古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

手に入った19世紀ギター

少し前のブログで予告していました、今回手に入ったギターです。


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まるで、パノルモさんのイメージですが、左のマヌエル・ベラスコの楽器は、やはりイギリスで
パノルモの人気が高かったので、イギリスに輸出するため、パノルモのイメージの楽器となったようです。

右の楽器はもとは、ほとんどマーチンスタイルだったのですが、19世紀ギターのイメージになっています。
ニューヨークで作られた楽器です。
どちらも、1880年頃か1870年頃の楽器です。

トーレスさんの頃の楽器です。トーレスさんの楽器は1892年までの楽器が残されていますので、
晩年の作品と比べることが出来ます。

ベラスコさんの楽器は、ボディ幅 25cm、20cm,32cm ボディ長 45cm
弦長 64cm です。響板の面積は 965mm平方
トーレスさんの 1期で最も多い 1258に比べても小さいです。この楽器と同じ頃の2期では
1329の楽器が多いので、かなり小ぶりです。

でも、私が設計してお弟子さんに作ってもらっている、61センチの弦長の楽器とほぼ同じボディの
大きさです。

この楽器はバスバーが全然無く、サウンドホールの上下に2本入っているだけです。
結果、この写真のように表板がかなり凹んでいます。


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おまけに、指板もご覧のように、ここまで逆目に削るのは難しいだろうと思うほど、思いっきり逆目です。

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材料も、仕事もこれ以上無い、と言うほど良くないものです。

でもこの楽器の音を聞いて、びっくりしました。

送っていただいたので、弦を緩めていたのですが、ピッチを上げていくと、
今まで聞いたことも無い音がしています。

19世紀ギターでもないし、モダンでもない。
そんなに沢山聞いているわけではないのですが、今まで聞いたトーレスよりはるかに良い音なのです。

音の輪郭があり、芯、核があり、立ち上がりはもちろん良いですし、低音もぼけていません。
かといって、締まりすぎてなく、ちょうど良いのです。

でも、こんなことはどうでも良くなるほど、音色が130年以上、弾きこんだ音で、響き
も雰囲気も、色気も、あるのです。

最初に弾いた時、こんな楽器を弾いてしまうと、他の楽器は弾けなくなってしまうのでは?
もちろん、私の作った楽器も。と思うほどでしたが、私の楽器は私の楽器で違う方向の
音、魅力で弾くことができました。

そして、弦楽器の良し悪しを見極める方法として、駒の近くを弾いて音が出るかどうか?
というのがあるのですが、駒の直ぐ近くだと、普通はただ硬い音になるのですが、硬い音の中に
響きも、中身もあって色気もあるので、音が柔らかいのです。
逆にサウンドホールの近くで弾くと、音が柔らかくてぼけるものですが、音に芯があるので普通に
弾く音に比べて、しっかりしているのです。どちらも、音楽に使える、硬い音、柔らかい音なのです。

もちろん、どのポジションでも音がしっかりしているし、減衰が長いので声部の弾き分けが、
とても楽です。

材料も、仕事も、後の修理もこれ以上はない、というほどひどい楽器ですが、
音は素晴らしいのです。この音は経年変化で生まれた音だと思います。

たまたま、西垣さんが次に作る楽器の打ち合わせに来られましたので、弾いてもらいました。
(あっ!!!と驚く、ギターがこの夏に出来ます、お楽しみに)

西垣さんも開口一番、「トーレスより良い。これ以上のトーレスはあまり無い」
とのことです。

ちらっと、この楽器欲しいな、と小声で言われてました。

トーレスの今聞いている音は、経年変化が作り出した音が70,パーセントくらいじゃないかと、
言ってましたが、この楽器でそれを確信しました。

でも、この楽器を弾いていると、声部の弾き分けや、音楽的な表現も出来るのですが、
そんなことはどうでも良くなる事もあるのです。

ただ、弾いていて気持ちが良い。
イタリアの有名なギタリストもそうなのでしょうか。
自己陶酔してしまうのです。

一方ニューヨークの楽器は材料も良く、ハカランダも良い材料ですし、しっかり作られています。

しっかり作られている分、音もしっかりしています。
この楽器のことはクラックのところで書かせていただきましたが、裏板の剥がれを修理するまでは
びっくりするほど減衰が長かったです。これは、材質の良いハカランダによるところが多いと思います。
裏板を接着しても、充分減衰も長く(楽器が重いことが良いほうに作用しているようです)
130年以上経った、こちらははっきりした音で、音楽的な表現がすごくしやすい楽器です。


