古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

ストラディバリの楽器をバロックヴァイオリンに戻すことについて

ここのところ、演奏会などで朝早く出て、深夜帰ってくると言うことが続いていますので、
ブログの更新が出来ていませんでした。

展示会も始まって、演奏会、マスタークラスなど書かせていただくことは沢山出てきたのですが、
また、書かせていただくことにして、ストラッドとバロックヴァイオリンについて書かせていただきます。



ここの所、ストラッドに関する話題が続いていますが、
現代のストラッドをバロックの状態に戻すということについて、
私の考えを書かせていただきます。
あくまで、私の私見ですので。


ストラッドさんのヴァイオリンが今のような音になった理由ですが、
ニスとか木を特殊な処理をしたとか、(ナジバリ博士のように防腐剤のようなものが作用したとか)
貯木の状態の時に、塩水につけていたとか、いろんな話があります。

少しはこのようなことも原因しているかもしれませんが、
大きな理由は経年変化だと思います。
(経年変化のすごさは、無名のマヌエル・ベラスコのギターでも確認できました)

アマティさんなどに比べて、冬目の太いしっかりした材料を選んでいることも
あるのでしょうが、当時の名工が(メディチ家が直接注文したり、
ローマ法王が所有するような楽器を作っているので、
当時としても当代一の製作家であったろうと思います)

良い楽器を作って、優れた演奏家が使って、それも名器として何代もの優れた演奏家が弾き込んでいって、
楽器を鳴らしてくれたこと。

そして、経年変化で木の強度、特に表板のドイツ松、ドイツトウヒは切ってから
250年が経年変化のピークに来るということは、昔から知られていました。

木の強度が増すにしたがって、ネックが伸ばされ、ネックの角度が付けられ、
駒が高くなり、表板にかかる圧力も大きくなっていったと思います。

さらに、スティール弦の登場によってさらに楽器にかかる圧力は大きくなりますが、
ちょうどストラッドさんの楽器が経年変化のピークになる頃です。

ニスについては、私と同じような意見を持っている方のいるようですが、
生涯で1200台ほどのヴァイオリンと、ヴィオラ、チェロを作り、
その他にも沢山のギター、マンドリン、ハープ、リュート、ガンバ、クイントン、弓
などを作っているのですから、ニスは当時のニスやさんから買っていたと思います。

特別に調合してもらったかもしれませんが、
また出来合いのニスに彼が独自の成分を混ぜたのかもしれませんが、
当時のニス屋さんがつぶれて、楽器のニスが変わったという人もいます。

楽器ではありませんが、ラファエロなども、弟子が50人ほどいたという話も聞きますから、
ストラッドも息子や弟子が手伝って、これだけの楽器を作っていたのでしょう。
ニスまで作らなくても、プロのニス屋さんが作った良いニスがあれば、
それを使ってどんどん楽器を作っていったでしょう。

ですから、ストラッドさんと同じような構造、つまり同じような厚みで楽器を作ってしまえば、
経年変化で木の強度が出ていないので、楽器は壊れる可能性があるわけです。

そこで、しっかりとした丈夫な、少し木の厚みを増した、ヴァイオリンを作るので、
ストラッドさんのような音は出ないということも考えられます。
(また、製作学校などで、最初にしっかりした楽器を作ることを教えられてしまうとそうとしか、
思わなくなってしまうのでしょう)

250年ほど、経った木を探して作っても、弾きこんでいないのですから、
楽器のコンディションも音も新しい音しかしないはずです。

ガンバですが、切ってから150年ほど経った木で作った楽器では、
すぐに鳴る楽器は出来ましたが、弾きこんだ、オリジナルのような音はしませんでした。
(前にも書かせていただきましたが)

ストラッドさんは、名工が作り名人が弾きこんで行き、木の強度が増すにつれて、
弦長が長くなるとか、ネックの角度がついて、駒が高くなるとか、
楽器に対する圧力などが増えていった結果の音だと考えています。私は。


ですから、ラベルもなく、製作年も分かっていないが、良い楽器もあります。
名工が若いときに作ったとか、製作学校のような所で学生が作っていた楽器が
長い年月引き込まれることによって、素晴らしい楽器になっていることもあると思います。

