古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

61センチギターと新発見の弦

ここのところ、ヴァイオリンの話題が続いています。
今日は、ギターの話です。

以前、図面でお知らせしていた、弦長 61センチのギターが出来ました。
といっても私が作ったのではなく、お弟子さんに図面を渡して、材料も指定して
作ってもらったものです。
私が作れば、私の考えた楽器ですので、良い物が出来ると思っています。
ですが、私の設計、考えだと誰が作っても、良い楽器になるということも、試してみたかったのです。

ヴィオラ・ダ・ガンバは私の考えで作っている方、指導させていただいた方の作ったガンバ
は素晴らしい楽器ばかりです。

ギターでもそうでありたいと、思っていました。


という事で、その61センチの楽器です。


UNI_0113.jpg

右から、私のブログで良く登場する、1968年の田村満さんのギターです。弦長 65センチ

そして、私のスタンダードの弦長64センチのギター、トーレスさんの1期の楽器に近い大きさです。
次が、61センチのギターです。
64センチのギターを、95%縮小しています。
一番左が、弦長59センチのギターです。これは、64センチのギターの92%縮小。



現代ギター誌 2008年5月号 13pにあります、ドイツのギタリスト、ギター教育者の
ミハエル・コッホさんの

最適な弦長=現在の身長X0.36  



という公式から、165センチの身長だと、約59センチになりますので、
最初に59センチのギターを作りました。

左手は、何のストレスも無く、指を拡げれば和音が押さえられ、左に使う神経を
右手に全て使える、と言う感覚でした。

でも、やはりボディは少し小さく、響きも、音の強さももう少し欲しい感じでした。

そこで、今回61センチの設計をしました。
61センチだと、身長はほぼ170センチとなります。

結果は、最高でした!!1

音の響きも、締まり具合も、低音、高音のバランスも完璧です。

今回、出来てから少し様子を見ようと、5月26日の酒心館のコンサートで
ガンバと合わせるために、A = 415 にしました。
もともと、65センチの弦長の楽器に比べると、1フレット分短い弦長です。

それを、半音下げると言うことは、65センチの弦長の普通の楽器を全音下げる
ことになります。

半音下げても弦の感触や音も65センチのモダンスペインギターよりもしっかりしているのです!

61センチの弦長の左手の操作性の良さは、リュートで確信していましたので、
予想通りですが、音の密度や和音の分離どれをとっても、素晴らしいのです。

もちろん、楽器を構える体への負担も小さく、59センチで少し小さすぎて、
持ちにくかったのが、体にぴったりです。

もう一枚、一般的なモダン楽器と比べやすいように、田村さんの楽器の横に並べました。
もちろん、右の楽器です。


UNI_0114.jpg

かなりコンパクトです。
以前書かせていただいたブログの、マヌエル・ベラスコのギターとほぼ同じ大きさです。

このサイズが、一般的な日本人にとって、最適な大きさではないかと思います。
もちろん、音も私の目指していた音に最も近いと思います。

実は,もう一台 ラブレボットをベースにしたギターも作ってもらいました。
こちらも、減衰が長く音も魅力的な音の楽器です。少し、19世紀ギターに近い響きがします。
これはこれで、素晴らしい楽器です。作った本人はこちらが気に入っているようでした。

61センチの弦長、ボディサイズが良い方向に作用しているのは事実だと思います。

先日プチジャンの修理で来られた、プロのギタリストの方も、10弦ギターの次に
気に入られたようです。そして、マーチンタイプのギターも。



次にこのギターに張っている弦です。

フロロカーボンの弦なのですが、「ソフトフロロカーボン」です。

img058.jpg


カーボンなので、ナイロンのように湿った音でなく、ガットに近い音なのですが、
普通のカーボンに比べて、柔らかく、暖かい音がするのです。

私のが探していた、理想に近い弦です。

最初は太い、3弦用くらいしか、売っていなかったのですが、やっと細いゲージまで売っている
会社を見つけました。


1弦は12号の 0.57ミリしか選択の余地はありませんが、
2弦用に 18号の0.702ミリ 3弦用に 28号の0.875ミリ
を張っています。

また現代ギター誌の記事ですが、2011年6月号に主要ギター弦のテンション1覧
が載っています。

1弦はサバレスのアリアンスなど 7.9キロとか8.5キロのものがあるのですが、
2弦3弦は サバレス アリアンス、カンティーガ ハイで6.3キロ、6.1キロです。

最も、テンションが高いハナバッハのスーパーハイで 6.5,6.8キロです。

アリアンスなどは、1弦と2弦のテンションの差が2.2キロもあります。

モダンスペインギターは、2弦3弦が鳴らない、特に3弦はハイポジションが鳴らない、
ぼけている楽器が多いのに、テンションが低いのです。

テンションが上がると、減衰が短くなるので、テンションは低めなのでしょうか?

