古楽器製作家の思うこと いろいろ

昔の楽器製作家がそうであったように、様々な楽器を製作しています。そうすると、いろんな楽器の事が良く分かってきます。特にモダンギターについて考えていることを書かせていただこうと、思っています。

構造、設計 ⑨ ブリッジの形状

ブリッジもトーレスさんが決定してから、ほとんど同じ形のものが使われています。

ギルバートさんが少し構造の違ったものを考えられた程度だと思います。
(ギルバートさんもブリッジに伝わった振動をより大きな面積に広げようと、
あの形になったのだと思います。特別変わった形には私には思えません)

一般的なブリッジの形です。

   img668.jpg

    トーレスさんのブリッジです。

  次はブーシェさんのブリッジです。

   img669.jpg
  いずれも Making Master Guitars より

同じような形です。
そしてこの形だと、弦が張られている厚み8ミリの部分(トーレスさんだと82ミリの部分)
が弦のテンションによって持ち上がりますが、外側4ミリの厚みの部分はそれを、
防ぐほどの強度は無いので、弦が張られている82ミリの部分だけ持ち上がっている
と言う楽器を良く見かけます。そこで、

         img662.jpg


のような私が作っているブリッジの形にすると、
ブリッジの大きな面で弦のテンションを受けますので、
表面版の変形も少なく、弦の振動をより多く表面版に伝えることが出来ます。

この形は19世紀ギターや20世紀初頭に良く使われた、
パーラーギターでも見ることが出来ます。
19世紀ギターやパーラーギターの伝統を受け継いでいる、
フォークギターではよくある形ですね。


そして、もうひとつ私が気をつけていることがあります。それは、弦が留められている、
穴があけられている部分の外側の大きさです。(私の楽器の図面で14ミリとなっている部分です)

特に、低音側はこの部分が大きいほど、音がしっかりします。私はそうしています。

1弦と6弦以外は両方の弦に挟まれて、弦を受け止めている面積が広いのですが、
端の1弦、6弦はその受け止められている面積が狭いのです。

これは、チェンバロなどで一番端の弦がどうしても鳴りにくく、
少しブリッジを広く作れば(長く)作れば解消することがあったことからヒントを得ています。

難しい事を考えなくても、一番低音の弦が端の小さい面積で受け止められていると
しっかりした低音は出ないと感覚的にも分かると思います。

「Master Making Guitars」の図面から調べさせていただくと、
同じようなことをロマニロスさんは考えてられるようで、私と同じくらい、
この部分を広く取ってられます。
(偉大な製作家のロマニロスさんと同じことを考えているとは、おこがましい。
ロマニさんのまねをしたのではないかと、どこかから声が聞こえてきそうですが、
最近この本を見ていて気が付いたことですので。
そして、それはトーレスさんがやっていたことで、
ロマニさんはトーレスさんからヒントを得たのだと思います。
トーレスさんも広いのです)

私は2台目の楽器で低音側だけ広げ、3台目以降は1弦側も広げています。
(1台目の楽器は19世紀ギターでブリッジの形がモダンとは違っていますので、
1台目から広げていた、いうことですか) 

そして、このブリッジを上から見ると、

       img663.jpg


のように、Aの部分は一般的なスペインギターでは直線がほとんどですが、
私は図のように、曲線にしています。これは、デザイン的に、丸い本体と合うことも、
採用している理由のひとつですが、この A の部分が直線だと、
この部分でせん断が起こることと、音の伝わりを考えると、
曲線のほうが有利だと考えています。


この、デザインはモダンギターでも、初期の頃は採用している製作家もいましたが、
一般的なデザインが演奏する人に受け入れられると言うことで、この部分が
直線のブリッジが多くなったのでしょうか。

ここで横道にそれますが、ブリッジの部分なので、少し書かせていただきます。
それは、ピンブリッジのことです。

有名なギター製作家が採用しているので、(知っている人は知っているので、
名前を出してもいいのですが有名な製作家ということにしておきます)これについて、
私がどうのこうのと言うのも、おかしいかもしれませんが、私は採用したくない構造です。