あとは、長い年月、楽器屋さんとか、楽器商が作った、ストラッド神話がストラッドの音を
(聞くほうの音ですが)作っていったのかもしれません。

ですから、現代に残されたストラッドさんの楽器をバロックのコンディションにしても、
ストラッドさんが作った当時の音はしないと思います。

むしろ、現代に作られたバロックヴァイオリンのほうが、ストラッドさんの作った楽器に近いと思います。
(もちろんミルクールとかミッテンバルトといった、イタリア系の楽器でない場合、
現代の要求に合わないと言われ、弾かれなくなったのでバロックの状態のままの楽器も残っています。
これなどは経年変化や弾きこまれた楽器ですので、楽器も鳴っていますし、魅力的な音です。
私も何台も古い100年~200年ほど経ったヴァイオリンをバロックの状態に戻した楽器を作っていますが、
これはこれで年数が作り出した魅力的な音がしています。ストラッドクラスではないのですが、
バロックヴァイオリンの演奏会などに行くと、また演奏家に楽器を見せてもらうと、
古い楽器で経年変化の弾きこまれた音のヴァイオリンを見聞きすることが出来ます)


ストラッドさんの楽器は、モダンの人に弾いてもらって、
現代でも素晴らしいバロックヴァイオリンを作っている人もいますので、
現代に作られたバロックヴァイオリンの音がバッハさんやテレマンさんが、
またヴィバルディさんが弾いていた、聞いていたヴァイオリンの音に近いのかもしれません。

(もちろん、楽器として音の立ち上がりや、響き、和音の分離など音楽的な楽器を使いたい場合は、
古い楽器をバロックに戻したほうが良いのですが、ストラッドさんが作った当時の音を聞くという意味で)


バッハさんたちも100年前のヴァイオリンを使っていたかもしれませんが、
絶対数が少ないと思いますし、当時作られた楽器を使っていた可能性が高いと思います。


ヴァイオリンだけでなく、リュートやチェンバロ、そして、
後の時代にはピアノなどもどんどん形を変えて、発達?していっています。

(リュートなどもルネサンスの楽器をバロックに変えられたり、
チェンバロではラバルマンといって、フレミッシュの楽器を改造して、音域を広げたり、
楽器を大きくすることはよくされていました。
ラバルマンも、比較的小さな改造はプチィ・ラバルマン、
大きな改造はグラン・ラバルマンという言葉があるくらいですから)

胴体や楽器の一部を残して改造されたのも、時代かな?と思います。



  1. 2013/05/22(水) 10:51:52|
  2. ギター
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コメントをいただいて

CABOTINさんコメントありがとうございました。
音楽的な表現が出来るとか、出来ないというのは音楽家の領域だったかもしれませんね。
でもそこの理解が出来なければ、良い楽器は出来ないようにも思いますし。

CABOTINさんのコメントを読んでいて、あの楽器を表現するのに良い言葉を思い出しました。
あの楽器には「品」があると思うのです。モダンギターが忘れていたような。

それで、昔経験した音楽とは関係ない光景を思い出しました。

西宮の「餃子の王将」で(私は餃子倶楽部の会員になるほど、王将フアンです)窓際に
美人そうな若い女性が3人ほどいました。カップルの女性です。

私の周りには、カウンター席やテーブル席に、土方のおじさんや、運送屋さんのおじさんがいます。
着ている物も、泥がついていたり綺麗ものではありません。

そのうち、3人の女性がタバコを吸い始めました。男性は一人も吸っていません。

食事が運ばれてくると、私の周りの土方のおじさんたちは美しい箸の持ち方で、きれいに食事
しています。

きれそうな女性達は、想像のとおりです。

私も箸の持ち方は少しは綺麗ほうです。子供達にもほかの事は教えていませんが、箸の持ち方と
鉛筆の持ち方は教えました。



見た目と内面は違うということ、楽器にも人にもありますね。
(私は35年以上前は土木の技術屋さんでしたから、土方のかたとの付き合いは、長いですし
よく付き合っていました。体もごついし、顔も怖いのですが、心は優しい人が多かったです)