それが、ソフトフロロカーボンだと、弦長64センチで、1弦は 8.3キロ、
2弦は7.06キロ、3弦は7.03キロです。

ギター弦では存在しない、7キロ以上のテンションが得られます。

当然音もしっかりしますし,1弦との音のバランス,音色のバランスも取れます。


一般的なテンション配分で行くと、2弦は16号の0.662ミリ、3弦は26号の
0.843ミリとなるのでしょう。

でも、今回は弦長が 61センチなので、A=440 で
1弦は 7.54キロ 2弦は 6.41キロ 3弦は 6.3キロ となります

(A=415では それぞれ、 6.72キロ、5,71キロ、5,69キロとなって
サバレスやダダリオのノーマル弦に近い値です )

ゲージやテンションが選べて、音もガットに近い暖かさの弦ですので、私は当分この弦を
使ってみようと思っています。

ガットやシルク芯の巻き線 と合わせてみようとは思いますが。


ただ、今のところ、手に入れる方法が、限られた会社で買うしかなく、また100メーター
単位になりますので、興味のある方にはこちらから送らせて頂だこうかと、考えています。




  1. 2013/06/04(火) 21:52:35|
  2. ギター
  3. | コメント:17
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コメント

こんばんは。
 ギターの表面板面積や幅との関係や比率など、黄金比のような関係があるのでしょうか。なにか理想的な関係率がありそうですね。
 いつもながらこのような計数的な話は面白いなと思います。

 ところでこの前、ご入手された古いギターは、その後調子はいかがですか。少し調整修理などして、いずれ「すぐに弾きたい人のために」 コーナーに登場するのでしょうか。すごく興味があります。
 これらの二つのギターが今後どういう形になっていくのか、平山様のお手元にずっと置かれるのか、そのへんのところお聞かせ願えればありがたいです。
  1. URL |
  2. 2013/06/06(木) 19:53:10 |
  3. gavottenⅡ #-
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はじめまして。
 弦のテンションの話が出ていましたので、ちょうど思い出したのですが、ひとつ質問がございます。

 私のギターの師匠は、「ギターをケースに仕舞う時、弦を一回一回緩めて保管する必要はない。ギターというのは、テンションをかけていないとダメなんだ。そういう構造になっている。」 と言うのです。

 私は表面上は納得したふりをして「ハイ、わかりました」 と答えときましたが、実は納得していないのです。

 物理的に考えれば、誰でもわかると思うのですが、常時、50kg近い張力が、あのわずかな面積のブリッジにかかり、表面版にもテンションをかけています。
 楽器の新旧レベル(作られてから30~50年とか)により、ブリッジの付着力も劣化してる場合もあるはずです。
 楽器というのは、人間と同じだと思うのです。筋肉でもいつも緊張させていては体がもちません。仕事が終われば、弛緩してリラックスが必要でしょう。

 思うに、師匠は混同しているのです。それは、楽器には、ある程度テンションをかけないと鳴らない楽器があるということと、保管上の話をごちゃまぜにしているのではないかと。
 一応、師匠は、日本では有名な「プロ」で、名前は誰でも知っている方です。

 師匠ほどの人が、そのような楽器の知識もないのかと内心呆れてしまった次第です。演奏は卓越していても、楽器の扱いには無頓着な人はいるものです。かのスペインの御大も、コーヒーを練習中にこぼしていたとか、そういう扱われ方をしてたとか聞きます。その有名なラミレスというのが某楽器店に非売品で置いてあり見たことがありました。

 因みに私の楽器はそれほどオールド楽器ではありませんが、物理的に考えれば、楽器にとって、半年以上の保管でも、わずか1日の保管でも、ペグ1回転は緩めた方がよいと思っています。

 平山様は、製作者のお立場からはいかがお考えでいらっしゃいますか。ご意見を頂戴したくお願いします。
  1. URL |
  2. 2013/06/07(金) 10:56:43 |
  3. o.k #-
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こんにちは。
 ときどき覗いております。ためになり、目からウロコが落ちるような豊富な話題で楽しく拝見しています。