それは、ブリッジの骨棒に、弦の移動、ずれが無いように、少しだけ、
溝をつけると楽器が鳴らないからです。

知り合いのギタリストが、ハウザーの楽器を持っているのですが、楽器の調整を出した後、
どうも楽器の鳴りが悪いと相談されました。
見てみると、骨棒に少し溝を切っていました。ほんの少しだけです。
でも、この溝によって、弦が固定され、自由な振動を阻害していたようです。
所有者のギタリストに断りはありませんでしたが、調整した人は、
溝を切ったほうが良いと判断して、溝を切ったのでしょう。

少し骨棒をずらして、溝の無いところに弦を持ってくると、がぜん楽器が鳴ってきました。
やはり溝はギターの場合、無いほうが良いようです。

ピンブリッジだと、溝を付けないと弦が滑って落ちてしまいますので、
その結果、鳴らない楽器になってしまうのだと思います。
私が見た、この有名な製作家の作ったギターは、低音弦が鳴っていませんでした。
特に、6弦は全然鳴っていないのです。
ブリッジを普通の骨棒で受けるだけで鳴ってくるのでは、と思ったことがあります。

ヴァイオリン属や、ガンバ属では駒に弦を留めるための、溝が切られています。
でも、この溝は、深さや幅など、とても微妙な調整が必要です。
ガンバの場合は、1弦は弦の半分以下の深さでないと、弦の振動は楽器に伝わらず、
弦の振動が駒の溝によって邪魔されます。
逆に6弦などは弦の直径の3分の2以上の深さでないと、低音の基音がしっかり出ません。
もし溝を付けたいのなら、いろいろ試してからだと、良い結果が出るかもしれませんが。

そして、駒で私は最も大きい問題と考えている、骨棒にかかる圧力、骨棒での弦の角度です。

         img664.jpg

相変わらず、汚い図面ですみません。
一般的な駒での、弦の角度はこのくらいだと思います。<角度 A >

         img665.jpg
 
 私が作っている駒です。弦を留めている部分が、骨棒側に傾斜して、低くなっています。
そして、弦を通す穴を低くしています。<角度 B >

そうすると、弦をブリッジに巻きつけるとき、弦を持ち上げる量が少なくなるのです。
その結果、骨棒での角度が少しきつくなります。骨棒にかかる圧力が増えるのです。

 次にスーパーチップとか言われている、小さな象牙などで作ったもので、端を固定する方法です。
        img666.jpg

 この方法だとさらに、角度がきつくなり、骨棒への圧力はもっと増えます。
ということはブリッジにより大きな圧力が伝わり、当然音も大きくなります。
これはスーパーチップで音がよく鳴るようになったというより、骨棒への圧力が増えたことによって、
音が大きくなったと考えるほうが普通だと思います。ですから、ハープのように、弦の端を結んで
玉を作って、ブリッジに留めてもそう変わらない音になると思います。

ヴァイオリンやヴィオラ・ダ・ガンバ、のように大きな駒で、弦を受けている楽器は、
駒の高さ、そして駒の部分での弦の角度がとても重要です。(材質、厚み、形状も大切ですが)

当然駒を高くすれば、大きな音で鳴ります。表板が厚くて、楽器全体が重い楽器だと、
駒を高くすれば、さらに鳴って来て、その楽器本来の響きが出ます。
でも軽い楽器では、音がきつくなり、音楽的な表現が難しくなります。
駒を高くすると、立ち上がりは良くなり、音も大きくなりますが、減衰が短くなります。
逆に低いと、音は小さくなりますが、減衰が長くなり、音楽的な表現が付けやすくなります。
細かな、操作がし易いのです。

私もガンバを作り始めた頃は、駒は高めでした、でも、段々と低い駒でも鳴るような楽器が
作れるようになると、低い駒になって行きました。

ギターの場合でも、同じような事が言えます。
ギターは作ってはいませんでしたが、沢山のギターを調整してきて、その楽器に合った、骨棒での
弦の角度が分かってきました。

このことからも、軽くて反応の良い、基音がしっかりした楽器だと、そんなに駒を高くしなくても、
楽器が鳴るので、いろんな表現が出来るし、減衰も長くなる、ということが分かってきます。
ということで、私の楽器は軽いのです。

軽い楽器は音も軽くなりそうですが、基音をしっかり出す
、しっかり作ることで、音は逆に重く、密度の高い音が作れます。
これは、モダンスペインギターとは、目指している物、目指している音楽が違いますが、
私が作りたいギターなのです。

駒 ひとつをとっても、名器と呼ばれる楽器のコピーで始めると、考える事、
考えないといけない事が、出来ないようになってしまうような、気がするのですが
どうでしょうか?






