響板を乾燥させて、
響棒を接着すると、響板は普通の部屋に戻すと膨らみますが、
響棒によって、響棒側は固定されているので、その結果、響板は膨らんで、
「むくり」が付くのです。

さらに、楽器に響板を付けるときも、同じように乾燥させ、一旦平面にして、
楽器本体に付けると、室温、室内の湿度によって、また、「むくり」が付くのだそうです。
ここで、少し説明です。木は乾燥すると、年輪と直角方向に収縮します。
その量は一般的に年輪方向に比べて、20倍程度だと言われます。
響板と響棒は下図のように、直角に接着されますので、
温度湿度を利用して、むくりが付けられるのです。

                   img548.jpg


はぎ合わせした、響板を80度の熱室に入れると、
接着された個所が剥がれるのではないか?とか、疑問はありますが。
専門家の本にはそう書いています。

違う本 『ピアノの構造とその関連技術』 U.Laible著 畠 俊太郎 訳には 
響板の製造には4種類の方法があるといってます。

翻訳された文章で、理解しにくい所もありますが、こんな事が書かれていると思います。

1) 平らな台の上で、真っすぐな響棒の接着。
 両方とも、真っすぐだと、膨らまないのですが、福島さんの書かれた方法で、
 接着するようです。この方法の欠 点は、場所によって膨らみ方が違うということです。
 木の収縮を利用しますから、木によって変わってくるのは、当然でしょう。

2) 平らな台の上で、反らせた響棒を接着
 響棒は接着された後、元の状態に戻ろうとして、響板が膨らむ。
 その力で弦の荷重に抵抗する方法。後で、書かせていただく、チェロなどの方法とほぼ同じ。

3) くぼんだ台の上で、真っすぐな響棒を接着
 これが、スペイン式のギター製作で用いられている方法です。
 響棒と、響板両方にストレスがかかり、応力に対応するわけです。

4) くぼんだ台の上で、反らせた響棒の接着
 接着後の、状態は最も安定していて、膨らみ(むくり)の量を計算しやすい。
 総応力は3の方法より響棒自身はストレスを与えられていないので小さい。


ここで、私がガンバで採用している、バスバーの接着方法を説明しておきます。
ピアノの2)に近い方法です。
  
               img546.jpg
 
              
図のように、隙間を作っておいて、接着する方法です。
こうすると、接着後はバスバーのプレテンションによって、響板が持ち上がる、
駒の圧力に抵抗する力が出ますし、音もはっきりします。
人によっては、輝かしい音になるという人もいます。

でもこれらは、単純に上からの力に対抗して、下から強度を出している場合です。
でも、ギターは単純に上から荷重はかかっていません。
ブリッジで弦によって、回転モーメントが発生しています。

言い換えると、ブリッジのサウンドホールよりの表板には、ブリッジによって、
押さえられる力が働くのです。逆にブリッジよりお尻に近いほうは盛り上がります。
この力に対抗しないといけないのです。

私の考える、この力に対抗する方法は、後で述べますが、
モダンスペインギターのドームを付けるという、方法は、
ピアノの響棒の3)でもわかりますが、最も大きな応力が発生する方法です。
ギターの弦に与えるエネルギーはそう大きなものではありません。
これに対して、大きなストレスを響板、バスバーに与えると、強度は増しますが、
逆に振動しにくくなります。

エネルギーによっては、楽器全体を鳴らすことが出来ない。
小さな場合は部分振動しかしないことも考えられます。
そして、楽器全体を鳴らすにはある程度以上ののエネルギーを与えないと、
鳴らない楽器になる可能性があります。

そして、それが側鳴りというか、小さな空間ではよく鳴るけれど、
大きな会場では使えないという、モダンスペインギターのひとつの要素ではないかと、
私は考えています。


余分なストレスを与えていない、リュートでの実話です。

某関西の大学で、昔、2700人の大きなホールと言うか講堂で、
チェンバロ、ガンバ、リュートを使う演奏会がありました。
リュートは私の作った楽器を私が弾いていました。
大きなホールですが、たまたま、このホールの下が、食堂で座席が階段状になっていました。
音は上に上がるので、音響などあまり考えていないホールというか講堂でしたが、
音響的にはとても良いホールでした。

そこで、リュートは大きな音で鳴っていたのです。
逆に1000万円近いチェンバロはマイクを通しました。

マイクテストの時に、「リュートは音が大きいから、もっとボリュームをしぼって」
と会場の端で聞いていた、スタッフが言いました。
それに対して、音響の人が「リュートはマイクが入っていないのですけど」の返事です。

リュートは、音響が良いと大きな会場でも使えるのだ。と私も実感しました。
松本市のハーモニーホールも、座席が階段状で素晴らしいホールです。
800人ほどのホールだったと思うのですが、ここでも、座席の端まで良く聞こえたそうです。

普段から、古楽器を作っているのだから、そう思うのだろうと言われそうですが、やはり
あまりストレスを掛けず、自然な状態のほうが良さそうです。
と言うことで、ここで私のモダンギターのバスバーについての、提案というか考えです。
それは、下図のようにブリッジとサウンドホールのたこ足バスバーを、
ちょうどチェロのバスバーのように、隙間を作って接着する方法です。


                  img545.jpg


そうすると、ブリッジによる回転モーメントというか、
下に押さえつける力に対抗する力が出来ます。プレテンションが生じます。
これだと、そんなに響板にストレスを与えなくて、
ブリッジの曲げに対する力には対抗できるので、ドームにするよりは良い方法だと思います。
こんな方法をとっている製作家は多分いないと思いますが、
これを読まれた方は、どう判断されますか?

これで、一応、響板に対する私の考えを終わります。
響板は一番大切なところだと思いますので、続けて書かせていただきました。
ここで一休みです。

次回は響板の話ばかり続きましたので、お話しその2<考えるということ> 
を書かせていただきます。
  1. 2012/02/03(金) 13:46:17|
  2. ギター
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kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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