古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

植木先生のこと

gavottenⅡ 様

拙い演奏を評価してくださって、ありがとうございます、というか
恥ずかしいくらいです。

私が聞き直しても、もっと歌わなければいけないし、ミスも山ほどあるし、
もう少しましな、演奏もあったのですが、カメラのアングルがあまりにもアップだったり、
アングルが悪かったりで、この演奏になってしまいました。

ブログの中でも、書かせていただきましたが、最初に出会った植木先生の教えや、人格がとても
素晴らしかったので、今の私があると思います。

私のHPでも、書かせていただいているのですが、いろんなことをいろんな場所に書いていますので、
読んでいただいていない方も、多いと思いますので、ここで植木先生のことを書かせていただきます。
先生の教えていただいたことを、私以上に守って、素晴らしい演奏をされている方も多いので、
出来の悪いほうの生徒だった、私の植木先生の思い出です。
HPは7年ほど前に書きましたので、少し時系列や内容を変えさせていただいています。



ギターの植木義法(うえき よしのりと読みます)先生。

学生生活も終わりに近づいた頃、それまで美術の事ばかりやっていたのですが、
同級生にギターの上手な人がいたこともあり、
それまでやっていなかった音楽をやってみようと思っていました。

いい年をして音楽を始めるわけですから、
ピアノ、 ヴァイオリンなどは最初から無理と考えていました。

それに、ギターが好きと言うこともあって。一般的な方法、 独学で始めました。
でも、いい先生がいれば習いたいとは思っていました。

阪神間、神戸辺りのギター教室も見学さ せていただきました。
半年、1年習っている人の演奏を聴かせていただいて、こんなものかと、
だいたいのことが分 かってきました。

そこで出会ったのが、植木先生です。

一番探していた先生が、歩いて3分の所にいらっしゃたのです。
インドの諺にあるそうなのですが「必要なときに師は現れる」と。

まず、最初に生徒さんの演奏を聴かせていただいて、 本当に腰が抜けるほどびっくりしました。
まだ習い始めて、半年とか数ヶ月で、ほかの教室の何年も習っている人たちよりも、
遙かに上手なのです。もちろん、本人も、努力しているのでしょうが。

もっとも、私の姉の同級生の平島健二 さん
(今、芦屋など阪神間でギター教室を開いてられます)は、
ギターの持ち方から教えて貰って(それまで、ギターを 全然やっていなかったと聞いてます、
それまでは水泳のすばらしい選手だったと姉から聞いてました)

ほぼ1年でプロの 出る、大阪で開かれたギターコンクール
(確か、全日本ギターコンクールという名前だったと思います)で1位になりました。
現在、神戸、明石などで教えられてる高永さんは、社会人に成られてから
(大会社の相撲部のキャプテンで、植木先生から指が 堅くて短くて、
ギターを弾くことすら無理だと言われたように聞いています)
植木先生に習って一年くらいで、同じコンクールで2位になっ ています。

一年でコンクール1位2位になるくらいですから、半年で上手なのは当たり前でしょうか。

あと、パリ国際 ギターコンクールで審査員全員が1位と認めた、渡辺範彦さんも、
私と同じ神戸の垂水で、植木先生のお近くにお 住まいでした。
小さい頃は「ごんた」(神戸弁でしょうか、乱暴な子供のことです)だったので、
お母さんが音楽でも やらせばおとなしくなるだろうと、
たまたま、近くに植木先生がおられたので習い始めたそうです。
お母様はとても、熱心な方だったようです。

でも、渡辺さんのCDのプロフィールとか,渡辺さんのHPを見ると,植木先生のことが
一切書かれていません。何故なのか,聞こうと思っても、お二人とも亡くなっていますし。

 
そこで、この文を読んでくださった方のために、何故短期間に上手になったのか?
その秘密を少しだけ書かせていただきます。

先生はものすごく耳の良い 方でした。よく家に遊びに行かせていただいて、
レコード(そのころはLPです)を聞かせていただきました。

LPは盤の 外側と内側では音が違うのです。外側は、直径が大きいので、
同じ回転だと、沢山針が音をひらってくれるので、 音が良く、
内側になるに従って音が悪くなるのです。