 昔のものから読んでいますが、平山さんの作られるギターの方向性が興味深く、どのような音が出てくるのか試奏してみたいです。

 西垣先生のご所有されている名器パノルモの延長上のギターが理想とのことでしたが、ロマンチックギターといいますと、他にも、ラコートやシュタウファーがあります。

 私個人的には、ラコートのほうが、人気といいますか、装飾豊かなで、ラミレス工房のように、多くの職人を抱えて製作していた割には、精度ある完成度が高いというところに魅力を感じています。
 福田先生も装飾豊かな極上のラコートでCDを出されていますし、ラコートは材料の出し惜しみをしない豪華性を感じます。

 一方、パノルモというのは、叔父や甥、兄弟だけで慎ましやかに製作し、装飾も豪華なものは特に無い質素なイメージがあります。しかし、放射状ブレーシング構造のおかげで、現代ギターにも負けない音量と質感があるのも事実です。
 ともすると、爪でモダンギターのようにバリバリ弾けてしまうところが、逆に19世紀ギター的でないと感じることもあるのです。

 ラコートは、指頭で弦と並行的なタッチで鳴らすと、大変豊かに、19世紀の音はこれでなくちゃという満足感が得られます。ゲオルグシュタウファーもそういう感じでした。

 平山さんの方向性はあくまでモダンを意識されての19世紀ギターの延長なのでしょうか。
 かつてのコメントに、表面はモダンで、というリクエストのためにそうしたが、今後どんどんこだわりを捨てて、ということがありました。

 今のベテラン、若い世代も含めて、原点回帰的なものは受けないのでしょうか。パワーと音量で押し出す現代のギターの方向性に疑問を持っています。

 もし19世紀ギターが本当に遠くまで通る音を持っているなら、そして人を納得させる説得性を持っているなら、東京の国際コンクールでなぜ、皆19世紀ギターを使用しないのでしょうか。モダン仕様で出場しないと不合格ということはないでしょう。

 それが理解できないというなら、審査員はみんな音楽を知らない人ばかりなのでしょうか。または出場者は理解していても19世紀を使用する勇気がなく、自信が無いのでしょう。

 バイオリンのストラドでさえ、無ければ、財団から借りてでもステージで使用する演奏家もいるのに、19世紀オリジナルギターをコンクールで使用してやろうという気骨ある若手もいないのが残念であります。

 たしかに、自分の将来をかけている人もいるわけですから、使用楽器でつまらない先入観を持たれて、変な「常識」で見られて不合格では堪らないというのがあるのかもしれません。でも、音楽で勝負するのがコンクールですから、そういう気骨ある人の出現を待ちたいです。
  1. URL |
  2. 2013/06/08(土) 13:12:36 |
  3. 小姑の愚痴 #-
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視点

小姑の愚痴 さま  とても面白い視点だと思います。
パノルモについてのご記述はすこし違う部分もあります。パノルモは扇バーでないものも
同じ性格をもっています。
で。。。コンクールの視点、面白いですね。私が審査員わしている海外の有名なコンクールで
おっしゃる事態が勃発した経験をもちます。一人の若者が十九世紀ギターで弾いたのです。
審査員は七割が非ギタリストで彼らはとても良い点、、十点満点の九点近くをいれました、
全員です。しかし、ギタリストの審査員は通常許されない三点をつけて、深夜まで協議となりましたが、ギタリストたちの言い分「あれはギターではない」ということを覆さず、若者には気の毒なことになりました。審査員のスキャンダルとなったわけです。

違う話、、弦の張力のこと、、擦弦と撥弦ではその意味合いはとてもちがうように思います。
すみません、、これは話すと長くなるので別の機会にさせてください。

パガニーニの弦の張力。。彼の自筆の指使いをみていると、ずいぶんと感じることがあります。それに、あの超有名なアングルによるパガニーニのデッサン。デッサンではとびぬけた技量のアングル、しかも自身上手なバイオリニストでパガニーニとカルテットを組んでいた。
そのバイオリンのデッサンはすこし面白いフォルムです、カノンだと思うのですが。
個人的なことですが、今月中旬からはパガニーニが亡くなった部屋と同じ建物で二週間ほど暮らします。資料も多く残っているので何か得ることがあるかもしれません。
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  2. 2013/06/09(日) 00:44:29 |
  3. CABOTIN #ArGM.iJY
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どうもはじめまして。CABOTIN様よりご意見をいただけるとは思ってもみませんでした。
 まずは、限られた数しか試奏していない身で、パノルモの評価をしてしまったことを恥ずかしく思います。横バータイプの(20年代~)ものでも同等とのことで理解いたしました。ありがとうございます。

 海外のコンク-ルで、そのような事態があったことに驚いています。非ギタリスト(固定観念、先入観のない純粋に音楽を聴けてる)審査員は高得点という事実に安心しました。そしてギタリスト審査員には不興という事実もあったことに残念な思いです。
 国際コンクールで19世紀ギターを使用する勇気ある信念のある若手が出てくることを期待するとともに、健全な良識を持った審査員の起用を望む次第です。

