古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

音の延達性について

trioさんから小さい楽器の延達性について、コメントいただいたので、今まで
経験したこと、思っていたことを書かせていただきます。

その前に、前回のブログの修正です。

トーレスさんは2台と同じ楽器は作っていなかった、と書きましたが。
表板の面積の表を見ていて、同じ面積のものが、いくつかありました。

ほとんどは、例えば FE01 FE14 FE21D は面積が 同じ1261cmxcmです。
ですが、大きさを胴体の上から順番に書いていくと、01は 261、239、342そして胴体長468mm
14は260,214,347,480 21Dは263、217,348、476です。測定誤差以上の
違いがあると思います。なので、違う大きさの楽器と言えると思います。

それに比べて、SE28(1882年)SE43(1883年) SE99(1886年)はそれぞれ、
1333cmxcmで、サイズも同じ、なのが 43と99です。 274,235,359,480です。
28は273、233、358、482 と微妙にずれていますが、ほぼ同じ大きさと言ってもよいと思います。

データが分かっていない楽器や、測定方法を統一すると、他にもほぼ同じ大きさの楽器も
出てくるかもしれませんが、それでも、非常に少ない数だといえます。

でも、全て違う大きさと書いてしまったことは、訂正させていただきます。

そして、ブックマッチの楽器は、(もちろん現存して言う楽器でロマニさんの本ではっきり確認できる
ものに限りますが) FE 05,11,16,20,28 そして、SE 49.60の8台でした。
これ以外は2枚の表板のものでも、ブックマッチでなく別々の板だったり3枚、4枚の表板の楽器です。

でも、トーレスを元にギターを作っている、モダンスペインギターの製作家は
こんなことはご存知なのでしょうね。多分。




と言うことで、本題の延達性に入ります。
これこそ、学者さんが研究してくれていても良さそうなことだと思うのですが。

今まで、実際に経験したことを書かせていただきます。

今から、30年ほど前ですが、大きな木工の施設で、木で作っている楽器だから、
展示と演奏をして欲しいと頼まれ、チェンバロ、オッタヴィーノ・スピネット(一番小さなチェンバロです)
リュート、ガンバなどで、展示と演奏をしました。

その中で、近くで聞くと、一番小さなオッタヴィーノ・スピネットが一番良く音が通っていたのです。
弾いている本人が「これで聞こえているの?」と思うほど、近くでは小さな音です。

次は、大阪音大でその当時は、楽器博物館と言われていた、付属の博物館で、博物館収蔵の
鍵盤楽器の演奏会がありました。この会場もホールではありませんので、音響的には
厳しい会場です。
でも、その中で一番良く音が通っていたのは、大きなフォルテピアノでなく、一番小さな
1800頃のスクエアーピアノです。(メーカーは、有名なブロード・ウッド ですが)
弾いてる本人も(大阪音大の先生です)近くでは小さな音ですから、「聞こえていますか?」
と何度も、聞かれました、それに対して、「とても良く聞こえています」と返事したのですが、
どうも、信用されていない感じでした。

次は、2700人収容の大学の講堂でのことです。
これも、25年以上前のことです。

チェンバロを使う講義をするため、1000万円もするチェンバロを運んで、調律しました。
私が運んで、調律もしたので、ついでにガンバやリュートも弾いて、と言うことになりました。
チェンバロはマイクを使って、PAの助けを借りましたが、リュートやテナーガンバはPAを使わなくても
2700の講堂で充分音が通っていたのです。
実はこんなやり取りがありました。
マイクチェックをしていた大学の方が、「リュートPAの音量が大きいよ」と言われて、
「リュートはPA 入っていないのですが」と音響担当の方の返事。
リュートは音響さえよければ、2700人の講堂でも充分音が通ると言うことが分かりました。

ただこの講堂は、席が階段状になっていて、音響的にも良い講堂でした。


これは、楽器だけでなく演奏する人にもよると思います。

日本に帰ってこられるときに、公開レッスンをしていただいている、三和睦子さんがチェンバロを弾かれると
遠くへいけば行くほど、大きな音になっていくのを経験したことがあります。

