古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

ストラッドのオリジナル楽器について

ギターのブログなので、ギターのことに関心を持って見てくださる方も多いと思うのですが、
楽器作り、また楽器のことについても、ギターに関連してくると思いますので、
またヴァイオリンのことですが、少しお付き合い下さい。

ヴァイオリンの専門家の方が見ると、そんなことを話題にしているのか、と言われそうですが、
ヴァイオリンの世界では、常識のようなことが、そうではないと言う事もありますので、
古楽器全般を作っている人間の立場で書かせていただきます。

よく話題になるのが、ストラッドさんが作った楽器で、本人が作ったままの楽器が
あるかどうか、と言うことです。

後の時代に改造された楽器では、ストラッドさん本人がどのように考えてこの楽器を
作ったのか?またどのようなコンディションで作られたのかは分かりません。



私が見聞き、と言っても本などで調べた範囲ですが、オリジナルに近い楽器は、ヴァイオリンでは
なさそうです。

千住さんが持っているデュランディは300年弾かれたことがないそうですが、千住さんが書かれた
(お母さんが書かれた本の表紙の写真では表板にかなり傷があり、良く弾かれていた楽器のように
私は見えます。)また、ネック、指板、テルピース、駒なども完全にモダンの状態ですから、
当然バスバーも大きくなっているはずです。楽器としては完全にモダン楽器に改造されています。

後、日本財団がオークションにかけて、12億以上の値段がついた、レディーブランドも
完全なモダン状態ですが、古いストラッドの作ったバスバーが残っていると言う話もあります。
楽器についているのでなく、資料として残っているようです。この楽器もモダン楽器にされています。

日本財団が持っている,1700年のドラゴネッティはネックがオリジナルと言うことですが、
少しネックの角度は付けられているように見えます。
接ぎネックをしていないようですが。

このドラゴネッティに比べると、もっとオリジナルに近いネックを持った楽器は、1715年のアラード
だと思います。


img046.jpg

では、バロックとモダンのネックの違いはどうなのでしょうか?


ヒルさんが書いた本からですが、


img049.jpg

上図のように、ネック自体はあまり角度を付けずに,指板で角度を付けているのが、バロックです。
ストラッドさんはこの状態で作っています。

また、バスバーも小さいのがバロックです。これもヒルさんの本から


img048.jpg

バスバーもかなり小さくなっています。
そしてこの図からネックを付けた釘も見えます。

次に実際に外したバスバーの寸法が分かる表です。


img053.jpg



ストラッドさんの接ぎネックによって,取り外されたネックを見てみましょう。


img052.jpg


実際に使った釘も見えます。

以前のブログで書いたので、読んでらっしゃる方は少ないと思いますので、
ストラッドさんのネックの継ぎ方です。

ストラッドさんはいわゆる芋継ぎという方法でネックをついでいます。
切り欠いて、ホゾを組まないやり方です。
その代わり釘を3本使っています。
私のギターも同じやり方です。



ということで、ヴァイオリンでは残念ながら、オリジナルの状態に近い楽器はなさそうです。

他にないかな?と考えたのが、私も好きなヴァイオリニストでバロックもモダンも弾く、
カルミニョーラさんです。
彼もストラッドを持っているので、ひょっとするとバロックのコンディションかと思ったのですが、
彼が使っているストラッドは、イタリアの銀行の財団からの貸与の楽器です。
彼が、バロックの状態に戻すことは出来ないと思います。
CDのジャケット写真を見ても、完全にモダンです。

最近、1台だけバロックのコンディションに戻された楽器があるという話も聞きますが、確認できていません。

ヴィオラでは、1台オリジナルな楽器が残っています。
メディチ家がストラッドさんに直接注文した、いわゆる「メディチ」です。

img051.jpg



メディチ家の家紋も入っていますし、下図のストラッドさんの型紙と同じデザインなので、彼が作った
オリジナルな状態で残っている数少ない(ひょっとすると唯一の?)楽器のようです。

img047.jpg


ストラッドと同レベルの楽器と言えば,デル・ジュスくらいでしょうが、
彼が作ったオリジナルの楽器もほとんど無いようです。

唯一の楽器と知られているのが、大阪音大の音楽博物館にあるデル・ジュスのピッコロヴァイオリンです。

img050.jpg

この楽器はサントリーから大阪音大に寄付された楽器のうちの1台です。
ピッコロヴァイオリンといって、4度くらい高く調弦された、バロック時代に
良く使われた小型のヴァイオリンです。
バロック以降は演奏技術が発達して、ピッコロヴァイオリンは使われなくなったので、
オリジナルの形で残ったと思います。
同じ、大阪音大にはストラッドのピッコロヴァイオリンもあるのですが、こちらは
分数楽器に改造されています。

私もこのサントリーから寄贈された楽器に関係していますので、実物も何度も見ましたし、
触っています。とても薄いニスで、軽い楽器です。
ロンドンのベーアさんもストラッド、ガルネリクラスで唯一のオリジナルニスが
残っている貴重な楽器なので、照明,空調にも気を使ってください、との
アドヴァイスがありました。

ストラッドさんもこのような状態で作ったのだと思います。

他にも外した指板なども資料としてありますが、この唯一の楽器を参考にするのが
ストラッドさんの仕事を知る上で最も良さそうです。

メディチ家の楽器はミケランジェリのダビデ像がある、アカデミア美術館にあるそうです。

ということは演奏されていないようです。

現在聞くことの出来るストラッドさんの楽器は、全てモダンに改造された楽器しかなさそうです。



本筋には関係ない話かもしれませんが、ストラッドさんの楽器について、私が知っていることを
書かせていただきました。こんなことを書いているのは、ヴァイオリン製作家の方でもいないでしょうね。


次回はギターの話です。

ヴァイオリンの製作については、今原稿をまとめているところです。
日本のヴァイオリン製作の歴史なども関係してそうなので。









  1. 2013/05/12(日) 01:10:19|
  2. ギター
  3. | コメント:2
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コメント

詳細なコメントを早速にありがとうございます。

 現在のほとんど全ては、モダン改造ということに、やはりかとの思いで、がっかりです。
 ところで、現在のバイオリン奏者は、本来のピリオド楽器としての価値を見出そうとする人っていないのでしょうか。それが全く不思議なのです。普通、バロック時代の楽器は、本来の状態ではどうだったのだろうかとか、音色的にも鳴り方にも興味があるものです。
 どうもバイオリンの世界の人の価値観というのは、さっぱりわかりません。
とかく、「お金の入るオケで使える」ということしか価値が見出されてないようです。

私でさえ、ギターなら、19世紀のオリジナル(もちろん改造など皆無の)を欲しいし、その基音の良く出る音を試したいと思うのに。
  1. URL |
  2. 2013/05/12(日) 10:22:23 |
  3. guitarist #-
  4. [ 編集 ]

あのお母様の本は私も所有しております。表紙の写真がディユランティだったのでしょうか。イメージとしての別物と思いました。
 本の内容では、入手時、最初、バロック時代仕様だったが、そのまま演奏していたとかありました。
 やはり、すぐにモダン仕様に変えてしまったのですね。

力木までオリジナルということでした。今、バイオリンに限らず、ピリオド楽器は、ほとんど力木は現代のものに変えられているようです。こだわる人は古代木を探し出して、力木とすることもあるそうです。

 いずれも演奏者の価値観によると思います。とにかくストラドのバロック仕様で音を聞いてみたいと思います。
  1. URL |
  2. 2013/05/14(火) 19:52:13 |
  3. viorin #-
  4. [ 編集 ]

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プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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