 パガニーニ。この人物の名を聞きますと、超絶技巧、バイオリンの名手、ギターの名手でもある天才的な人という感想を持ちます。作曲では、バイオリンよりギター曲のほうが多いとか。
 パガニーニを描いた人物画を見ますと、音楽神にとりつかれた悪魔のような感じです。悪魔のトリルという曲もありました。

 パガニーニの住んでいた建物の部屋というだけで、なにか神がかりになりそうです。パワースポットとでもいうのでしょうか。

 CABOTIN様に、ますます磨きがかかり、またクリスマスコンソートでのバッハの真髄をぜひお聴かせください。

 彼の地でのお話をまたお聞かせください。
  1. URL |
  2. 2013/06/09(日) 12:52:28 |
  3. 小姑の愚痴 #-
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そうですね。。ラコートの工房ねユールさんなど優秀な弟子とその助手たちが働いていましたが、パノルモの工房の規模のほうがはるかに大きかったようです。
ルイが直接つくったものは 見えないサインがあって台数はおおくはないのですが。
gavottenさんのおっしゃる 比率 のこと、そこがイタリア ストラド系とフランスの楽器の
大きな違いです。パノルモは現代の香りをもつと同時にストラドの伝統をそのまま受け継いでいます。
パノルモでいうと 真ん中の十二フレットの部分でわけて上下が入る長方形を描きます。
するとその二つの長方形はとても正確に黄金長方形です。曲線はコンパスと定規だけで
描いています。・・この過程は現場の平山さんがくわしい・・こういうシャープなイタリアデザインはフェラーリにも通じますね。フランスの曲線は三角関数的で柔らかさがあります。
ラコートやルノーのデザインですね。
今日午後、リュートの岡本先生のガット弦談義、、とても愉快でした。
ハープなどもおなじ手法でデザインされていました。
  1. URL |
  2. 2013/06/09(日) 22:26:18 |
  3. CABOTIN #ArGM.iJY
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CABOTIN様、詳細なコメントをありがとうございます。

 ルイ自作品にだけ、見えないサインがあるとのことですが、昔文献で19世紀ギターに関する書物を読んだことがありますが、もしや the letter ”P” という文字で表されるPマークのことでしょうか。サウンドホールから覗きますと表面板側の裏のバーの真ん中辺りに、そのPマークが彫られているのですが、そのことでしょうか。

 私は実物は見たことはありませんが、もしや、Pマーク入りパノルモをご所有なのでしょうか。 

 パノルモ工房がラコートより規模が大きいというのは初耳でした。相当な生産体制であったのかもしれないです。

 Pマーク入りが少ないということは、LOUIS PANORMOラベルでも、三男ジョセフと息子2人の作品がほとんどであったということでしょうか。

 昔も今もラミレスなど60年代のマーク入りは、非常に高額ですが、パノルモのPマークも値段は張るのでしょうか。

 楽器の内部には、いろんな”秘密”が隠れていて面白いです。
  1. URL |
  2. 2013/06/10(月) 10:05:48 |
  3. 小姑の愚痴 #-
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パノルモギターの考察

こんばんは、古楽器関連で偶々面白い記事で見つけました。少しコメントをさせてください。
 パノルモギターに関連する興味深い話です。仰られているように、パノルモといっても、パノルモ派、パノルモスクール、コピーと、1800年代後半にいたるまでピンキリで存在しています。
 私もかつて調べていたことがあり、確かに、多くのパノルモギターの中には、非常に少ないと思われますが、Pというローマ字がバーに彫られてあります。私の調査では、1840年代以降のものに偶にあります。(全部ではありません)

 ただし、このことが、ルイの自作品かということは慎重に考えねばなりません。
 
工房は述べられていますように、ルイの工房には、ヴィチェンツォの息子の3男のジョージとその子供2人が一緒に働いていました。恐らく子供2人は、父ジョージの仕事を手伝うとともに、ルイス叔父さんの手伝いもしていたでしょう。父ジョージは、自分のラベルを独自に付けていましたから、ルイス・パノルモのラベルは、一般には、ルイス自身の製作版と考えてもよいでしょう。

