古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

ストラディバリのヴァイオリン メシアについて

自分の専門外のことについて、聞きかじり程度のことを、著作の中で書いたり、
話したりしている人が多いようです。

これは、私も気をつけなければいけない、と常々思っています。

ヴァイオリンは私も作りますが、モダンヴァイオリンは作りませんので、モダンヴァイオリンについては
門外漢かもしれません。

でも、楽器作りとして、ひとつの楽器として見れば、専門外と言うことでもなさそうなので、
このブログを読んで下さっている皆様が興味を持っていただけそうなので、少し書かせていただきます。


以前、マンドリンの張力のところで、ほとんどの人が自分で調べず、考えもせず人の言っていることを
そのまま、自分の考えとしている、と書かせていただきました。

同じような話です。


ストラッドの作ったヴァイオリンの中で、名器とされている楽器のひとつに、「メシア」
と呼ばれている楽器があります。

このメシアについて、ヴァイオリン関係の本を読むと次のような記述がほとんどです。

(一応、ヴァイオリンの修復では世界的第一人者とされている、日本人の本人はヴァイオリン製作家
ヴァイオリンドクターと言っている方の本「ストラディバリウスの○と嘘」と言う本から、
取らせていただきます。この本については、リュート・ギター奏者の竹内太郎さんがブログで
ぼろくそに書かれています。私もそう思っています)

ストラッドがメシアを完成させたのは,1716年彼が,72歳の時です。
素晴らしい楽器だったので,生涯この至宝を手元においていた。
この父の遺志を受け継いで、二人の息子も売らずにいた。
60年にわたって、ストラディバリ家から持ち出されることは無かった。

そして、この二人の息子がなくなると、ヴァイオリンには興味の無かった末息子の
パオロが処分してしまった。

1775年にフィレンツェに住むサラブエ伯爵に売り渡されたメシアを1827年にストラッドの
最初の作品と4000フランの現金と引き換えにタリシオが手に入れた。(今のお金にして200万円
から400万円くらい)このことが記録に残されていると書かれています。

そして、タリシオが亡くなった時も、メシアだけは手放さず、彼が無くなった一室の引き出しに隠すように
遺されていた。

そして、彼の楽器はヴィオームが買い取りその後いくつかの変遷を経てヒル商会にわたり、
現在はアシュモリアン美術館にガラスケースのなかに,誰にも弾かれる事が無く、収まっているそうです。

ほとんどのヴァイオリン関係の本にはそう書かれています。


これに対して、と言うかこれ以外のメシアの話は ラミレス3世しか書いていません。

ラミレス3世が書いている「メシア」の話です。
(ラミレスが語るギターの世界174p)

ストラディバリと同時代の資産家のハンガリア人が美術品収集の一部としてストラッドに注文した。
当然弾かずに、展示キャビネットに納め,何世紀もの間そこにあった。
19世紀の末までその邸宅と美術品は受け継がれ、最後の相続人が毎年パリで過ごすようになった。
その時ストラッドのヴァイオリンを持っていることを話しに出すと、当然のことながらそのヴァイオリンを
パリに持ってくるよう、約束させられた。
でも数年、彼はヴァイオリンをパリに持ってくることを忘れたので、やって来ることが無いというので、
メシアと名づけた。そしてとうとう、その楽器を持ってくることになったとき、最高の栄誉をもって社交界に
紹介され,偉大な芸術家によって、試奏されたが彼らはなんとなく失望した。
もちろん、パリに持ち込まれたときに、モダンの楽器に改造されています。
その後ヒル商会に渡ったと書かれています。


ラミレスさんが書いている本の中には、首をひねる箇所もあります。
ギターの弦の張力が70キロもあるというところとか。〈訳 の時に換算を間違った
ということが無ければ)

でも、全体に良くいろんなことを調べ、勉強もされているのが分かります。

この2つの文章を読んで皆さんはどう感じられますか?

