古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

チェロの不思議 その1 弦について


長いあいだブログの更新出来ていませんでした。

相変わらず、バタバタしています。

昨年から預かっている楽器の修理を何とかしてしまわないと、
と思っているのですが、先週は1週間に 3回演奏会がありました。

演奏会が無い日でも、ほとんどの日に
お客さんが来られたり、こちらが出て行ったりしていましたので。

今回は、ギターから少し離れて、チェロのことです。
直接 ギターとは関係ない話ですが,弦のことなど他の楽器のことが分かれば、
ギターの弦がどのようなものなのか、が少し分かっていただけると思います。

今回のブログの原稿は演奏会のリハの時間に書かせていただきました。
少し長い話で申し訳ありません。



他の楽器から見ると、その楽器をやっている人、その楽器だけをやっている人が
気がつかないことに、気がつくことがあるように思います。

チェロもちょっと不思議なことがあります。

チェロといっても、一般的なモダンチェロについて感じていることを書かせていただきます。
(バロックチェロはガット弦で、エンドピンもついていないので全然別の楽器になりますから)

モダンチェロで最も不思議に思うことは、弦のことです。

マンドリンはほとんど1種類の弦が使われているのを不思議に思いますが、
(メーカーはいくつかあるのですが、ほとんど1種類の弦が使われているようですので)
チェロは沢山のメーカーから沢山の種類の弦が発売されています。

でも、その沢山ある弦が同じような弦なのです。
(チェロをやっている人から見ると、山のように種類があって、それぞれがかなり違う弦だと言われそうですが)
違うといえば、ピラストロ社のコルダや他のメーカー(キルシュナーやサバレスなど)のガット弦くらいでしょうか?
でもそれは、主にバロックチェロ用として販売されています。

私などがモダンチェロの演奏を見ていると、弓の弦上の位置というか、
弦を弓で弾く場所、範囲が、非常に広いということをよく感じます。

ガット弦のガンバを普段弾いていると、スイートスポット言うか弦に当てる弓の位置がかなりシビアーだと思います。
昔からの本を見ると、駒から2インチ(約5センチ)くらいの所を弾くように指示されています。

この5センチ位の位置で前後2センチくらいがバスガンバでは最も弾きやすく音も良いように思えます。
この割合は音が高くなって、弦長が短くなっても同じ割合になるので、
音が高くなると駒の近くを弾かなければなりません。

これを不便とはガンバ弾きは思わないのです。

逆に私などは、あんなに弓の位置が違っても同じように弾けるということは、
どこで弾いても音にあまり変わりがない、つまり音に変化がつかない、
音楽に変化がつかないと思ってしまうわけです。

チェロでもガット弦を張ると、この割合はシビアーになります。

昔から、良い楽器の見極め方として、駒の近くで弾いても、音になること。
音楽として使える音がすること、と言われています。
でも、現在使われているチェロの弦のほとんどが、駒の近くでは音が出しにくいのです。
それは、弦がしなやかでなく、硬いことから来るのではないでしょうか?

ガット芯の高級弦である、ピラストロ社のオイドクサやオリーブといった弦でも、
芯材がガットというだけで、非常に巻線が硬く巻かれていますそして何重にも。

弦は弦の振動が正弦波に近い波形の時に,基音が出ます。
これが硬い弦だと、正弦波になりにくく、倍音の成分が多い音になるようです。

以前、ヴィオロンチェロ ダ スパッラ を作った時に、最低音のC線を探すのが,一仕事でした。

スパラはチェロの分数サイズで言うと、ほぼ8分の1くらいの大きさで、音楽に使える最低音の
C の音を出さないといけませんから。

このCはギターの最低音6弦のE より2音低い音です。

バスガンバの7弦は ラ なので、使えるかと思ったのですが、弦長が短いため弦が振動してくれません。
ガット芯でも太くなれば短い弦長では鳴らないのです。
そしてチェロの弦のように複雑に何重もの巻線もない弦ですが、振動してくれません。
(バスガンバの7弦用の弦は1万5千円ほどしましたが、短くしてしまったので使えません)

もちろん、4分の一用、八分の一用の弦は、太いのですが、
芯材がスチールのものしか手に入らず、まるっきり使えません。

後は、しなやかな ナイロンフィラメント芯の弦を探すしかありません。

ナイロン芯のドミナントの4分の4用のC線 では弦長が短すぎて音になりませんし。
やっと、スーパーセンシティブという会社がナイロン芯のガンバ弦を作っていることが分かり、取り寄せました。

これでいけると思ったのですが、巻線が多すぎて鳴りません。

そこで、一番外側のきしめんみたいな、平べったい巻線を外すと、やっと弦がしなやかになって、鳴ってくれました。

弦の構造が分かっていないと、なんのことかな?と思われそうですので、チェロの弦について、少し書かせていただきます。

ギターの弦、低音の巻線は 単純に芯線となる、ナイロンフィラメント(ナイロンの細い繊維を束ねた物)
に1重に主に軟銅線に銀メッキされた細い巻弦を巻いているだけです。(メーカーによっては純銀の巻線もありますが)

これに比べて、チェロやヴァイオリンの弦はナイロン芯の弦でも、ナイロン芯にまず、まとめるためとか、
巻線の馴染みをよくするためにとか言われていますが、薄い紙のようなものが巻かれ、その上からまず一段目の巻線が巻かれます。細いヴァイオリンの弦などはこれで終わっています。でもかなりしっかり巻かれています。