 では、なぜPというマークを付ける気になったのかですが、当時1840年以降では、ヴィチェンツォの息子の次男ジョセフの息子エドワードが別に工房を構え、独立して父と一緒に製作していました。ラベルはもちろんエドワード独自のものです。
 ところが、父ジョセフのギターもルイスのものにそっくりで、勘違いをする人も多かったと言われています。
 つまり、ルイスは、「これが俺が製作したものだ」と以前よりも強く認識させる必要性を感じたのかもしれません。兄弟の子供たちが独立して工房を構え、「パノルモ」を名乗る以上、名声ある4男ルイスの独自性を訴えたかったのかもしれません。全部のギターにPマークが無く、1840年代の一部にあるのですが、だからといって、20年代、30年代のものが自作品でないということはありません。

 特筆されるのが内部の仕上げです。Pマークのものでも、そうでないのも、内部の塗装が意外と汚く、表面板から見えるバーは塗装済みだが、見えない反対側は決まって未塗装で、塗り方もベタ塗りでプロの仕事とは思えないようなものです。また、補強用ブロックの大きさもバラバラで、これなども、手伝いでジョージの息子たちにやらせていたのかもしれません。(もちろん楽器としての完成度はずばぬけていますが)

 さらに、ルイスのギターにはシリアル番号というめずらしい通し番号が振られています。この番号も調べてみますと様々な面白いことがわかります。

 20年代後半から生産数が激増大しています。シリアル番号から推定される年間製作本数は、多い年で30本強は製作しており、少なくても12本強は製作しています。
例えにも出ていますが、ラミレス三世時代の工房に匹敵かそれ以上でしょう。お手伝いの職工さんも雇っていたのかもしれません。相当なコンベアー方式でやらないと年間30本以上はとても製作できないと思われます。特に内部の造作がやや雑なところはその辺の事情があったのかもしれません。

 また、シリアル番号には、構造等の新たな試みの要素を考慮したギターには、20000台とか、30000台のシリアル番号が与えられています。通常は3桁~4桁(300番台までくらいまでです)
 いずれにしても、150年以上の年月を経てどんな構造方式(横力木、扇状)でもすばらしい鳴りを見せてくれます。

 (最後に私が以前限られた時間の中で海外文献、視察旅行等から得たもので、全数調査というわけではないので、個人的推量もあります。お詳しい方がいらっしゃいましたらどうぞご訂正ください)
  1. URL |
  2. 2013/06/10(月) 19:45:17 |
  3. sakata #-
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旅先なので資料無しで話しますこと、すみません。

マニアックになってきたけれど・・sakataさんのおっしゃるようなことが
正しい歴史だとおもいます。つけくわえますと、血縁の七人のパノルモさんたちが
携わっていたわけです。それらを贋作とはいいきれないし、名品も多くあります。
しかし、当時から彼らの作品のラベルはルイに張り替えられる事もすくなくなかった。ジョルジュの長男などは名前からしてルイスだし・・困ったものです。
それにはたぶんあまり抵抗がなかったのでしょうね。当時はラコートでも輸入されると輸入されたさきのラベルにかえられることが多かったことですし。
ミルクール製のパノルモもあります(笑)。バーのマークは40年以降ルイがいなくなってからの楽器にもちゃんと見られます(大笑)。それでも見分ける方法はあります、、が、いまだにラベルの張り替えを続行する人たちがいるので、このことは・・・黙っていた方がよいかもしれません。
ブーシェさんも同じようなトリックしているけれど、シリアルが特定されているから、まず問題ないでしょう。

そうですね。出鱈目なブロック補強。ほんとね、汚い床から拾ってきてペタペタ、
まさにおっしゃる情景です。
これについてはわたしはすこし違った見方をしています。製作の平山さんの意見をうかがうへきだけれど、あまり強靱な補強ではありません。逆に言うと振動の有効面積は現代のものよりずっと広いし、共振が分散される。
実は最近1960年代のラミレスにも同じ手法を見て驚いたのです。ラミレスをあまり評価していなかったのだけれど、研究熱心なことに感動しました。しかもとてもよい楽器でした。いそぎ不備な返信ですみません。
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  2. 2013/06/10(月) 21:38:11 |
  3. CABOTIN #ArGM.iJY
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CABOTIN様、お詳しいコメントを早速にお送りくださり、恐縮です。

 ”ルイ自作品を見分ける方法がある” ・・・これは私には容易にはわかりにくいことですが、ニュージーランドに移民した後も、Pマークがあるとは驚きました。つまり工房を引き継いだ、ジョージの息子のジョージ・ルイス・パノルモのことでしょうか。
 全く同じ名前でややこしいです。
たしかに工房継承者ですから、Pマークも継続ということでしょうか?

