古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

弦の張力と音について

今回、実は4年前に作った、第3号のギター(裏、横、ネック 楓材)も
弦の材質を、最初はナイロン、そしてイタリアアキュラ社のナイルガット、
最後にフロロカーボンに張替えました。

テンションも上がりましたが、楽器が本来の鳴りになった様に思います。

弦のテンションを上げると、どのような結果になるのか、ギター以外の楽器
も作っている私でなければ、分からないこともありますので、
皆様に知っておいていただこうと、この項を作りました。

ギターで弦のテンションを上げると、どういうことになるのか少し考えてみます。

① 強い力で弾いても、弦がびびったりしないので、逆に言うと、弦がびびらないので、
強い力で弾くことが出来るとも考えられます。大きな音が出せる利点がある。

② テンションを上げると、鳴らない楽器、鳴りにくい楽器も少しは鳴ってくる。

③ デメリットはテンションが上がると、振動しにくくなり、弱音での音楽作りが
難しくなる。弱音が出にくくなる。

④ 左手でしっかり押さえないといけない。
  (これは、フレットの近くを押さえていない、フレットとフレットの中央に近いところで
  弾いている人にとっては、音が出しやすいようです)

⑤ 振幅も小さくなるので、減衰が短くなる。

といったところでしょうか。

① の強い力で弾くことが出来ると言うことに関連して、強い力だけでなく、
弦を押さえ込んで弾く人で、よく弦がフレットに当たって、ビビッてしまうことがあります。
弦の振動を、指板に平行に振動するようにしてくれれば良いのですが、
いろんな演奏スタイルがありますから、多くの人が弾きやすい楽器のほうが良いでしょう。

メリットは生かして、デメリットを無くすようにすれば、一番良いと思います。

この点でも、私のような構造の楽器だと、デメリットは無くなります。

楽器が軽いので、弱音も出しやすいし、もともと減衰を長く設計しているので、
(表板の削り方ーーー中央部が厚く、周辺部が薄い、そしてバスバーがブリッジの下にあって
 大きい)
テンションが上がっても減衰の長さは充分に取れます。

ここまでは、よく分かっていることだと思いますが、ここからは私の経験で分かったことです。


同じ楽器だと、テンションを上げると側鳴りするようになる。

チェンバロだと、そんなに高いテンションの楽器はありません。
テンションを上げても大丈夫という構造にはなっていませんが、
初期のフォルテ・ピアノだとかなりテンションは高くなります。
(チェンバロの場合、一般的にはバロック期の楽器や古楽器で使う場合は、A=415でちょうど
平均律の ソ#の音と同じなので、鍵盤をひとつずらしてA=415にしています。
モダンピッチ A=440にするには、同じように鍵盤をずらして作っていますので、
調弦を半音も上げ下げすることはないのです。最近はやりのベルサイユピッチはほぼちょうど
1全音低いので、鍵盤を二つずらせばほぼ A=392のベルサイユピッチになります)

フォルテ・ピアノ 特にモーツアルトの頃の楽器は、かなりチェンバロに近く
小型ですが、チェンバロよりかなり太い弦を張っています。

そして、ピッチです。
昔はモーツアルトピッチは 420.4とか420前後だと言われていたように思います。
それから、423、424くらいがモーツアルトピッチとされたり、
最近ではA=428とか430くらいまで上がっているようです。

ソロの場合は良いのですが、他の楽器と合わせるときには、ピッチが問題となってきます。

バロック楽器の場合は、よく上げても A=417か418です。
このピッチにフォルテピアノを合わせると、特に高音の指向性がきつくなります。
ほとんど、チェンバロのように演奏者側には音は来なくて、すべて右前方に出ています。

それが、A=428か430まで上げると、演奏者側にも音が回ってきますし、
楽器の周りで聞いていみても、どの場所でも良く聞こえます。

フォルテピアノも、ベートーベンが使っていた頃の楽器になると、弦も高音弦では
3本になり、テンションも上がっているので、このような違いはほとんど分かりません。

ギターでも同じようなことが言えると思います。

19世紀ギターはほぼ 弦長が63センチで楽器も小型です。
19世紀ギターは一般的に、側鳴りせず、遠達性に優れています。

少し弦長が短いことも原因していると思います。
また、弦もそんなに太い弦を張らなくても鳴るので、テンションは低い楽器も
よく見かけます。

チェンバロの楽器としての出来不出来を見る場合は、なるべく鍵盤の位置から
響板に近いほうで音を聞くようにしています。
音に指向性があるので、音が来ない方向の鍵盤位置では、楽器の判断が出来ないからです。

ギターの場合も、演奏する位置でギターを聞きますが、特に高音は指向性が高いので、
少し表板側で聞こえるように、表板を傾けて、音を聞いたほうが良くわかる場合があります。

極端に高音と低音で演奏者に聞こえ方が違うと、演奏する側としては、自分で聞いている音で
音楽を作るでしょうから、まずいかもしれません。

最近、私のギターを見ていただいた、ギタリストの方の1949年のサントスエルナンデスは
19世紀ギターのように、自分で弾いている分にはあまりと言うかほとんど聞こえてきませんでした。
でも、ホールでは一番鳴っていたように思います。

楽屋とホールでの鳴り方の違う楽器も、使い勝手は悪いかもしれませんが、出来れば
両方鳴っていればよいわけで、そのような楽器を作りたいと思い、作っています。

その中でも、構造がほぼ同じだと、楓のギターは少し、演奏者には聞こえにくいようです。
その代わり、19世紀ギターのように、音に密度があります。

今まで、10台ほどのギターしか作っていませんが、楓のギターは、それまで19世紀ギターを
使っていたギタリストの方に。ローズウッドはのギターはモダンギターを使っていたギタリスト
の方の所に行っています。
ローズウッドのギターは、音が表に出る傾向が、楓のギターは内側に入る傾向があるようです。
ですから、ローズウッドのギターの場合は、密度のある音を作るようにしないと、いけないようです。

低音の響き、音量の問題もありますが、演奏者に聞いている人と同じように聞こえる、
ということで、19世紀ギターの延長線上のモダンギターを作りたいと思ったのです。

また、長くなりましたが、チェンバロのように演奏者に来る音と観客に行く音が
極端に違う楽器を作っていると、ギターだと工夫すれば何とかなりそうなので、
何とか解決したいと思って、色々考えて作っています。


分かっていただけましたでしょうか?





  1. 2012/12/20(木) 19:35:23|
  2. ギター
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プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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