  1. 2012/05/31(木) 02:14:13|
  2. ギター
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新しいギター ⑥ これで新しいギターの終わりです

4月に作らせていただいた、ギターについて、いろいろと書き忘れたことが
ありましたので、ここでまとめて書かせていただいて、一応これで最後にしようと
思います。

今回のギターで、ギター的には一般的でない、でも他の楽器、例えばヴィオリンとか、
ヴィオラ・ダ・ガンバでは一般的なところがあります。
それは、ネックの成型方法です。

モダンスペインギターでは一般的に下図の下のようにヘッド部分やかかと部分を接着して
作っています。 Laminated Neck と呼んでいます。( Master Making Guitars 167pより)
ヴァイオリンやガンバでは、下図の上の One-Piece Neck がほとんどです。

        img658.jpg

もちろん、今回のギターはOne-Piece Neck です。

これなども、それぞれの楽器の常識があって、その常識にそって作られているのでしょうが、
私には、One-Piece Neck のほうが、100年、200年使う楽器としては、良いように思います。
ヴァイオリン属では、一番安い、中国製の1万円もしないような楽器でも、One-Piece Neck
になっています。

ネックの成型には、もうひとつの方法があります。
19世紀ギターや、バロックギターでは一般的な、V ジョイントネックがあります。
モダンギターでも、ハウザーさんやロマニロスさんたちが使っています。

       img659.jpg (Master Making Guitars 184p より)


この方式でも、100年200年と経つと、外れることがあります。
何度か修理をしたことがありますが、修理は簡単に出来ます。


次にかかとのデザインです。

これはギター奏者の西垣さんから、要望があって、ヴァイオリンや
一部のトーレスさんの楽器に見られるように、丸くなっています。
演奏者のアドヴァイスで、アランフェスなどの曲を弾くと、ハイポジションへの
急速な移動では、このとんがっているかかと部分が、手に刺さるということで、
丸くしています。
とんがっているのは、モダンスペインギターに多いので、私の考えている
モダンギターでは、デザイン的にこの方が合います。
トーレスさんの真似をしているのではありません。

        img660.jpg

次に、このかかと部分のヒールキャップと呼ばれている、箇所の作り方です。
下図の Aのように、裏板と一体の木で私は作っています。ギターでは、Bのように
後から、このキャップだけを付けている場合が多いようです。

       img661.jpg

Bの場合だと、ネックの接着の際、木口が接着剤を吸うため、接着不良が起こったとき、
完全にネックが外れて、大きな事故になることがあります。
Aだと、接着が外れても、ヒールの部分だけの接着で、ネックが外れず、大きな故障に
ならなかったことがよくありました。

次に塗装ですが、もちろんセラックニスだけです。
ローズウッドは、導管といって、表面に凹んだ所がありますが、これを完全に
埋める塗装をすると、私の軽い楽器では、音に影響がありますので、半分程度
埋めたくらいの、塗装です。

表板は、湿度の影響を受けない程度に薄く塗装してあります。


最後に弦のことです。

ちょうど都合よく、ムジカ アンティカ湘南さんが、ギター用のガット弦を
開発してくださいました。
それまで、サバレス社とかいくつかの弦があったのですが、価格とか寿命で問題があって
今まで、あまり使っていませんでした。