こちらのバスバーはラコートのようにブリッジの上下に入って,さらにブリッジの下にも
入っています。表板も厚く、小さい面積なので、作られた時は、こんなに鳴っていなかっただろうと、
思います。

19世紀ギターの延長線上の楽器を作ろうとしている、私には少し19世紀ギターよりですが、
とても、好きな楽器です。

パーラーギター用に少しネックが太かったので,削ると19世紀ギターの軽さが出て来ました。

こちらは、自己陶酔する楽器とは違って、きっちり音楽が作れる楽器です。


対照的な楽器同士ですが、もう少し弾きこんで、またこの二つの楽器について、
書かせていただきます。



  1. 2013/05/12(日) 17:49:03|
  2. ギター
  3. | コメント:2
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コメント

大変貴重なマスターピースだと思います。いかに、経年変化による影響が音に関わっているかを証明されていると思います。
 このことは、ある貴重なことを物語っていると思います。つまり、最初から長年弾きこんでいるかのような楽器を作るには、100年以上、もしくは150年以上の古い木材を使用することだということです。

 今、これほど古い材料をストックしている製作家は少ないと思います。親、祖父の代からの製作家一族か、幸運にも老舗工房等から材料を分けてもらった人とか、ごく限られていると思うのです。

 巷には、ヨーロッパのアンティーク家具を扱う家具店がありますが、ここが狙い目だと前から思っていました。
 表はドイツトウヒが理想ですが、古いピアノ、テーブル、マホガ二ーなんかも探せば見つかるかもしれない。

 経年変化の影響が大きいことが証明された上は、いかに古い材料を探せるかが、今後のポイントであろうと思います。同時に、依頼者もこの点を考慮に入れて、木材の指定(入手年とか、年代指定)するなど、良い楽器を得るための工夫が必要である。
 因みに、1937年製ハウザー1世のギターには、17世紀のハープシコードが使われてるそうである。さもありなん。
  1. URL |
  2. 2013/05/12(日) 19:16:56 |
  3. gavottenⅡ #-
  4. [ 編集 ]

そうですね、あの楽器は楽しかった。
外見は・・・・・。表板は経年変化もなにも
昔の便所の戸板みたいだし・・そうみると、ブリッジも戸板の木の錠にも見える。
経年変化も構造もぶっ飛んでいました。
しかし、音はすごいね。人間にもこういう立派な人格の人はいますね。
この楽器から教えられることは多くありました。
いつのまにか楽器や音楽の価値を金額に置き換える習慣がついてしまっている。それを否定する自分にも
その悪い習性があることに気が付かされます。無理やり否定することも、その束縛から逃れてはいないかもしれない。
「単純に素直に楽器として私を見つめてよ」とこの楽器は語っているようでした。
楽器は生き物だと再認識しました。魚屋で売られている高額の魚だって海から釣られた時には
決してその値札をぶら下げて釣られたのではない・・て、とても子供ぽい感覚を呼び起こしてくれました。

近い連想、バッハの楽器。バッハは架空の楽器を心のなかに抱いていたのだと思います。
現実の世界でいちばん近かったのはクラビコードだという通説も納得します。
フーガの技法を心のなかで鳴らすとクラビコードそのものではなくても、それに近い音が似合うように感じるのです。
遠達性や音色やバランスはバッハのイメージには必要もないことですね。
自分に衝撃的だったのは昔スコットが小さい部屋でクラビコードで四人の友達のためにバッハを弾いた時のこと。
その楽器では聴衆は数人が限界でした。バッハの心に鳴っていたのはこれにちかいものんだろうな、と感じました。
バッハの音楽そのものが聴衆のためのものであるよりは別の存在のためへの捧げものだったのでしょう。
例の「捧げもの」もフレドリヒにというよりも、なにか別の存在のためなのでしょうね。ですから、聴衆へのサービスとしての
楽器の音量などは邪魔そのものだったのでしょうね。
あの不細工なギターは一番バッハに近いかもしれないな、何かを捨て切った凄さがある、と感じました。
とりとめなくてすみません。万一・・バッハが愛した楽器クラビコードを生で聞いた経験のないかたがありましたら、
クラビコードの録音をアンプのボリュームを最小限、、聞こえるギリギリ ギターの音の数十分の一以下にして
完璧に静かな部屋、暗闇でバッハと対峙すると、バッハがなにを見ていたのかがすこし聞こえるような気がします。

とりとめなくてすみません、、
  1. URL |
  2. 2013/05/13(月) 00:34:32 |
  3. CABOTIN #ArGM.iJY
  4. [ 編集 ]

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プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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