西宮の多目的なホールなのですが、三和さんがチェンバロを弾いていると、ステージ近くで聞いていると、
そう大きな音ではないのです。ですが、楽器から離れて、ホールの後ろに行くと、
音が大きくなっているのです。そして、ドアを開けてロビーに出ると、
更に音が大きくなった感じがしました。楽器はもちろん私の楽器です。
もちろん、ロビーにはPAは入っていません。

同じような経験が、これもワンフロアーのホールだったのですが、モダンフルートと
モダンオーボエとチェンバロの演奏会でした。近くで聞くと、もちろんフルート、
オーボエの音が大きいのですが、ホールの一番後ろで聞くと、チェンバロのほうがはるかに
音が大きいのです。このことを演奏者に伝えると、あまり信用されていたようでした。
この時も、関西のベテランのチェンバリストの方でした。

逆に、若いチェンバリストで、近くで聞くと大きな音がしているのですが、(あまり綺麗な音では
ありませんが)少し離れると聞こえない、と言う経験は良くありました。

小さな楽器から、話は逸れたようですが、演奏家にもよると、言うことがいいたかったので。
これは、声楽でもよく経験しました。オペラでも。

チェンバロついでに、2段鍵盤のチェンバロだと、8’と言って、記譜と実音が同じオクターブの
弦が2列張っています。ジャックで弾く位置が、下鍵盤が真ん中近く、上鍵盤が少し端に近い場所で
弾いています。

ギターでも、ブリッジよりだと、硬い音になります。

硬い音のほうが、音が立つので、上鍵盤の音はボリュームを下鍵盤の音に比べて、小さくしています。
それでも、良く通る音は、上鍵盤のほうが良く通ります。

と言うような経験をしました。

そこで、少し本題に入らせていただきます。

もちろん弾いている人が気持ちよく弾けるという事も大事でしょうが、音が聞いている人に届く
と言うことも、もっと大事だと思うのです。

ここで、楽器の大きさや種類でなく、上手な人とそうでない人で考えてみます。

チェンバロは特に、弦が細くて、爪もとても小さいものですから、楽器を鳴らすことが
難しい楽器です。(弦に与えるエネルギーはギターの10分の1か20分の1かくらいの感じです)
上手でない人は、音も小さいのですが、まず、音が汚いことが多いです。

これは、側鳴りしていると言うことにも、繋がります。

音が汚く、側鳴りしていると言うことは、弦が不良振動しているのが原因だと思います。
ギターでも、そうだと思います。

弦が不良振動していると、部分的に弦の振動が違っているわけです。部分振動しているとも
言えます。部分振動していると、どうしても倍音しか出なくて、基音は出にくくなります。
波形を調べても、何の音がしているのか分からないほど、基音がはっきりしません。

部分振動していると、楽器も部分しか鳴らずに、(基音の一番大きな振動が、無いわけですから)
エネルギーも小さいので、楽器全体が鳴りません。
当然、遠鳴りもせず、延達性も無いわけです。


何故、チェンバロではそうなるのかと言うと、チェンバロはピアノと違って
(初期のフォルテ・ピアノは近いかもしれませんが)よいタッチで、
良く楽器を鳴らすと、音はほとんど、全部前に行ってしまうのです。
自分のほうには帰ってきません。

ですから、上手な人の横に行くと、小さな音しかしていません。でも、楽器はしっかり鳴っているので、
音楽は作れます。鳴っている実感ははっきりあるのですから。

上手でない人は楽器も鳴っていませんから、側鳴りさせて自分に音がきこえるように
しているようです。
ギターでも少しはその傾向があると思います。


でも、これらは、私がそう思っていることで、そう感じているだけなのかもしれません。



次に小さな楽器のほうが、延達性には有利だという事。

これも、私の考えですので、違う考えをお持ちの方もいらっしゃると思いますが、
長年いろんな楽器を作ってきてまた、弾いてきて感じたことを書かせていただきます。



19世紀ギターのほうが、モダンギターよりも音が通ると書きました。

この理由をかなり前から考えていました。

それは、エネルギーをどう使うかだと思いました。


モダンギターのほうが、大きなボディーで、音も響きも多くて、弾いている人にも気持ちのよい楽器
が多いと思います。

でも、演奏するのは、同じ人で、同じ力で弾くと、弦に与えるエネルギーは同じです。

そのエネルギーをどう使うかだと思うのです。

モダンは、そのエネルギーの一部、あるいは大きな一部を、響きや楽器本体を鳴らすことに、
使っていると思います。

その点、小さな19世紀ギターは、響きも少なく、表板も小さなボデイにもかかわらず、厚い物が
多いようです。また、小さなボディなので、ボデイを鳴らすほうに行くエネルギーは小さいと思います。