今回は試作という形で、モニターさせていただいたのですが、1.2.3弦は
ナチュラルガット、そして4.5.6弦は シルク芯の銀巻線です。

替えた時に張っていた弦は、アキュラ社のナイルガットの弦で、比重、ヤング係数など
ガットに近い弦でした。

でも張り替えると、ガット弦は物凄く良いのです。
別次元の音です。

低音弦はとても重く、ガット弦は立ち上がりも素晴らしく良く、音の密度もあります。
6弦からまず替えたのですが、思わず出た言葉が「重い」という言葉でした。

とても、重心の低い、本来の低音の音がしました。

問題は、弦の寿命ですが、私の楽器はフレットが樹脂なので、ガット弦の寿命は長いはずです。
あと、ハープ用の弦でコーティングがしっかりした物もありますので、日本でも寿命を気にしなくても
使えそうです。

欠点は、もうナイロン弦に戻れないということでしょうか?


今回のギターについての報告はこのあたりで終わらせていただきます。
まだ、いろいろあると思いますが、一旦これで終わります。

次回からは、もとのブログに戻って、
ギターの構造製作について書かせていただきますので、
よろしくお願いします。




  
  1. 2012/05/27(日) 12:42:34|
  2. ギター
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野村隆哉先生と燻煙熱処理


しばらく、ブログの更新が出来ていませんでした。
相変わらず、忙しくしていて、雑用が山のようにありました。

(私は楽器を作ることが仕事と思っていて、それ以外の楽器の修理とか
演奏会の裏方などは、雑用と思っています。
でも、雑用だからと言って、手は抜いていません。修理も私しか出来ない修理とか、
私がすれば、他の人よりよりその楽器には良い修理が出来ると考えています。
修理で預かった楽器は、預かる前より何倍も良い楽器にして返すことを心掛けて今まで
やってきました。ある大学の、ガンバの修理は大変でしたが、修理前よりはるかに良い楽器に
なったので、壊した学生が「こんなに良い楽器になったのだから、壊して良かったでしょ」
と皆に言っているほどでした。でも、こんな事をしているから、雑用が増えるのでしょうね。
でも、何かの縁で私の所に来たのだから、少しでも良い状態にして返してあげたいのです。)

また、さっそく、横道にそれてすみません。


今回は、ここの所しばらく続いている、新しいギターのことについてではなく、
ギターだけではなく、楽器製作において、革命的なことになりそうな、楽器材料の
処理についてとそのシステムを開発された野村先生のことです。

よい楽器を製作するためには、

① 良い材料 
② 良い設計
③ 良い製作技術
④ 良い感性
⑤ 良く音楽を知る事
⑥ 良く楽器を演奏できること
⑦ 良い演奏家と知り合う事
⑧ 良い演奏家に弾いてもらう事

などが考えられます。

良い楽器を作ろうと思えば、まず最初に良い材料を手に入れようと思います。
これが、一番大変なことかもしれません。
でも、野村先生の燻煙熱処理を使えば、そんなに良い材料でなくても、良い楽器が
作ることが可能なのです。
燻煙熱処理については、野村先生のHP http://homepage2.nifty.com/nsdswood/            

である程度のとこは理解していただけると思います。

野村先生からお聞きした事や、HP、また発表された文章などを読ませていただいて、
私なりの理解した事を書かせていただきますので、思い違いなどあるかもしれませんが、
燻煙熱処理はこのようなものかと思っています。

まず、この燻煙熱処理技術を開発されたのは、地球規模での森林伐採など、資源の枯渇化
によって、今まで、使われる事の無かった、成長の早いオイルパームなどの木を建築材その他に
使えるようにするためだと聞いています。ご存知のように、建材屋さん、ホームセンターにいくらでも
あった、ラワン合板なども、原材料のラワン材が無くなって来ています。
今まで、強度もなくて使われていなかったような、ファルカタ(桐に似た柔らかい南洋材です)
ですら、現地ではなくなりつつあるそうです。

オイルパームは油椰子ともいわれ、パームオイルをとるために、マレーシア、インドネシアなどの
東南アジアでプランテーションで大規模に栽培されています。そして、パームオイルを取るのは
果肉からで、木本体はスポンジのような、柔らかい木なので、廃棄されているそうです。

