古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

ストラディバリの楽器をバロックヴァイオリンに戻すことについて

ここのところ、演奏会などで朝早く出て、深夜帰ってくると言うことが続いていますので、
ブログの更新が出来ていませんでした。

展示会も始まって、演奏会、マスタークラスなど書かせていただくことは沢山出てきたのですが、
また、書かせていただくことにして、ストラッドとバロックヴァイオリンについて書かせていただきます。



ここの所、ストラッドに関する話題が続いていますが、
現代のストラッドをバロックの状態に戻すということについて、
私の考えを書かせていただきます。
あくまで、私の私見ですので。


ストラッドさんのヴァイオリンが今のような音になった理由ですが、
ニスとか木を特殊な処理をしたとか、(ナジバリ博士のように防腐剤のようなものが作用したとか)
貯木の状態の時に、塩水につけていたとか、いろんな話があります。

少しはこのようなことも原因しているかもしれませんが、
大きな理由は経年変化だと思います。
(経年変化のすごさは、無名のマヌエル・ベラスコのギターでも確認できました)

アマティさんなどに比べて、冬目の太いしっかりした材料を選んでいることも
あるのでしょうが、当時の名工が(メディチ家が直接注文したり、
ローマ法王が所有するような楽器を作っているので、
当時としても当代一の製作家であったろうと思います)

良い楽器を作って、優れた演奏家が使って、それも名器として何代もの優れた演奏家が弾き込んでいって、
楽器を鳴らしてくれたこと。

そして、経年変化で木の強度、特に表板のドイツ松、ドイツトウヒは切ってから
250年が経年変化のピークに来るということは、昔から知られていました。

木の強度が増すにしたがって、ネックが伸ばされ、ネックの角度が付けられ、
駒が高くなり、表板にかかる圧力も大きくなっていったと思います。

さらに、スティール弦の登場によってさらに楽器にかかる圧力は大きくなりますが、
ちょうどストラッドさんの楽器が経年変化のピークになる頃です。

ニスについては、私と同じような意見を持っている方のいるようですが、
生涯で1200台ほどのヴァイオリンと、ヴィオラ、チェロを作り、
その他にも沢山のギター、マンドリン、ハープ、リュート、ガンバ、クイントン、弓
などを作っているのですから、ニスは当時のニスやさんから買っていたと思います。

特別に調合してもらったかもしれませんが、
また出来合いのニスに彼が独自の成分を混ぜたのかもしれませんが、
当時のニス屋さんがつぶれて、楽器のニスが変わったという人もいます。

楽器ではありませんが、ラファエロなども、弟子が50人ほどいたという話も聞きますから、
ストラッドも息子や弟子が手伝って、これだけの楽器を作っていたのでしょう。
ニスまで作らなくても、プロのニス屋さんが作った良いニスがあれば、
それを使ってどんどん楽器を作っていったでしょう。

ですから、ストラッドさんと同じような構造、つまり同じような厚みで楽器を作ってしまえば、
経年変化で木の強度が出ていないので、楽器は壊れる可能性があるわけです。

そこで、しっかりとした丈夫な、少し木の厚みを増した、ヴァイオリンを作るので、
ストラッドさんのような音は出ないということも考えられます。
(また、製作学校などで、最初にしっかりした楽器を作ることを教えられてしまうとそうとしか、
思わなくなってしまうのでしょう)

250年ほど、経った木を探して作っても、弾きこんでいないのですから、
楽器のコンディションも音も新しい音しかしないはずです。

ガンバですが、切ってから150年ほど経った木で作った楽器では、
すぐに鳴る楽器は出来ましたが、弾きこんだ、オリジナルのような音はしませんでした。
(前にも書かせていただきましたが)

ストラッドさんは、名工が作り名人が弾きこんで行き、木の強度が増すにつれて、
弦長が長くなるとか、ネックの角度がついて、駒が高くなるとか、
楽器に対する圧力などが増えていった結果の音だと考えています。私は。