私はラミレスさんが書いたほうが、真実に近いと思います。

楽器を作っていて,よい楽器が出来たから、それを手元においておくことなど、
私には考えられません。ストラッドさんも素人ではないのだから、次の
楽器は更に良い楽器を作ろうとするでしょう。

もし手元に置いていても、次の楽器か,それ以降何年も楽器を作り続けているのだから,
更によい楽器が出来れば,メシアを売ってもっと良い楽器を手元においていただろうと思うのです。

でも、演奏家にそれも素晴らしい演奏家の手元に渡れば,更に良い楽器になるのは
誰でも知っていることです。

非常に美しい楽器が出来たが,音はそれほどでもなかったので、人前に出すのを
嫌ったので,手元においていたのなら,話は分かります。
その可能性も、完全には否定できないと思います。

でもそれだと、メシアを高く売れないから、素晴らしい楽器なので手元に置いておいた、と言うことに
しておいたのでしょうか?



そして、世界的権威と言われている方が書いた文章にこのような、ことが書かれています。

「3分間の曲を演奏するのに3時間かけて調弦した」とか「リューティストをひとりだかえる費用に
馬3頭分の金がかかった」とか書かれています。

誇張された文章をどっかで読んだのでしょうが、ここまで誇張された話は聞いたことがありません。
リューティニスト一人でなく、リュート1台維持するのに必要な費用は馬一頭分くらい、と言う話は
読んだことがありますが。

そして、極めつけは

そして、貴族達は楽器職人をも抱きこみ,彼らは後に弓で弾く”バロックリュート”と呼ばれる
擦弦楽器を生み出していきます。

と書かれています。

どこで、こんな話を聞いたのか、読んだのか分かりませんが、
このような事を自分の本に書くような人ですから
ヴァイオリンについてもどこまで調べたのだろうと思うのです。

竹内太郎さんがぼろくそに言うのも分かります。

ラミレスさんがヴァイオリンは膨大な資料があるのを疎ましいと感じていた、
と書かれていますが、ヴァイオリン関係の本の多くは楽器商や楽器職人の手によって書かれています。

ヴァイオリンがいかに神秘的な楽器で、現代の科学でも解明できない、現代の楽器では
到底到達できない高みにあるのが、クレモナのオールドヴァイオリンである。

ということを刷り込むための本が多いと思います。
またそのような本に書かれていることを、私にとっては,と言うか楽器にとって、
どうでも良いようなことを、沢山の人が知識として持っているのです。

また、演奏するのも選ばれた人でなければならない、とか普通の人が鳴らしても楽器が鳴らない、
毎日弾いてあげて,4時間くらい弾きこむとやっと鳴ってくるとか。

本で調べても、なかなかそういう資料は出てこないのですが、ストラッドと現代の楽器,安物の楽器と
弾き比べたというようなことは,ネットだと直ぐ出てきます。

これらも、演奏した人、会場の音響,弓,弦など色々問題があるのは分かると思うのですが、
遠鳴りするように調整された、名器と側鳴りするように調整された普通の楽器では、普通の楽器のほうが
良いと感じる人は多いとおもいます。
また、極端な私の考えかもしれませんが、スティール弦を張ってしまえば、クレモナの名器も、
安物の楽器でもどっちもどっちと言う感じを私は持っています。

少し上手な、中学生くらいが弾いているヴァイオリンでよい音だと思うときがあります。
楽器も高い楽器ではありません。

魂柱と駒と弦の関係がうまく行っていると安い楽器でも、調整がうまく行っていない、
名器より良い音がする時もあると思います。

楽器ではないのですが、かなり以前日本酒ブームのようなものがあったころ、
日本各地の銘酒を集めている酒屋さんが利き酒会をやりました。地下にエアコンの入った
ワイナリーを持ったような、酒にはうるさい酒屋さんです。

そこで、米はどこそこの山田錦で精米はどう、酵母はどうとか注釈がつくのですが、
驚いたことに、かなりのお酒がアル添されているのです。

アル添されてしまっていては、どんな酒米を使おうが、酵母がどうであろうが、アルコールの
味になってしまいます。

これは、アル添しているのがわかるかな?と試しているのだろうかと考えたりもしましたが、
そうではなかったようです。

集まったお客さんはどの酒がどうの,こうのと話しをしています。

私は直ぐに帰ってしまいましたが。

同じようなことが、楽器でもあるように思います。
アル添の代わりがスティール弦かも知れません。

いろんな実験をやっているようで、これはネットで仕入れたことなのですが、
コンクールに出た人を集めて、クレモナのオールドの名器、普通の高級品、そして
安物ヴァイオリンを目隠しをして弾いてもらって、気に入った楽器を選んでもらうと
安物が結構選ばれたとか。