この、オイルパームの木を建築用材に使えないか?ということで、
野村先生の私費を投じて研究されたそうです。

その結果を見せていただきましたが、当然 燻煙熱処理されたあとでは、非常に安定した、
木肌も美しい、独特の模様があるしっかりした木でした。
そのまま内装材に使っても面白い木目です。

野村先生は東南アジアだけでなく、アマゾンでも今までは、使われる事のなかった木を
使えることによって、建築用材として森林伐採が進まないような活動もされています。

世界の森林だけでなく、もっと大きな視点からも、世界を見ていらして、「共鳴磁場の創設に向けて」
という本を1995年に書かれています。
古くからの友人で、ギター製作家の田中清人さんの HP 
http://kiyond.blogspot.jp/2012/02/blog-post_17.html でも、内容はご覧になれます。
田中さんも一緒に野村先生の所に行きましたので。

この、柔らかくて強度の無いオイルパームを使える木材とするために、燻煙熱処理を研究されたとのことです。

最初に簡単に分かりやすく原理を説明されたのですが、科学的な知識が無いため、
ほとんど理解できませんでした。
ただ、今までの、人工乾燥は酸化方式で、燻煙熱処理は還元であるということ。
今までの、人工乾燥は熱効率が悪く、エネルギーの一部しか利用していないことに比べて、
ほぼ100パーセントエネルギーを使う事、また燻煙熱処理中に一度軟化する事から、
内部応力がなくなること、そして含水率が下がること、その他から処理後の割れ、歪み、
変形が無いことなど、そして強度が3割4割上がる事など、を説明していただきました。

何故そうなるのかも、説明されましたがセルロースのことなど、専門外のことなので、
はっきり分かりません。

見難いのですが、作業場にあった、薄い板目に切った杉板です。

        UNI_0904.jpg

   普通この程度の厚みの、板目の杉板なら絶対に反っているのが普通です。それが、反らずに
また杉とは思えない密度なのです。いろんな説明をしていただきましたが、この板1枚を見て燻煙熱処理
の素晴らしさが分かりました。

     次はもっと分厚い杉板です。
    UNI_0902.jpg

   分厚くても、板目の杉板です。年輪が真っすぐになる方向に反らずに、真っすぐな板でした。

これ以外でも、下のような試験片を作られて、いろんな実験、試験をされていました。

       UNI_0903.jpg

ここで楽器用材についてです。

燻煙熱処理をすると、含水率が下がって、比重が小さくなる。
処理後は変形や、割れ、反りなどがなくなる。
そして、処理中に一度軟化するので、内部応力が無くなる。
これは、実際楽器を作っていると、楽器用として高い材木を買っても、
部材用に切り出すと、内部応力のため、(内部歪みのため)曲がったり,捩じれたりします。
特に、スネークウッドで弓を作るときなど、弓の部材が細いため、切っていく端から曲がるときがあります。
そして、一番大きなことは、樹種によっても違うのですが、強度が3割4割上がるということです。
ドイツ松だと250年、日本の桧で200年から300年で経年変化のピークが来ますが、
この長い年数かけて起こることと同じようなことが、燻煙熱処理では短期間で出来るのです。

表板を探す時は、軽くて強度のある材料を選びます。
これが、燻煙熱処理をすると、あまり良い材料でなくても、
軽くて強度のある材料に変わるのです。
もともと、軽い材料はさらに、そうでない材料はそれなりにですが。

これは、私のイメージですが、ボクシングの選手が減量しても、骨格、筋肉は
変わらないので、強いパンチが打てる。このことに似ているような気がします。

私は この燻煙熱処理を知るまでは、私のこのブログ 1月10日の材料①表板
の所でも、書かせていただきましたが、何年も太陽に干していました。

そして、松下さんという、日本のエレキギターの技術は彼がほとんど考え出した人が、
燻煙処理をしている事を知り、彼に楽器材料を燻煙処理をしてもらう事にしていたのです。
松下さんは、ストラッドの材料が暖炉の近くや、上に置かれていた事から、日本の
煤竹のように燻煙すれば、良い楽器が出来るのではないかと考えたそうです。
25年ほど試行錯誤して、温度や時間など割り出したそうです。
彼は、含水率の低下とセルロースの硬化ということで、経年変化の促進を図ったようです。

