古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

製作法 ⑥ 接着剤

ここで、本当はもっと後ろで、書こうと思っていた事を、先に書かせていただきます。

表板の話は次回に。

接着、接着剤の話しです。

昔、本とかテレビで、「接着剤は作れるが、どうして接着するのかが、
まだ、分かっていない」と言う話を聞いたことがあります。
厳密な、科学での話でしょうが、分子間引力、投錨力とか化学結合、
極性を利用しているとか、いろんなことは分かっているようです。
でないと、接着剤は作れませんから。

ここで、接着について基本的なことを書いても、これを読んでくださっている方には、
科学的な興味はあっても、ギター製作に関するブログでは、横道にそれそうです。
最近でしたら、ネットでも充分調べる事が出来ますので、そちらでよろしくお願いします。

といっても、ギターは木で作っていますので、木に関係する接着の話はさせていただきます。


――― 今回、お話しさせていただく内容は、35年ほど前に月刊誌の特集で書かれた物を中心に、
自分で調べたことを書かせていただいています。
接着に関して、特に「膠」に関しての、文献等は少なく、
実用的な内容のものは少ないようです。

この月刊誌は 『室内』と言う、本来インテリアの雑誌です。
月刊誌 『室内』は著述家として有名な、山本夏彦さんが創刊し、50年続いた月刊誌です。
インテリア雑誌とはいえ、山本夏彦さんらしく、執筆人も豪華で、変わっている人が多く、
実用書でありながら、面白い本でした。

この、月刊誌『室内』で25回ほどにわたり、当時使われていた、
接着剤について特集が組まれていました。
いくつかの号は持っていたのですが、バックナンバー全てを持っている、
建築家に頼んでコピーをさせてもらったのが、私の接着に関するバイブルとなりました。

この接着剤の項の著者は その当時、静岡県工業試験場 工芸部長 農博 金沢宏さんです。―――――


ギターの接着剤といえば、「膠」アメリカ、フランクリン社の「タイトボンド」
そして、木工ボンドでおなじみの、酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤が主な物でしょう。

これらの、接着剤がどうして、接着できるのか?ひとつの理論として、
古くから、投錨力が言われていました。
これは、船が錨を使って、停泊するように、接着剤が木の導管等の孔のなかに入り込み、
そこで固まる結果、接着剤がちょうど錨のように、剥がれなくなる。と言う理論です。

これを、実証したのが、島根大学の後藤研究室の、接着した木材の木材部分だけ、
科学的に完全に溶かして、接着剤だけ取り出した実験です。

取り出した、接着剤はギザギザの形状で、木の孔の中に根を張っていたそうです。
そして、すぐに考えられる、大きな木の導管孔の中だけでなく、
木材繊維を構成している、細胞膜の微細な穴にまで無数に入り込んでいたそうです。

ここで少しだけ、理論的なことを。
木材は何故、接着できるかと言うと、極性を持つ物ほど、接着しやすいと言う事。そして、
木材と接着剤のそれぞれの分子が引き合う力で接着されると言う事です。
分子の中には,OH基やCOOH基などの極性基を持つ分子と、そうでない分子があるそうです。
木材は、その主成分がセルロースで、そのセルロースが極性を持っていて、
極性を持っている接着剤を使うと接着できると言う事らしいのです。

