古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

ヴァイオリンの弦について


弦楽器ですから、弦が非常に大切な要素だということは、もちろん分かっていることなのですが、
現在使われている弦が、普通にに使われているので、
昔から使われているように感じてしまいますが、どうなのでしょう?

少し考えて見ます。(少し現代に近い時代の話です)

カール・フレッシュさんのヴァイオリン演奏の技法 第1巻 第2版(1929年)
を読み直してみました。

1929年の時点では、E線はスティール弦がガット弦を次第に駆逐しそうである。
と書かれていて、そして20年前には厳禁されていた、と書かれています。

スティール弦への転換は、スティールE線に始まり、そして次にアルミニュウムD線がこれに続き、
スティールA線が最近この転換を完了するように思われる。と書かれています。
(でも、カールフレッシュさんはスティールA線には当分まだ反対すると書いています)
ということは、G線(4弦目、最低音)はしばらくの間はガット芯の巻き線が
使われていたということでしょうか。

無量塔蔵六さんの書かれた、「ヴァイオリン」の45ページによると。

それまでに使われていた、裸のガット弦に比べて、18世紀後半にイギリスに始まった、
産業革命は良い音を得られる丈夫な弦を安価に供給出来るようになった。
そして、ベートーベンを始め、ブラームス、チャイコフスキーのヴァオリン協奏曲、
ヴァイオリンの性能を心憎いほどにフルに生かして作曲されたパガニーニのヴァイオリン協奏曲、
これらはヴァイオリンの性能を充分に発揮できる弦が発明されたからこそ、
生まれたと言っても決して過言ではないでしょう。{原文のまま}

と書かれていますが、無量塔蔵六さんが生まれた頃に
(無量塔蔵六さんが生まれたのは1927年です)書かれた本で、
少なくとも1909年頃には厳禁されていたと書かれているので、
パガニーニさんやベートーベンさん達がスティール弦を使っていることはありえないと思います。

(無量塔蔵六さんの本にはスティール弦とは書かれていませんがスティール弦のことかと思われます、私には)

さらにそれを裏付けることが書かれています。

カール・フレッシュさんの本の4ページに
「30年ほど前、パガニーニさんの手紙の中に彼が使っていた弦が入っていて、
パガニーニの筆で、同封の見本の弦と同じ弦を作って欲しいと」とあって、
その弦を測ってみると、驚くなかれ(と書かれています
線は今日使われているA線と同じ、A線はE線と同じ、
E線は強いより糸と同じようなものであることを、発見した。と書かれています。
そして、更に驚くことがあります。

1929年当時使われていた弦の記述があって、E線はガットが43/100mm
A 62/100mm となっているのです。
(スティール弦は不思議なことに26/100となっていて、ほとんど現代の弦と同じゲージです)

これは、現在使われている弦がムジカ・アンティカ湘南さんが扱っている
トロ社の弦のゲージ表ではヴァイオリン E線は 56/100mmから 
68/100mmとなっています。これはカールフレッシュさんの頃のA線と同じです。

現在手に入る、ガットE線では、ピラストロ社のコルダが0.61から0.62ミリくらい、
バロックヴァイオリン用としているサバレス社のE線は0.51ミリくらいです。

最も、トロ社の0.64ミリ、0,68ミリの弦は寺神戸さんたちのハイテンション弦
のリクエストを聞いて、作られたものと聞いています。

ということは、パガニーニさんはピッチが高かったという話は聞いているのですが、
今使われている、ガット弦の1弦を3弦に張っていたということになります。

この細い弦で、テンションが無い弦で、パガニーニさんはあの超絶技巧曲を弾いていたのです。
逆に言えば、この細い弦で充分楽器が鳴っていた、鳴っている楽器を使っていた、
鳴る楽器を作っていた、ということになります。

(もちろん、スティール弦などは使っていません)

現在作られているヴァイオリンで3弦に(D線に)1弦(E線)を張って鳴る楽器はあるのでしょうか?
この細い弦で鳴る楽器を作ることが、ストラディバリさんに追いつき、追い越す
ことが出来るヒントになるかもしれません。

ギターも私の作る、リュート、ガンバにヒントを得た19世紀ギターの延長線上の楽器では、
全音どころか、2音、3音下げても鳴ります。

更に、ヴァイオリンの弦では、モーツアルトのお父さんレオポルド・モーツアルトさんの
「ヴァイオリン奏法」によると、4本の弦は同じテンションでなければならい、と書かれています。

現代 使われている弦は、ヴァイオリンに限らず、ギターでも、ガンバでも
1弦のテンションが高く、2弦3弦は低い弦が一般的というか、そのような弦しか作られていません。

そして、ガンバやヴァイオリンを弾いている人にとって、とても馴染みの深い、
ドイツのピラストロ社は、弦の袋を見ると、since 1798と書かれているのを、
何気なく見ていましたが、パガニーニさんは1828年頃にはピラストロ社の弦を使っていたようです。
そして、このことがピラストロの名前が世界に広まった理由だったようです。

スティール弦に関しては、1919年にトマスティーク・インフィルド社が作った、
ドミナント弦が最初のヴァイオリン用のスティール弦だと言われています。

現在も沢山のヴァイオリニストに使われているように、このドミナント弦の出現が、
スティール弦がガット弦に取って代わるようになった要因だと言われているようです。


ギターを主に書いているブログなのに、ヴァイオリンの弦のことを書いてしまいましたが、
今では当たり前のことが、少し昔はそうではなかったということが、
ギターでもありそうなので書かせていただきました。



 
  1. 2013/06/04(火) 02:15:38|
  2. ギター
  3. | コメント:1
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コメント

弦の響き

貴重な情報をありがとうございます。いちいち納得です。
カザルス、ティボーさん達の録音は沢山残っていますが、カールフレッシュと同じ時代だったわけですから、テンションの低い弦を使っていたのでしょうか。独特の音色の一端が腑に落ちるような気がします。

チェロで、モダンとバロックの2本を行ったり来たりしていると、それぞれ求める音像が違うと言うことに気付きました。モダンは音量、張りのある雄渾な響きに魅力があり、バロック仕立てではテンションの低いガット弦で心地良い雑音成分や奥深い陰影表現が心地良いです。~道具も奏法も違うので、バロックくんと仲良くなるのに2年掛かりましたが~

いま、バロックくんはA弦1.20mmで415/442Hzの両方に対応しています。もう少し細くして1.18~1.16(TOROの一番細いゲージ)を試してみたくなりました。
  1. URL |
  2. 2013/06/04(火) 07:59:48 |
  3. TANUKI@宮崎 #-
  4. [ 編集 ]

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プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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