話が他のブログで良くあるブログのような話になりましたが、あの楽器のすごさは何なんだろうと、
考えました。良い楽器を作って儲けようとしていたら出来ない楽器ではあるようです。

今は、話にならないくらい高い値段がついている、茶道具の朝鮮やベトナムあたりで
昔作られた、茶碗などの共通することでしょうか。

それと、以前もブログで書かせていただきましたが、長いブログでいろんなことを書いているので、
読んでいただいていない方も多いと思いますので、わずか10数台しかギターを作っていないのですが、
それらについて。

西垣さんに使っていただいている、楽器はギターとして4台目くらいの楽器です。
この楽器と滋賀の19世紀ギターを弾いているプロのギタリストの方。また
西垣さんのお弟子さんには、130年くらい弾きこまれた、ベッヒシュタインのピアノの
響板を使って、作らせていただいています。

もう一台、シードマイヤーと言う、ドイツで最も歴史のあるメーカーの響板を使った楽器も
昔一緒に植木先生に習っていた、古い友人が使っています。

彼も、ギターを作っていますし、演奏も教えています。
この間、久しぶりにこのギターを見せてもらいました。
作った時より更によくなっていました。

自分の作った楽器も使っていますが(とても良い楽器です)シンプリシオの良い楽器も持っていますが、
シードマイヤーの響板を使ったギターをとても気に入ってくれたので、お譲りしました。

これらの楽器は、ただ百年以上経っている木を使ったと言うのでなく、100年以上楽器として
弾かれていたのですから、ギターの形になっても直ぐにすばらしい楽器にになってくれました。
確か西垣さんの楽器は出来て、すぐにフランスでアランフェスで使ってもらったと聞いています。

これ以外にも、ヴィオラ・ダ・ガンバですが、35年ほど前に150年前のヴァイオリンの表板
だという木を分けてもらっていて、2台使いました。

この楽器も出来て直ぐに大きな会場(県民祭というので,大きな体育館)で使ってもらいましたが、
オリジナルのガンバより、大きな音響の良くない会場の一番後ろの席で大きな音で聞こえました。

でも、ベッヒシュタインの楽器のように、弾き込まれた音ではありませんでした。

最近は、これらの名器の響板がなかなか手に入らないので、野村先生の還元熱処理による
方法とか、日に干したり、いろいろ試しています。もちろん、よい結果がでています。

新しい西垣さんのギターは野村式熱処理還元法によって加工された木を使う予定です。


100年以上弾き込まれた音はしませんが、かなりそれに近い、そして違う魅力を
持った楽器を作ろうとしています。


ヴァイリンについては、また次回に書かせていただきます。



  1. 2013/05/13(月) 01:53:37|
  2. ギター
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手に入った19世紀ギター

少し前のブログで予告していました、今回手に入ったギターです。


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まるで、パノルモさんのイメージですが、左のマヌエル・ベラスコの楽器は、やはりイギリスで
パノルモの人気が高かったので、イギリスに輸出するため、パノルモのイメージの楽器となったようです。

右の楽器はもとは、ほとんどマーチンスタイルだったのですが、19世紀ギターのイメージになっています。
ニューヨークで作られた楽器です。
どちらも、1880年頃か1870年頃の楽器です。

トーレスさんの頃の楽器です。トーレスさんの楽器は1892年までの楽器が残されていますので、
晩年の作品と比べることが出来ます。

ベラスコさんの楽器は、ボディ幅 25cm、20cm,32cm ボディ長 45cm
弦長 64cm です。響板の面積は 965mm平方
トーレスさんの 1期で最も多い 1258に比べても小さいです。この楽器と同じ頃の2期では
1329の楽器が多いので、かなり小ぶりです。

でも、私が設計してお弟子さんに作ってもらっている、61センチの弦長の楽器とほぼ同じボディの
大きさです。

この楽器はバスバーが全然無く、サウンドホールの上下に2本入っているだけです。
結果、この写真のように表板がかなり凹んでいます。


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おまけに、指板もご覧のように、ここまで逆目に削るのは難しいだろうと思うほど、思いっきり逆目です。