次に、もう少し、実用的なことを。

接着の研究をしている人たちの言葉で、「濡れやすい材料ほど接着しやすい」
と言う言葉があるそうです。

これは感覚的に分かります。接着剤を塗って、染み込んで行き易い材料は接着しやすい、と。
それ以外にも、木の成分が接着剤の硬化反応を阻害する事があります。

モダンギターで良く使われる、ローズウッドは濡れの悪い木で接着力も弱い材料として知られています。

下図はユリア樹脂接着剤で54種類の南洋材を接着した結果です。

一般的に、比重が高いほど接着力は強いのですが、ローズウッドは、
その比重の割りに弱いと結果が出ています。

特にチークが悪いのですが、これは、チークを触ると、いかにも脂分が多く、
接着には向かない材料と言うのが良く分かります。

それ以外にも、接着力の弱い木としては、黒檀、紫檀など、ギターでも使う木があります。

                     img529.jpg
                    月刊 室内 接着の基本から

接着力の判断に使う濡れを感覚でなく、数字で表すのは、下図のような接触角があります。


                    img530.jpg
                   月刊 室内 接着の基本から

厳密に測るのは、難しいので、モダンギターのライニング、アンダーバーで良く使われる、
マホガニーと私がライニング、アンダーバーに使っている、ドイツ松に水滴を落としてみて、
どの程度吸い込み、濡れの差があるのか、調べました。
下の写真のようにかなりの差があります。
この差が、私がライニングで柔らかい木を使う、ひとつの根拠にもなります。
ギター本体のローズウッドが接着しにくい木なので、ライニングの必要性が増すからです。

                    UNI_0857.jpg
                   ドイツ松に水滴を落とした写真


                    UNI_0859.jpg
                   マホガニーに水滴を落とした写真

私は、35年以上前から、アメリカ フランクリン社の「タイト・ボンド・グリュー」
を使っています。
外す可能性があり、なおかつ、外しにくい(他に材料に比べて、柔らかいので)
表板などは、膠を使っていますが、ほとんど、「タイト・ボンド・グリュー」を使っています。

「グリュー」とは膠の事で、この、タイト・ボンドは本当に、膠の良い所はそのままで、
耐熱温度が10度から20度は高いような気がします。

例えば、薄い突き板を接着するのに、薄い広い物は、圧力をかけ難いので、
部分的に接着不良のところがあると、接着剤は足さずに、
(突き板の下なので、ほとんど足す事は出来ませんが)アイロンで加熱すると、
再接着出来ます。

フォルテピアノのハンマーなども、何の調整機能が付いていないので、過熱して、
何度でも角度や、長さを調節しました。

そして、酢酸エマルジョン系と違って、膠のように、硬化してもぬらしたタオルなどで、
余分にはみ出た、部分は拭くことが出来ます。
これは、使い勝手の良い理由の最たる物です。


昔、私達が古楽器を始めたころは、外国からの輸入品を使わざるを得ませんでした。
でも、結構、故障とかトラブルが多かったのです。
ところが、数年経つとほとんどトラブルも無くなってきました。当然、理由を聞きます。
そうすると、『最近、ヨーロッパでも、アメリカのフランクリン社のタイト・ボンド
を使うようになったから』との返事でした。
もちろんこれだけの理由でなく、日本の湿度、温度のことも調べたのだと思います。

この事があって、私は楽器を作り始めた頃から、フランクリン社のタイト・ボンドを使っています。
当然、日本では売っていませんので、今のようにネットで簡単に買える時代ではありませんから、
大きなガロン缶でアメリカから買っていました。

このタイトボンドでは、こんな話もあります。ドイツに行ったときのお世話になった、
佐藤一夫さんから、「ドイツ国内で、タイトボンドが手に入らないから、
日本から送ってくれないか?」と頼まれた事があります。
もちろん、すぐに取り寄せ送りました。
ドイツでも、同じような接着剤は開発されていて、ドイツの方は、
ドイツの物が良いと言うことで、タイト・ボンドは輸入されていないと言う事でした。

ここで、自慢ではないのですが、事実をひとつ。
関西の大学で、30年近く前から、古楽の授業が始まり、ガンバも30台ほど持っている大学があります。
予算の関係もあって、そのうち半分は私の作った物、半分は私以外の人が作った楽器です。

この私以外の方が作った楽器は、2年に一度くらい、5台6台と大修理をしました。
全ての楽器を。一番多いのが、裏板と横板のはがれ、裏板の剥ぎ部分の剥がれ、
表板と横板の剥がれ、それに、横板がエンドブロックや、コーナーブロックから剥がれて、
バラバラに近い状態とか。
学校の教務の方が、『こんな楽器修理可能ですか?』と聞くほど、剥がれて、
横板、裏板が曲がってしまっている楽器も。延べにすると、50台くらい修理しています。
同じ箇所の修理があれば、それは、修理が悪いのですが、同じ箇所の修理でなく、
50台くらいは修理しています。
この修理の楽器の中に、私の楽器は1台もありません。
私の楽器は15台ほど、30年近く、一度も修理をしたことが無いのです。
やはり、自慢ですか?