これら、使われなかったエネルギーが音になって、飛んでいくように思います。

19世紀ギターのほうが、音に密度があるのは、ご存知のことだと思います。
また、基音もしっかりしている楽器が多いと思います。

密度のある音で、基音がしっかりして、エネルギーがあれば、音は遠くまで届くと思います。

その分、弾いている人には来にくい音になりますが。



モダンと19世紀ギターと大雑把に分けましたが、もちろん演奏家によるのは、鍵盤楽器以上だと
思いますので、19世紀ギターでも音が遠くへ飛ばない人もいるようです。

後、ギターだと、弦を弾く場所、弾く場所でも延達性の差があると思います。

チェンバロで弦の端に近いほうで、弾いている上鍵盤の音のほうが、通ると言いました。

同じことが、ギターでも言えるのではないかと思います。

弦の中央、サウンドホールの上で、柔らかい音で弾いている、演奏家よりセゴビアさんのように、
ブリッジ寄りで弾いている演奏家のほうが、良く通るように思います。

ブリッジよりのほうが、弦にエネルギーを与えやすい、と言うかしっかり弾いても、
弦が受け止めてくれます。


弦の振動については、面白いことがあります。

私は何年かに一度、ピアノの調律士協会の勉強会に、チェンバロの調律と楽器メンテナンスで
呼ばれることがあります。

その時に知りあった、スタンウエイの一番の調律士だと思っている、高田務さんが面白いものを
作られて、我が家に持って来られました。

それは、ストロボと同調させて、その場で弦の振動が見えると言う装置です。

これで、ギターやガンバの弦の振動を見ると、弦の中央部で弾くと、よく弦の振動の
絵で見られる、正弦波になります。でも、少し端に寄ったところで弾くと、弦の振動は
ほとんど、台形になっているのです。ブリッジ近くまで、大きな振幅があるのです。
と言うことは、ブリッジに与えるエネルギーも大きいのではないかと思ったのです。
その結果、音が遠くまで届くのではないかと考えました。

これほど、極端に違うとは思ってられなかったようで、高田さんも驚いておられました。
(高田さんはこう書くと、技術の人みたいですが、めずらしく音楽の好きな調律士さんで、
ピアノ以外の演奏会にも良く行かれ、ギターとかハープ、チェンバロなども演奏会も良く行かれています)




でも、書かせていただいたことは、私の思い込みかもしれません。

文章にすると、ニュアンスが違っているようにも、思います。

また、読んでくださった感想、ご意見などお聞かせ下さい。

よろしくお願いします。









  1. 2013/03/25(月) 02:02:49|
  2. ギター
  3. | コメント:3
<<音の延達性その他 | ホーム | トーレスさんについて 楽器の大きさ、弦長>>

コメント

すみません、 明日から海外の仕事・・で、フォローしにくいので短絡的な話になります。
明日からオケと電気増幅なしの仕事なのでポストの平山さんの話を興味深く読んでいました。
とても参考になりました。
ビオラのポストについて
プリムローズ先生がその難しさについて語っておられました。
音を出さねば・・と 思い込むと演奏家は楽器を締めていきます、もちろんわたしもそうです。
実際には・・ちょと違うところに適正な緊張があるのだけれど・・そこを冷静に判定するすることは
演奏家には不可能だ、、と プリムローズ先生がおっしゃっていました、そこをカバーするのは
バイオリンとは根本的に違うボーイングにある、という話でした。ふかい話でした、
その直後にロンドンでモーツァルトのドッペルを弾いてられてチュンさんのバイオリンよりも凄いテクニックと音と
なによりも音楽がありました。

