古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

9月21日の「楽器用材研究会」



21日から日が経ってしまいましたが、相変わらず 急ぐ仕事がまた増えてしまいました。

スピネットの仕上げと、別のスピネットの調整、
また別のスピネットの大幅な修理、調整、その他です。
(全弦の張替えや、ヴォイシングなど。)

 


ということで、今回、野村式還元法で処理された材料の楽器は、エレキベース、ヴァイオリン、
マリアハープ(小型のハープでプサルテリーに近い楽器です)とオルゴールと私のギターでした。

(せっかく、野村先生のところに集まるのですから、野村先生に処理していただいた材料の楽器と
そうでない楽器を用意しないといけないと、睡眠時間を削ってギターを1台作ったのですが。)

最初に聞かせていただいた、エレキベースは、マッシブな構造のため、今までに3台作られたの
ですが、燻煙処理をそれぞれ、1回、2回、3回された材料で作られていました。
私が聞くと、やはり3回処理した材料の楽器が音の分離、密度があったように思います。
もし、処理されていない材料の楽器があった場合でも、大きな差があったように思います。

同じようなことが、オルゴール、マリアハープでも思いました。
(でも、私と違う感想の方もいらっしゃいます)

ギターは、今回の研究会に間に合うように、約10日で作りましたが、前日、塗装して
弦を張ったばかりの楽器、と約2ヶ月経った楽器の比較でしたが、予想通りの結果でした。
もちろん、出来たばかりの楽器がとても良いのです。

7月末に、同じ条件で作ったギターを、野村先生にも、聞いていただきましたが、
出来たばかりの楽器でも、その音の密度、音の輪郭、そして倍音の多さなど、条件が悪くても、
はっきりしていました。
楽器のことですから、音楽が表現できないといけないのですが、私がもっとも大切にしている、
旋律楽器としてのギター、そして和声楽器としてのギターどちらも、
処理していただいた材料で作ると、理想の楽器に近づくように感じました。
と言うか、処理してもらっていない材料で、楽器を作ろうとは思わなくなってきています。


今回の楽器は、あえて、表板だけ(バスバーなどは処理していただいた材料を使っていますが)
処理していただいた材料を使いました。

それも、ギター用の材料でなく、チェンバロ用の表板から、流用しました。
ギター用の材料だと、あまりにも元の材料が良いので、ギター用ほど良くない材料でしたが、
とても良い結果が出たと思います。

スピネットも、6月以降3台作りました。
1台は、30年ほど寝かしただけの表板、1台はさらに3年ほど、日に干していたもの。

そして、表板だけですが、野村先生に処理していただいたものを使った楽器を1台。

表板以外は全て同じ材料で、同じように作りましたが、結果は驚くほど違いました。
処理していただいた材料の楽器を、100点とすると、日に干した楽器は70点くらい、

寝かしただけの楽器は、50点くらいですの感覚です。


私は、楽器に対する表板の重要性は、90%くらいを占めると考えています。
こう書くと、誤解されるかもしれませんが、表板以外は重要でないということでなく、
構造はとても大事です。(板の厚みや、削り方、アンダーバーの入れ方、形など)
材料の質やその材料を何年寝かしているか?と言うことが大切なことでない
と考えているのです。

7月末に作った、全て処理していただいた楽器と比べても、ほんの少しの差を感じるか感じない
程度でした。

ヴァイオリンについては、意見が分かれたようですが、私はやはり処理していただいた楽器
が圧倒的に良いと思いました。古いオリジナルの楽器が良いのは、もちろんですが、
出来たばかりの楽器ということを考えると、野村式熱化学還元法で処理された材料の楽器が
私の考える良いヴァイオリンに近く感じました。
それは、ギターのところでも書かせていただきましたが、音に輪郭があり、密度もあるということ、
そして、各音の分離が良いことなのです。