 後期の作品は胴幅が大きいという特徴があるのは存じていますが、その他の特徴とは・・・・私も知りたいです。

 ルイス以外の親族製作のものが、ラベルをルイスのものに張り替えたものがあるとなると、、もうわかりません。それでも、よく観察すればわかるのでしょうか。

 ひとつ気づいたことがあるのです。それはシリアル番号です。20年代の初期のものから順に、番号が増加していくのは不思議でもないのですが、30年代、40年代の中のものでも、シリアル番号がデタラメになっている、例えばこんな具合です。


 1835年 ♯1825
 1837年 ♯1876
 1839年 ♯1753 ← 製作年数は進んでいるのに、シリアルは減少している。

 上記の例は、20年代、40年代でも結構発見されます。

このことから、私は、ルイス・パノルモのラベルが貼られていても、複数の親族が担当した楽器によって、シリアル番号の開始番号が違うのではないかと推定したことがありました。
 この番号の振り方のルールは、一般的には製作が進むにつれて番号が増加するのが当たり前と考えられますが。

 例えば、ハウザー。1世はシリアルを付けなかった。2世は500番代が最初の番号。3世は、1番から順次になっている。娘の4世のものも1番から順次という具合です。もし単にハウザーという共通のラベルでひとくくりだったら、ラベルを見ただけでは、年数と番号の順番が一致しないということになるでしょう。(実際は、見れば誰のものかすぐ判別できますが、3世と4世はわかりにくい。よく似ているので。
 つまりこれと似たような事象だと思うのです。

パノルモの場合、シリアル番号の順番、食い違いの様子から少なくとも3人ほどに絞られるようなのです。つまりルイスの工房に一緒にいた兄貴のジョージとその息子のジョージ・ルイス、そしてルイス本人。この3人は協力体制なので各自の番号があったかもしれません。あと忘れていました。ジョージの次男のチャールズです。この人は手伝いオンリーかもしれません。

 個人的には、2番目の兄貴のジョセフと息子エドワードは別工房だしちょっと考えにくいです。彼らは独自のラベルを持ってましたし。意地もあったでしょう。

 パノルモという人は、ラベルにシリアル番号まで入れるというロマンチックギターの中では極めてめずらしい人物です。それだけに、ルイス本人の自作か否かということは気になるところです。

 反対にラコートは、一種の工場みたいなもので、音作りやセットアップにラコート直接がタッチしたのか大変難しく、優秀な”ラコート楽器工場”というイメージがあるので自作かどうかなどということは、気にはなりませんが。
  1. URL |
  2. 2013/06/10(月) 22:48:04 |
  3. sakata #-
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sakata さま  この辺りの話、大好きな部分で・・・餌を前にした猫になってますが。。
今は深入りする時間がなくて、ぐっと自制します。シリアル そうですねかなりバラバラのものがありますね、アルバートにあるルイの番号にも驚いた事があります。
ギルドの職人たちのシリアルはご承知のようにかなり変則ですね、その残滓かもしれないし、単に出身シシリーの気質の為せる業かも。
やはり島コルス出身のバスティアというバロックギターのシリアルもメチャクチャでした、、同じ番号があるんだもの。
胴の厚み、とりわけ末期1840前後からのそのパターンのものの多くはルイのラベルであってもたぶん彼の手によるものではないと推測しています。
胴が厚くてもはっきりとした試作品 トルレスタイプ(sakataさんはご存知のように 後にトルレスが苦労して生んだアイデアはすべてはるか以前にパノルモによってすべて実現されています)はルイの実験だと
おもいます。楕円形のギターなどもルイ自身の大実験だったと思います。根拠が強くあるわけではないのですが、音作りの姿勢に共通したものを感じるのです。棹のちょっとした癖も共通しています。
私が無知なだけのような気もするのですが、後期の糸巻きベーカーは管楽器からもその成り立ちをよく知っているのですが(すごし技術力ですね) 中期のフランというメーカについては知らないのです。
あれほどよいメーカだからしられた存在なのかもしれません、もしご存知のことがあれば・・・いかん、嵌まってしまった、
  1. URL |
  2. 2013/06/11(火) 02:05:05 |
  3. CABOTIN #ArGM.iJY
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CABOTIN様、情報ありがとうございます。

  お手元に資料等のない状況で様々に思い出していただき感謝しております。

 たしかに、ピンブリッジでない異型のものや、妙にずんぐりした形状の楽器など、実験的な試みのものがありました。そのような楽器のシリアル番号は番号の桁数が5桁になってるものもあり、やはり番号の振り方の複雑さに困惑します。