これも、どの程度まで信用してよいものか分かりませんが、少しは分かるような気がします。
コンクールと言ってもトップの国際コンクールでもなければ、そんなに上手な人はいないだろうし、
普段使っている楽器に近い楽器のほうが弾きやすいと言うこともあるでしょうし、
楽器の調整もどうなのか気になります。
名器でしっかり弾かなければ鳴らないような楽器だと手に負えないかも知れませんし。

昔,40年ほど前,ギターを始めたころ、私の耳もまだそんなに育っていなかった頃は、
5万円のギターを使っている頃は、5万円以下の楽器の見極めは出来ました。
10万円のギターを使っているときは、10万円以下の楽器は大体分かりました。
30万円のギターを使うようになって、30万円以下の楽器はこれが、5万の楽器、
10万の楽器、20万の楽器というのが分かってきました。
もちろん製作家によって、値段設定が違いますし,同じ製作家でも出来不出来はありますが。
普段安い楽器を使っている人には、100万の楽器か500万の楽器か1000万の楽器か
分かる人は少ないように思います。

ヴァイオリン以外でも、先生が良いと言うから、勧めてくださるから,買ったと言うのなら
話は分かるのですが,その世界で第一人者と言う人がほめると、そのほめられた楽器を、
皆いっせいに買うという,現象は古楽器でもあります。

良くこんな楽器を買うなあ とあきれることも。

これは、ギターにも言えそうですね。
でも、ギターのほうがまだましなような気がします。






  1. 2013/04/19(金) 02:01:40|
  2. ギター
  3. | コメント:3
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コメント

 バイオリンの件で、面白い話でありがとうございます。

 かつて、日本人バイオリン奏者で、先生の勧めによって買ったものが、その後20年以上経て、修理に出したとき、真っ赤なニセモノだったと判定されて、大変失望されたという人の記事を読みました。
 その方のご主人曰く、「まだ学生身分(当時)では楽器の良し悪しは判らないし、勧めた先生にも責任はある、今となっては、関係者もすでにおらず、どういっても始まらない。」

 楽器を選ぶことの責任とは何でしょうか。とかくバイオリンは桁違いの価格です。有名な大家の先生の言うことが絶対でしょうか。正しいのでしょうか。

 良い演奏をするためには、良い楽器が必要で、できるだけ早く名器を持つ必要がある、それはわかります。私は思いますが、楽器の良し悪しがわからないうちは、買うなということです。(たとえ先生が勧めても)
 楽器の購入は個人の責任です。イタリアのクレモナのオールド物の良し悪しがわからなのに、飛びつくなということでもあります。
 それよりも早く良い耳と音楽性を、演奏会に聴きに行ったり、良い演奏を聴く機会を増やす方が賢明だと思います。
 そして楽器は自分で勉強・研究して選ぶこと、大家の先生の意見は参考としても最後は自分が選ぶことが重要です。それこそ平山様が、日ごろ言われているような、他人の言うことをそのまま受け入れることをせず、時間がかかっても自分で研究する姿勢が、楽器選定でも大事な姿勢だと思うのです。

 
  1. URL |
  2. 2013/04/19(金) 10:59:40 |
  3. 詩人 #-
  4. [ 編集 ]

 こんにちは、僕も参加させてください。

 メシアの事例と似たような話を知ってます。サントスエルナンデスという人のギターは、セゴビアのギターを作成したことで有名ですが、彼もとびきりのギターを売らないで手元に取っておいたとか、製作技術(秘密)を盗まれないようにしていたとかエピソードがあります。
 実際、セゴビアの腕に惚れ込んだ彼は、欲しそうにしているセゴビアに、これは君のものだ、云々、という感動的な話が伝わっています。

 実際に、誰かの注文を受けずに、自分の意思で楽器を作る製作家がいます。その人は、将来、有望な演奏家が現れた場合に、それを使ってもらおうと考えていたり、または、自分自身のために(趣味として弾くために)作る場合があるのです。そういう人は現実にいます。

