古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

構造、設計 ③-3 響板の厚みについて

ヴィオラ・ダ・ガンバやバロックヴァイオリン、バロックチェロを作っていると、
表板の厚みというのが、一番難しく、考えないといけない個所です。
何百万円の楽器と数万円の楽器の差は、もちろん材質、材料の差もありますが、
表板の削り方、厚みが一番大きい要素だと思います。

ギターやリュートと違って、バスバーが1本しかなく、バスバーで調整など出来ませんので、
表板のカーブと削り方(厚み)次第で楽器の出来不出来が決まってきます。

その点、ギターは沢山のバスバーがあって、経験の積み重ね、データの積み重ねも、
ヴァイオリン属や、ガンバ属に比べると、楽なように思います。

でも、バスバーのほうに気を取られて、表板の厚み等については、
考えが少し少ないような気がします。
そこで、私はどうしているか、お話しして、参考にしていただけたら、と思います。

ギターの表板の厚さについて書かれている物を探すと。
禰寝孝次郎さんの『スペイン式クラシックギター製作法』
49ページに「スパニッシュギターを目指しているので、
やや薄めの 2.1ミリで製作」とあります。

『Master Making Guitars』 では、中央部、ブリッジがの乗る部分は2.5ミリそれ以外の
 any area は2.0ミリで。と書かれています。

そして、名工たちの紹介ページで、トーレスさんは2.5ミリから1.4ミリ
(これはロマニさんの本からのデータだそうです)
サントス・エルナンデスさんは 2.1ミリ。
アグアドさんは 2.0ミリ。
フレータさんは2.6ミリから2.1ミリ。
ブーシェさんは2.1から2.0ミリ。
フレドリッシュさんは2.5ミリから2.1ミリ。
ロマニさんは 2.5~2.7ミリから 1.9~2.2ミリ。
とガイドライン的には示してくれています。
ハウザーさんについては数字はありません。

でも、ネットで探せば、手に入る。1912年製のマヌエル・ラミレスのギターは
(もともと、11弦のギターを、サントス・エルナンデスさんが6弦に改造した物を、
セゴヴィアが使っていた物として、有名な楽器)ブリッジあたりで、1.8ミリ。
高音部分で一部、2.18ミリの所もありますが、
低音側のサウンドホールでは、1.5ミリから1.6ミリです。
1.8ミリから1.6ミリの感じで、とても薄いイメージです。

この当時の録音も簡単に手に入りますが、音が薄い感じです。
やはり表板の薄さが音に出ているのかな?とも思います。

この楽器はもともと、11弦の楽器ですので、低音を出すために、
低音側は薄くしているとも考えられますが、ブリッジ周り、高音側の厚みは、
むしろ11本の弦を支えるために、厚くしているのではないかとも考えられます。

(この手に入れた図面では、17箇所で厚みを測定しています。)
--- GAL Instrument Plan #38 by R.E.Brune より。

そして、この、ラミレスの楽器の次に、セゴヴィアが使った楽器が、1937年に作られた、
ハウザー1世の 楽器です。
セゴヴィアが『これ以上の楽器は作らなくて良い』と言った楽器です。

この楽器の図面も手に入ります。同じくGAL Instrument Plan #33 by R.E.Brune 
によると、約40箇所ほど、表板の厚みを測っています。

その厚みは、実に様々ですが、ブリッジ周りは 2.68ミリから2.95ミリ。
低音側のエッジで、2.21ミリとか2.31ミリという数字も見ますが、
全体は2.6ミリから2.8ミリくらいの感じです。

特筆する所は、ブリッジの1弦あたりからお尻にかけて、
2.97ミリ 3.24ミリという数字があるのです。表板の周りは薄くするのが、
弦楽器の基本のように思いますが、楽器の周り、
端のところで3.24ミリ、3.08ミリ、3.01ミリという数字があるのです。

このあたりが、ハウザーは弾き込みに時間がかかる、
鳴ってくるまで時間がかかるといわれる、一つの原因でしょうか?

このハウザーの音も、セゴヴィアの録音で聞くことが出来ます。
ラミレスに比べて、響きも豊かで、ふくよかです。
もちろん、録音も年代が違えば、違うでしょうが、
明らかにラミレスとは違います。その違いは、板の厚みの差によるところも多いと思います。

ギターの表板の作りかた、考え方に大きく分けて、二通りあると思います。
ひとつは、表板をほぼ同じ厚みに仕上げ、バスバーで音を作っていく方法。
結構この方法で作っている人も多いです。

もうひとつは、他の弦楽器と同じように、表板自身を中央部は厚く、端は薄くして、
バスバーでも音作りをする方法。私はこの方法です。
この方法でないと、私の音は作れないと思っています。

次に、この二つ目の方法に関連して、ヴァイオラ・ダ・ガンバの話しです。

楽器のことですし、木によっても違いますが、チェロに近い、バスガンバで、
駒の乗る中央部で5~6ミリ(人によっては3~4ミリ)
周辺部で2、5ミリから3ミリ(人によっては2ミリから3ミリ)
(私も最初は中央部で4ミリほどでした。)ですが、ガンバは弦の振動をこまで受けて、
表板に伝わります。そのため、受ける表板の部分は、厚いほうがより広い範囲で、鳴ってくれます。