 単純にシリアル番号の差から生産本数を割り出すことは難しそうです。ブーシェさんは、ラベルには製作年が書いてなく、裏板の奥のバーにサウンドホールからかすかに読める程度の手書きで書かれてるそうですが、ルイス本人のものも、他に何か見えないような所に別の数字とかあるのでしょうか。

 こういうことを詮索するのが好きで、結構嵌ってしまうのですが・・・・・・・。

  すみません、フランなるメーカーについてはわかりません。



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  2. 2013/06/11(火) 12:31:44 |
  3. sakata #-
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Pマークとは何ぞや

パノルモについてのお詳しい説、面白く興味深い内容ですね。
 私も少々パノルモ派ギターについては自説を持っています。
実はCABOTINさん、小姑の愚痴さんとは違う意見を持っています。それは、例の自作品と称するPマークの件についてです。

 普通、一族で製作していて、個人を特定させる必要を感じたら、一族の名字の頭文字Pではなく、ルイスのLと書くと思うのです。しかも、サウンドホールから容易に彫れて、見れる場所に、そのPが彫られていることが不審にさえ思うのです。

 文献等を調べますと、このPの一件は、あるコレクターの一意見から出発して、世界のコレクターの間からチラホラ出始めたようなのです。

 ハウザーやブーシェ、アグアドなどは、容易に第三者が書き込めないような場所に、サインや日付け、シリアル、絵のようなものが書かれています。
  ところが、パノルモのPマークは容易に作為を持って彫ろうと思えば、サウンドホールからいとも簡単に彫れてしまえます。

 あくまで私個人の一意見で、確信があるわけではないです。楽器になにかの自作の印やサインを入れるなら、その必要があるなら、ラベルに自筆するのが普通です。その上で、ハウザーさんのように、表面板の裏側のネックの付け根付近に鉛筆等でサインや誰のために作ったかなどの文章を書くと思うのです。

 私の結論的な意見を述べますと、あのPなる彫りこみのマークは、自作の意味ではないこと。すなわちルイスはあくまで、一族で協力体制で製作しており、その結果として出来上がった製品にLOUIS PANORMO ラベルを貼ったということです。

 そして、Pのマークは・・・・・・・・、ここからが私の推定なのですが、恐らく、ルイスと一緒に製作していたジョージ・ルイスの息子のジョージのものだということです。
 父親ジョージ・ルイスが1852年に亡くなりますが、父親は自分のラベルを持っていますから、息子ジョージも自分が最後まで組み上げたものにはなにかの証が欲しかった・・・・。そこで叔父ルイスのラベルを貼ったものの中で、自分が手がけたものにPを彫ったのではないか。もちろん、叔父ルイスに許可を取った上で。

 この息子ジョージ・ルイスは、ルイスがニュージーランドへ移民した後の工房継承者ですから、それまでの1840年~1853年の範囲と初期の1854年以降のものに少しだけPマーク入りの楽器が存在するというのは理解できるのです。

 あと、コレクターの方が、希少性を強調するために後世に作為を持って、意味ありげにPマークを彫ったという勘ぐりもないわけではありませんが、そういうことは一応考えから外しておくとします。

 私は、製作者は楽器の表面板を外さないと、絶対にわからないところに、なにか記録的内容を記す場合、少なくともサウンドホールから容易に覗けてしまう場所には書かないと思うのです。
  以上のようなことは、製作者の立場からはどう考えられるのか、平山さまのご意見など伺いたいものです。
  1. URL |
  2. 2013/06/15(土) 17:46:03 |
  3. PPFAN #-
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PPFAN さま  走り書きですみません。ぼくも似た感触を抱いています、
内部のマークついてはおっしゃるとおりだと思います。ほんとう鉛筆などのサインがいちばん確かで消えにくくまねされにくいというので、棟方志功さんなどは大切なサインはわざわざ鉛筆でガリガリしたとか、、とするとあのピーはちよいとへんだな。ブーシェさんのもそんな感じの内部サインですね。
あのマークがつき始めてからより混乱しています。本人の許諾があったかどうかは疑わしいけれど。
マークやエチケットよりも・・二十年代からのルイの楽器をたくさん弾き続けていると、目を閉じて棹に触れただけで、親戚の楽器との区別はつきます。
そのころの黒檀カバーがされているものでさえルイのバランス感は通じたものが
あるように感じます。ルイのマークがあっても棹がちがっているものは、、あまり信頼できない、、それにヘッドとのホゾ、親戚の楽器はそれぞれにすこしちがった臍です。
もちろんあのホゾからヘッドへの風景は似せたものとはかなりちがっている、と
感じます。でも、親戚のもけっして偽物というわけではなくて、とても良い楽器もたくさんあるから・・・良い楽器であればなんでもよいのですが。
確定できるのは、あの糸巻きがついていて パノルモの年輪の木でルイのホゾで
ルイの特許のケースがついていれば、完全だけれど。良い楽器であればなんでもよいかもね、、てナゲヤリだな。。。
  1. URL |
  2. 2013/06/15(土) 19:53:04 |
  3. CABOTIN #ArGM.iJY
  4. [ 編集 ]

