古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

弦の話(昭和20年代)

やっと、8日の深夜にガンバが完成しましたので、ブログを書かせていただいています。
前回のブログは12月に演奏会が沢山あって、リハとか本番中にパソコンで原稿を作っていたので、
アップすることが出来ました。

昨年の1月からブログを始め、1年が経ちました。
沢山の方に呼んでいただいて、ありがたく思います。
しばらく、続きますので、よろしくお願いいたします。



私は皆さんご存知だと思うのですが、ギター以外の楽器も作っていますというか、
ギターは4年ほど前から作り始めました。

10代の頃に1台は作りましたが、これは現代ギター社のキットですから、組み立てたと言ったほうが
正しいかもしれません。

演奏は20歳前から始めましたので、45年くらいになりますし、岡本一郎先生や、福田進一さん、
稲垣稔さんなど沢山のギタリスト、松村さんはじめ、多くのギター製作家の方とは、
ギターは作っていませんでしたが、40年近いお付き合いをさせていただいていました。

でも、ギターだけを作っていたのではないので、ギターだけを作ってきた方とは、知識や情報量が
違うと思いましたので、手に入るギター関係の本は出来るだけ、手に入れ、順番に読んでいっています。

その中で、アリアギターでおなじみの、荒井貿易株式会社 創業者 荒井史郎さんの
「ギターに魅せられて」は昭和22年以降の日本のギター事情が分かる、貴重な本だと思い、
読み進めています。私とは対極の方だとは思いましたが。

基本的には、ギターで商売というか、ギターを作り、売り買いした方なのですが、
最初はギターの愛好家でした。

この本の中で、一番興味を持ったのは、昭和27年にオーガスチンがナイロン弦を発売するまでの
ガット弦、というかギター弦のことです。


昭和27年までのクラッシクギターはガット弦を使っていました。
今でも、バロック楽器のヴィオラ・ダ・ガンバやバロックヴァイオリン、バロックチェロなどは
ガット弦を使っていますし、ハープもペダルハープと呼ばれている、大きなハープはガット弦を使って
います。アイリッシュハープと呼ばれている、少し小さいハープも人によっては、ナイロン弦でなく
ガット弦を張っています。

この荒井さんの本の中で、ガット弦1セットが給料の1か月分に相当し、耐久力が弱く
何日も持たない。
練習用にはもったいないので、セミガットと呼ばれる、シルクを撚り合せた代用弦が
使われたそうです。でも、ガット弦に比べると、比較にならないほど貧しい音だった
と書かれています。

そして、ガット弦は1弦だと、せいぜい5,6時間しか持たず、太い2弦、3弦でも
2,3日しか持たないと書かれています。

更に詳しく、ガット弦の値段も書かれていて、荒井さんの給料は2000円で、1弦は
300円、セットで1800円もしたと。ちなみに、メーカー、ブランドは ピラストロ社
のオイドクサだそうです。
今の価格にすると、セットで15万円くらいですか。
1弦だと、2万5千円くらいでしょうか。

演奏会ではガット弦を使って、直ぐに弦を外して、しっけないように缶に入れて保管した
そうです。
低音弦もシルクのフィラメントにニッケルシルバー(フレットの材質と同じです)
を巻いているのだが、これも4,5日弾くと巻き線が切れて、使えなかったそうです。

練習用の、セミガットについても詳しく書かれています。

よく切れる1弦で、10円(と言うことは今の価格で800円くらい)これが、1日で切れてしまうので
毎日1本ずつ必要、そして2弦3弦は2,3日もったとのこと。
巻き弦も4弦は3日で、5弦は5日、6弦は1週間使えたそうです。

ですから、楽器店に弦を買いに行く時は、1弦は20本ずつ買ってられたそうです。

よく練習された方だったと思うのですが、この文章を読んで、「なんとガット弦はよく切れるのだろう、
そんなに切れるのなら、やはりガット弦は使えないな!」と思われる人も多いと思います。


でも、現在私達が使っている、ガット弦はハープ用の弦を使っていますが、少し細いゲージだと
7月に張った弦が11月でもなんともありません。
8月にお渡しした東京の方も、まだガット弦が使えるので、使えなくなったらフロロカーボンの弦を
試してみます。とのことです。

低音弦も シルク芯にニッケルシルバーより柔らかい純銀巻きで同じように、数ヶ月もっています。
音は張ったときに比べて、少し鈍くなった感じもしますが、その分落ち着いた音になっています。

