古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

トーレスさん、リュートの構造について

ここのところ年度末と言うこともあって、楽器の修理や製作に励まないといけない時期なのですが、
トーレスさんについて書かれていたので、少し書かせていただきます。このブログの存在意義にも
少しかかわってきますので。

かなり以前読み物として「神様はつらいよ」で書かせていただきましたが、
トーレスさんのしていたこと、考えていたことを今のモダンスペインギター製作家はあまりしていない
ように思っています。

都合の良い一部のところだけ、取り入れて トーレスを神様扱いしているように思います。
その一部とは、表板のドーム形状くらいでしょうか?それにあえて言えば、ライニングの大きさ、
バスバーの配置における軸の設定くらいでしょうか?

後はどこを見ても、また、最も大切なところもトーレスを範としていません。

むしろ、トーレスさん以降の楽器を範としている感じがします。

そして、それら範とされている、トーレスさん以降の製作家はトーレスさん以前の楽器も研究して、
彼らの楽器が出来上がったと思っています。あくまで、私の思っていることですが。


そこで、私の楽器です。

4年ほど前にギターを作ることにして、まず原型とした楽器はパノルモさんの楽器でした。
幸い,cabotinさん始め、彼のお弟子さんたちの沢山のオリジナルのパノルモを修理させていただいたり
弾かせていただいて、モダンギターに繋がる、19世紀ギターはパノルモしかないと考えいました。

沢山のパノルモの中から、一番気に入っている楽器のボディを2周りほど大きくして、型を決めました。
それは、私が弾いてみて、最も収まる、弾きやすい、保持しやすい大きさ、形から決めました。

決してモダンの楽器や、トーレスさんのギターからは参考にしていません。

その結果、ウエスト部分のカーブも緩くなり、私の作りたい音が作りやすくなりました。
トーレスさんやモダンギターをベースにしていると、出来ない形となりました。


私はトーレスさんが新しく作り出したことはほとんど無いと思っています。
彼は、モダンスペインギターのデザインを決めたことが、彼の最大の功労だと思っています。

バスバーの蛸足、ファンブレースもパヘさんあたりが考え出し、それを形を変え応用したのが、
パノルモさんだと思います。でもパノルモさん独自の、最も大切なバスバーの配置があります。
それは、私くらいしか使っていないと思うのですが、駒の下にバスバーを持ってきているということです。

これは、パノルモさんの考えだと思います。唯一のスペイン式の制作方法の作家であると、
ラベルに書いていてもスペインではなく、パノルモさんオリジナルの考えだとおもいます。

そして、一般的に言われている、スペインネックもパノルモさんではやっていますし。

楽器の大型化も、イタリアではもっと古くから大型化されていました。


と言うことで、私は19世紀ギターの延長線上のモダン楽器を作りたいと思って作り始めました。

(モダンスペインギターでなく、モダンスペインギターはスペインの民族楽器的な楽器かな?
  と思っていましたので)

トーレスさん起源でない、パノルモさんのバスバー配置やなどは当然使っています。

トーレスさんがやっていて、私がやっていないことはまず、
バスバーの配置方法、そこには一番お尻に近い八の字に配置された2本のバスバーも含めて、
ライニングの大きさ、形状。パフリングやバインディング、スペインネック、響板のドーム形状、
エンドブロックの大きさ、横板の厚み1.0ミリ、エンハーモニックバーのトンネル化、
などです。

モダンスペインギターでは無いモダンギターを作りたいと思っていたのでそうなったわけですが、
トーレスさんがやっていることをやらないほうが、私の作りたいギターに近づいた訳です。
結果的に。

トーレスさんがやっていて、モダンスペインメーカーがやっていないことは沢山ありますが、
一番大きなことは、響板の作り方です。

トーレスさんは、今誰もがやっていて、そうしなければいけないと考えられている、表板のブックマッチは
ほとんどやっていません。現存している楽器でも、その数は一桁です。

2枚でも、ブックマッチで無い楽器も多くありますし、材料の良いところだけ使って、3枚4枚5枚で
表板を作っています。

そして、厚みも中央部分、駒のあたりは厚く、周辺部分は薄くしているのは、ロマニさんくらいでしょうか?
そして、横板も材質に関係なく1.0ミリです。今のモダンスペインギターはほとんど2.0mmです。

横板1ミリと言う楽器はまず見たことがありません。(今回茨木で行われたギターフェスで茨木の福田さんが
横板 1ミリで作られていましたが)

ということで、私には トーレスさんを神様扱いにして、(ギターのストラッドとか、)
でも、大事なところは無視しているように感じます。


ということで、トーレスさんの話は終わります。

次にリュートのことですが、ルネサンスリュートはJバーが付いていますが、バロックや
テオルボには付いていません。

そして、リュートは誰の楽器が範となったかですが、これは分からないと思います。
前回のハンブルグシターンのティルケさんの写真は、ギュンター・ヘルビッヒさんの
本から取らせていただきました。
このヘルビッヒさんの息子さんが、山のような数のリュートを調べてくれて、一定の法則を
見つけてくれました。