ということで、最初に伺った時には、東京、名古屋、九州からも楽器製作家の方々が
来られていました。広く、この燻煙熱処理の技術を使って、良い楽器を作ってもらいたい。
楽器製作のレベルアップが図れれば、ということだったようです。

他の方々は、すぐに楽器材料を燻煙熱処理してもらおうと、材料を送ったそうですが、
私は材料を送りつけて、お願いします。というのは出来なかったので、
(いろんな楽器を作っていますし、4年日に当てた材料、10年前に削りだし
日に干していたガンバの表板なども、見ていただいて相談したいと思ったこと。
そして、燻煙熱処理を効果的に行う為の、桟木や固定方法など、自分でやってみたかったこと。
忙しい先生の手間をかけたくなかったということもありましたので)
今月19日に、野村先生の所に行かせていただき、燻煙熱処理の準備をさせていただきました。

     UNI_0964.jpg

    このように、桟木を組んで、重さなど書き込んでいますので、それが消えないように
新聞紙で来るんでいます。桟木もドイツ松で、バスバー材を使っています。楽器作りで大切な
バスバーが大量に燻煙熱処理出来るので、ありがたいです。

今回 燻煙熱処理していただいた材料は、主にギター用ですが、夏までに
ネック、表板(40年寝かした物)裏板、横板とも燻煙熱処理の材料で1台。
表板だけ4年日に干した物。裏、横、ネックは2ヶ月ほど日に干した物で1台。
そして、お弟子さんに、40年寝かした材料で、日に干していない物で
1台作ってもらおうと思っています。
もちろん、同じ設計で。

ギター以外では、チェンバロの表板も今回お願いしました。
チェンバロは1台作るのに、3ヶ月かかりますし、大きい楽器なので、
表板以外の要素も大きくなるので、ポータブルスピネットを3台作る予定です。
出来れば、秋までに。(ギターは8月までに作る予定です)

もちろん、出来上がればこのブログに書かせていただきます。

長くなりましたが、野村先生の素晴らしい絵のことや、木工家としての野村先生のことも
書かせていただこうと思っていたのですが、スケールの大きい、実行力のある先生です。
又次の機会に書かせていただこうと思います。




  1. 2012/05/23(水) 00:29:32|
  2. ギター
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新しいギター ⑤ ブリッジ フレットその他

新しいギターの、説明のようなブログもそろそろ終わりです。
前回の文章を読んでいて、分かっている人には分かっているが、
分かっていない人には、分からない話かな?と思えるところがありました。

バスバーの軸という話です。
ロマニさんのトーレスさんの本では、日本語訳版 112ページに
パノルモの力木は共通の軸を持っていないので、対称性を保持していない、
というような文章があります。
トーレスさんの力木の軸というのは下記のような、バスバーが収束する点を持っている
ということです。

       img640.jpg


この、収束する点があるということ、そしてその場所が問題なのだそうです。
当然、この考えでいくと、3弦4弦の下の中央のバスバーは、真っすぐでなくではいけません。
この考えが、バスバー設計の基本と考えると、私のようなバスバーは発想として出てこないわけです。

ということで、本題に戻りましょうか。

最初に、新しいギターが出来ましたのところで、
5番目にブリッジの形が、必要な部分以外はそぎ落としました。
と書きました。以前の楽器は、少しは普通の楽器に見せようという
気がありましたので、端の部分だけカーブを付けました。
今回は、そんな気遣いはいらないので、厚みがあって、振動を伝える部分以外は
無くしてしまいました。

       UNI_0942.jpg


モダンスペインギターを見慣れていると、少し違和感があるかもしれません。

そして、もっと違和感がありそうなのが、ブリッジ骨棒のギザギザです。
これは、フレッチングをナイトハルトの音律にしたからです。

バロック音楽に詳しい方でも、ナイトハルトの音律というのは、あまり聞かない音律だと思います。
西垣さんの、パノルモなどは、かなり以前から、ヤングという方の調律で、フレッチングされていました。
でも、このヤングさんのフレッチングでは、かなりフレットが曲がってしまうというか、
グニャグニャなのです。
演奏会のたびに、「何故フレットは曲がっているのですか?」と質問をされるので、
真っすぐになる音律はないだろうかと、いうことでナイトハルトの音律を提案しました。