でも、モダンヴァイオリン、モダンヴァイオリンだけでなくモダンチェロもそうなのですが、
最近の流行というか、傾向が 音の厚みがあって、悪く言えばあつかましい、中身の無い
音が流行っていて、その傾向と反対の音が 野村先生に処理していただいた材料では、
出るのではないかと思っているのです。モダン楽器の目指している音と違う音がでる材料で
作っている、違和感と言うのを、感じました。

ですから、ヴァイオリンもモダンヴァイオリンでなく、ガット弦を使ったバロックヴァイオリンでは
野村先生に処理していただいた材料を使うと、誰の耳にもすばらしい楽器だと
いうことになると思っています。

ガット弦を張った、ヴィオラ・ダ・ガンバ だと 大きな差があると思います。
もちろん、圧倒的に良い楽器が、処理していただいた材料で作ると出来ると思います。

最近気づいたことがあります。それはモダンヴァイオリン、モダンチェロの分厚い、あつかましい
音の原因が弦にあるのではないかと言うことです。
弦についてはまた、詳しく書かせていただきます。

野村先生に処理していただいた材料で作った楽器は、依頼者に渡す前に、全て見てもらっていますが、
ギターでも、スピネットでも、大きな差があったので、野村先生は「そりゃ、処理した材料の楽器を
選ぶだろう」とおっしゃっていました。また、そのとおりでした。

でも、今回の研究会に参加された製作家の方の、ブログを拝見すると私ほどは、野村先生に処理して
いただいた材料で作った楽器とそうでない楽器との差を感じられていないようです。
作りたい楽器の音の傾向や方向が少し違うのでしょうか?


出来れば、年内にフルサイズの5弦のチェロを、処理していただいた材料で作りたいと考えています。
(モダンオケのチェロ奏者の方なのですが、私が作る楽器なので、
ガット弦を張ってもらおうと考えています)


明日は、チェンバロを富山に持って行きます。
明後日は、金沢でチェンバロの調整なので、なんとか今日このブログを更新しています。

いつも、なにやら、よく分からない、難しいことを書いているブログを読んでいただいて
ありがたいと思っています。

まだ当分、続きますので、よろしくお願いいたします。






  1. 2012/09/29(土) 01:34:25|
  2. ギター
  3. | コメント:2

新しいギターを作っています

前回のブログ更新からかなり時間が経ってしまいました。

また忙しくしているのだろうと、思っていただいているようですが、
また、10日ほどでギターを1台作ることになって、忙しくしています。

このブログでは、おなじみの 野村隆哉 先生の 熱化学還元法で加工していただいた、
材料で作った楽器を持ち寄り、楽器材料の研究会を9月21日に行うことになりました。

野村先生に加工していただいた材料で作った楽器はすでに、演奏家の元に行っていますので、
急きょ、楽器を作らないといけなくなりました。

7月末に、2台作ったギターのうち、処理していただいていないほうの、材料で作ったギターが手元に
ありますので、比較するために、加工していただいた材料で作っています。

前回の、処理していただいた材料の楽器は、裏板、横板、ネック材 すべて処理していただいた
材料で作りました。

今回は比較の意味もあって、表板だけ処理していただいた材料で作っています。
表板が、楽器つくりで、とても重要なファクターだと考えていますので、
今回は表板だけ、変えて作っています。

その表板も、熱処理していただいたギター用の材料は、40年ほど前の 佐藤一夫さんから分けてもらった
この材料で作れば、誰が作っても、素晴らしい楽器になる! という、最高の板なので、
今回は、チェンバロ用の材料で、幅が取れるものを使いました。

ギター用の材料に比べると、品質的に劣るのですが、熱処理すると、この程度の材料でも
良い楽器になると言うこと、確認したかったのです。
もちろん、私の材料ですから、30年ほど前にドイツのグライスナーさんから分けてもらった、
ドイツ松の良い材料です。