最後の平行バー(お尻に近いほうです)から楽器の端までの、3分の1のところにブリッジが
3分の2のところにJバーが来ている楽器がほとんどだったと言うことです。

この論文が発表されて、20世紀のリュート製作は飛躍的に進歩しました。

ルネサンスリュートの場合、この時代の常識としてそういう風に作っていたのでしょう。

バロックになると、後の時代の蛸足、ファンブレースに繋がるバスバーが出て来ました。
そしてJバーは無くなりました。


img015.jpg


これは、ミュンヘンの博物館に収蔵されている、1678年のティルケさん作のジャーマンテオルボ
の図面のコピーです。

バスバーは後の時代に付けられたものではありません。

10年ほど前でしょうか、スペインのリュート製作家がバロックリュートなのに,Jバーを付けて
薄い響板でバロックリュートを作っていましたが、これは例外です。




と言うことで、いつも思うのですが、こんな地味なブログに、真剣に、暑くコメントをいただいて、
ありがたく思います。

自分ひとりでは考えても見なかったことも、コメントいただいたりします。

これからも、皆さんのお考えをコメントいただくと、そして他の方がどう考えているかは
別にして、書いてくださると嬉しく思います。

ありがとうございました。





  1. 2013/03/21(木) 19:21:33|
  2. ギター
  3. | コメント:5
<<楽器の寿命、表板の経年変化 | ホーム | ギターの魂柱について>>

コメント

私の素人的な質問にお答えいただき、ありがとうございました。
 大変な苦心をして歴史的なオリジナルをくまなく調べあげた先人の研究には頭が下がります。そのような法則が見出されていたとは思いもよりませんでした。

 ところで話は変わるのですが、平山様の過去ログに、表板は木が伐採されて250年は強度が伸びていき、500年で当初の強度に戻るとかありましたが、クラッシクギターのおよそ半分くらいの薄さのリュートも同様なのですか。もちろん、数十年か百年以内かはわかりませんが、クラックくらいは入るとしても、強度が伸び続けているのでしょうか。
 たしかに400年前のオリジナルを修復して演奏している有名な演奏家もいるので、妙に納得してしまうのですが、不思議な気もします。
 モダンギターなど、楽器店主などがよく言われる評価に、「名器だけど、弾きまくられて、弾きつぶれて、もう楽器としての腰が無い」などということを耳にしたことがあります。
木の年数が経ることと、プロが弾きつぶして、腰がない(強度的な意味も含めて)こととは別の次元なのでしょうか。
 強度が伸びていくということと、弾きつぶれる、ということの意味を教えていただけませんか。
  1. URL |
  2. 2013/03/21(木) 21:19:48 |
  3. 弦蔵 #-
  4. [ 編集 ]

魂柱

平山様

「ギターと魂柱」の拘わりについて質問させて頂きましたが、とても興味深いお話を沢山、有難うございました。
ギターに魂柱?「愚問だ」と一蹴されはしないかと不安に思いつつも、お訊きしてよかったです。

ただ、私にはとても高度な内容ですので、ご説明頂いたことをひとつずつ、ゆっくり咀嚼し考えを進めつつ自己の知識を深めていきたいと思います。

いや、しかし、平山様のblogに集う皆様方は各々ギターについて確りとご自身のお考えをお持ちで凄いなぁといつも思います。

有難うございました。
  1. URL |
  2. 2013/03/22(金) 02:41:16 |
  3. 原敬 #-
  4. [ 編集 ]

少し前からブログ見ていました。すごく刺激的で熱い思いを持った方々のご意見と深い見識と経験をお持ちの平山様の解説に、ただただ驚くばかりです。
 こうした楽器の歴史、構造、製作、演奏など幅広い内容は、ちょっとした自治体主催の生涯講座でよくある、音楽講座とか、古楽入門とかの類では絶対に聞くことのできない大変貴重な内容だと思います。
 平山様がこれまでにブログで述べられている内容をよく頭に叩き込んでいれば、楽器店で楽器を購入するときや、先生の前でも、恥をかくことなく、一目置かれる存在になれると思います。
 私は平山様のファンになってしまいました。ぜひこれからもよろしくお願いします。
  1. URL |
  2. 2013/03/22(金) 10:30:40 |
  3. 純純 #-
  4. [ 編集 ]

音の良し悪しと、表面板の薄さについて関心があります。よく聞くのは、薄く軽く作ってある楽器は、比較的に好評であるという点です。ボディー全体がよく振動するからなのだと思います。その反面、その華奢な作りゆえか、いずれそう長くない内に、たわみ、ひずみ、ひび割れといった結果になりやすい欠点があります。
 よって、製作家は、薄さと音響、耐久性のバランスをいかに取るかが肝になると思うのです。ハウザーなんかの作りは特質もので、3mmくらいの厚みで作ってあるのに、鳴りは別格ときています。特に一世はそのような作り込みであったということです。
 私は、100年くらいは、ゆうに耐久性(ひび割れなし、ひずみ無し)があり、音響もあり、質実剛健な楽器が理想なのですが、贅沢な要求でしょうか。
  1. URL |
  2. 2013/03/22(金) 19:42:45 |
  3. trio #-
  4. [ 編集 ]

ブログ本文で書いていて、後からtrioさんのコメントをもう一度読ませていただきました。ここでのコメントを書かせていただきます。
ブログでは一般的な話をしました。でも私は、100年くらいは割れず、変形もしない
楽器を作りたいと思って作ってきています。

楽器が壊れるのは、建物と一緒で、頑丈に作ると壊れるように思います。
地震に対して強い、免震構造と同じような考えです。

私の楽器で古いものは、ガンバとかチェンバロが40年近くなりますが、
ガンバは子供が座って、少しひびが入りましたが、それ以外は完全な健康体です。
そして、2メートルを超えるイタリアンチェンバロは重さが12キロしかない、
ギターのような厚みの板で作った楽器ですが、酷使されていますが、これも完全な健康体です。

私の楽器はハウザーさんより一回り小さい楽器ですが、ブリッジ周りは2.7ミリから
2.8ミリあります。そして、その表板に見合った、横板として、1,3ミリくらい裏板は
1.7ミリから2.0ミリで作っています。

これだと楽器全体の強度が等しいと感じますので、
100年は持つと考えているのですが。
  1. URL |
  2. 2013/03/23(土) 02:29:58 |
  3. kogakki #-
  4. [ 編集 ]

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プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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