ですから、ラベルもなく、製作年も分かっていないが、良い楽器もあります。
名工が若いときに作ったとか、製作学校のような所で学生が作っていた楽器が
長い年月引き込まれることによって、素晴らしい楽器になっていることもあると思います。

あとは、長い年月、楽器屋さんとか、楽器商が作った、ストラッド神話がストラッドの音を
(聞くほうの音ですが)作っていったのかもしれません。

ですから、現代に残されたストラッドさんの楽器をバロックのコンディションにしても、
ストラッドさんが作った当時の音はしないと思います。

むしろ、現代に作られたバロックヴァイオリンのほうが、ストラッドさんの作った楽器に近いと思います。
(もちろんミルクールとかミッテンバルトといった、イタリア系の楽器でない場合、
現代の要求に合わないと言われ、弾かれなくなったのでバロックの状態のままの楽器も残っています。
これなどは経年変化や弾きこまれた楽器ですので、楽器も鳴っていますし、魅力的な音です。
私も何台も古い100年~200年ほど経ったヴァイオリンをバロックの状態に戻した楽器を作っていますが、
これはこれで年数が作り出した魅力的な音がしています。ストラッドクラスではないのですが、
バロックヴァイオリンの演奏会などに行くと、また演奏家に楽器を見せてもらうと、
古い楽器で経年変化の弾きこまれた音のヴァイオリンを見聞きすることが出来ます)


ストラッドさんの楽器は、モダンの人に弾いてもらって、
現代でも素晴らしいバロックヴァイオリンを作っている人もいますので、
現代に作られたバロックヴァイオリンの音がバッハさんやテレマンさんが、
またヴィバルディさんが弾いていた、聞いていたヴァイオリンの音に近いのかもしれません。

(もちろん、楽器として音の立ち上がりや、響き、和音の分離など音楽的な楽器を使いたい場合は、
古い楽器をバロックに戻したほうが良いのですが、ストラッドさんが作った当時の音を聞くという意味で)


バッハさんたちも100年前のヴァイオリンを使っていたかもしれませんが、
絶対数が少ないと思いますし、当時作られた楽器を使っていた可能性が高いと思います。


ヴァイオリンだけでなく、リュートやチェンバロ、そして、
後の時代にはピアノなどもどんどん形を変えて、発達?していっています。

(リュートなどもルネサンスの楽器をバロックに変えられたり、
チェンバロではラバルマンといって、フレミッシュの楽器を改造して、音域を広げたり、
楽器を大きくすることはよくされていました。
ラバルマンも、比較的小さな改造はプチィ・ラバルマン、
大きな改造はグラン・ラバルマンという言葉があるくらいですから)

胴体や楽器の一部を残して改造されたのも、時代かな?と思います。



  1. 2013/05/22(水) 10:51:52|
  2. ギター
  3. | コメント:5
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コメント

先日はコンサートに来ていただきありがとうございます。
あの旧友 富さんの知識はそれはすごいものがあり愉しくすごしました。
改造のことね。。似たことで話題になりました。
先月フランスの博物館から問い合わせを受けた事があって、ちょっと笑う内容でした。
「バスティアの単弦のバロックギター(実はけっこうあるのですね)を革命中に複弦に改造しかけて
そのまま開いたままの楽器があるんだけれど、どう修理したものですかね?」 
現物も見たんだけれどその通りでした、音楽史に逆行しているけれど・・けっこう実在しているのも事実ですね。
散らかるけれど友人のイザベル(リュート バロックギター)が長年かけて メキシコの17世紀作品を収集したものを
見ているのですが、これにも驚かされました。当たり前みたいだけれど 知っている歌がそのまま現れるのです。
ソルのテーマもそのままソルより二世紀もまえに楽譜として残されている。
来月スイスでイザベルと講演をするのでそのときに紹介するつもりです。
http://www.izymanager.com/chateaulasarraz/manifestations/printemps-musicaux-2/programme-des-ateliers-musicaux/renaissance-baroque-romantisme/
  1. URL |
  2. 2013/05/24(金) 01:33:42 |
  3. CABOTIN #ArGM.iJY
  4. [ 編集 ]