古典調律の話は、話せばいくらでも長くなってしまいますが、平均律は1オクターブで約24セント
(1セントは百分の一半音)ずれてくるのを、12半音に振り分けた物。
ヤングさんの調律は 6個の音に24セントのずれを、割り振って残りの
6個を純正にした物です。
平均律に比べて、一番大きい差はドで6セント高く、ド#で4セント低い物です。

ナイトハルトさんの音律は、ほとんど平均律なのですが、24セントのずれを、同じように
配分せず、多い少ないを付けたのです。不等分平均律という感じです。
平均律に近いけど、響きはきれいということで、西垣さんがコンピュータを使って、計算していただいた
物を、使わせていただいてフレットの位置を決めました。本当は、少しフレットにカーブをつけたほうが、
本来のナイトハルトの調律に近いのですが、なんとか直線にしました。
下の写真など、平均律との違いがよく分かると思います。

      UNI_0939.jpg

フレットを真っすぐにするため、ブリッジの骨棒とナットが、ジグザクになっています。

     UNI_0936.jpg


そして、骨棒がナットはスネークウッドです。
開放弦で、樹脂フレットで押さえた音との違いを無くするため、象牙や牛骨を使っていません。


今回のギターは、今まで楓のギターが多かったのですが、ローズウッドということで、今までと少し
違う事をしています。
接着のところで話しましたが、ローズウッドは濡れが悪く、接着性があまり良くない材です。
そこで、下の写真のように、裏板センターの接ぎに小さなパッチを当てました。
そして、センター部分をセラックニスで塗装しています。

         UNI_0933.jpg


一般的な、接ぎ部の補強用の木は、付けたくないし、付けていても、役に立っていない事が
多いのを見てきていますので。
接ぎ部分が、剥がれるのは、接着不良もあるのですが、長年の使用によって、木が乾燥収縮することが
原因のひとつだと考えられます。
内部全体に、塗装してしまうと、乾燥しても収縮がすくないのですが、
楽器が出来てから弾き込んでも、弾きこみによって音がよくなるのが、
遅くなるように思います。そこで、接ぎの部分だけ塗装したのです。

沖縄とか、東南アジアで使われる楽器を頼まれたら、内部全体に塗装するかもしれませんが。

内部を全塗装したく無いのは、リコーダーのメーカーで内部に塗装しているメーカーの物は
長い年数吹き込んでも、音が良くない、良くならない経験があるためです。

次に、私の楽器は、裏板横板のバインディングやパフリングはありません。
楽器のため、音のため、そして修理に為には無いほうが良いと考えているからです。
デザイン的にも、無いほうが私は好きです。楽器らしくて。

そして、今回 修理のためだけではないのですが、裏板の接着はテープだけでしました。
カッチカッチに固めたくないというのもあるのですが、裏板を開けて修理する機会の多い
ギターですので、少し接着力の弱いテープにしました。
でも修理の必要が出てくるのは、100年以上先のことだと思っているのですが。

   UNI_0934.jpg


以上が今回の楽器の大体の説明です。
書いていけば、塗装の事、ネックのヒールの事、パフリングの事もっともっと、
沢山のことがありますが、これで一応終わります。
わずか、2週間ほどで作りましたが、考える時間は山のようにありましたから。
どうしても、これだけは、ということを思い出したら、また書かせていただくかもしれません。
その時は、よろしくお願いします。

すみません、早速思い出しました。
私は短い期間で楽器を作っても、1台づつしか作りません。
2週間で1台作るより、1ヶ月で2台作るほうが作業的には楽なのですが、
私は平行して2台は作れないのです。(修理なんかは平行して出来ます)
とにかく、今作っている楽器のことだけを考えて、朝から晩まで、寝ていても
その楽器のことだけを考えて作るのが好きなのです。
少しでも、良い楽器を作りたいと考えたら、1台だけを作るほうが、全部の頭、
体をその楽器に集中出来ますので。