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材料も、仕事もこれ以上無い、と言うほど良くないものです。

でもこの楽器の音を聞いて、びっくりしました。

送っていただいたので、弦を緩めていたのですが、ピッチを上げていくと、
今まで聞いたことも無い音がしています。

19世紀ギターでもないし、モダンでもない。
そんなに沢山聞いているわけではないのですが、今まで聞いたトーレスよりはるかに良い音なのです。

音の輪郭があり、芯、核があり、立ち上がりはもちろん良いですし、低音もぼけていません。
かといって、締まりすぎてなく、ちょうど良いのです。

でも、こんなことはどうでも良くなるほど、音色が130年以上、弾きこんだ音で、響き
も雰囲気も、色気も、あるのです。

最初に弾いた時、こんな楽器を弾いてしまうと、他の楽器は弾けなくなってしまうのでは?
もちろん、私の作った楽器も。と思うほどでしたが、私の楽器は私の楽器で違う方向の
音、魅力で弾くことができました。

そして、弦楽器の良し悪しを見極める方法として、駒の近くを弾いて音が出るかどうか?
というのがあるのですが、駒の直ぐ近くだと、普通はただ硬い音になるのですが、硬い音の中に
響きも、中身もあって色気もあるので、音が柔らかいのです。
逆にサウンドホールの近くで弾くと、音が柔らかくてぼけるものですが、音に芯があるので普通に
弾く音に比べて、しっかりしているのです。どちらも、音楽に使える、硬い音、柔らかい音なのです。

もちろん、どのポジションでも音がしっかりしているし、減衰が長いので声部の弾き分けが、
とても楽です。

材料も、仕事も、後の修理もこれ以上はない、というほどひどい楽器ですが、
音は素晴らしいのです。この音は経年変化で生まれた音だと思います。

たまたま、西垣さんが次に作る楽器の打ち合わせに来られましたので、弾いてもらいました。
(あっ!!!と驚く、ギターがこの夏に出来ます、お楽しみに)

西垣さんも開口一番、「トーレスより良い。これ以上のトーレスはあまり無い」
とのことです。

ちらっと、この楽器欲しいな、と小声で言われてました。

トーレスの今聞いている音は、経年変化が作り出した音が70,パーセントくらいじゃないかと、
言ってましたが、この楽器でそれを確信しました。

でも、この楽器を弾いていると、声部の弾き分けや、音楽的な表現も出来るのですが、
そんなことはどうでも良くなる事もあるのです。

ただ、弾いていて気持ちが良い。
イタリアの有名なギタリストもそうなのでしょうか。
自己陶酔してしまうのです。

一方ニューヨークの楽器は材料も良く、ハカランダも良い材料ですし、しっかり作られています。

しっかり作られている分、音もしっかりしています。
この楽器のことはクラックのところで書かせていただきましたが、裏板の剥がれを修理するまでは
びっくりするほど減衰が長かったです。これは、材質の良いハカランダによるところが多いと思います。
裏板を接着しても、充分減衰も長く(楽器が重いことが良いほうに作用しているようです)
130年以上経った、こちらははっきりした音で、音楽的な表現がすごくしやすい楽器です。


こちらのバスバーはラコートのようにブリッジの上下に入って,さらにブリッジの下にも
入っています。表板も厚く、小さい面積なので、作られた時は、こんなに鳴っていなかっただろうと、
思います。

19世紀ギターの延長線上の楽器を作ろうとしている、私には少し19世紀ギターよりですが、
とても、好きな楽器です。

パーラーギター用に少しネックが太かったので,削ると19世紀ギターの軽さが出て来ました。

こちらは、自己陶酔する楽器とは違って、きっちり音楽が作れる楽器です。


対照的な楽器同士ですが、もう少し弾きこんで、またこの二つの楽器について、
書かせていただきます。



  1. 2013/05/12(日) 17:49:03|
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ストラッドのオリジナル楽器について

ギターのブログなので、ギターのことに関心を持って見てくださる方も多いと思うのですが、
楽器作り、また楽器のことについても、ギターに関連してくると思いますので、
またヴァイオリンのことですが、少しお付き合い下さい。