 僕が思うに、メシアもストラッドが自分のために作成したのではないかなと思った次第です。そういう場合も充分に考えられます。

 有名な製作者でも、販売用に、注文如何に関わらず、作って在庫させておく場合もあります。僕の知り合いの製作家がそうです。そして、HP等で偶然発見した人が、在庫品を買うといった按排です。但し、メシアは、違うと思われます。

 ところで、ネット等で調べてみますと、実に多く、有名な名前付きのストラッドの所有者一覧表が出てくるものですね。驚きました。
 それだけ、素性がはっきりしており、偽物の入り込む余地がないとも言えます。誰が何年製の何と言う名前のストラドを持ってるのかかわかるのですね。しかし、皆が大金持ちというわけではなく、7割強が貨与品であることがわかります。いずれ返還しなければなりません。だけど、借りたい人が誰でもというわけではなく、ちゃんと腕前が認められなければ貸してもらえないでしょう。
 僕個人の意見としては、貴重な人類の文化遺産ともいうべき名器は、管理、セキュリティー、保険等の行き届いた財団などでしっかり保管され、それを弾くにふさわしい演奏家に貨与するというのが適切だと思うのです。値段的にも個人の手に負えるような代物ではないし、管理保守は専門家にまかせ、演奏家は演奏に集中するのがよい。
 以上は、バイオリンに限った話です。
 一方、ギターなどは名器といっても値段はしれてます。まあ、個人がしっかり管理すればよいと思います。いずれ次代を担うホープに譲り渡す日のために、日頃から丁寧に扱うことです。

 なんだか、雑多な話にあちこち飛びましたが、要はメシアのような超のつくバイオリンが、特に世界的に、バイオリンだけが、なぜ、なぜ、こうまで、一般人に手の出ないような価格になってるのか、わからないのです。
 製作の歴史が違うからなのか。では、修理されれば、ルネサンス時代のオリジナルリュートも億の値がつくのでしょうか、とてもそうは思えないです。
 長い時間かかって作られてきた人々の先入観のなせる業でしょうか。わかりません。
  1. URL |
  2. 2013/04/19(金) 17:54:26 |
  3. guitarist #-
  4. [ 編集 ]

前にもありましたが、洗脳とか先入観は怖い。ものの本質を見誤らせ、誤魔化される。
世の中、こんなことがうんざりするほどあります。
 スティール弦を張ってしまえば、場末の安物も真正ストラドもわからないという例えは面白いと思います。
 ギターでもナイロンではなく、スティール弦なら、名器も安物の区別もつかないかもしれません。
 我々人間には、外界から入ってくるものに対して、純粋にダイレクトに入力はされません。必ずなんらかのフィルターを通して入力されます。それは、その人間の体型、髪型、服装、身分、地位、学歴、所有物、車、経歴などなど、多くの色めがねで見たり、先入観を持って判断します。
 こればかりは、人間のどうしようもない性質?です。(直せない)

 世の中にも、そういった色めがね、先入観により著された書物も多く、ストラドの秘密とか、塗装に秘密が、とか、聞きかじりの集大成といったいい加減なものも少なくない。 前の記事にもありましたが、私もストラドの神格化、高額化には、長い年月に渡り、積み重ねられてきた人間たちの先入観による”伝統”が原因だと思っています。

 私には、モダンバイオリンのほうが、良い意味で現代人の趣向に合っていると思います。合っているなら、それを使用して良い趣味の音楽を聞かせてもらえれば十分である。たしかに、一流は一流を好むのたとえがありますが、どうもストラドと聞くと、金満満腹・贅沢病的なものを感じてしまう。
 一流といわれる演奏家は、独自の楽器観を持っているとは思うし、ストラドこそ最高究極と思っているわけであろうと思う。
 しかし、すべてのフィルターを取っ払って、本当にそうなのかという自問自答が必要である。
 何を廃しても、ストラドが最高なのか、演奏家も再考の余地が大いにあると思っている。

  1. URL |
  2. 2013/04/20(土) 20:41:50 |
  3. gavottenⅡ #-
  4. [ 編集 ]

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kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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