その音を聞いて、今LPのどこに針が行っているか分かるのです。
その耳で、指のタッチ、スピード、力の入り方など聞いて貰うのですから、
悪いところはすぐに指摘していただけます。
 
ということで、そろそろ、この辺りから本題に。

先生は、ギターは「旋律楽器で和声楽器ではない、歌うこと。歌うことが音楽の基本」
とよく言われていました。

お家にお邪魔すると(奥さんも声楽家でした)
必ず、チェロの名演奏や声楽の名演を聴かせていただきました。

よくあるパターンが、たとえば1弦のミから2弦のレの下がるとき、
ミの音とレの音の間に隙間があってはいけないし、 ミの音が開放弦でレの音が鳴っているのに、
消音できていないと旋律が2重になってしまう。
歌でそんなことはあり得ないので、歌を歌うようにギターを弾くこと。

それと「ギターでも、作るのは音楽でギター音楽ではない」とのことです。
指の都合で、 少し隙間が空いたり伸びたりすることは絶対にいけない。
(2声、3声の曲は必ず、2声、3声として弾かなくてはい けない、
楽譜に書いていることをよく読んで、その通りにまず弾くこと。
今でも指の都合で、音楽がゆがんでしまっている演奏を聴きますが。
音楽的に間違ったことをしないと言うことを、習い始めた頃から、
きっちりとやることを教えていただきました。)

それと大きい音を出すこと。小さい音だと音楽的に間違っていても聞き取りにくい。
汚い音で、大きな音だと、当然 いやになってくるので、自然と音もきれいになる。

よく教室で、先生の楽器と交換していただいてレッスンを受けました。
交換したはじめは、いい音なのですが、10分も弾いていると、私のタッチが悪いので、
先生の楽器の音が悪くなって くるのです。

代わりに、私の楽器がどんどん良くなってくるのです。ギターを始めた頃から、
楽器は生き物、弾く人に よってどんどん変わっていくことを、実感させていただきました。
(そのころ、先生はハウザー2世を使っておられて、 あとになってラミレスに持ち換えられました)

そして、これは松田二郎先生もそう言ってられるのですが(植木先生も一応、松田先生のお弟子さんです)
左手の押さえ方。力を抜いて、弦を押さえるのでなく、押す方向に指を使う。
ヴァイオリンのハイフェッツさん、チェロのピアテゴスキーさんのヴィデオがその頃手に入りました。
その中で、ハイフェッツさんが家での練習の最初に、左手だけでゆっくり長い時間、弦を押す方向に
弦を押さえる練習をされています。
ピアテゴスキーさんも、決して抑えるのでなく、力を抜いて押しているように見えました。

セゴビアさん、ブリームさん、イエペスさん皆そうしているように、思います。

これが、ギターで2声、3声の曲を弾く時にとても役に立つのです。
力を抜いて,弦とフレットを利用して,弦を押さえると、開放弦と同じような,しっかりした
減衰の長い音で弾くことができます。

力を入れて、フレットの近くで,押さえる方向で弦を押さえると、当然、上声部の動きもあるわけですから、
それにつられて、力が抜けたり、力の強さが変わってきます。
そうすると、低音の減衰も短くなり,音も弱い音しか出ません。

低音の支えがないギター演奏も良く聞きます。
2声、3声の曲が1声の曲に聞こえたりします。

これは、左手の使い方に問題があるように思います。

左手の使い方を最初に教えていただいたので、テンションの緩いリュートでも、
テンションのきつい、バスガンバやコントラバスでも左手には苦労しませんでした。



それと、楽器は生き物、どんどん音が変わっていく,と言うことの実例です。

植木先生が弾くと,どんなギターでも音がよくなっていきます。

コンクールの前に30分ほど,会場の近くで,植木先生がコンクールに出る
生徒さんのギターを弾きこむのです。

そうすると、30分は植木先生の音を楽器が覚えてくれているようで、
コンクール本番でも,良い音で演奏できます。

良く聞くのが、コンクールは先生の楽器を借りたり,その時だけ良い楽器を使う人も
いるようです。 でもこれだと、普段使っている楽器と違うので、なんとなく
弾き難いと思います。でも、普段使っているギターが良い音になれば、
もっと良いわけですね。