低音弦、巻き線については芯のシルクが切れなければ、ナイロン芯の弦と同じくらい
長持ちすると思うのですが、荒井さんの場合はシルク芯が切れるより、巻き線が切れると
書かれています。

また、代用弦のシルクの撚り合せた糸は、三味線の弦として今も使われています。
試しにガンバに張っていますが、ギターよりはるかに高いテンションで3ヶ月張りっぱなしですが、
全然切れそうにもありませんし、音も変化がありません。

それにつけても、不思議に思うのは、ハープは今でもガット弦を使っているように、当時もガットが当たり前
でした。
何故、ハープの弦を使おうとしなかったのでしょうか?
弦の値段も安かったと思いますし、はるかに長持ちしますから。
(もちろん、その頃は円安で、1ドル360円の時代だったかな?
と思います。ですから、輸入された弦等はとても高かったのは分かりますが。)

ハープの弦のテンションはギターよりはるかに高いです。
フレットがない分、消耗が激しくないからだと言われそうですが、ハープもギターより弦をはじく力は
はるかに大きいです。

ここで、ハープの弦のテンションを計算します。
計算式は私の昨年11月18日のブログに載っていますので。

ギターの1弦と同じ高さのハープの弦は、直径 1.30ミリ(もっと太い弦のメーカーもあります)
長さ 47センチで周波数は 320.63ヘルツ ガット弦の比重を1.30とすると

15.65キロになります。
ギターの1弦は高くて8キロぐらいですから、ほぼ倍です。

ハープは弦がグランドハープ(ペダルハープ)になると、46本ほどありますから
弦だけで、ギターの感覚で行くと、90万円くらいになります。
それが毎日切れていると、とても演奏どころではありません。

ハープの弦だけでなく、1弦だとバトミントンの弦もギターの1弦には使えます。
これも、ギターの弦に比べると、はるかに安いと思います。
当時でも、バトミントンやテニスはやっている人はいましたから。

ハープの弦、バトミントンの弦はコーティングしているから、長持ちすると思います。
今でも、プレーンなガットを輸入して自分でオイルコーティングしている人もいます。
私のHPでリンクしている、「手作りガット弦のすすめ」のように、手作りしなさいとは
言いませんが、私がリュートを始めた40年ほど前でも、西宮の仁川でガット弦を作っている
人がいて、ガット弦を作ってもらっていましたし、関西だと姫路が革製品の一大産地で、
膠も最高のものが作られています。当時だと、ガット弦も作っていたと思います。
ガット弦の材料の牛の腸(ガットは羊の腸を撚り合せたものと言われていますが、ピラストロ社も
サバレス社もガットの材料は牛です。牛のほうが丈夫ですから)も今より、品質が良かったと思います。
餌も環境も今より良かったと思われますので。

シルクで弦を作っている三味線や、お琴の弦メーカーさんの話では昔に比べて、はるかに材料となる
シルクの品質が落ちていると言ってられました。

最も、材料が沢山必要な弦はコントラバスですが、これも輸入品だと、とても高いので
国内で作られていました。このメーカーに作ってもらうとか、考えられなかったのかな?
とか、色々考えてしまいます。

今の時代だと、ギターの1弦に使える、ガット弦は 700円くらいですが、円安を
考えると、2500円から3000円くらいしていても良いとは思います。
今でも、ガンバの1弦はほぼ2000円から3000円しますので。
当時のギターの1弦は給料の5分の1くらいですから、今だと。2万5000円くらいですから、
よくギターを弾く人がいたな!と言うのが率直な感想です。

昭和27年以降、ナイロン弦が出現して、驚異的な安さと品質の均一性でギターブームに
繋がっていったと思います。
逆に、ナイロン弦がなかったら、ギターブームもあったかどうか、分かりませんね。

取り留めのない話になってしまいましたが、先生に習っていると、教えられたとおりに
ギターにはピラストロ社のガット弦を張るように、練習用にはセミガットを使うように
なってしまうのかな?と思いました。



  1. 2013/01/11(金) 17:51:23|
  2. ギター
  3. | コメント:0
<<ぶんぶんぶん 蜂が飛ぶ | ホーム | 読み物 ギターの歴史>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

最新記事

最新コメント

月別の記事です

カテゴリ

ギター (323)
演奏会 (10)
その他 (20)

私へのメールはこちらから

名前:
メール:
件名:
本文:

訪れてくださった方々

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR