古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

構造、設計 ③ 表板 

お待たせしました。表板の構造、設計です。

少し長くなりそうですが、よろしくお願いします。

いろんな,本、HP、ブログなどを見せていただいて、製作法、製作工程などは、
わかりますが、何故そうするのか、考え方など説明されている物は、
ほとんどありませんでした。

そんな事は、お弟子さんや、生徒にすれば良い事かも知れません。
でも、ここでは、私の考えている設計、や構造について、私の考えを書かせていただきます。
何故、そうするのか書いてあって、それが分かれば、これを読んでいただいた方に、
その方自身の考えが出来てくる、また、考えるヒントになればと思って、書かせていただきます。

昔から「習ったことは、身に付かん」と言われていました。

職人さんでも、若い職人が失敗する事は分かっていても、やらせてみて、
若い職人に経験させ、その失敗から学ぶような事をしていたように思います。

私のブログは、こうすれば良いとか、こうしないさい、とは書かないつもりですし、
書いていないと思います、多分。

文章を読んで、理解して、自分なりに解釈して、自分の方法を見つけるのは、
教えてもらった事ではありませんから、その人のものです。

秘伝とか、門外不出とか良く言われます。
ほんの少し、他の誰も考えないような隠し味を加えるとか、一工程加えるとか、
ということだけで、また、それをそのままやれば、誰でも、同じ味の物が作れる。

同じ物が作れるから、秘密にしている、門外不出にしていると、いう話を聞きます。
最初にそれを、作った、考え出した方は尊敬しますが、それだけを守って、
伝統とか老舗というのは、私には合いません。

京都の和菓子も、永い間作られ続け、お茶席での定番となっているお菓子も最初は新しい物でした。
お茶席に使われるには、それまでに無かった、その店、その職人でなければ、作れない物しか、
そして、新しい味、新しいお菓子でなければ、お茶席には使われることはなかった、と聞いています。

それが、何代にもわたって作られ、同じ味を守ることが伝統のようになってしまっただけです。
初代になりませんか?貴方のギターの。

と、最初から横道にそれてしまってすみません。

まず最初に、私の作っているギターは小型ですが、どの程度小さいのか、
実際に目で見ていただきましょう。下図がそうです。

              UNI_0874 の補正

比較のため、手元にあった、ベテランギター製作家Tさんの1968年に作られたギターを実際に、
鉛筆でなぞって、型を取りました。

寸法で比べてみましょう。Tさんの楽器は 上部膨らみ部 283mm 
腰部 240mm 下部膨らみ部 370mm 胴体長 490mm で、

私の楽器は、上部膨らみ部 264mm 腰部 216mm 下部膨らみ部 336mm 
胴体長 477mm です。

数字ばかりが続くと、分かりにくいですが、Tさんの楽器に比べて、
胴の上部分の膨らんだところで19ミリ、最も膨らんだ下部分では34ミリ小さくなっています。
次に、また、数字になりますが、面積比で比べます。

ギターの表面板の面積の出し方は、下のようになります。

             img544.jpg
                     相変わらず、汚い字ですみません。


「アントニオ・デ・トーレス」日本語訳 293ページ
この計算式でいくと、Tさんの楽器は 1400.2平方センチで、
私の楽器は、1245.5平方センチです。

私の楽器は、Tさんの楽器の89%の面積。
Tさんは私の楽器の12%大きい面積を持っています。

ですが、ライニングの所で書かせていただいたように、Tさんのギターを台の上に置いて、
表板のどの部分が鳴っているかを試すと、周りから、2.5センチくらいは鳴っていない部分でした。

Tさんの楽器は、比較的軽く、良く鳴っている楽器です。
ライニングも見たところ、3.5mmか4mmくらいの厚みで、
カーブのきつい所だけ、鋸目を入れている、モダンにしては小さいほうでした。

でも、サウンドホール下のハーモニックバーより上の部分はほとんど振動していませんでした。
ライニングが、もっと大きな楽器では、胴体の縁ではもっと鳴っていません。

これは、いろんな楽器を見せていただいて、確認しました。
(ライニングだけの話でないのですが、詳しいことは、
パフリング、バインディングの所で話をさせていただきます)

Tさんの楽器との比較では、楽器が一番鳴っている胴下部の膨らみ部で、
37ミリの差があります。(両側で37ミリですから、楽器の一端では約19ミリ)

私の楽器は、ライニングが小さいので、表板の端から、5ミリくらいまでは鳴っています。
そうすると、私の楽器は19ミリ小さくて、5ミリ鳴らない部分があると、合計して24ミリ、
Tさんの楽器に置き換えると、鳴らない部分と同じ幅です。
これは、Tさんの楽器の鳴らない部分の25ミリとほぼ同じ数字です。

これは、実際に試した数字です。そして、私の楽器はサウンドホール周りでも振動しています。
サウンドホールまわりで鳴っていますので、Tさんの楽器より、広い面積で鳴っていると言えます。

その結果、Tさんの楽器はよく鳴っているのですが、モダン楽器にありがちな、
低音の基音が少なく、ぼやけた低音になっています。

これは、後で書きますが、私の楽器は同じ面積でも、ブリッジ周りを厚くして、
広い面積で鳴るようにしていることも基音がしっかり出て、はっきりした低音が出る一因ですが。

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次にトーレスさんがなぜ、大きなライニングを採用したか、考えてみましょう。

トーレスさんが最初に、大きなギターを作ったときに、それまで無かった
(スペインには無かったと言われています。イタリアには、
ガダニーニとか大きなサイズのギターは、作られていました。
スペインにもそれまでに大きなギターも作られていたという話もありますが)サイズなので、
この楽器が、何十年も弾き続けられるか?ということを考えたでしょう。