ヴァイオリンの専門家の方が見ると、そんなことを話題にしているのか、と言われそうですが、
ヴァイオリンの世界では、常識のようなことが、そうではないと言う事もありますので、
古楽器全般を作っている人間の立場で書かせていただきます。

よく話題になるのが、ストラッドさんが作った楽器で、本人が作ったままの楽器が
あるかどうか、と言うことです。

後の時代に改造された楽器では、ストラッドさん本人がどのように考えてこの楽器を
作ったのか?またどのようなコンディションで作られたのかは分かりません。



私が見聞き、と言っても本などで調べた範囲ですが、オリジナルに近い楽器は、ヴァイオリンでは
なさそうです。

千住さんが持っているデュランディは300年弾かれたことがないそうですが、千住さんが書かれた
(お母さんが書かれた本の表紙の写真では表板にかなり傷があり、良く弾かれていた楽器のように
私は見えます。)また、ネック、指板、テルピース、駒なども完全にモダンの状態ですから、
当然バスバーも大きくなっているはずです。楽器としては完全にモダン楽器に改造されています。

後、日本財団がオークションにかけて、12億以上の値段がついた、レディーブランドも
完全なモダン状態ですが、古いストラッドの作ったバスバーが残っていると言う話もあります。
楽器についているのでなく、資料として残っているようです。この楽器もモダン楽器にされています。

日本財団が持っている,1700年のドラゴネッティはネックがオリジナルと言うことですが、
少しネックの角度は付けられているように見えます。
接ぎネックをしていないようですが。

このドラゴネッティに比べると、もっとオリジナルに近いネックを持った楽器は、1715年のアラード
だと思います。


img046.jpg

では、バロックとモダンのネックの違いはどうなのでしょうか?


ヒルさんが書いた本からですが、


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上図のように、ネック自体はあまり角度を付けずに,指板で角度を付けているのが、バロックです。
ストラッドさんはこの状態で作っています。

また、バスバーも小さいのがバロックです。これもヒルさんの本から


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バスバーもかなり小さくなっています。
そしてこの図からネックを付けた釘も見えます。

次に実際に外したバスバーの寸法が分かる表です。


img053.jpg



ストラッドさんの接ぎネックによって,取り外されたネックを見てみましょう。


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実際に使った釘も見えます。

以前のブログで書いたので、読んでらっしゃる方は少ないと思いますので、
ストラッドさんのネックの継ぎ方です。

ストラッドさんはいわゆる芋継ぎという方法でネックをついでいます。
切り欠いて、ホゾを組まないやり方です。
その代わり釘を3本使っています。
私のギターも同じやり方です。



ということで、ヴァイオリンでは残念ながら、オリジナルの状態に近い楽器はなさそうです。

他にないかな?と考えたのが、私も好きなヴァイオリニストでバロックもモダンも弾く、
カルミニョーラさんです。
彼もストラッドを持っているので、ひょっとするとバロックのコンディションかと思ったのですが、
彼が使っているストラッドは、イタリアの銀行の財団からの貸与の楽器です。
彼が、バロックの状態に戻すことは出来ないと思います。
CDのジャケット写真を見ても、完全にモダンです。

最近、1台だけバロックのコンディションに戻された楽器があるという話も聞きますが、確認できていません。

ヴィオラでは、1台オリジナルな楽器が残っています。
メディチ家がストラッドさんに直接注文した、いわゆる「メディチ」です。

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メディチ家の家紋も入っていますし、下図のストラッドさんの型紙と同じデザインなので、彼が作った
オリジナルな状態で残っている数少ない(ひょっとすると唯一の?)楽器のようです。

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ストラッドと同レベルの楽器と言えば,デル・ジュスくらいでしょうが、
彼が作ったオリジナルの楽器もほとんど無いようです。