これは、材料や、構造、製作技術もあると思うのですが、タイトボンドを使っていたから、
というのもその理由のひとつだと思います。まだ、他の人が使っていない頃から使っていましたので。


横道にそれてしまいましたが、良い接着の条件として、

1)接着材料の水分は10パーセント以内に。
 
 これは、楽器の場合クリアーしていると思います。


2)塗布量は多めに
 
 よく修理の際に、見かけるのが、小口(例えば、ネックの接着)で接着剤が吸われて、
 ほとんど、接着剤が無い状態で、接着されている例です。吸い込みやすい、
 材料は注意する必要があります。


3)塗ったらすぐ圧着する。
 
 これも、楽器でしたら、気をつけていることだと思います。ただ、
 チェンバロの響板など、広い面積の物は、一人で作業していると、
 時間が経ってから、圧着することもあります。
 こんな場合、作業工程を見直して、早く作業するのが一番ですが、タイトボンドだと、
 膠ほどあわてなくても作業出来ます。
 もし、接着がうまく行ってない箇所があれば、アイロンで過熱してから、
 圧着することが出来ます。
 タイトボンドや膠では。


4)しっかり圧力をかける
 
 これが、唯一問題かもしれません。ギターの製作方法を見ると、表板のたこ足と呼ばれる、
 バスバーは、ほとんど、竹や木材、外国では中にスプリングを仕込んだ、
 パイプのような物で、圧力をかけています。
 でも、これでは、圧力が足らないと思って、私はクランプで時間がかかりますが、
 圧力をかけています。
 竹や木を使う方法では、一度に全てのバスバーが接着できるので、
 採用している人がほとんどです。

 また、古くなれば、故障の一番多い箇所。最も荷重がかかる場所。
 ブリッジの接着も、一般的には胴体が出来て、最後にサウンドホールから、
 クランプを3個ほど使って接着しています。
 でも、私は、表板を作るときに、クランプ8個ほど使って、これでもか!
 と言うほど、圧力をかけています。200年でも300年でも持つように。


接着剤の接着層は 0.02ミリが理想だと言われているそうです。
このためには、むくの木で、比重の大きいものなら 1cm平方に 
10キロから15キロは必要だと言われます。
膠だと8キロくらいだそうです。

小さいほうの膠で、例えば、トーレスさんのブリッジは 17.1×2.7センチなので 
面積は 46.17平方cm ですから、トータルの圧力は約370キロ。
そして、モダンの標準 ブーシェさんのブリッジは 18.9cm×2.85cmなので、
8kg/平方cmをかけると 538.65kgです。 

前に書いたように、ブリッジに良く使われる、ローズウッドは接着しにくい木です。
500キロほどの圧力は小さな3個のクランプでは、難しいと思います。
ただ、一方がドイツ松の比重が軽い木なので、半分くらいでも良いと思います。
でも、270キロは必要です。

逆に、私はバスガンバのエッジを、固めたくなくて、表板をマスキングテープだけで、
接着した事があります。20年ほど経ちますが、もちろん故障、剥がれなどは一切ありません。

こんな事を考えるのは、皆がやっているから、私もやってみようとか
先生に習った方法だからやっている。と言う事が無い私ですので、
常に何が一番良い方法なのか考えているからでしょう。

つくづく、教えてもらったり、先生につかなくて良かったと思っています。


すみません。また、長くなってしまったので、膠については次回に。


仕事も し な く っ ち ゃ !





  1. 2012/01/30(月) 16:10:35|
  2. ギター
  3. | コメント:1
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コメント

修理をした楽器の接着不良は白ボンドからくる可能性が高いのでしょうか?
  1. URL |
  2. 2013/12/23(月) 21:11:58 |
  3. にちひこ #-
  4. [ 編集 ]

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プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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