時々拝見しています伏見と申します。

わたしは楽器製作などとはまったく縁のない人間ですが、
前から似たようなことを思っていました。
それでもし、何百年か後に今のモダンの状態のストラディバリのような楽器を
子孫が弾けるようにするには、まずバロックバイオリンを新作して、何代か弾いてもらい
将来今で言うモダンに改造してもらうのが、もしかすると確実じゃないか、
と常々思っています。あまりこのようなことをおっしゃる方はいらっしゃいませんが。。。
  1. URL |
  2. 2013/05/28(火) 22:50:53 |
  3. 伏見呑仁 #V5mjMtj2
  4. [ 編集 ]

伏見様、よいお考えだと思います。

 私なども常々、15世紀~17世紀ごろに建てられた建築物を見つけだして、便所の戸板でも、床下の板でも剥がして、それを表面版に使い、そして長く弾き込み、それがさらに50年から100年もすれば、もう完璧な燻し銀の音色を奏でる楽器が出来上がるであろうと思うのです。

 今の日本の製作家もヨーロッパへ、古い木材探しに熱心に行くべきだと思うのです。古い建築物は、所有も公的機関だったりするので難しいかもしれませんが、交渉次第でなんとかなるかもしれません。とにかく400年以上も前の木材を使うことが第一に必須条件だと思うのです。それを使った楽器でさらに弾き込むのです。
 
 もはや、楽器として出来上がった直後から、ある程度弾き込まれたような楽器とするには、バロック時代くらいの木材の使用しかありません。

 ですが、板を燻す工法も現在行われていますから、その方面の研究成果も楽しみなのですけどね。

 失礼しました。
  1. URL |
  2. 2013/05/29(水) 10:55:49 |
  3. バロキアン #-
  4. [ 編集 ]

楽器の古さという点では、当時の愛好者の様子を見ても明らかです。
 たとえば、フェルメールというバロック時代の画家の絵画には、楽器の絵もあるのですが、リュートも出てきます。女性の肌の白さに比較して、飴色の濃い表面版のリュートを弾いています。
 フェルメールの絵に限らず、他のリュートの絵が描いてある物を見ても、例外なく古そうな飴色です。
 このことは、当時の常識でもあったのです。古くて100年以上も経た楽器が最高だったのです。
 私も探してでも、古い材料を使うことは最低条件だと思っています。
後は、仰るように、弾きこみだと思います。

 平山様が入手された、古い19世紀ギターは最高です。弾き込みでさらに良い音色になると思います。
 私も、欲しいです。お金出しても欲しいです。USEDで出していただけないかなと念願いたします。
  1. URL |
  2. 2013/05/29(水) 19:19:11 |
  3. gavottenⅡ #-
  4. [ 編集 ]

ストラドの件でお詳しい話をありがとうございます。

 少々残念です。バロック仕様に戻しても、もう当時の音色にはならないとは。

ストラッドが作り、名人が弾き込み、改造を受けて、さらに弾き込まれ、楽器も「現代流」に変わってしまったということでしょうか。

 自分にはまだ信じられません。変わったということは、バロック仕様に戻して、さらに弾き込めば、当時にまた戻ることになりはしませんでしょうか。

 現代流に毒されていないストラッドにまた戻ってくれると信じたいです。そして、現代の奏者も早くそれに気づき、適正な、本来の姿に戻してもらいたいのです。

 また、今の聞き手(聴衆)も、そういう要望といいますか、声が小さいと思います。
聞き手も改造状態のストラッドこそ本来の音だと思っているのでしょう。
 
 悲しいことです。楽器も奏者も聴衆も。
  1. URL |
  2. 2013/05/30(木) 21:52:59 |
  3. viorin #-
  4. [ 編集 ]

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プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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