唯一の楽器と知られているのが、大阪音大の音楽博物館にあるデル・ジュスのピッコロヴァイオリンです。

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この楽器はサントリーから大阪音大に寄付された楽器のうちの1台です。
ピッコロヴァイオリンといって、4度くらい高く調弦された、バロック時代に
良く使われた小型のヴァイオリンです。
バロック以降は演奏技術が発達して、ピッコロヴァイオリンは使われなくなったので、
オリジナルの形で残ったと思います。
同じ、大阪音大にはストラッドのピッコロヴァイオリンもあるのですが、こちらは
分数楽器に改造されています。

私もこのサントリーから寄贈された楽器に関係していますので、実物も何度も見ましたし、
触っています。とても薄いニスで、軽い楽器です。
ロンドンのベーアさんもストラッド、ガルネリクラスで唯一のオリジナルニスが
残っている貴重な楽器なので、照明,空調にも気を使ってください、との
アドヴァイスがありました。

ストラッドさんもこのような状態で作ったのだと思います。

他にも外した指板なども資料としてありますが、この唯一の楽器を参考にするのが
ストラッドさんの仕事を知る上で最も良さそうです。

メディチ家の楽器はミケランジェリのダビデ像がある、アカデミア美術館にあるそうです。

ということは演奏されていないようです。

現在聞くことの出来るストラッドさんの楽器は、全てモダンに改造された楽器しかなさそうです。



本筋には関係ない話かもしれませんが、ストラッドさんの楽器について、私が知っていることを
書かせていただきました。こんなことを書いているのは、ヴァイオリン製作家の方でもいないでしょうね。


次回はギターの話です。

ヴァイオリンの製作については、今原稿をまとめているところです。
日本のヴァイオリン製作の歴史なども関係してそうなので。









  1. 2013/05/12(日) 01:10:19|
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クラックについて

音吉さんからクラックについて詳しいコメントをいただきました。

書かれていることは、全て正しいことだと思います。私もまさに、同じ考えです。
ここまで、楽器のことを分かってられる方が居られる事に、びっくりしていますし、
書いていただいたことに感謝しています。

よく、楽器を修理してもらったら(クラックや剥がれなど)以前より鳴らなくなった、
という話を聞きます。

クラックの入る原因が、モダンの楽器には多いのですが、楽器を固めて作っている場合
(ほとんどそうです)構造的に弱い箇所,表板にストレスの逃げが生じて、クラックが
入る場合があります。
この場合など、カチカチに固まっていたギターがクラックが入ることによって、
振動し始めるということを、結構沢山見ていきました。

演奏家がどうしても気なる、という場合はただ隙間を埋めるような、力は働かないような
修理をしたことがあります。

ギターの場合でしたら、表板に3箇所くらい長さは20センチくらいあっても,音には
影響しない場合が多いように思います。
ギターの場合、ラミレス3世さんも書かれているのですが、ギターのバスバーは
表板の補強にしか過ぎない。と言うことで、表板の年輪方向に音は走っているが、
横方向にはほとんど走っていないので、
クラックが入っても音にはそんなに影響が無いということでしょうか。

ただ、クラックの原因が安い楽器には多いかもしれませんが、材料の乾燥が充分でない
時には、クラックが入りますが、これはクラックが入ってから,ある程度落ち着いてから
埋めても良いと思います。

チェンバロなどは、響板は広いところだと、90センチ近くありますので、充分乾燥した
木を使っても、クラックが入ることがあります。

これは、製作するときに、使われる条件をある程度考慮して、響板を張るのですが、
想定した条件以上に乾燥したときなど、クラックが入ります。

私の貸し出しの楽器も,4箇所ほどクラックが入っていますが,音には影響がないので、
そのままにしています。
以前のブログに書かせていただきましたが、冬のホールなどでは湿度が10%台になりますので、
クラックが入りますが、夏,梅雨時分だと、80%を越えると、クラックは完全になくなります。

もし埋め木などしていると、響板が持ち上がり音も良くありません。

響板のクラックの修理では、かなり以前チェンバロ奏者の(最近は指揮者として有名ですが)
鈴木正明さんのチェンバロは10数箇所のクラックが在って、音にもかなり影響があったので、
修理しました。この場合は明らかに音は良くなりました。