私でも、10年20年でつぶれるような楽器は作りたくありませんから。

でも、音のため、響きのためには、このサイズが必要だと思ったから、
彼の前期の大きさの楽器が生まれたと思います。
(トーレスさんは一時期ギター製作をやめて瀬戸物屋さんをやっていました。
この楽器製作を一時中断する前を前期、後を後期と言っています)

表板の強度不足と音色のために、今、使われているようなモダンスペインギターの
構造の基礎が考え出されたのでしょう。


まず、どの程度大きくなったものか、比較しましょう。
19世紀ギターは、私の好きなパノルモで代表させていただきます。

                 UNI_0872.jpg


図で見るとおりですが、寸法的に 私の640ミリのギターが、トーレスさんの代1期
に一番良く作られたギターに近い寸法なので、比較のために書きました。

ちなみに、寸法は京都の木曾尾さん所有の、FE21Dは(
現存しているトーレスさんのギターにはそれぞれ、番号が付けられています。
FEは前期の、SEは後期の楽器です。有名な物は、固有の名前も付いています)

上部膨らみ部 263mm 腰部 217mm 下部膨らみ部 348mm 
胴体長 476mm、
私の弦長640mmの楽器は、上部膨らみ部 264mm 腰部 216mm 
下部膨らみ部 336mm 胴体長 477mm とかなり近い数字です。最初に作った、
1号機、2号機は下部膨らみは346mmでした。これだともっと近い数字です。

これを面積で比べると、トーレスさんは 1261.2平方cm。
私の楽器は1245.5平方cm です。(ギターの表面積の算出方法は、前出のとおり)

これは結果的に、ほぼ同じになったので、トーレスさんを参考にしたわけではありません。
私の作っている、パノルモモデルを拡大した物です。図面を見ていただければ、わかるでしょうか?

パノルモの寸法がまだでした。

パノルモも、今まで修理した楽器は、皆それぞれ寸法が違います。
(大量生産の楽器ではありませんので、当たり前の事ですが)
実際に弾いてみて、気に入ったパノルモを元に私のデザインのギターです。
 
トーレスさんと比べると、表面積は78.2% になります。
(逆に言うと、トーレスさんの楽器が27.8%大きい)

上部膨らみ部 230mm 腰部 173mm 下部膨らみ部 290mm 
表面積は986.8平方cm です。

パノルモの、19世紀ギターに比べて、約28%表面板が大きくなっているので、
強度不足を解決する方法のひとつとして、トーレスさんはライニングを大きくした。
と私は考えます。
すると、表板の周りが、2センチから3センチほど補強されてしまって、
振動しない丈夫な場所が出来ます。

そうなると、パノルモとほぼ同じ表面板の面積しか鳴っていない事になりますが、
面積が広がって、強度不足の解消になります。

文章だと分かりにくいのですが、図を見てもらって、パノルモの外側、
私の640ミリの楽器との間が、振動しなければ、パノルモとほぼ、
同じ面積しか鳴っていないと、分かってもらえると思います。でも、丈夫になります。

このような事をトーレスさんも考えたのだと思います。


Tさんの楽器の時と同じような話しですが、ギターを台の上に置いて、
表板のどの部分が鳴っているか、試した結果、私が見せていただいた多くのモダンギターは、
(大きなライニングの楽器は)周りから、3センチくらいは鳴っていない部分でした。

パノルモが表面板の端まで鳴っていなくても、ほぼ、同じ面積しか鳴っていないことになります。
そして、モダンのほとんどは、ブリッジ周りしか鳴っていませんし。

次に、トーレスさんの考えた事は(あくまで、私の想像です)下図 で見られる、
下部膨らみ部分の2本の斜めバスバーだと思います。


                     img534.jpg

年輪に平行に強度が出るので、この斜めバスバーは、私は絶対に必要が無いものと思っています。
ただ、音は年輪の冬目に走るので、この斜めバスバーで、逆に広い面積を鳴らなくしようとした。
その方が、トーレスさんの考えるギターの音に近かったのでしょう。

私の場合は、楽器を小型にしたいので、広い面積を鳴らしたい、
そのために、障害となるものは、付けたくないのです。この、2本の斜めバスバーはその最たる物です。

ルネサンスリュートにも、Jバーといって、低音を抑える、バスバーが必ず付いています。
ルネサンスリュートの、低音の響きには、このJバーが必要です。
(バスバーといっても、低音を鳴らすための物でなく、響きを押さえる役目です)

でも、低音が大切で、低音が鳴らないと、
音楽が作ることが出来ないないバロックリュートにはありません。

                   img543.jpg
                 ルネサンスリュートのJバーです


                       img542.jpg
                バロックリュートのバスバーの例です。
               ヨアヒム・ティールケ の1700年頃の楽器です。
               <へルビッヒさんのリュート論文より>
              
              この小さな、バスバーがたこ足に繫がったと思っています。                


今回は、主に表板のライニングが与える、影響について書かせていただきました。

小さな楽器でも、大きな楽器と同じような面積で鳴らせること、理解していただくために、

長くなってしまいました。

今回の話でも、あくまで、私が見た楽器、私が感じたことを書いています。

数字についても、私の感じ、感覚ですので。

次回は、これもモダンスペインギターで疑問に感じていることですが、
少し書きかけた、バスバーの配置についてです。

  1. 2012/02/02(木) 09:40:20|
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プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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