古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

弾き方 について

ギターについての奏法 指頭か爪を使用するかで、コメントをいただきました。

リュートについては、今年の1月27日に、私が40年前に参考にさせていただいた、
絵を中心に書かせていただきました。今読み返してみると、バロックリュートまたは
アーチリュートのように弦数の多い、後期の楽器の演奏について、実際に演奏している
演奏家がモデルになっていただろうか?と言うことを強調しすぎているように感じます。

昔、佐藤豊彦さんが、爪を使ってリュートを弾いてらして、「20世紀になってから
人間に爪が生えてきたわけではないのだから、当時も爪を使って、弾いていた人も
いるだろう」とおっしゃっていたのを、思い出します。
そして、ガット弦でなく、つるつるしたナイロン弦を爪を使わず弾くのは、どうなんでしょうか?
と言ってらしたように思います。
その頃は、佐藤さんにリュート演奏については、「サトウリュート」と呼ばれていたように思います。

でもその佐藤さんも,今ではガット弦で指頭奏法だと聞いていますが。


今回の,弾き方については 19世紀ギター,ロマンティックギターに
ついての奏法が中心の話だと思います。

タレガさんやプホールさんの話も出てきますので、モダンギターも考えの中にはいっているようですが。

私の周りを見渡すと、リュート奏者の方が弾く,19世紀ギターは指頭が多く
(角田隆さん、佐野健二さん、高本一郎さん,岡本一郎さんなど)
モダンギター奏者のかたが、19世紀ギターを弾くと爪を使っているようです。
それが自然なことだと思います。

ギター奏者の西垣さんなどは,リュートも爪を使って,演奏されています。
(爪は短くしていて、指頭でも、爪と指頭両方かけて弾いたり、されていると聞いていますが)

モダンギターでは、ほとんどの人が爪を使ってられるとおもいます。
(昔 西條道孝さんは親指だけ指頭という話は聞いたことがありますが。)

モダンと19世紀ギター両方を弾くとなると、爪を使うのは普通の事だと考えます。

モダンギターの弦長が長く,重い楽器だと爪を使うのが,前提でギターも作られていると思います。

現在,19世紀ギターを作ってられる製作家の方はどちらで弾かれても、演奏できる楽器を
作られているように思いますが、モデルによって、また演奏家の依頼によって、
爪で弾くことを、前提に作ったり、指頭で弾くことを前提に作ったりされているのではないかと、
思います。

演奏される方が、どのような音楽を作りたいのか、それによってテンションのきつい弦を張られて、
爪を使って演奏されたり、緩いテンションでガット弦を張られて、指頭で演奏するとか
決められたら良いように思います。

どれが、正しくて,また当時はどうだったか?ということも大事でしょうが。

また、19世紀ギターのオリジナルの楽器に今作られているガット弦を張っても、当時の音とは
違うような気がします。

楽器は経年変化で、反応も良くなっているでしょうし、弦の製法も変わっているでしょうから。

私がガット弦をギターに張る場合は、主にハープ用の弦を張ります。コーティングされていて、
表面も滑らかで、湿度の影響も受けにくく、長持ちしますから。

イタリアのトロ社のギターの用のガット弦は、発売される前から,試させていただきましたが、
爪で弾くと、ハープの弦に比べると、雑音が出ていたように思います。

また、19世紀ギターの弦のテンションですが、モダンに比べて、テンションは低めの弦が
選ばれているように思います。

オリジナルの楽器で,経年変化で響板の強度は上がっていると思うのですが、その他の部分では
強度不足やコンディションの問題から、テンション低めの弦が選ばれているようです。

でも、モダンの楽器に比べると,響板の面積も小さく、強度はむしろモダンよりあると思います。
また、駒もリュートなどに比べると、はるかに接着面積も大きいですし、ブリッジピンの構造では
モダンよりも強度の問題はなさそうです。

特に、ウイーン型の楽器だと、ブリッジの下にバスバーが通っていますので、コントラギターのように
15弦も、16弦もある楽器でも、問題無いように、張力の大きい弦を張っても良さそうです。

ここで、誤解されそうなのですが、19世紀ギターにテンションの大きい弦を張ったほうが、
良さそうだと、言っているのではありません。

テンションの大きい弦を張っても良い楽器もあると、言いたかったのです。

モダンの方の先入観で、19世紀ギターというと、指頭でテンションの緩い楽器を
リュートのように弾くのが、一般的なので、私には合わないと思ってられる方に
そんな楽器ばかりではありませんので、と言いたかったのです。


私の手元に、たまたまあった現代ギターの 2004年10月号に 西川知日己さんが書かれた、
「19世紀ギターあれこれ」と言う記事があります。

そこで、西川さんが 19世紀ギターは当時むしろ、弦の張力は高かった、ということを
書かれています。

(この文章を読んで、オリジナルのギターを壊された方もいるという話も聞きましたが。)

その根拠に 1820年発行のアグアド教本に 弦のテンションは合計 80から90ポンド
と書かれている。当時のポンド換算すると、39キロから44キロになると、いうことです。

ポンド換算は当時のポンドを調べると、ほぼその値になります。

でも、アグアドさんはどこまで、弦の張力を知ってられたのでしょうか?