チェンバロでこんな経験もあります。

大阪近郊の演奏家の楽器ですが、高台のマンションのお家なので、乾燥しているだろうと
かなり湿度を下げて、響板を張ったのですが、リビングダイニングということで、
調理の湿気が楽器に入ってきて、響板が盛り上がり、弦にあたるくらいになりました。
音も、当然悪いです。人為的にクラックを入れることはしませんでしたが、
湿度を下げてもらうことによって,解決しました。(少しその他の手は入れましたが)

チェンバロなどむしろ、クラックが入るほうが音の影響は少ないようです。

たまたま、今修理で預かっているプティジャンの楽器も長さ20センチ以上のクラックが
2本入っていますが、音は素晴らしい音で、西垣さんが買おうかと思ったとも聞かされました。

クラックの幅も狭いので,修理するとなると,クラックの幅を広げて修理しないといけません。
クラックについてはそのままにしておくことになると思います。

ギター以外の楽器、ヴァイオリン属ガンバ属では,表板だと、アーチになっていて、過重が
いつもかかっているので、クラックが進行する場合が多いので、ガンバ属では、クラック修理は
早い段階でしています。

それと、次回に書かせていただこうとしている楽器の話です。

最近の話ですが、トーレスの音が、トーレスさんの仕事や設計の音でなく、経年変化で
作られた音がほとんどだと思っているので、トーレスさんの同時代のスペインの楽器と
アメリカの楽器を手に入れました。

アメリカの楽器は1870年頃に作られた、マーチン風の楽器です。

テルピースを付けられ、改造されていたので安く買うことが出来ました。
ポピュラーの世界でも、ブランドが大事なようでマーチンと名がつくと
とても私達の手が出ない値段になっています。
1840年代までマーチンさんの番頭さんをやっていた人の作品です。

手に入っても,音が出せない状況だったのですが、指板を削り、ブリッジを改造して
音が出せるようになると、ものすごく良い音です。
私が作りたい,19世紀ギターの延長線上の楽器です。
どちらかと言うと、19世紀ギターに近いのですが,低音の響きはモダンに近いものがあります。

この楽器が,裏板が3分の1ほど剥がれていました。
剥がれた状態で弾くと、低音など永遠に続くのでないかと思うほどの減衰の長さです。
高音もバランスは決して良くはないのですが、鳴る音はウルフに近い鳴りですが、
とても、良く鳴ります。
音色は古い楽器なので、とても雰囲気のある音です。

でも裏板をはがれたままでは、使えませんので接着しました。

そうすると、びっくりするほど長かった減衰が少し短くなりました。(かなり?)
ですが高音のバランスは良くなりました。

西垣さんなどは、バランスの悪さも楽器の魅力のひとつだと言われますが、
演奏するほうの腕が無いと、バランスは良いほうが良いように思います。

そこで、クラックとは違うのですが、楽器は固めてはいけないとつくづく思いました。

特に裏板や、表板の接合はフリーに近い、私のような小さな小さなライニングでなければ
いけないと再確認しました。

音吉さんのおかげでクラックについて、書かせていただくことが出来ました。
ありがとうございました。

次回は手に入れた、2台のギターの話をさせていただきます。




  1. 2013/05/11(土) 10:54:09|
  2. ギター
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コメントをいただいて

コメントをいただいて、自分の出したい音は自分にしかない、というようなことを書かれていましたが、
演奏もそうだと思いますし、楽器製作もそうだと思います。というか、まさに楽器製作では
自分の出したい音、作りたい音は自分にしか出来ないから、楽器を作るのだと思います。

ですから、自分の作りたい音は、自分のメソッドで作りたい、自分の方法でなければ作れないと
思っていましたので、私は人に習わないようにしてきました。

でも、現実はそうではないようで、トーレスさん,ブーシェさん、ハウザーさんの音を再現したくて
また、そのほうが需要があるからと、何々モデルという形で作っている人も多いようです。

ヴァイオリンもそうですが、ストラッドさんの作った楽器にはかなわないから、ストラッドさんが作った
楽器に少しでも近づきたいと努力している人も多いようです。

ピアノは売れているからという理由で、スタンウエイモデルとか、ベーゼンドルファーモデル作っている
メーカーはありません。
ただ、構造的にベーゼンに近い構造にしたり、設計を真似ているメーカーはありますが。