  1. 2012/05/09(水) 00:21:46|
  2. ギター
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新しいギター ④ バスバー

いよいよ、今回作らせていただいたギターの、モダンスペインギターとも
19世紀ギターでもない、私独自のギターが出来た大きな要素、バスバーについてです。

2月2日、3日にバスバーについて書かせていただいています。私のブログの
月ごとのコーナーをクリックしていただいて、2月はじめですから、かなり下
のほうになりますが、スクロールしてご覧下さい。

あまりにも細かい事が書かれていて、読むのが大変でしょうが、このブログに
書かせていただいたことを、そのまま楽器にしています。

要約すると、一番大きな事は、ブリッジの下にバスバーが3本入っていること、
(弦が通っているブリッジ部分です)
そして中央のバスバーが斜めになっていること、ハーモニックバーも
斜めになっています。ここまでは、今まで作った2台で試しています。
もちろん、考えたとおりの結果で、とても良い楽器になりました。

そして、今回は2月3日に書かせていただいているように、チェロやガンバのバスバーのように
端を浮かせて、成型し、プレテンションを与えるバスバーにしたことが、初めてのことです。
高さの高い、当然、質量も大きなバスバーが付きましたから、表板は0.4から0.5ミリ
ブリッジあたりで以前の楽器より薄くしています。

その結果は、今まで、ガンバやチェロで感じた事と同じように、プレテンションが音の張り、
立ち上がりの良さに生きているようです。結果に大満足です。

私には、どうしても理解の出来ない、モダンスペインギターのドームに比べて、
必要なプレテンションだけ与える事が、余分な応力を発生しないので、
自然な音の伸び(バスバーは本来この目的のために付けるのですから)
そして、立ち上がりの良さ、小さな力で弾いても、
大きな、延達性のある音が出る原因のようです。


UNI_0925.jpg

写真のように、バスバーの接着も、沢山クランプを使って接着しています。
接着のところで書かせていただいたように、圧力をかけるほど、接着力は増しますので。
一般的には、ゴーバー方式で、一度に沢山接着しますが、手間はかかりますが、
確実に接着できる方法を取っています。

バスバーの実際の写真です。


       UNI_0930.jpg


3.5ミリ中央部で8ミリです。一般的なギターのバスバーに比べると、かなり大きいです。
ストラッドさんが作っていた頃の、ヴァイオリンのバスバーより大きいです。
もしこの大きなバスバーが、一般的な、というか私以外の配置では、楽器が鳴らない
ように、働いてしまうでしょう。

音が弦の振動を受けて、最も振動しているブリッジの下に来ているから、バスバーの
役目を果たしてくれるのです。

でも、こんな分かりきったことを、やっているのは、私とパノルモさんだけというのは、
不思議に思います。

今回も、写真では分かりにくいかもしれませんが、3弦と4弦の間のバスバーを斜めに
したことで、3弦がしっかり鳴り、うっかりすると1弦2弦より、締まった大きな音がします。
今まで、鳴らない3弦のギターを弾いてきた方には、信じられない音です。
これは、私が知らないだけかもしれませんが、今まで、誰も考えつかなかったのが、
不思議なくらい、良い結果が出ています。

それも、2月2日にも書かせていただいたと思うのですが、このたこ足(ちょっと呼び方
がスマートではありませんね。ファンブレースと呼びましょうか?)
の延長線上に、軸を持つと言うのが。トーレスさんのやり方なので、この、トーレスさんが
決めたことが、150年以上3弦の鳴らないギターを作り続けた原因のひとつでしょうか?

扇の要の場所が決まるので、楽器を作るときの図面を書く時に、何も考えなくて良いので
楽は楽なのですが。


今回は、写真も入っていますし、少しは読みやすかったでしょうか?


  1. 2012/05/01(火) 22:45:51|
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プロフィール

kogakki

Author:kogakki
ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、チェンバロ
と言った、古楽器を仕事として製作して
30年以上になりました。

最近はギターに興味を持っています。
最初に作った楽器は、ギターです。
昭和42年でした。 18歳の時です。

古楽器製作家 平山 照秋 

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