もちろん、生徒さんも良い音を出すように,練習していますが、
審査員の方が、「植木先生のお弟子さんは、皆、音が綺麗ですね」
といわれていたのを思い出しますが、植木先生の影のサポートもあったからだと
思います。

私は、コンクールに出るほど、また、プロになるほど上手ではありませんでした。
でも、習い始めてから,1年ほどでギター教室の先生になるくらいには,していただきました。


本当にこんな近くに一番いい先生がいたことが、今の私につながっていると思います。

それと学生だったので、 お金はないけど時間があるということで、
ほとんど毎日レッスン場に行かせていただきました。
そして、他の生徒さんのレッスンを聞かせていただきました。

私が行くと、これは私に 聞かせていただいているのだなという、レッスンもよくありました。
ほとんど、毎日行って、年に一回、月謝を払うくらいで経済的にも助けていただきました。

それに先生はオーディオにも詳しく。糸ドライブのターンテーブル、
シングルの真空管アンプ、値段の安いパーティクルボードでのスピーカー作り、
なども教えていただきました。

この頃からお金をかけずにいい音のオーディオ作り が始まりました。
そのきっかけは植木先生でした。




  1. 2013/06/30(日) 12:51:29|
  2. ギター
  3. | コメント:3
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コメント

平山様、植木先生のお詳しい話をしていただきましてありがとうございます。

10弦ギターのバッハは、本当に印象に残る演奏です。何回聞いてもよい演奏だと思います。
 
 何事も初めが肝心と申しますが、最初から良き師に就かれ、あの渡辺範彦さんも同門であられたとは知りませんでした。
 私も心して見習わさせていただきたいと思います。

特に指の都合でテンポがくずれたりというのはよくあり、耳が痛いです。

 自分の楽器を誰かうまい人にしばらく弾いてもらっていますと、自分が弾いた時に違う楽器を弾いているような感覚は、私にも覚えがあります。
 やはり、上手な人の長年の弾き込み効果というのはあると思いました。

 参考となりました。ありがとうございました。
  1. URL |
  2. 2013/06/30(日) 20:08:54 |
  3. gavottenⅡ #-
  4. [ 編集 ]

弾き方について諸々

はじめまして。すごく多岐に渡る話題が豊富のこのコーナーは熱心に読み入ってしまいました。
 弾き方について押弦のことについて書かれていたので、思い出したこともあり、少し述べてみたい。

 それは、爪弾きか指頭かの問題であります。ご存知のようにロマンチックギター時代のソルは指頭弾き、アグアドは爪弾きですが、特にソルはなぜ指頭弾きだったのでしょうか。その作曲群をみると、爪弾きのほうがよりブリリアントに輝かし音色となる。
 かの山下氏も、彼は本当に指頭弾きであったのか、と疑問を投げかけています。
 あるソル研究家は、指の故障、それも特定の指の巻き込みとか、爪の病気、爪の形状による(極端なワシ爪のような伸ばせないようなもの)のために、泣く泣く指頭だったのではないかということです。
 ソルの曲をざっと見てみると、スラー奏法がかなり多いとのこと。それは右指弾きの頻度を無くし、左手のレガートな奏法によったとのことである。またそのことが、右手のある特定の指の動きの悪さをカバーするためだったとも言われています。

 かのセゴビアも、指頭奏法をこきおろしています。短めの爪で指から爪に瞬間的に抜ける弾きかたこそがふさわしく、プホールはタレガの高弟であったが、後年、タレガが爪の病気かなにかで指頭奏法にしたので、自分まで指頭奏法となり、まるで、ビウェラのようなか細い音色になったとおもったら、ほんとうにビウェラ弾きになってしまったとか、言っています。