20世紀のラミレス3世さんが彼の著書「ラミレスが語るギターの世界」
の中で、日本語訳 167ページに 「弦によって生じる70キロに近い張力」
と書かれています。

翻訳で間違うような数字ではないと思います。ポンド換算も難しくありませんし。

現代のギター製作を代表するラミレスさんもギターの弦の張力は 
70キロ近いと思ってらしたのでしょうか?

簡単に計算も、測定も出来る現代ですらそうですから、アグアドさんの頃の
弦の張力は実際にアグアドさんが測った数字なのか?疑問が出ます。

そして、次の根拠が 当時は常識として、ギターの普及がさほど多くなかった時期にあって
高音用の3弦はヴァイリンの弦を流用することが一般的であった、と書かれています。

つまり、ギターの1弦はヴァイオリンの1弦を使う、2弦は同じように、ヴァイリンの2弦を
使ったとあります。

そして、当時ヴァイオリンの弦の中間的ゲージとして、0.68ミリの弦を
弦長630ミリ、ピッチをA=435として計算すると、テンションは8キロを超える、
これはアグアドの言っている合計と符合する、と書かれています。
私が計算しても 8,327キロになります。

でも、当時の弦は 以前のブログでも書かせていただいたように、
パガニーニさんの弦が1929年に書かれた、カールフレッシュさんのヴァイオリン奏法の
本の中に、当時の1弦をパガニーニさんは2弦に使っていた、そして3弦は当時の2弦が
使われていた、と書かれています。
パガニーニさんは1784年生まれ1840年没なので当時の弦と言ってよいと思います。

そして、1929年、当時の弦は1弦は 0.43ミリ(ガット)0.26ミリ(スティール)
2弦は 0.62ミリ(ガット)と書かれています。

これは、今の1弦が 0,62ミリ(ピラストロ社のコルダがそうです、
これはモダンヴァイオリン用のガット弦です)
サバレス社のバロックヴァイオリン用弦では、0.51ミリ、
イタリアのアキュラ社では ライト 0.54ミリ メディウム 0.58ミリ
へヴィー 0.62ミリです。
最近良く使われる、イタリア トロ社の弦では 1弦用に0.56ミリからメディウム0.60ミリ
最も太い弦で 0.68ミリです。

一般的には、標準は0.60ミリと言えると思います。と言うことは、1929年当時の
2弦が今の1弦に相当するわけです。

そうなると、パガニーニさんは今の1弦を3弦に使っていたということになります。
そして、パガニーニさんの1弦は強いより糸と同じようなものだったと書かれています。

西川さんが当時の弦の中間的な弦として、0.68ミリを使っているのは、
あまりにも太すぎると思います。

現代のバスバーも大きくなり、ハイテンションのスティール弦に対応出来る、
コンデションの楽器でも、0.60か0,62ミリなのですから。

パガニーニさんの頃まで戻らなくても、1929年当時の 1弦 0.43ミリで
計算すると ギターで 3.33キロ ヴァイオリンで 3.58キロにしかなりません。
1弦は普通少し高めのテンションですが、同じ張力としても、合計19,98キロ(ギター)
ヴァイオリン 14,32キロです。

カールフレッシュさんが間違っていたとして、現代のモダンヴァイリンの弦 
0.62ミリで計算すると、 6.92キロです。現代だと、
2弦以降はテンションが低くなりますから、ギターで合計30数キロでしょうか?


と、いろんなことを考えても 当時のギターの弦は一般的に
テンションが低かったように思います。







  1. 2013/07/15(月) 00:56:15|
  2. ギター
  3. | コメント:1
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コメント

ギター道

 詳細、懇切なるご説明、ありがとうございます。
弾きかたには、もちろ歴史的認識に立脚した正統な奏法と呼ぶべきものもありますが、その時代における合理的、流行などもあり、今の常識では不明のことがらも多いと思っています。
 何が正しく、誤りであるとか2極化できないこともあると思います。要は、自分がどう表現したいかの欲求によって決まってくることなのかもしれません。もちろん、弦の選定でも。
 一般愛好家は、師事した先生の影響をまず受けるかと思いますが、それは、弾き方、弦の種類、さらには使用楽器(国産、舶来)、趣味、考え方、思想、髪型、服装にいたるまで、尊敬するべき人物に身も心も、先生色に染まってしまうくらいであります。
 このことが、ごくごく正しいことであるならば幸いですが、誤った、悪いほうに真似てしまうと、それこそ一生の不覚といえるくらい惨めな、取り返しのつかない不幸な結果を招きます。

 巷には情報が氾濫しております。その中から、正しく、良識的な事実のみを取捨選択し、活かしていくいことが肝要です。
 時間は有限ですから、無駄のないように効率的に正しい事実をリスペクトする気持ちを持ち、修行を積むことが重要です。
 何事も、「道」と名のつくものに終りはありません。一生勉強、修行でもあります。
 私は、ギター道と呼ぶべき修行を正しく行っていきたいと精進しています。
  1. URL |
  2. 2013/07/15(月) 10:28:25 |
  3. luten #-
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プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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