ということで、今回は7月末に作ったギターとほとんど同じに作っていますが、
糸巻きがペグでなく、機械式のものにしています。

それと、フレッチングは平均律です。


今回、前回と大きく違った点があります。

それは、裏板のアンダーバーの数です。

一般的な 裏板のアンダーバーは下図のようです。


img729.jpg


3本入っているのが普通といいますか、3本以外のアンダーバーの楽器は見たことがありません。

補強用に 一番幅の広いところに2本持ってきて、あと一本は その中間です。

でも、この図面で斜線を入れている部分は、横板の補強があるので、比較的丈夫です。

それに比べて、斜線の入っていない部分は、構造的に弱い部分です。

そこで今回の アンダーバーの配置です。

img730.jpg

写真です。


UNI_0034.jpg


前回の楽器でも、少し考えた部分ですが、今回はさらに考えました。

丈夫な上下部分より、ピッチが細かく入っています。

この程度のピッチだと、裏板がほぼ同じ程度の強度になると考えたのです。

これは、今回の裏板が1.7ミリ程度と 前回の2ミリから2.5ミリに比べて
とても薄いことも、影響します。
裏板を鳴らそうとすると、横板が私の楽器は1.2ミリから1.3ミリなので、
1.7ミリ程度がバランスも取れて、裏板も鳴ってくれる、厚みだと考えたからです。

裏板を良く鳴るような厚みにして、(薄くして)強度不足はアンダーバーで補強することによって、
楽器も軽くなり裏板も鳴ることによって、楽器全体が鳴ってくれると考えました。

裏板など鳴らす必要が無いと考えている製作家の方には、関係ない話かも知れ知れませんが。

最近は、特に楽器全体を鳴らすというより、表板だけを鳴らす方向の楽器が増えていますし。







  1. 2012/09/19(水) 17:09:58|
  2. ギター
  3. | コメント:0

構造、設計   ⑪ パフリング、バインディング

長い間、ブログの更新が出来ていませんでした。

新しい記事が出ているかと、見てくださっている方には
申し訳ありませんでした。
例年、8月は忙しいのですが、今年は特に仕事と雑用で忙しくしていました。

6月以降、新しい楽器が出来たりして、このブログの本来の記事が
少なくなっていましたので、6月5日の 構造、設計 ⑩ に続いての記事です。


 パフリング、バインディングはモダンスペインギターらしさが強調される部材です。
ヴァイオリン属、ガンバ属ではシンプルなパフリングが、
特に表板の割れ防止の役目も兼ねながら、装飾として付けられています。

モダンスペインギターではこの、パフリングとバインディングが表板と、
裏板両方に付いています分かりにくい部材なので、下図のようなものを用意しました。


              img727.jpg

          出展はいつもの Master Making Guitars です。

このパフリングとバインディングは必要なものなのでしょうか?

表板側のパフリングは柔らかい、松の表板の縁を保護する役目はあると思います。
また、装飾的にも、あってもよいかな?と思います。
でも、硬い材料を使っている裏板には必要が無いと考えています。私は。

私の好きな、19世紀ギターのパノルモにも裏板にパフリング、バインディングが
付いていない楽器が沢山あります。私には、このパフリング、バインディングが付いていない、
パノルモのギターは楽器らしくて、美しいと感じます。これは好みの問題だとは思いますが。


私のギターのパフリングは下図のようなものです。


     img726.jpg

これは、リュートでよく使っている方法です。

リュートでは他の方法もあります。
それは、幅8ミリほどの羊皮紙で表板と横板を接着しながら、装飾としている方法です。
これは、ルネサンス時代は散髪に行くように表板を替えていたという話があるくらい、
よく表板を替えていたようです。その際、表板を膠で接着せず、
この羊皮紙だけで留めていると、羊皮紙を外せば表板の交換が出来るのです。

ルネサンスリュートは表板が薄かったと言うこともあるのでしょうが、
羊皮紙だけで充分接着は出来ていたようです。
また、このほうが表板の端を固めなくて音の面でも良かったのでしょう。