 さて、歴史的視点からも考察してみましょう。バロックリュート時代も実際は、爪弾きが多かったのです。教本でも指弾きの妥当性を指摘するものもありますが、爪で弾かれていたことも示唆しています。

 特に当時描かれた絵画に注目してみますと、ほとんど手の角度はかなり急角度でブリッジに近く、恐らく、あの角度では、ガット弦の低テンションでも、爪に当たってするどい音色であったと思います。ルネサンスリュートと違い、バロックリュートは爪に抜けてするどい音色が好まれていたのではないかと考えます。
 例を出すと、まず思い浮かぶのは、イエペスのバロックリュートの音色、あれに近いものであったろうと推測します。

 時代は下って、6コースから6単弦時代になれば、もう爪に抜ける奏法はますます合理的になったと考えます。むしろ複弦から単弦への移行は、弾き手の欲求と相まって自然な流れであったのです。

 ただ、私は指頭奏法を完全否定するものではありませんが、現代人の考える今の常識は、必ずしも当時の常識と一致しない面が多々あると思うのです。
 
 そして、ロマンチックギターの弾きかたも指で撫でるように指頭奏法で弾くと、当時の音色に近く、その良さが実感できるかの見解もみられますが、実際は、爪を利用したアタック感により、より輝かしい音色のほうが好まれ、実際に近いだろうと思っています。タレガも初めは、爪弾きであったのですから、当然そうだと思います。

 以上、私見も交えていますが、ひとつの考えと、ご承知おきくださいませ。
  1. URL |
  2. 2013/07/09(火) 10:32:24 |
  3. ヤノ #-
  4. [ 編集 ]

弾きかたの件

ヤノさま、はじめまして、興味ある面白い論題ですね。

 いわゆる19世紀ギターについては、たしかにアグアドは爪派ですし、ソルは指頭奏法ですね。ソルの指の故障の話は初耳で驚きましたが、その問題はとりあえず横においておきましょう。
 19世紀ギターはもちろん当時は、ガット弦で、低い張力であったことを考慮せねばなりません。19世紀ギターでは、指頭奏法で力をいれず、やわらかめのタッチで充分に遠鳴りさせることができたのです。しかも子音がきちっとして、修辞的であり、聞いている人間にはそれで充分に説得力があったのです。
 このことは、実際のオリジナル楽器を所有して、当時と同じ弦、ピッチで弾いてみるとよく理解できます。
 ソルは自然とそのような弾き方であったというべきです。

 現代の常識で、昔の音楽もそうであろうと考えるのは、厳に慎むべきでしょう。

 リュート奏法については、仰るようにかなり多くの絵画に残されているリュートを弾く人物画では、一様にブリッジ寄りで、手の角度は45度か、直角に近いものもあり、たしかに、指の小指側の腹というよりも、ごくごく先端の面積の小さな部分で弾かれているようです。
 このことは、歴史的奏法を教授してこられた巨匠の方々には失礼なことではありますが、もう一度、再考してみる必要もあると思っています。
 ですが、今現在、主流である指の小指側の肉にたっぷり弦を当てる奏法は、やはり、やわらかい音色で、リュート奏法として妥当だと思います。

 イエペスの例を挙げられておりますが、私は録音だけで、奏法を見たことはないので不明ですが、ブリームの演奏が最も良い例です。

 ブリームは、モダンリュートで、タッチもギター的です。あれでよくやわらかい音色を出していると思います。おそらく映像を見ても、ギリギリ爪にかからない先端の肉部分で弦を捉えているのがわかります。まさに名人芸ですね。
 ですが、アマチュアはやはり今に伝承される標準的タッチで弾くべきだというのが
私の考えです。爪の雑音は音楽を台無しにし、聴く人に不快感と失望以外に何も与えません。

 
  1. URL |
  2. 2013/07/10(水) 20:02:24 |
  3. luten #-
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kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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