CABOTINさん、こんばんは。
 私自身、CABOTINさんほどの数多く弾いて、見てきたとは言えず、なんとも歯がゆいのですが、推定の域を出ません。

 あのコフィンケース、ベーカーの糸巻き、ホゾ(この特徴はちょっと私にはわかりにくいですが)、そして音さえよければ、パノルモギターなのだ、で良いと私も思います。

 ところで、sakataさんが面白い調査の一部を示してくださいましたが、シリアル番号もかなり面白いと思います。

 私も昔大分調べましたが、そのデタラメな関係なのですが、私の調べた範囲ですと、

 1820年代~1828年頃までは三桁シリアル(年数と番号の増加が比例していない) 三桁は主に、PANORMO FECIT というラベルです。

 1829年~1832年 1700番台~2000番台
 1833年 実験的シリアル20000台番を割り振る
 1834年  2000番台に戻る
 1836~1837年 3000番台(なにかの実験的番号か)

 1840年~ 2000番台からの続きに戻る  
 1841年 1800番台に戻る?
   ~
 1849年 1900番台 

 上記のようにかなりの台数を調べた結果なのですが、大きな特徴を挙げますと、

1841年からは、1830年代の1800番台にシリアルを戻していることです。しかも、同じ番号も見つけました!!1830年製と1846年製はシリアルが重複しているのです。
 以後、1850年頃まで1900番台まで順に増加してるようなのです。

 因みに、1840年は、E.PANORMOなるラベルもあり、既に、エドワードも独立して自分のラベルを持っていましたし、1832年には、GEORGE.LOUIS.PANORMOも独自のラベルで制作していたのです。

 前にsakataさんもご指摘したデタラメな番号の原因ですが、大雑把ではありあmすが、毎年毎年で、シリアル番号を範囲で分けて割り振っていたのではないかと。

 つまり、各々のシリアルで、端数や、番号の欠損(キャンセルで空番になったとか)
あると思うのですがおよそ下記のような感じです。

 1829年  1700~1800
 1830年  1800~1900
 1831年  1900~2000

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 この振り方ですとおよそ合ってきます。但し、なぜ1841年から1800番台にシリアルを戻したかは謎です。

 違う見方もあるかもしれません。Pなる印とともに謎多き楽器です。
  1. URL |
  2. 2013/06/15(土) 21:59:00 |
  3. PPFAN #-
  4. [ 編集 ]

PPFAN さん SAKATAさんありがとう、
ぼくはシリアル整理していなかったので とても参考になりました。
これまたはがゆいのですが、旅先でなければ資料の写真を用意できるんだけれど、ルイの特許のケースはコフィンじゃなくて、革の底蓋のものなのです。
ルイのスタイルでないと入らない形をしています、どこかに特許のときの書類も
あったはずなんですが、、実物もとてもよくできていていまだ健在です。
  1. URL |
  2. 2013/06/15(土) 23:55:58 |
  3. CABOTIN #ArGM.iJY
  4. [ 編集 ]

御礼

 PPFAN様、大変お詳しい内容で、私の粗雑な推量に追加していただきありがとうございます。
 私も大いに参考となりました。また調べてみます。

 CABOTIN様、私は以前なにかの記事で仰るような革ケースのパノルモを見たことがあります。それで思い出しました。
 かなり前のGギターの付録に「19世紀ギターの愉しみ」という小冊子があるのですが、その中に、筆者所有の1844年製パノルモが載っていますが、ベーカーでなく、ペグ式となっており、筆者曰く、「ルイのものの中では極上の材料で、ほかのどのパノルモとも似ていない」ものだということです。
 カラー写真を見てみますと、本体形状はそう目立った形状ではないのです。糸巻きはペグです。ただ、木目がどうも1枚板ではなく、合わせで細かい木目にさせているようでした。
 そのケースが底蓋のある革の薄茶色ものだったのです。ペグ式なのは、筆者曰く、「富裕な人が作らせた特殊ギターだから」とのことです。

 CABOTIN様、今度ご帰国なさいましたら、お詳しい資料のことなどお聞かせ願えればと思います。
  1. URL |
  2. 2013/06/16(日) 09:48:59 |
  3. sakata #-
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プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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