でも、もっと太い弦ではこの巻線も太くなるので(ギターの6弦のように)、巻線の凸凹を取るために、もう一度細い巻線を巻いて凸凹を取ります。メーカーやブランドによってはこの細い巻線を巻いていないものもあります。そして、太い巻線を1重に巻かず、細い巻弦を2重にしているメーカーもあります。そうすると、凸凹取りのための細い巻線を巻かなくても済むので。

そして、これらの巻線の上から、きしめんと言うか薄くて幅の広い巻線を巻いています。

チェロはポジション移動が多くて、その際に弦を左手で擦る、摩擦音を解消するためでしょうが、擦弦楽器のチェロではこの摩擦音はほとんど私には気になりません。

つまり二重、三重に巻かれているので、しなやかでなくなるのです。
手元に有る、弦を解いてみました。


スチール弦は単芯だと

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一般的な構造だと思います。

細いスチールをロープ状にした芯のもの


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芯の素材はスチールですが、ロープ状になっているため、しなやかです。


ナイロン(ペルロン)芯のものは

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太さが変わると、左が大変なので、巻線をいろいろ工夫しているようです。

ガット弦芯のもの
ガンバなどの単に1重だけ巻線を巻いたもの

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ギターと同じように太い丸い巻線です。


モダンのガット芯(ヴァイオリン、ヴィオラ)

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高音用なので、1重にしか巻かれていませんが、表面はツルツルです。
平べったいきし麺状の巻線のおかげです。

持ってみると、ナイロン芯の物が一番しなやかな感じがします。

実際に楽器に張ってみると、私の耳にはスチール芯の弦は、鉄の音がして楽器の音に聞こえません。
まるで、アコーステックギターでクラッシク音楽を演奏しているように。

最低音のC線だと、スチールでもロープ状のものだとなんとか、使えそうです。
普段ガット弦のガンバを弾いている私の耳には。

1,2,3弦は スチールだとロープ状の芯でもとても楽器の音には聞こえません。

なんとか使えるのは、ナイロン芯の弦でした。

それも、楽器屋さんがとりあえずなにか張っておかないといけないので、張っている弦。
初心者や子供用とされている、ダダリオのプロアルテ(ギターの人にはお馴染みのブランドですが)が私には、
最もガットに近い弦と思いました。


一般的なナイロン芯の弦としては、ピラストロ社のシノクサ、オブリガート、トマステイーク社のドミナント、
などがありますが、価格も半額くらいで、音も普段ガット弦を使っている私には最も自然な響きに聞こえます。
(これらの弦の内、シノクサ、ドミナント、オブリガートもハってみた結果です)

ギターの方にとって、あまり関係のない話が続いて申し訳ないのですが、
これら、チェロの弦を見ているとギターの低音弦、巻弦がなんとかならないかな?と思います。


擦弦楽器より弦の摩擦音が大きく聞こえる楽器、ギターでもチェロの弦のように、
巻線をきし麺のようなへらべったい巻線にすると左手の摩擦音が少なくなって、
むしろチェロ弦の巻線に使うより、はるかに良いと思うのです。

ダダリオなどはギターの弦もチェロの弦も作っているので、作ってくれないかな?と思っているのですが・・・・・・

弦の話のついでに、ヴァイオリン属は人によっては何億もする楽器を使っていますが、
これは弦がスチール弦を中心とした弦を使っているために、
無機質で硬い弦の音をなんとか音楽的な有機的な音にしたいために、
高い200年以上前に作られた名器を使う必要が出てきているのではないかと思うのです。

弦の問題がなければ、というか良い弦が作られると、もっと安い楽器でも音楽的な音の楽器になるのでは?
と思います。

でも、モダンの楽器を弾いている人には、現在の高い、古い楽器とスチール弦の組み合わせがベストなのでしょう。

次回は ギターに戻って、立奏や補助具について書かせていただきます。




  1. 2016/01/25(月) 11:34:53|
  2. ギター
  3. | コメント:2
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コメント

弦はガットに戻る

我が意を得たり! と嬉しく読ませていただきました。
”バロックチェロ”でガット弦と仲良くなるのに数年かかりました。スウィートスポットが狭く、弓速との兼ね合いが微妙ですね。 その代わり、慣れてきたら色々な語り口が弾きやすいです。 
現代の楽器は(弦に限らず)大音量は出やすいが、柔らかさ・弱音の表現が難しいですね。音量は表現のひとつの手段ではありますが、爆音のような音量は必要なのかな?と感じています。

足の付いたチェロは滅多に出さなくなりましたが、数年前から弦はPro Arteです。安いし、妥協できる弾き心地です。
平山さんの仰ることの繰り返しになってしまいました。すみません。
  1. URL |
  2. 2016/01/26(火) 06:29:34 |
  3. TANUKI #Kgh1ugJc
  4. [ 編集 ]

ガット弦代わりのナイロン弦

ナイロン弦でも、メジャーなのはスチール弦と余り変わりませんよね。私はモダンチェロにADが裸ガット、GCがピラストロのAricore(ナイロン芯)でここ数年過ごしていて結構違和感なく気に入っています。Pro-Arteは価格も同じくらいだし、Aricoreが手に入らなくなったら是非試してみたいです。
  1. URL |
  2. 2016/01/26(火) 20:17:15 |
  3. yskn #-
  4. [ 編集 ]

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プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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