同じリュートでも、バロックリュートは表板も厚く、弦の数も多いので、
膠で接着はしていたようです。

また、バロック時代にはルネサンスの頃に作られたリュートが経年変化で
音が良くなっていることが分かったのでしょう、表板を取り替えるどころか、
かなり無理をしてチェンバロのラバルマンのように
(フレミッシュの楽器を音域を広げて、フレンチの楽器に改造することが良くありました。
この事を、ラバルマンと呼んでいます)
ルネサンスの楽器をバロックの楽器に改造することもありました。

でも、モダンギターにはこのパフリングが必要な時があります。
それは、ライニングとの関係で出てくるのです。
まず一般的なライニングを製作過程で示してみます。

  img723.jpg


ギター作る製作家の考えによりますが、表板の端を少しでもフリーな状態に近づけたいと考えると、
下図のように(このあとは上図の③ ④ に続きます)完全に表板も切り欠いて、
ライニングだけで表板を受け止めると、
少しは表板の端がフリーな状態に近づきます。

でも、パフリング材がきっちりと付けられますので、フリーな状態は少しだけ犠牲になります。
また、バインディング材でパフリングを固めています。
楽器製作の考えで、表板の端をフリーな状態にする必要を感じていない製作家は、
下図の様に表板を完全に切り欠かなくて、パフリング、バインディングでさらに固めることになります。
パフリングの大きさも問題ですが。

        img724.jpg


そして、このパフリング、バインディングは楽器の修理の際には、とても邪魔なものです。
私の構造のような楽器でも、(ガンバも同じようなものです)
修理で表板を外す時は、結構大変です。
それが、モダンスペインギターのように、パフリング、バインディングが付いていると、
一旦バインディングを削り取ったり、熱等を加えて外してから、楽器によっては、パフリングも外して、表板を外さないといけません。
さらに、大きなライニングで広い面積が接着されていますから外すのは大変です。
ですから、モダンスペインギターでは、裏板を外して修理することが多いようです。
この裏板にも、何も必要の無いパフリング、バインディングが付いていると、外すのが大変です。
裏板にパフリング、バインディングが付いていないと、少しは裏板を外すのが楽になります、
と言うことは、楽器に与えるダメージが小さいと言うことにも繋がります。
そして、100年200年使えるギターにも繋がる要素だと思います。

ここで、また、ギターから離れて、ヴァイオリンの話になります。

ヴァイオリンはパフリングと言っても、溝が掘られたところに、
黒白のパフリングが埋められているだけなので、表板、裏板をはずのは比較的簡単です。
そして、表板、裏板とも横板からはみ出ているので、一度表板を外して、もう一度付け直しても、
少しくらいずれても、気になりません。

ギターとかガンバは、表板、裏板を外すと、どうしても、横板が変形します。そして修理が終わり、
表板なり、裏板を接着するとどうしても、横板と裏板、表板とがずれてしまうのです。
これが、ヴァイオリンだとそんなに苦労しなくてもよいのです。

修理の事も考えられて、ヴァイオリンは作られているのだと思います。

こんなことを考えても、モダンスペインギターのようなパフリング、バインディングは必要でしょうか?
私のようなやり方だと、横から見ると表板の厚みが(エッジの部分ですが)分かってしまいます。
なるべく、表板の厚みなど分からないように
したい製作家には都合の悪い方法かもしれません。

次にバインディングと言うことで、モダンスペインギターには良く使われている、
裏板のセンターバインディングです。

これは、一般的に行われている方法では、ただ装飾のためだけであって、楽器的には、構造、音響の面では何も役にはたっていないと思います。下図の ① の方法です。

     img725.jpg

むしろ、裏板の接着回数、接着面積が増えるだけで、構造的には不利になります。
どうしても、装飾として付けてほしいと言うことでしたら、上図の ② のような方法があります。

これだと、裏板の接着の補強にもなりますし、構造的にも余分なものを付けなくても、
強度も確保されます。(楽器内側からの補強材も必要が無くなります)

これなども、一般的に行われている、方法を考え直してみると、思いつくことです。

でも、私はこの方法でも、センターバインディングは付けたくありません。
  1. 2012/09/07(金) 13:06:28|
  2. ギター
  3. | コメント:0

プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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