薄くすると、反応も良く、軽く鳴ってくれるのですが、軽い低音に成ってしまいます。
そして、スピーカーと同じで周辺部を厚くすると、低音は出てくれません。

ここで、ひとつ実例を。

私のお弟子さんで、遅く楽器つくりを始めたのですが、丁寧に素晴らしい楽器を作る人がいます。
最初は、少し小型のディヴィジョンタイプのバスガンバばかりを作っていました。

そして、初めて、大きいバスガンバを作ったときのことです。

それまで、小型のガンバの場合は、板に合わせて、この板だったら、何ミリに削れば良いから、
と教えていました。もう、何台も作っているので、初めての大きなガンバですが、
自分で考えて作ってもらうようにしました。

楽器が出来て、弦を張って音を出します。
大きい楽器の割には、低音が出ません。楽器全体も鳴りが悪いです。
「この楽器はどう考えてつくったの?」と聞くと、
「一回り大きいので全体を0.5ミリ厚くした」との返事です。
楽器が大きくなっても、端は厚くすると低音が出にくいのです。
完成した楽器なのですが、勉強と思って少しづつ、端を落としてみるよう言いました。
彼もひたすら、良い楽器を作りたいと思っている、熱心な人なので、
端を削って、少し薄くして、指板を取り付け、音を出して、
また、指板を外して、削って音を出して、を繰り返したそうです。
3回目に気に入った音になったので、仕上げて持ってきました。

結果的に、小型のバスガンバと変わらない、周辺部の厚みになりました。

大きい楽器でもエッジが硬いと、低音も出ないし、楽器も鳴らないということを、
実証してくれました。
このように、楽器の表板のエッジ、端は、周辺部は大切なところです。
ギターも、ですから同じように中央は厚く、周辺部は薄く、私は作っています。
こうするほうが、私の考えるギターの音に近いのです。
そうです、基音がしっかり出るのです。

ここで少し、構造力学の簡単な話しです。
下図のように、モーメント(単純に回転させる力と考えていただいて結構です)
は、中央部に荷重がかかると、中央で最も大きくなります。
端では、小さいのです。
ですから、もともと、端は強度がなくても、応力的にはOKなのです。

             img547.jpg
            『ピアノの構造とその関連技術』 U.Laible著 畠 俊太郎 訳 より

このように、中央部で大きな力に対抗しないといけないのですが、
同じ厚みで作られ、バスバーで操作しても、古くなると、ブリッジとサウンドホールとの間の
表板が凹んでいる楽器を見かけます。
やはり、中央部分は厚いほうが、良さそうです。

もっとも、この例は、同じライニングで同じ木を使った場合です。
ライニングが変わると、条件は大きく変わります。

もう少しだけ、表板の厚みの話です。

私の楽器を弾いた方が、よくロマニロスさんの楽器に良く似ていると言ってくれます。
表板を中央部が厚く、端を薄くしていることから来ることが大きいと思います。
そして、この、表板の削り方以外でも、ロマニさんの考えている事は良く分かります。
ブリッジの寸法など。

でも、彼は今息子さんがギターを作っていて、表板だけはロマニさんが作って、
息子さんに送っている、という話を聞いた事があります。
表板の秘密は、息子にも教えないのか。と思う人と、
私は、息子に、一番大事な表板の作り方は自分で考えて、
自分の方法を自分で見つけさせようとしているのかな?と思いました。
貴方は、どう思われますか?

それと、ロマニさんはフラメンコも好きで、
1台だけフラメンコギターを作ったことがあるそうです。
でもフラメンコギターとしては、全然駄目だったそうで、
それ以来フラメンコギターは作らないそうです。
フラメンコギターということで、彼の考えている事を、全部忘れて、
作れば良かったのかもしれません。

次に、ギターと言えば避けて通れない、トーレスさんの話で終わりにします。

昔、ギター製作家の M さんが、先生のブーシェさんに習い始めの頃、
「板の厚みは何ミリにすれば良いのですか?」聞けば、ブーシェ先生は
「M よ。楽器は数字で作る物ではない。自分の感覚、感性を生かして、音を聞きなさい」
と言われたような事を、記憶しています。
少なくとも、『数字では作るな』とは、言われたようです。

でも、ロマニさんのトーレスさんの本 日本語訳の110ページに、
「中心線ならびにサウンドホール上部で、約2.5ミリ、
周辺部は1.4ミリ厚である事が分かっている。
このパターンは、調査した彼のギター全てに当てはまり、
偏差は1ミリの10分の数ミリにすぎない」との記述があります。

何十年も、楽器を叩いて、材料を叩いて、曲げて、
統計を取るような作業も必要だと思いますが、
もっとデータ、数字も活用してギターを作れば、良いかな?とも思っています。

最後に、では私のギターはどのような、厚みか?と聞かれましたら、
ブリッジ周りで2.8ミリから3ミリ、
周辺部で2.0ミリから2,2ミリを標準として作っています。と答えています。

  1. 2012/02/02(木) 22:52:20|
  2. ギター
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プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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