遠達性・・これを中学の理科の知識から迷信だと思ってられる方があるのですが、平山さんがおっしゃる通り
まちがいなくあります。これはポストのこととも拘わるとおもっています。
原因は平山さんの考えとは違っていて・・とても単純に位相の問題だと考えています、
たとえば トルレスは位相はあまり整っていない。北米の友人がもっている世界でいちばん有名なトルレスの位相を観察していても
それは感じます。彼女は旅先のホテルでサウンドホールに蓋をするんだけれど・・かえって音はよくでてしまう、という笑い話ですね。
ポストを駒のちかくに立てると、入力にはたえるようになるので演奏している人には「よろこばしい」。でも反位相も増えてしまう。
演奏をるときには 端振動  ギターではサウンドホール廻りですね・・そこのたちあがりを意識すれば音は届くような気がします。

ポストについて ガンバのポストについても・・・不確かなことぱかりで私はなにもしりません。
じつは博物館でおおくみたガンバにはポストがなかった・・あたりまえてすね 倒れるから・・・で、
平山さんに教えてもらうまでは真実をしらなかったのです。

ギターについてもなんでも簡単にきめつけてしまうことは とても危険なことで、なによりね自分自身の可能性を狭くしてしまう、
と自分に戒めています。
  1. URL |
  2. 2013/03/25(月) 02:40:49 |
  3. CABOTIN #ArGM.iJY
  4. [ 編集 ]

追記

連投 すみません、
弾弦位置 のこと、、すこし平山さんとは違う感じをもっています。ピアノとクラブサンではとても納得するのです。
実際には「音量」 物理的できなくて 人間の脳にとって・・を定義しなくてはならないけれど

ギターや他の楽器では・・すこしちがう状態もあるのでは・・と思います。思いきりサイン波というとですね、
オケのなかの フルートですね、波形で見ると 極端なサイン波ですがこれは通ります。同じくらいの正弦波は
例のマーラーでのハープのハーモニクスですね。。ほとんど音叉的な正弦ですが これは通ります、、遠くほど聞こえます。
エネルギー量でいうと高周波がすくないと「ちいさい」のですが、脳の認識とそれとはリニアではないかも。

ピアノやリュートみたいな服弦の弦がなぜ「普通に鳴るのか?」 真剣に考えてシミレートもしたけれど。これはとても簡単には説明できないことですね。
複弦以上と単弦はとてもおおきなちがいがある。 と感じています。
  1. URL |
  2. 2013/03/25(月) 03:35:43 |
  3. CABOTIN #ArGM.iJY
  4. [ 編集 ]

興味深いお話です。
平山様のお話に大いに納得させられるものばかりです。
まず、私の経験でも、そばで聞くと音は蚊の鳴くようにかぼそいが、遠くで聞くとようく通る音の楽器ですが、あのハウザーギターが特にそうです。楽器によって鳴らし方にコツもありますが、ハウザーのような楽器は大ホール向きで、コツを知らない人が鳴らすと、全く鳴ってくれない、音も届かない、すなわち素人には無理な楽器となってしまう結果になります。(一般人には、ハウザーは鳴らしにくい、固い楽器という評価が多い気がします)
 要は楽器自体の要素と弾き手の要素があるということです。
また、弾き手の要素ですが、セゴビアが特にそうで、私の知り合いにセゴビアのサンチャゴの講習会で、セゴビアクラスに配属された人がいまして、その人が言うには、そばで聞くと音は意外なほど小さいのだが、離れたところでは、ぐっと音が大きく聴こえるくらいで不思議だったということでした。
 小さな楽器やリュートでは、音が通るというのは、楽器自体と弾き手の両者の要素の掛け合わせの結果だと思われます。
 ですが、なぜということをもっと掘り下げた理由は、私には経験的・感性的にしかわかりません。でもミステリアスな事象はそれ自体ロマンがあってよいことだと思います。
 なんでも理詰めで片付けるのも、どうかなと思いますが、弾き手にはぜひ理解して実践したいです。
 どうもタッチとブリッジ寄りということにヒントがありそうです。リュートがまさにそういう弾き方です。最近リュートの構造や歴史的なことに興味があり、音がなぜよく通るのか興味がつきません。
  1. URL |
  2. 2013/03/25(月) 11:04:43 |
  3. trio #-
  4. [ 編集 ]

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プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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