かなり昔、20年ほど前でしょうか、当時日本で3番目のピアノメーカーから、「スタンウエイをコピーした
ピアノを作ったから見て欲しいと連絡がありました」一応見に行きました。
確かに、一音一音はスタンウエイに近い音がしています。
でも、音の方向がばらばらなのです。和音を弾くと和音にならない。

構造、部材の厚み、大きさ等ををまねしただけなので、楽器としてまとまっていないのです。
音のイメージがないギターのようでした。

もちろん、ギターを作っている人は、自分の音、自分が作りたい楽器を作っていると思うので、
トーレスモデルやブーシェモデルでも、音は自分の音にトーレスの音、ブーシェさんの音を足して
イメージ作りをしていると思うのですが。



次に、演奏家がもっと楽器のことを知るべきだとの主旨のコメントをいただきました。

まさにそのとおりだと思いますし、楽器のことが良く分かっている演奏家の演奏のほうが
私は好きです。

単純に楽器を鳴らすことだけを考えても、楽器のことを知っているほうが有利ですし、
演奏会場で何処まで音が届くとか、ピアニッシモでも客席の一番後ろまで音が届くには
どうすれば良いとか、分かると思います。

オルガンなどは演奏している場所で聞く音、音楽と聴衆が聞く場所ではぜんぜん違う音がします。
客席ではどう聞こえているか、考えて、計算して演奏している演奏家が多いようです。

ピアノなども、鍵盤から先はブラックボックスと考えている、演奏家が結構いますが、
構造が分かって、どんなタッチで弾けば、どのようなアクションが動いて、ハンマーが
弦を叩くか、分かっている演奏家は客席で聞いていても、よく分かる演奏をしてくれるようです。

ギターは直接弦をはじくので、アクションなどは経由しなくて音が出せますが、どう弾けば
楽器が振動してくれて、音になるのか分かっていただいている、演奏家のほうがありがたいです。

単純な考えですが、弦に与えるエネルギーは、力、強さは比例するだけですが、スピードは
二乗に比例します。スピードを上げるには、野球の投手のように、力を抜いてしなやかな
体のばねを利用するほうが、スピードが上がるように思います。指のばね、スナップを利かせるほうが
力を入れるよりは、有利だと思います。

アマチュアのギタリストの方を見ていると、力を入れすぎている人が多いように思います。
中には、私の10倍くらいの力で、押さえて弾いている人もいます。
こんな方は、良い先生に習うと良いのになあ  と良く思います。

ギターでも、力を入れすぎて指や体を痛めたり、壊す方もいますが、左手も力を抜くほうが
音も延びますし、音楽は作りやすいと思っています。


ということで、製作家が演奏のことまで立ち入りましたが、演奏家の方が、楽器のことを
知って欲しいと思っているように、楽器製作の方には、演奏家以上に音楽のことを知って欲しいと
思っています。と言えば、言いすぎですが、音楽が分からないと楽器は作れないと思っています。

その第一歩は自分が作っている楽器を演奏出来ることだと思います。
もちろん、演奏家のように弾けるわけではありませんが、音楽が理解できるように弾いて欲しいと
思っています。

演奏がそんなに上手にならなくても、良い演奏を聴く事は出来ます。
それこそ、演奏家は練習しないといけませんから、聞く時間は限られていると思います。

でも製作家は聞く時間は、製作中に聞くとすれば、演奏家以上に聞く時間は取れそうです。

そして、自分が作っている楽器の音楽だけでなく、色んな良い音楽を聴いて欲しいと思っています。

ギターを演奏している人も、ギター以外の音楽を聴いている人と、聞いていない人では音楽が違うように
感じます。

特に、20世紀の巨匠達の演奏はCDくらいでしか聞けませんが、良い再生装置で
(高い装置という意味ではありません)聞いていただくと、いろんなことが分かってきます。

相変わらず、話がまとまっていませんが、コメントをいただいて感じたことを書かせていただきました。


いつも、コメントをいただいてありがとうございます。


  1. 2013/05/01(水) 00:17:39|
  2. ギター
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kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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